ドキドキするスキンシップはイケメン限定、を掲げるヒロインは 顔だけで好きになります。 (original) (raw)
夜神 里奈（やがみ りな）
兄に愛されすぎて困ってます（あににあいされすぎてこまってます）
第03巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
恋する気持ちってよくわからなかった。だけどソワソワして ドキドキして お兄といると落ち着かない。お兄の体温とか においとか ぎゅっとされた指先が熱くて、今までどおり「妹」じゃいられない。私 お兄のこと好きなのかもしれない―――。1巻、2巻ともに発売後即重版！の「兄こま」。もう1人の兄系イケメン・千秋の本気の告白で「恋」を自覚し始めたせとかに はるかの溺愛が止まりません！
簡潔完結感想文
- 窓ガラス割るのも犯罪だけど、勝手にナース服を借用するのも犯罪だと思う。
- 物語の緩急は はるか の態度次第。近づけばセクハラ、遠ざかれば別の男が登場。
- 彼女に恋心の現在地を知らせる当て馬の役割は終えたのに、本気になってしまう。
ストーカーのような兄を引き剥がすのに苦労してます、の 3巻。
兄・はるか の、血の繋がらない妹・せとか への愛は溺愛というよりも執着に近いため、作者は2人を どうやって くっつけるかよりも、どうやって遠ざけようかということに悩んでいる気配さえ漂う。
ここまでの展開で2人の兄妹に距離が生まれるのは、せとか が兄を遠ざける時と、はるか の友人・千夏（ちなつ）が友の行動をコントロールしている時の2パターンである。
せとか が はるか を遠ざける場合は、はるか が距離の詰め方に失敗した時である。キスをしたりセクハラをしたり自制を失ったことで はるか は信頼を失う。絶交や不機嫌によって せとか がヘソを曲げることで距離が出来る。その2人の間に生まれた隙間にイケメン（主に千秋（ちあき））が入ってくる。せとか が はるか を許すのは、兄が妹のためにヒーローになった時。恐怖体験から助けられることで せとか は兄への不信感よりも安心感が勝り、いつもの関係に戻る。ここまでが1つのターンとなっている。
千夏は はるか の近くにいられる唯一の存在で、はるか は千夏を信頼しているからか彼の言葉だけは素直に聞いている。この『3巻』では千夏に思惑があるので、これまで以上に せとか から はるか を遠ざけることが出来て、新しい展開が生まれている。
その1つが はるか不在での男同士の戦いだろう。これまでは せとか に関することでは すぐに はるか の介入があったが、今回は彼以外の2人の男性での せとか を巡る争いが勃発している。これは今までとは違うパターンで新鮮味があった。そして遂に はるか が邪魔しないことでイケメンが せとか に正式に告白するという新しい到達点が生まれた。
ただし悲しいかな、そのイケメン＝千秋の告白は、せとか の恋心の判断基準にしかならなかった。当て馬という はるか以外の異性に触れることで、自分が誰を好きなのか せとか は明確にしたようだ。
少女漫画の『3巻』といえば当て馬の奮闘によって三角関係が始まる巻なのだが、その慣例を破って本書は両想いが成立している。ハッキリ言って ここで完結でもいいのだが、最初から兄系イケメンの数の暴力が宣言されている本書は まだまだ続く。千秋も諦めないみたいだし、眼鏡イケメンも顔見せだけ。
せとか が天然を装って はるか への恋心に気づかない振りをするのにも限界があるので、作品に勢いのある内に両想いになるのは悪くない展開だけれど、これからの展開を ちゃんと用意しているのかが不安になる。
割れた窓ガラスで体中に傷を負った はるか と千秋は入院することになる。事情を聞かれた際に はるか は女子生徒がボールを投げたという真相を隠蔽し、自分と千秋（ちあき）がケンカしたと事を荒だてないように証言にしたのだった。でも その行動は犯人のためではなく、そうなったら せとか が気に病むからという理由だった。いつだって はるか は せとかファーストなのである。もしも せとか と千秋とのキスを阻止することが出来るなら はるか は窓ガラスを割ることに躊躇はないだろう。
病院で同室に入れられたイケメンたちは、お互いの存在と看護師のセクハラに嫌気が差し脱走を企てる。その途中で見舞いに来ていた せとか は千秋に拉致され、彼と医師と看護師というコスプレで病院脱出を目指す。一応、警察に逮捕される可能性のある常識が働いている世界のようだが、職員の私物や病院の備品を無断で借用することで彼らは逮捕されればいいと思います。
それにしても高校生が本物の病院でコスプレするって、ますます宮城理子さん『花になれっ！』を連想させる。新しいイケメンが現れてはヒロインを好きになる基本構造が同じ2つの作品である。そう考えると死ぬほど嫌悪する作品だけど『花になれっ！』って この手の漫画の頂点に立っているのではないか。でも『花になれっ！』から15年以上が経過しても同じように、ヒロインが知性ゼロの作品が描かれ続けているかと思うと頭が痛い。
そして この頃から せとか は はるか以外の男性にスキンシップやセクハラをされてもドキドキする体質になっていく。これも『花になれっ！』っぽい淫乱ヒロインである。完全に不感症だと全く物語に起伏が生まれなくなってしまうから、出てくるイケメンに平等にドキドキするようにしてるんだろうけど、ただのエロい女に成り果てたとも言える。
『花になれっ！』もヒロインはロリ系アニメ顔 巨乳。これは男性の夢ではなく低年齢読者の夢。
千秋に拉致された次には、この病院の関係者の男性・高嶺（たかね）に発見される せとか。看護師ではないことを見抜かれるが、どうにか機転を利かせて小児病棟のハロウィーンだと嘘をつく。
そこで小児病棟でのボランティアをすることになった せとか は子供たちに高嶺とカップルだと囃し立てられ、キスコールを浴びる。そこにヒーロー・はるか が登場して せとか を連れ去る。千秋といい初対面のイケメンから せとか を奪い去るのが はるか の お仕事なのだろう。
意味のないセクハラ場面を挿んで、彼らは帰宅する。ちゃんと入院費は払ったのだろうか。この時点では ただの無銭入院患者でしかない。
そして帰宅後も意味のない裸の連続。絶対、傷口なんか開かないから1人で風呂に入れよ、と思う。はるか の、一度は理性が勝ったような態度を取った後の過激なセクハラも何度目かという感じである。作品の生命線として ちょっぴりＨなシーンがノルマなのだろう。中身のない作品だからエロでしか読者が釣れないのだ。
それにしても はるか は風呂上りに自分の背中の処置を どうやったのかが気になる。身体が柔らかいのか器用なのか、あんなに綺麗にテープで処置できるのか。そもそも お風呂のシーンから傷なんて描かれてないのだけれど…。
このまま せとか が寝ぼけていたため一緒のベッドで眠った次の日、朝7時すぎに目が覚めたのに、せとか は1時間も早く家を出たと言っているのが気になる。7時過ぎに起きて身支度を整えたら7時半。ってことは いつもは8時半に家を出てるの？？ 学校は何時から始まる設定なのだろうか。謎過ぎる。
せとか が乗ったバスで『1巻』1話で登場した中学の同級生で せとか に片想いをする鈴木（すずき）君が登場。彼は設定上、三兄弟の長男らしく一応 兄系男子らしい。鈴木君は自分に自信をつけるため剣道を再開しているのだが、今回 彼とスキンシップをしても せとか の心はトキメかない。はるか にだけ反応しているのなら恋かもしれないが、千秋にドキドキしている時点で ただの欲情である。結局、この女は男性を顔で判断しているのだろう。
千秋にドキドキする「ふしだらな女」じゃなければ純愛だったのに。あの描写は不要だった。
鈴木と約束したため放課後は彼の部活動の様子を親友と見学することにした。いつも通り はるか が登場するかと思いきや、彼は友人・千夏（ちなつ）の助言を聞いて押してダメなら引いてみろ作戦を実行しているため、2人に距離が出来る。
千夏が はるか と せとか を遠ざけるような真似をするのは自分のためでもあった。何事にもいい加減だった兄・千秋が せとか に本気になり始めた気配を察して、兄の恋愛成就を優先させたのだ。
だが はるか は やっぱり他の女性など目に入らない自分に気づく。千夏の足止めは、千秋の告白までの時間しか稼げなかった。四六時中ストーカーのような はるか を せとか から引き剥がすのに作者も苦労しているように見える。
千夏が時間を稼いでいる間に、他校生である千秋との接点が用意される。千秋は剣道部という設定らしく、この学校で行われる練習試合に参加するという。
ここで鈴木君と千秋による せとか の彼氏の座をかけた争いが始まる。しかも親友が せとか の恋人権をトロフィーにしてしまった。まぁ これは予選で、勝者は はるか と戦わなければならないだろうけど。
試合中、鈴木君は自分だって剣道から離れていた身なのに、千秋は本気じゃないと決めつける。本書の男性は どこか頭がおかしい。そして千秋は小4から中3まで全国6連覇していたという後出し情報が加えられ、鈴木君を圧倒する。だが千秋はガラスで切った怪我が治り切っておらず、傷口が開いてしまう。それを せとか は一番に気づく。
そんな優しさに触れて千秋は彼女にキスをして率直な想いを伝える。もう せとか は はるか とキスを済ませており、ファーストキスでなければ誰でもキスをしてしまうのがヒロインである。
そして千秋は これまでになく甘い言葉を囁く。しかし せとか は はるか への想いを自覚しつつあるから応えられない。その気配を察した千秋は答えを急がず、時間をかけて せとか の想いが傾くことを静かに願うのだった。
この兄妹は何かと寝ている。これまで2回、せとか が あっという間に寝てしまっていたが、今回は はるか がリビングで寝ていた。そんな はるか の寝顔に向かって せとか はキスを懺悔する。そうして あっという間に情報漏洩となり はるか は激怒する。「どうしよう！ お兄が起きてたなんて―――!!」と自分のミスに青ざめているが、そもそも寝てても喋るな、そんな内容とツッコまずにはいられない。
せとか はヒロインらしく逃亡を企てるが阻止され、告白されてキスされた事実を自白せざるを得なくなる。怒りで はるか は せとか にキスをして押し倒す いつものセクハラ攻撃が開始される。乱暴を働いているのは自分なのに はるか は せとか から拒絶されたと一人前に傷つく。それが誤解だと せとか も狼狽して、今度は自分が はるか を追いかける。
そして初めて自分から彼にキスをして想いを伝える。両想いになって物語は めでたく完結する。ってか完結した方が 良かったような気がする…。
