貿易黒字とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書 (original) (raw)

国際収支統計(こくさいしゅうしとうけい、: balance of payments)とは、一定期間におけるやそれに準ずる地域の対外経済取引サービスおよび所得の取引・対外資産負債残高の増減に関する取引・移転取引)の統計である。国際収支統計は、世界のほとんどの国や地域において、国際連合国際通貨基金(IMF)が策定した国際収支マニュアル(Balance of Payments and International Investment Position Manual; BPM)にのっとって作成されており、各国の状況を比較できる。

日本においては、同統計は、2013年までは1993年公表の第5版(BPM5)[1]に準拠していたが、2014年より2008年公表の第6版(BPM6)[2][3][4]に準拠しており、財務省国際局為替市場課および日本銀行国際局国際収支課[5]によって作成される。

定義と基本原則

国際収支は、損益方式ではなく収支方式で計上される。企業会計に置き換えると、損益計算書ではなく、キャッシュ・フロー計算書に類似した記述方法が採られている。簿記で一般的な損益会計とは異なり収支会計であるために、貸方が左に借方が右に記載されることが特徴であるが、これはキャッシュフロー計算書の作成方法と同様と言える。

同統計では簿記と同様の複式簿記方式が採用されている。 すなわち、取引が記録される際は必ず貸方借方に同額が計上される。統計上は、貸方をプラスとして、借方をマイナスとして、それぞれ表現される。 簿記の場合は借方に資産の増加・負債の減少・経費の支出、貸方に負債の増加・資産の減少・収入の受取を計上するが、国際収支の場合にもこれに類する計上方法が採られている。

国際収支統計は財務諸表でいうところの損益計算書ではないので、経常収支赤字は「損失」を出していることを意味するものではない。つまり、国際収支は損益勘定という概念とは相容れず、黒字(赤字)とは過剰(過少)の意味でしかない[6][7]

国際収支マニュアル

各国は順次BPM5方式からBPM6方式へ移行している。

BPM6

BPM6準拠の方式では、大まかに経常収支(current account)・資本移転等収支(capital account)・金融収支(financial account)の3つに分けられ、次の恒等式で書き表せる。資本移転等収支とは、対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等のことである[8]

経常収支 + 資本移転等収支 + 誤差脱漏 = 金融収支

経常収支は以下のように分解される。第一次所得収支(primary income)とは、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等のことであり、直接投資収益・証券投資収益・その他投資収益などから構成される[8]第二次所得収支(secondary income)とは、 居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供(官民の無償資金協力、寄付、贈与)のことである[8]

経常収支 = 貿易・サービス収支 + 第一次所得収支 + 第二次所得収支 貿易・サービス収支 = 貿易収支 + サービス収支 貿易収支 = 輸出 - 輸入

第一次所得収支は以下のように分解される。直接投資収益(direct investment)とは、親会社と子会社との間の配当金・利子等のこと[8]証券投資収益(portfolio investment)とは、株式配当金及び債券利子のこと[8]その他投資収益(other investment)とは、貸付・借入、預金等に係る利子のこと[8]

第一次所得収支 = 雇用者報酬 + 投資収益 + その他第一次所得 投資収益 = 直接投資収益 + 証券投資収益 + その他投資収益

金融収支は以下のように分解される。

金融収支 = 直接投資 + 証券投資 + 金融派生商品 + その他投資 + 外貨準備

BPM5からの変更点

経済学の見解

資源を輸入するために輸出外貨を獲得しなければならない[9]という考え方は、固定相場制下で国際資本移動が厳しく制限されていたニクソン・ショック以前の時代には正しかったが、変動相場制下では当てはまらない。

経済厚生(実質消費水準)は一人当たりの生産性で決まり、貿易収支の黒字・赤字はそれと関係がないという見解がある。これによれば、自国の経済に重要なのは、輸出ではなく、交易条件である。そして、経済厚生の生活水準は輸出部門ではなく国内部門の生産性によって決まる[10]

経済成長

純輸出が増える場合はGDPの拡大要因となり、純輸出が減る場合はGDP拡大の抑制要因となる。ただし、これはあくまで生産側の視点であり、逆に需要側から見れば、輸出は国内で利用できるものの海外流出であって、輸入は国内で消費されるものが海外から入ってくるという意味で良い面がある[11][12]

なお、自国の純輸出が赤字の場合は、それと同額を外国からの輸入(外国のGDP)で賄ったという意味であり、自国のGDPにマイナス値として算入される訳ではない。

貿易収支や経常収支の黒字は輸出のほうが輸入より多いということを示している。同収支の継続的な赤字は、経済成長の足枷とは関係がなく、景気が良くなると輸入は増えるので、貿易赤字になるのは健全ですらある[13]。 貿易赤字が減れば職が増えるかもしれないが、長い目で見れば貿易赤字と失業率はほとんど関係がない。ただし、貿易収支赤字(外国の貯蓄を利用して経済成長を図る方法)にはコストがある[14]。 外国からの資本を借り入れた個々の経済主体が、将来的に利益を挙げて、借りた通貨建てで返済しなければならない。それは借入れで行われた投資でGDPが拡大することによって初めて成り立つ[15]。 ゆえに、国内外問わず、個々の経済主体が行った資本取引には返済不能になるものもある。例えば、外国からの借り入れによる経済成長に失敗した例として、1970年代末から1980年代初頭にかけての南米諸国の累積債務問題がある[15]

貿易収支黒字の増加は景気にとってプラスとなるが、貿易と経済を考える際には、様々な視点で見ていく必要があり、必ずしも輸出が輸入を上回っていなければならないということではない[16]。 また、経常収支の動きは、経済変数(財政収支や経済成長率等)とは基本的に無関係であり、経常収支の赤字が直接的に恐慌には結び付かない[17]

三面等価の原則と貯蓄投資バランス

一国経済全体が経済活動を通じて稼いだ所得は、投資や消費に使われた余剰分の資金(資本)は結果的に国外へと流れるという原理(貯蓄投資バランス)がある[18]

国内総生産(GDP)の定義によると、経常収支 B c {\displaystyle B_{c}}