高周波回路の設計の基礎~特性インピーダンスの調整~ (original) (raw)
はじめに
AC(Hz~kHz)帯とMHz以上の高周波デバイスの設計理念は大きく異なる。これはMHz以上になると測定用ケーブルや測定装置そのもの寄生インピーダンスが大きくなり、一つ一つの素子の寄生インピーダンスの正確にモデリング(RLGCで表現すること)することが困難になるからである。
本稿では、低周波でデバイスの設計を行ってきたエンジニアが高周波回路設計を行なう際に、最低限何に気を付ければよいのか、という観点について述べる。
伝送線路モデル
図1は高周波の伝送線路モデルを示している。RとLは信号線の抵抗と寄生インダクタンス、GとCは信号線と接地(グランド)線の間のリーク成分とキャパシタンスを示している。ZLは電源および伝送線路に接続する負荷のインピーダンスを示す。これは、低周波でいうところの単なるリード線でもこのような寄生インピーダンスを考えなければいけない、ということである。
図1 伝送線路モデル
高周波信号の反射の抑制のために
低周波でも回路設計経験のある方であれば、高周波といえば特性インピーダンスが大事だ!ということは何となく聞いたことがある人が多いかと思う。これは2つの線路(デバイス)を接続する際に、双方の特性インピーダンスが一致していないと、その接続部で高周波信号が反射されて伝達されなくなってしまうからだ。高周波信号の反射具合を示すパラメータとして反射係数(ΓL)というものがある。ΓLは図1における負荷(ZL)の位置での入力信号による電圧(Vi)と反射信号による電圧(Vr)の比として定義される。
ΓL=Vr/Vi (1)
導出方法は様々なサイトで解説されているが、微小領域における電流と電圧に関する連立微分方程式を解くことによって、式2が求まる。
ΓL=(ZL-Z0)/(ZL+Z0) (2)
Z0がいわゆる特性インピーダンスである。ここで示されているのは、負荷のインピーダンス(ZL)がZ0と等しいときに、ΓLは0、すなわち無反射となり、負荷側に高周波信号が伝達されることを示している。そのため、高周波デバイスを動作させるためには、後段の線路の特性インピーダンス(あるいはデバイスの負荷インピーダンス)を前段の線路の特性インピーダンス(Z0)と一致させていることが大事なのだ。
特性インピーダンスの調整(インピーダンスマッチング)
それでは、どのようにして特性インピーダンスや負荷インピーダンスを調整すればよいのだろうか。負荷インピーダンスについてはデバイスによってさまざまなので、ここでは線路の特性インピーダンスについて述べる。上記と同様に微小領域における電流と電圧に関する連立微分方程式を解くことでZ0は式3となる。
Z0={(R+jωL)/(G+jωC)}^0.5 (3)
線路が無抵抗でリーク成分もないとするとR=G=0となるため、式4となる。
Z0≒(L/C)^0.5 (4)
ここで覚えていただきたいのは、線路の特性インピーダンスは信号線のインダクタンスと信号線と接地線間のキャパシタンスの比で表されるということである。これすなわち、特性インピーダンスは
① 信号線の太さ
② 信号線と接地線の間の距離
③ 誘電体の比誘電率
によって決まる事を示唆している。実際この3つのパラメータで特性インピーダンスを制御する。比誘電率は使用する基板の材料特性であり、設計段階で自由に変更ができないため、設計においては③を考慮しつつ①と②の比を調整することで特性インピーダンスを調節できる。
各構造体における特性インピーダンスの調整
図2にレッヘル線と同軸線路を示す。信号線の直径をd、信号線(内部導体)と接地線(外部導体)の間の距離をDとする。
図2 (a)レッヘル線、(b)同軸線路
信号線(内部導体)と接地線(外部導体)の間の媒体の比誘電率をεrとすると、レッヘル線は式5、同軸線路は式6で表すことができる。
Z0=276/(εr)^0.5*log(2D/d) (5)
Z0=138/(εr)^0.5*log(D/d) (6)
高周波機器は基本的に特性インピーダンスは50Ωか75Ωで設計されているため、Z0がそれらの値になるようにD/dを調整する。εrによって適切なD/dは変わることに注意が必要である。前項で示した③を考慮しつつ①と②の比を調整する、ということである。
ミリ波帯になると
ここまでは従来のマイクロ波の理論でよく知られた話である。周波数がさらに高くなりミリ波帯に至ると話が複雑になる。というのは、ミリ波帯になると信号線の電気抵抗(R)やリーク成分(G)が無視できなくなり、特性インピーダンスが式4ではなくて式3で表現せざるを得なくなるからである。すると、Z0は実数ではなく複素成分を有するようになるので議論が複雑化し、学術的なレベルで議論がされている段階である。現状ではできるだけRとGが小さくなるような電極材料・構造、および誘電体材料を選択するのが賢明であろう。
さいごに
今回はエンジニアが高周波回路設計を行なう際に、最低限何に気を付ければよいのか、という観点から、特性インピーダンスの調整方法について解説した。今回は線路の特性インピーダンスについて述べたが、デバイスの負荷インピーダンスについても同様に調整しなければ、高周波信号をデバイスに入力できず、デバイスが動作しない。次回はデバイスの負荷インピーダンスの調整方法について述べる予定である。
なお、低周波におけるインピーダンスマッチングについては、以下のページの説明がわかりやすいのご参考いただきたい。
https://eman-physics.net/circuit/matching.html