コンサート雑感:第25回EGK演奏会を聴いて (original) (raw)

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年11月10日に聴きに行きました、第25回EGK演奏会のレビューです。

EGKって何?と思われる方も多いかと思います。EGKはEnsemble Grossen Kuensters(本来はssはエスツェート、ueはuウムラウト)の略です。室内楽演奏から始まり、オーケストラも結成したアマチュアの音楽団体です。創立メンバーは早稲田大学フィルハーモニー管弦楽団のOB・OGが中心だったそうです。

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なのでおそらく、アンサンブル・ジュピターさんの第九の時にチラシをいただいたのだと思います。この室内楽からアンサンブルを作り上げていくという姿勢に惹かれて、今回足を運ぶことになりました。と言うのも、私が宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」のメンバーだったとき、姉妹団体であった宮前フィルハーモニー交響楽団室内楽演奏会を開いており、その目的が演奏技術や表現力の向上だったからです。最近では室内楽演奏会をアマチュアオーケストラが開くことも珍しくなくなってきましたが、当時(30年くらい前)ではかなり珍しいことでした。その室内楽演奏会に「飛翔」も招待を受けて歌ったこともあります。そういう過去があるため、このEGKさんの演奏会に惹かれるものがあったというわけなのです。

さて、今回のプログラムは以下の通りです。

ブラームス 弦楽六重奏曲第2番
コントラバスコンバース」による演奏
ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

確かに普通のアマチュアオーケストラの演奏会では組まないプログラムです。しかも、室内楽ブラームス弦楽六重奏曲第2番というのが渋い!通常は有名な第1番を演奏しがちです。そこを第2番を持ってくる、しかも弦楽ぢ重奏曲という点が、さらに私が惹かれたところでした。

なぜブラームス弦楽六重奏曲が渋く私の興味を引いたのか。それは、弦楽四重奏曲よりもパートが多いことで、より厚みがでるという点で、よりオーケストラに近い編成だから、です。そのうえで、弦楽六重奏曲第2番はブラームス壮年期に於いて、ある意味転換点ともなる画期的な作品だからです。

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第1番はかなり重々しいというか、重厚な作品でもありますが、この第2番はより室内楽的というか、各楽器のアンサンブルを重視しつつも、第3楽章には複雑な構造もあり、むしろ第1番よりも難しいと感じます。さらに言えば、第1番よりもブラームスが肩の力が抜けて新しい地平を切り開いていく時期の作品でもあります。アガーテ音型もさることながら、作品そのものの作曲時期と構造のほうがより注目すべき作品なのです。それを室内楽で持ってくるとは!

演奏はさすがにアマチュアなのでやせた音がありますが、しかしながらアインザッツも自在でアンサンブルもぴったり。作品が持つ内省的かつ情熱的で明るい部分も存在するという様子が見事な演奏でした。実はアマチュアだからこそ指揮者のタクトに合わす必要があるわけですが、そもそも弦楽六重奏でしっかりとしたアンサンブルが出来るということを見事に証明してみせたのです。これにはびっくりしたと同時に、その後のプログラムも期待が持てるなあとおもいました。今でこそうまい宮前フィルハーモニー交響楽団ですが、30年ほど前の宮前フィルハーモニー交響楽団はそれはそれはタクトに対しタイミングは合わない、勿論室内楽でも合わないわと悲惨な状態。でもだからこそ、室内楽演奏会を開いて研鑽していたとも言えます。ですがEGKさんは30年という時間が経ったことで、音はやせているけれどアンサンブルは秀逸というレベルがアマチュアオーケストラの通常レベルだということを示しているのです。

第2部はコントラバスコンバース」による演奏。「コンバース」は4つのコントラバスによる演奏です。トップは指揮者でもある平尾さん。プログラムは以下の通り。

①Runner(爆風スランプ
②少年時代(井上陽水
③舞台に立って(YOASOBI)
④運命ボサノヴァ風(ベートーヴェン、平尾純編曲)

Runnerは言わずと知れた爆風スランプの名曲ですが、ちょうど今年活動再開だそうで、それを記念してという事でした。冒頭部分がベートーヴェンの「運命」であるとコメントがありましたが、ちょっとごちゃごちゃしすぎてしまったかなという印象。コントラバスだと音程が低すぎるということもあったかなあという気もします。むしろ「少年時代」のほうがしっとりしていて良かったです。「舞台に立って」は今年のNHKパリオリンピック放送の主題歌で明るくはじけた曲ですが、むしろこっちのほうがRunnerよりコントラバスに合っていたと思います。YOASOBIだからこそなのかもしれませんが、リズムが弦楽器とあっていました。オリンピックの舞台に立つというドキドキが通奏低音を担当するコントラバスにまるで心臓のリズムのようにぴったりだったと思います。最後のアンコールとしての「運命」ボサノヴァ風は、どこかピアソラを念頭に置いたかなという編曲で楽しめました。

さて、後半の「運命」。指揮者平尾さんもまたアマチュア指揮者なのですが、いやあ、作品の構造に対するリスペクトが半端ない!楽譜上はフェルマータがついていますが、そこをしっかり伸ばす演奏は私好みです。このフェルマータをどう解釈すべきかは指揮者によって分かれますが、平尾さんはしっかり伸ばすという選択をされました。しかもテンポもそれほど快速ではないのに快速に聴こえて重厚感んもあります。主題もアマチュアですとアンサンブルが合わないこともありますが、それもぴったり。この時点で、さすが室内楽から作り込むオーケストラだと思いました。

第2楽章のつかの間の休息、そして第3楽章から第4楽章という「勝利の音楽」はもう最高の一言!この「運命」という曲はエネルギーを持っているからこそアマチュアだと曲に飲まれる作品なのですが、全く飲まれずに作品の魂を表現するのはもうあっぱれです。指揮者とオーケストラが共に音楽を作り上げていくという姿勢が見事!第4楽章最後までエネギッシュに疾走し続けて終わるのはもう感動しかありません。しかも美しい!

マチュアで、力強く美しい「運命」が演奏できるということは、レベルが高い証拠なのです。今後も室内楽からアンサンブルを作り上げていく団体であってほしいと思います。できることならば次回も足を運べればと思います!

聴いて来たコンサート
第25回EGK演奏会
ヨハネス・ブラームス作曲
弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36
Runner(爆風スランプ
少年時代(井上陽水
舞台に立って(YOASOBI)
運命ボサノヴァ風(平尾純編曲)(「コンバース」アンコール)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第5番ハ短調作品67「運命」
歌劇「フィデリオ」序曲(アンコール)
野村真奈人(第1ヴァイオリン、ブラームス
西浦丈(第2ヴァイオリン、ブラームス
相川美佐子(第1ヴィオラブラームス
吉岡麻由子(第2ヴィオラブラームス
佐渡慶一郎(第1チェロ)
中村英和(第2チェロ)
伊藤大(コンバース
竹田優人(コンバース
丹野雅子(コンバース
平尾純指揮、コントラバスコンバース
Ensemble Grossen Kuensters

令和6(2024)年11月10日、東京、北、北とぴあさくらホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。