舞台「台風23号」感想︰それでもみんな、生きていく (original) (raw)

「台風23号」とても面白かった!2時間があっという間だった。

開催概要(東京公演)

www.bunkamura.co.jp

開催期間 2024年10月5日~2024年10月27日(全25公演)※11/1〜4大阪公演、11/8〜9愛知公演あり
場所 THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
チケット S席︰12000円A席︰9500円U23︰5000円
作・演出 赤堀雅秋
出演者(敬称略) 森田剛 間宮祥太朗木村多江 藤井隆 伊原六花 駒木根隆介 赤堀雅秋 秋山菜津子 佐藤B作

作・演出の赤堀氏も役者として出演する。作者自身がその舞台の登場人物になるのは面白いなと思った。

各種プロモーション

森田剛&間宮祥太朗のW主演、ということで各種媒体に多数のインタビュー記事も載っている。

mezamashi.media

engekisengen.com

www.47news.jp

crea.bunshun.jp

i-voce.jp

lp.p.pia.jp

kyodo-osaka.co.jp

会場・座席について

東急歌舞伎町タワー

会場となるTHEATER MILANO-Zaは、西武新宿駅すぐの東急歌舞伎町タワーにある。こんな歌舞伎町ど真ん中に劇場があることを知らなかったのだが、昨年オープンしたばかりの新しい施設だった。

奥のバーカウンターではオリジナルドリンクも販売されていた。黒蜜きなこフラッペ少し気になったのだが、開演まであまり時間がなかったので見送った。

— THEATER MILANO-Za (@THEATERMILANOZa) 2024年10月5日

x.com

席は前から7列目で割と近い。ステージと客席の距離も近かったので、作り込まれた海辺の町のセットが迫ってくるようだった。

Adoなど最近の曲がBGMに流れる会場。そこから時間になると、太鼓の音がドンドンと鳴り響き暗転。

「台風23号」(10月6日公演)の感想

※ここからネタバレ注意!(1回しか観てないのでセリフはニュアンスです)

まだ開幕して2日目の公演だったが、スタオベしたいくらいに個人的にはめちゃくちゃ面白かった。基本的に笑うシーンが多いのだけれど、じわじわと重くなってくその塩梅が絶妙。

カテコ3回目(数え方合ってる?)では剛くんと間宮さんだけで、本人たちもあれっ他の人は?って感じのリアクションしながら出てきたのが可愛かったw

何気ない会話から見えてくる人間模様

登場人物はみんな、どこかにいそうな市井の人々。大まかに言うとこんな感じ。

この9人がシーンごとに色々な組み合わせで絡み、その何気ない会話を聞くうちにそれぞれが抱えるこだわりや闇、人間臭い部分が垣間見えてくるのが面白い。ちょっとした間や声のトーンからも揺れ動く感情が読み取れて、俳優ってすごいなぁと思う。

戦後最大級の台風23号がやってくる、なす術のない自然災害を前にした人々の受け止め方も色々。コロナ禍でできなかった花火大会を久々に開催できると思ったのに…とやきもきする秀樹。この際全部リセットしたいよと嘆く浩一。結局ちょっと雨が降っただけで心配は杞憂に終わるのだが、その頃には台風よりも人間模様が渦巻く状態になっていた。

井上家の闇

町役場に勝手に行っては連れ戻される、を何度もしてきたであろう勝。ヘルパーを信用せず、こいつが財布を抜き取ったと決めつけ大騒ぎ。それが誤解だと判明しても謝るどころか人のせいにする傍若無人ぶりに、とうとう智子がキレる。

智子は母親が生前、勝に振り回され苦労していたのを見てきた。そんな父親の介護に文句言わず尽力してくれている浩一を、秀樹も勝も過小評価している。そりゃ介護する側としてはキレたくもなるわなと共感する*1

しかしそんな智子だが、立ちくらみがして浩一に抱えられながら町役場へ消えたとき、なんとなく嫌な予感がした。そのまさかで、智子は浩一に異性として好意を抱いていたことが後に判明する。抱きつく智子にもうやめましょうと突っぱねる浩一。智子が立ち去って秀樹が現れこりゃ修羅場か…?と思ったら予想外の言葉が帰ってくる。

「智子と別れないであげてね」

えええ?!それ旦那が言う??と仰け反った。浩一と智子はどこまでの関係だったのかは明示されてない(よね?)が、秀樹はおそらく深い関係にあると思っているようだった。曰く、ヘルパーを手配する前の智子はノイローゼ状態だったが、浩一が来てから見違えるように綺麗になったと言う。我々が抱いた智子の第一印象、小綺麗な奥様像*2は浩一の影響を多分に受けたものだったのだ。

色々な人間模様が見える中、この井上家の面々は特にエグい印象を受けた。まぁ秀樹も智子も夫婦揃って気持ち悪いな!と吐き捨てた浩一もまた、とんでもない秘密を抱えていたわけだが…。

しょーもないけど愛おしい

菊池母娘は互いに不器用だなーという印象を受けた。スナックを切り盛りする雅美は世話焼きで、久しぶりに帰ってきた娘にあれやこれや聞こうとするのだが、宏美はつれない態度で東京の生活について話そうとはしない。一方で雅美は病気についてはあまり話さず、宏美は自分を呼び戻すための方便だと思うのだが、純との会話で乳癌を患っていることに気づきなんともモヤモヤした気持ちを抱き続ける。

宏美の普段の様子や趣味嗜好などはわからない。久しぶりに帰って、ガヤガヤしたこの町の人々に辟易している冷めた若者として映る。お巡りさんとお見合いさせられることになるが当然乗り気ではなく、それでもなんとか距離を詰めようとしょーもない話をくどくど話す彼*3との温度差が笑いを誘いつつ、妙なリアルを感じさせた。

雅美はパチンコが好きで、純もまたパチンコに詳しい。あの台は生半可な気持ちでやるべきではない!と持論を展開しながら雅美にパチンコ指南をする純だが、些細なことで口論となり家を飛び出して追いかけ回す事態に。傍から見ると本当にしょーもないのだが、2人はいたって真剣で、特に雅美が「下手でも頑張って勉強してやってるの!」と言うところはちょっと親近感を感じた*4

…とまぁみんなしょーもないのだ。でもなんかそのしょーもなさが愛おしかった。宏美はなんだかんだで雅美には元気でいてほしいと思うし、雅美も宏美には幸せになってほしいと思っている*5のだろう。そんな不器用な母娘のあり方もよかった。

名もなき配達員

剛くん演じる配達員には役名としての名前がない*6。妻と「茂」という幼い息子がいることしかわからない。まぁ我々も普段荷物を運んできてくれる配達員の名前など気にしたことはほとんどないし、そういう記号的な存在として名前が言及されていないのかもしれない。でも彼にも彼の生活があり、夫として父として頑張る一人の人間なのだ。

配達員は束の間の休憩を取りながらひたすらに荷物を運ぶ。その過程で他の8人と絡むものの、そこまで深くは関わらない。それが舞台のシーンとシーンをゆるく繋いでいる。自販機で足りなかった10円を返そうとして浩一と押し問答したり*7、大事な差し歯を落として必死に探したり、何気ない場面でもなんとなくその人となりが見えてくる。

しょっちゅう架かってくる客からの再配達連絡や家族からの電話に辟易しつつも、カブトムシの脱皮に立ち会えたという息子からの連絡に「すごいよ!生きててよかったな!」と力強く喜びを表す配達員。繰り返す毎日の中で滅多に立ち会えない「生」を感じる瞬間。それを自分ごとのように喜ぶ姿が印象的だった。

さらに印象的だったのは配達中の荷物を突然地面に投げつけたシーン。生活のためだと朝から晩まで淡々と仕事をこなす配達員が、ふとプツンときた瞬間*8のようだった。そこへ徘徊中の勝が通りかかる。勝とのやりとりの中で、配達員は「頑張れーー!!」と大きなエールを贈られる。あのシーンもすごくよかった。

浩一をはじめそれぞれの鬱憤が発露していくクライマックスの末、雅美のところにようやく荷物が届くラストシーンはすごく好きな締め方だった。

それでも生きていく

みんなどこかズレていたり、大小様々なモヤモヤを抱えている。「なんにもない、何が楽しくて生きていられるの」と言う宏美や、「早く死にたいよ」と言う勝。病気だったり、認知症だったり、ときには狂気も孕む日常の中で、それでもギリギリ踏みとどまって生きている市井の人々の有り様が描かれていた。

「お前らもいつかこうなるんだ」「いっそ殺してくれ」勝の叫びはお話の中に留まらず、我々にも言っているような、現代社会への警鐘ともとれるような。クライマックスで暴発する花火*9の音を聞きながら、そんなことをぼんやり思った。

こちらもどうぞ