情シス子会社は「親」を救えるか、「めちゃコミ」のインフォコムが示した異例の貢献 (original) (raw)

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日本企業による情報システム子会社のグループ外への切り離しは、近年においては決して珍しくない。しかし帝人によるインフォコムの売却は、親会社に1000億円以上の売却益をもたらすという点で極めて異例だ。情シス子会社の「存在意義」を再考する機会になるだろう。

従来の情シス子会社切り離しでよくあるパターンは、ITベンダーへの譲渡だ。その狙いは、情シス子会社の技術力強化やコスト削減とされる。情シス子会社をITベンダーの傘下に組み込むことで、技術力やノウハウを取り込むことを目指す。

もっとも、こうした理由は「建前」に過ぎない可能性がある。単に親会社が自前でのシステム開発や運用を諦めて、人員ごとITベンダーに引き取ってもらったケースが相当数存在するからだ。

それに対して帝人は2024年6月18日に、インフォコムを投資ファンドである米Blackstone(ブラックストーン)に売却すると発表した。

帝人は株式の約6割を所有するインフォコムを売却するに当たって、投資ファンドなど13社を対象とした入札を実施。最も良い条件を示したブラックストーンを売却先に決めた。売却は2024年10月までに完了する予定で、帝人は2025年3月期の連結決算で約1050億円の売却益(非継続事業からの利益)を計上する見込みだ。

インフォコムは上場会社であるため、ブラックストーンはまずTOB(株式公開買い付け)を実施する。帝人はTOBには応募せず、TOB成立後に、インフォコムによる自社株買いに応じる形で全保有株を売却する。ブラックストーンは総額2750億円でインフォコムの全株式を取得する。

情シス子会社なのに親会社向けの売り上げは全体の1割未満

インフォコムの価値が2750億円にも達するのは、同社が単なる情シス子会社ではないからだ。インフォコムは100%子会社であるアムタスを通じて、電子コミックサービス大手の「めちゃコミック」を運営する。2024年3月期にめちゃコミは、571億円の売上高と75億円の営業利益を稼ぎ出している。めちゃコミの事業価値が、高く評価された格好だ。

インフォコムの2024年3月期における連結売上高は844億円、営業利益は97億円だった。売上高の68%をめちゃコミの「ネットビジネス」事業が占めた。それ以外にも医療機関向けのパッケージソフトなどの「ヘルスケア」事業の売上高が約130億円、ERP(統合基幹業務システム)や安否確認サービスなどで構成する「サービスビジネス」事業の売上高が約70億円ある。

インフォコムにおいては、親会社向けのシステム開発ビジネスが全社売上高に占める割合は10%に満たない。詳しくは日経クロステックが2024年4月に掲載したインフォコムに関する特集「『めちゃコミ』の会社の秘密、情シス子会社転生物語」をご覧いただきたいが、インフォコムは日本の情シス子会社の中でも、極めて異例の存在なのだ。

帝人がインフォコムを手放す理由は、業績の悪化にある。帝人が2024年5月13日に発表した2024年3月期決算は、連結売上高が1兆327億円で営業利益は135億円だった。インフォコムが所属する「IT事業」の業績は、売上高が721億円で営業利益は95億円。つまりIT事業がなかった場合、帝人の連結営業利益はわずか40億円だった計算になる。

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