数学力を上げる戦略 (original) (raw)

はじめに──なぜ「いま」数学的思考が必要なのか? ■「正解探し」をやめませんか とにかくスピードが必要な世の中になったと感じています。 例えば、美味しい料理をデリバリーするサービス。提供する料理の味はもちろんですが、それと同じくらい、速く届けることがお客様の満足度に直結します。 オンラインで会議をするのも、ITツールを使いこなしたいからではありません。そのほうが手っ取り早いからです。 受験、ビジネス、人生……これらすべて、1年前の成功法則すら当てはまらないことも多くなった──。そう思いませんか。 そんな時代に私たちは「正解」を探してはいけないと思います。そもそも「正解」など存在しない。そうではなく、自ら深く、正しく、考えることで答えを出すことが必要な時代になったのです。答えは探すものではなく自ら作るもの。そう思っているのは、私だけではないでしょう。 今この原稿を書いているのは、2020年の11月です。新型コロナウイルス禍により、社会は劇的に変わりました。ビジネスにおいても「自力」のある会社とそうでない会社との差がはっきりすることでしょう。同じようにビジネスパーソン個々人においても、必要な者とそうでない者の差がはっきりするに違いありません。 そんな時代をまだまだ生きていかねばならない私たちに必要なのは、運や人脈、小手先のテクニックといったものに左右されない、確かな「自力」ではないでしょうか。私はその「自力」とは「自ら深く、正しく、考える力」であると思っています。 (自ら:自 + 考える力:力 = 自力) ■数学で使う「頭の使い方」が楽しく身につく本です 答えを出すために自ら深く、正しく、考える。実はこの行為を皆さんはかつて「数学の授業」で経験しています。 だからといって、「大人になった今から数学をまた勉強しましょう」と提案するわけではありません。「学問」が目的の人でなければ、いまさら数学の問題を解く必要はない。でも、数学の問題を解くときに使った「頭の使い方」は身につけておいたほうがいい──これが私の提案です。 具体的には、数学的思考というものを「定義」「分解」「比較」「構造化」「モデル化」の5つの思考法に整理し、その頭の使い方(動かし方)を楽しくトレーニングします。数学の問題解法ではなく、数学で使う思考法を学べるものです。まさに「自ら答えを出さなければならない世界」で生きる人のための数学的思考と言えます。 本書との出会いによりあなたが手にするものを3行ではっきり示します。 自分の納得のいく結論(答え)を作れる。 その結果、行動できる。 その結果、豊かさを手にすることができる。 もう少し具体的かつ身近な表現にすると、次のようなメリットがあります。 ・無駄な思考や議論をしないで済むようになる。 ・難しい問題を簡単な問題にすることができる。 ・主観的かつ表層的ではなく、論理的かつ深い考察ができるようになる。 ・別のものに置き換えることで真理・本質を見極めることができる。 ・法則を示すことで説得力ある説明ができるようになる。 なぜそうしたメリットを享受できるのか。著者である私自身のことを少し説明することがその答えになると思っています。 ■私を信じてください 私は国内で唯一のビジネス数学教育家。ビジネス数学とは、数学的な思考やコミュニケーションができるビジネスパーソンを育成する教育テーマのこと。大手企業の研修やビジネススクールの講義、書籍やメディアでの発信、ビジネス数学を指導できるインストラクターの育成などが主な活動です。 私もかつて会社員を10年以上にわたり経験しました。新人から管理職まで経験させていただき、働く人がどういう人生を送っているのか身をもって体験しました。だからこそわかることでもありますが、ビジネスパーソンが欲しているものは数学の能力ではありません。仕事で成果を出すためのソリューション(解決法)です。 そして、多くのビジネスパーソンは「答え」を作る方法を欲しています。なぜなら、それができなければ自ら行動したり、あるいは誰かを動かしたりすることができないからです。行動できる(させることができる)から成果が出る。成果が出るから豊かになる。先ほど3行で示したものと同じであることに気づいていただけたでしょうか。 加えて、私は学者ではなく教育者です。一般論ですが、学者はあくまでその学問の面白さや奥深さが重要です。しかし教育者は人の変化が重要です。前者は「学問」が主役であり、後者は「人間」が主役。私は後者であり、いかに人をできるようにさせるかを主眼にしているため、あなたが求めるものを提供できる可能性が高いと考えます。 さらに申し上げるなら、私は本業を通してビジネスパーソンのリアルな悩みや感覚を理解しており、このテーマを苦手としている人たち(つまり読者の皆さん)の心情やレベルも熟知しています。本書は、飽きずに楽しく読める問題や事例が散りばめられた一冊となるでしょう。 自己紹介にしては少し冗長だったでしょうか。一言でいえば、「私を信じてください」です。 ■本書の構成 本書は第1章から第6章までから成ります。 簡単に説明しますと、第1章では数学的思考とはいったい何なのかを明確に示します。先ほどお伝えしたように、その中身は5つの思考法で整理できるものです。 第2章以降でそれぞれについて楽しくトレーニングできるように構成されています。

繰り返しになりますが、本書は数学の学習書ではありません。ゆえに数学に苦手意識のある方でも必ず読める内容になっています。ぜひ楽しみながら読み進めてみてください。 最後に、著者からお願いです。 もし何らかの理由で「思考トレーニング」的なものが苦手という方は、第1章だけでも読んでみてください。 そもそも数学的思考とはいったい何なのか。それを正しく知るだけでも、あなたの人生に少なからず良い影響があることをお約束します。 そろそろ本編へ移りましょう。 成功法則がない。前例がない。レールもない。「必要」と「不要」がはっきりする。そんな未来をもうしばらく生きていく人はたくさんいます。本書を手に取りここまで読んでくださったあなたも、おそらくその一人ではないでしょうか。ぜひこのままページをめくってみてください。 深沢真太郎 本書では、数学的思考をトレーニングするための演習問題を数多く用意しています。 ここでいくつか先に紹介しておきますので、もしよろしければ挑戦してみてください。 いま答えがまったく浮かばなくてもご心配なさらず。本編でしっかり解説していきます。 Q.もしあなたが会議の進行役だとしたら、その会議で最初に何をしますか? Q.AIにあなたの信用スコアを判定してもらったところ、「55」という結果が出ました。 さて、一言お願いします。で、あなたは何をしますか? Q.居酒屋における「飲み物」と似ているものを挙げてください。 (一見違うけれど、実は構造が同じもの) Q.「いい人材」とはどんな人材のことでしょうか? 四則演算の記号(+-×÷)を使って表現してください。

第1章 「数学的思考」の正体 〜人生を変える5つの思考回路〜 「問い」から始めよう 数学的思考とは何か。まずはそんな問いから始めたいと思います。 私は人間にとって「○○とは何か」という問いが極めて重要だと思っています。 恋愛とは何か。 就職活動とは何か。 通勤電車とは何か。 …… 恋愛とは何かを自分なりにはっきり言語化できている人、つまり自身の恋愛観を持っている人のほうがいい恋愛ができるかもしれません。自分にとって就職活動とは何なのかを明確に答えられる学生のほうが、結果的にいいご縁ができるのではないでしょうか。通勤で満員電車に乗ることを疑問に思ったとき、もしかしたら働き方は劇的に変わるかもしれません。「○○とは何か」という問いは、人生に大きな影響を与える力があるのです。 ではあらためて、数学的思考とは何でしょうか。 円周率を100桁まで覚えることが数学的思考なのか。 2次方程式の解の公式を覚えることが数学的思考なのか。 もっと本質的なことを言えば、かつて学生時代に数学の成績が良かった人には必ず数学的思考が身についているのか。 私の答えはいずれも「NO」です。 数学的思考の正体。それが第1章のテーマです。その正体を明らかにすることで初めて、私たちは「正しい数学的思考トレーニング」ができます。正しいとはどういうことか。さっそく本題に入ることにしましょう。 「数学的思考」を定義する ところで数学の特徴とはなんでしょうか。もちろん様々な答えがあります。正解か不正解かなど気にせず、あなたも考えてみてください。私が今まで学生やビジネスパーソンにこの質問をしたときの答えを、いくつか列挙します。 「とにかく計算する」 「必ず正解がある」 「ちょっとでもミスしたら不正解になってしまう」 「一度どこかでつまずくと脱落せざるを得ない」 「公式を覚えればどうにかなる(意外と暗記科目の一面がある)」 「わかる人にはわかるけど、わからない人にはサッパリわからない」 …… 私も頷く答えばかりです。そういう意味で世の中の皆さんは数学というものをよくご存知だなと思います。これらすべて正解です。それを前提に、私の答えを示すことにしましょう。 「定義をしないと始められない」 数学の最大の特徴は何かと問われたら、私は間違いなくこのように答えます。私の記憶では、同じ答えをおっしゃった学生あるいはビジネスパーソンはこれまで一人もいませんでした。定義とは定めること。「○○とは〜〜である」と言語化する行為です。 もしあなたが私の答えに「?」と思ったなら、今までこのような視点や発想がまったくなかったとしたら、きっと本書はあなたに何かをもたらすはずです。なぜなら、視点や発想がまったく違う人間と一緒に楽しくトレーニングをすることになるからです。まったく同じ思考回路の人間の書いた本を読んでも、得るものがあるとは思えませんよね。 さて、話を先に進めましょう。数学は定義をしないと始められません。例えば「三角形の面積を求めなさい」という問題があったとします。あなたはすぐに「底辺×高さ÷2」という計算式を連想したでしょう。でもちょっと待ってください。 「そもそも、三角形とはなんですか?」 あなたはこの問いにどう答えますか。三角形とは何か。サンカクの形をした図形? ではサンカクとはなんですか? 日常生活では、こんなことを言うタイプは間違いなく嫌われます。しかし、数学においてはここが生命線です。三角形の正体がはっきり言語化できていないのに、三角形の面積を求められるわけがないからです。 この問いに対する数学の一般的な正解は、「同一直線上にない3点と、それらを結ぶ3つの線分から成る多角形」です。三角形という図形の説明に「3つの角」という表現は要らないのです。実際、三角形の面積を求める計算式は「底辺×高さ÷2」でした。角度という数値は使いません。 ここで申し上げたいことはたったひとつ。数学は定義をしないと始められないものだということ。ゆえに本書においても、まずは「数学的思考」を定義しなければなりません。そうでないと〝始められない〟のです。次の1行が私の定義です。 数学的思考とは「数学をするときに頭の中でする行為」である。 当たり前の内容に感じると思いますが、どうか軽視しないでください。頭の中でする行為ということは、基本的に足の小指は使いませんし、あなたのデスクに置いてある電卓そのものは数学的思考ができない物体であることを意味します。曖昧な状態を許さず言語化する。定義するとはこのようなものなのです。 もしよかったら「面積」を定義してみてください。意外と難しいのではないでしょうか。「面積」を定義する前に、そもそも「面」とはいったい何でしょうかね。 「数学的思考」を数式で説明する 話を前に進めます。私は基本的に何でも結論からお伝えするタイプ。それはこのような書籍の文章はもちろん、企業研修における指導や、インタビューでのコミュニケーションもまったく同じです。ですから、冒頭の「数学的思考とは何か」という問いに対する私の答え(すなわち結論)を、ここで提示してしまいます。 (※) 数学的思考 ={定義}×{分析}×{体系化} ={定義}×{(分解)+(比較)}×{(構造化)+(モデル化)} 数式の表現がいきなり登場したことに戸惑われたでしょうか。もちろん丁寧に解説していきます。 まず「+」と「×」という記号が登場していますが、これは皆さんがよくご存知の「足し算」と「掛け算」の概念だと思っていただいて結構です。「+」は異なるものを合わせる(まとめる)意味とご理解ください。同じように、「×」は異なるものを組み合わせて相乗効果を生む意味とご理解ください。 例えばトランプの柄は4種類で成り立っています。このことは次のように表現しても差し支えないのではないでしょうか。 トランプ=♠+♣+♡+◇ ビジネスにおいて異なるものがコラボレーションするとき、その概念を「×」で表現することがあります。例えば、2020年6月にアパレルブランドのユニクロとTheory(セオリー)のコラボが発表されましたが、そのときのプレスリリース記事に書かれている表記がこちらでした。 UNIQLO×Theory 異なるものを組み合わせることで相乗効果が生まれるとき、私たちは掛け算をしていると捉えることができます。相乗効果ですから、片方が存在しなければ(ゼロならば)すべてゼロを意味します。先ほどの「UNIQLO×Theory」も、2つのブランドともコラボレーションしたいという意思が存在するから成立するのであって、どちらか一方に相手と組む意思がなければ成立しない。つまりこのコラボレーションは存在しない(ゼロ)ということになります。ゼロにどんな数を掛け算しても答えはゼロ。これはおそらくあなたが認識する掛け算の性質と同じでしょう。 あらためて前述の(※)をご覧ください。2〜3行目に注目します。すなわち、「定義」「分析」「体系化」の3つは組み合わせる関係にあることを意味します。さらに「分析」は「分解」と「比較」の2つに分けることができ、「体系化」は「構造化」と「モデル化」の2つに分けることができます。 ひょっとすると、このように数字ではなく単語を使って数式のように表現することに違和感を持つ方もいるかもしれませんが、次のような数式と構造的には同じものだと思っていただいて差し支えありません。 154 =2×7×11 =2×(3+4)×(5+6) 154という数は、2、3、4、5、6という5種類の数をまとめたり組み合わせたりすることでできている数です。2と7と11は掛け算の関係にあり、それらのどれかひとつでもゼロ(0)ならば全体もゼロになってしまいます。 話を元に戻せば、数学的思考というものは定義、分解、比較、構造化、モデル化という5種類の概念をまとめたり組み合わせたりすることでできている概念だということです。 「定義」「分解」「比較」「構造化」「モデル化」 さて、私たちは今からこの5種類の概念を理解する必要があります。数学的思考はこの5つから成るのですから、これらを理解しなければ当然ながら数学的思考も理解できないという理屈です。 〈定義〉 定めること。「○○とは〜〜である」と言語化する行為。 (例)お金とは信用である。 (例)お金とは生活するための必需品である。 〈分解〉 細かく分けること。「+」「-」「×」「÷」で物事の中身を把握する行為。 (例)(売上)=(客単価)×(客数) (例)(利益率)=(売上−費用)÷(売上) 〈比較〉 異なるものを比べること。定量的な大小や定性的な相違を明らかにする行為。 (例)あの二人はどちらが年上か。 (例)あの二人はどちらがイケメンか。 〈構造化〉 物事を構造で説明すること。具体的なものを抽象化する行為。 (例)兄と弟の関係は、姉と妹の関係と同じ構造だ(兄:弟=姉:妹)。 (例)赤道の長さを測ることは、円周の長さを求める問題と同じ構造だ。 〈モデル化〉 異なるものを関連づけること。そこから性質を導き一般的なモデルにする行為。 (例)コミュニケーションの量が信頼関係の強さに比例する。 (例)人との接触機会が増えると、感染症の拡大スピードは急増する。 そして、数学的思考とはすべて次の流れで頭を使うものです。 ●STEP1 定義: 「今から考える対象Aをはっきり言語化する」 ↓ ●STEP2 分析(分解&比較): 「Aの特徴を探る」 ↓ ●STEP3 体系化(構造化&モデル化): 「Aの姿を(誰が見てもわかるように)明らかにする」 もちろんこの解説だけで完璧に理解することは難しいでしょう。この5つがなぜ数学的思考を構成しているのか。なぜこの3ステップなのか。この説明だけではあまりに具体性がないと思います。このようなとき、私たちは「例」が欲しいと思うものです。 そういえば学生時代の数学の教科書も、イメージが湧かない公式や解き方の解説があって理解に苦しんだ方が多いでしょう。ですからその教科書には、おそらく理解を促すための例題が記載されていたはずです。それと同じように、ここでもいくつか例を挙げることにします。蛇足ではありますが、すなわちこの行為もまた数学的であると言えます。 「数学をする」とはどういうことか 本書の読者の中には学生の方もいるかもしれません。おそらくアルバイトの経験が一度や二度はあるのではないでしょうか。そこでこんな問いを立ててみましょう(ここでもまた「問い」から始まることに気づいてください)。 【演習問題】 「アルバイトの給与」とは何か、数学的に説明してください。 あなたが学生であれビジネスパーソンであれ、おそらくこのような答えを想像したのではないでしょうか。 時給(額)と勤務時間を掛け算したもの もちろん正解だと思います。私自身これ以外の答えはほぼ想定していません。ここで重要なのは、あなたがいかにしてこの答えを導いたかです。あまりに簡単すぎる問題ゆえに瞬間的に答えを出したかもしれません。しかし実はその間、あなたは頭の中で数学的思考をしていたのです。私が実際にした行為を解説しましょう。 「アルバイトの給与」とは何か、という問いがある ↓ ●STEP1 まず「アルバイトの給与」を定義する 「アルバイトの給与」とはアルバイトをすることで得られる報酬である (定義) ↓ ●STEP2 「アルバイトをすることで得られる報酬」を分析する それを決めるものは「時給」と「勤務時間」の2つであると理解する (分解) ↓ ●STEP3 どんなアルバイトでも同じように説明できるように体系化する 一般的に「アルバイトの給与」をY、「時給」をA、「勤務時間」をXとすると、YはAとXの掛け算という構造をしている。Y=AX (構造化) あるいはこのような行為をしたとも言えます。 「アルバイトの給与」とは何か、という問いがある ↓ ●STEP1 まず「アルバイトの給与」を定義する 「アルバイトの給与」とはアルバイトをすることで得られる報酬である (定義) ↓ ●STEP2 「アルバイトをすることで得られる報酬」を分析する それは勤務時間が短いよりも長いほうが金額は大きいものだと理解する (比較) ↓ ●STEP3 どんなアルバイトでも同じように説明できるように体系化する 一般的に「アルバイトの給与」をY、「時給」をA、「勤務時間」をXとすると、XとYは比例の関係にあり、Y=AXという型(モデル)で表現できる (モデル化) おそらくあなたもこのような思考プロセスを踏んでいます。だから私と同じような答えを出すことができたのです。 このように数学とは定義し、分析し、体系化する行為を指します。より具体的には「定義」「分解」「比較」「構造化」「モデル化」を組み合わせることで答えを出す行為です。前述で示した(※)の具体例になっていると思うのですが、いかがでしょう。 数学をするときの「頭の使い方」は様々な場面で必要となる 数学をするとは、単なる計算問題を暗記した公式に当てはめて機械的に答えを出す行為ではありません。この例で挙げたような「アルバイトの給与」とは何か、といった問題を深く正しく考え、答えを出す行為なのです。 これからの人生であなたが数学の計算問題を解くことは、ほとんどないでしょう。しかし、このような頭の使い方を必要とする場面は多々あるのではないでしょうか。 例えば、ビジネスパーソンなら意思決定を必要とする場面はたくさんあるでしょう。仮にあなたが新卒社員を採用する面接官だとします。採用の可否を判断する、まさに意思決定があなたの仕事です。 おそらくあなたは「いい新卒人材ってどんな人?」という問いを立てるのではないでしょうか。仮に「コミュニケーション能力が高くて、3年後もその会社で活躍するイメージが具体的にある学生」と定義すると、その条件は「コミュニケーション能力(X)」と「3年後のイメージ(Y)」に分解できます。 さらにこのXとYを比較し、どちらの優先順位が高いかを評価します。仮にXのほうが優先順位が高いとするなら、結論として「採用する人材の条件はXかつYであり、かつXの素養がより高い人物を優先する」というはっきりした型(モデル)ができます。型ができるからあなたは意思決定ができる。すなわち答えを出せるのです。 いかがでしょう。数学の問題を解くことはなくても、数学をするときの頭の使い方は必要とする。もしあなたがビジネスパーソンなら、数学的に考えない日など1日たりともない──これが私の持論です。 余談ですが、数学を理解できた方がよく「数学と哲学は似ていますね」といった類の言及をされます。もしかしたらあなたも、これまでの人生の中でそんなことを言う人物に出会ったことがあるかもしれません。 念のため説明しますと、哲学とは人生・世界、事物の根源のあり方・原理を、理性によって求めようとする学問のことです。 恋愛とは何か。就職活動とは何か。通勤電車とは何か。アルバイトの給与とは何か。いい人材とは何か。 ここまでの十数ページだけでこれだけの「問い」を発していますが、まさに根源のあり方・原理を求めようとするものではないでしょうか。数学と哲学は似ている。その真意はこんなところにあるのです。 ではここまでのおさらいということで、ひとつエクササイズをしてみましょう。