紬の花嫁 (original) (raw)

『紬の花嫁』(2024)
評価 : ★★★★

Hendingから発表のノベルゲーム。
公式ジャンルは「ヒロインの身体に宿り想いを紬ぐ ADV」。

年中「永久桜」が咲き乱れる土地・桜竈で、親友として家族として育ってきた二人の少女、真白葵と貴麗山吹。
些細なきっかけで禁忌呪物「吐瀉丸」の封印を解いてしまい、葵は吐瀉丸に取り憑かれ、その影響で股間に男性器が生えてしまう…。

Hendingは前作『ソープランドのはっしゃくさま』で、Live2Dアニメーションを使用したエロシーンに力を入れました。
抜きゲーとして注目された作品で、続く本作のエロにも期待を寄せた人も多いでしょうし、実際エロ方面でも出来は良かったです。
しかし、本作はエロ以外の要素も実に良く出来ており、思わぬ掘り出し物と言える作品でしたね。

本作を簡単に言えば、百合+ふたなり+濃厚なエロ+伝奇ストーリー、これらの要素が含まれた複合的な作品です。
そして、ただいろんな要素を詰め込んだだけに留まらず、どの要素にも力を入れています。
一つの要素だけでも一定の満足度のある作品に仕上がったでしょうが、複数の要素を組み合わせたことで、より楽しめる作品に仕上がっています。
何か一つに特化した作品というより、総合力で勝負した作品ですね。

本作では、葵と山吹、二人の少女の百合がメインです。
ただ、少女たちの心情の機微を楽しむ繊細な百合作品というより、どちらかと言えば甘々でイチャイチャした空気に、上記のふたなり+濃厚なエロ要素も加わり、全体的に明るく楽しい雰囲気の百合作品です。
二人は可愛いですし、Live2Dアニメーションで動くエロシーンも多く、恋愛もエロも楽しめます。
立ち絵は目パチが有りますが、個人的には立ち絵もLive2Dアニメーションならもっと良かったですね。

そして上記の要素に加え、私が本作でも特に楽しめたのは、伝奇物としてのストーリーです。
基本はコミカルな百合作品ですが、そこから徐々にコミカルとシリアスが混交し、最終的にはシリアスな伝奇要素が大きな位置を占めます。
前作では添え物に過ぎなかった伝奇ストーリーをぐっとパワーアップさせ、しっかりと読み応えがあり、作品として十分楽しめるようになっています。
内心少々侮っていたところもあったので、これは意外でしたし驚かされました。

もう一つ語らなければならないのは、物語の中心となる存在「吐瀉丸」です。
葵が取り憑かれて股間に男性器が生えてしまった原因の禁忌呪物ですが、心の中で葵に語りかけたり、時には葵に憑依してピンチを救ってくれます。
この吐瀉丸が魅力的なキャラであり、本作の伝奇ストーリーの中心人物であり、裏の主人公として活躍します。
少女たちの百合を楽しんでいたかと思えば、いつの間にか吐瀉丸という男らしいキャラに強い魅力を感じていましたね。

甘々でエロエロな作品をプレイしていたかと思えば、いつの間にかシリアスなストーリーに引き込まれていき、最後にはじーんと感動させられる…。
伝奇ストーリーという作品の芯がしっかりあり、そこに百合要素もふたなり要素も違和感なく組み込み、上手く纏め上げていました。
人それぞれエロゲに求めるものは違うでしょうが、私はこうしたストーリーやエロなど複合的な要素が絡み合った作品をプレイしている時、特にエロゲをプレイしている醍醐味を感じます。

以上のように良い所が多い作品ですし、名作と評価する人がいても異論はない作品です。
ただ、個人的には少々気になる所もありました。
いろんな要素を含んだ複合的な作品として非常に楽しめましたが、その反面、単独で突き抜けた要素がないとも感じましたね。

また、序盤・中盤はコミカルとシリアスが混交し、その落差も面白い作品であり、終盤に向かってシリアスに収束していくストーリーも面白かったです。
ただ、伝奇物語として予想以上に面白かったため、私なんかはシリアスなパートの先が気になってしまい、合間に挟まるコミカルなパートが少々邪魔にも感じてしまいました。

あとは、葵と山吹の百合も十分楽しいのですが、赤ちゃん言葉を多用するほど甘ったるいイチャイチャっぷりは、私の趣味とはちょっと外れますね。
百合としての繊細さを求めるなら、『嘘から始まる恋の夏』や『早咲きのくろゆり』など、他の百合ゲーをプレイすべきでしょう。

最終評価は★4ですが、★5の一歩手前という感じです。
こういう多くの要素が含まれたエロゲは久しぶりにプレイした気がしますし、それらの要素を上手く料理したシナリオライターの手腕もなかなかだと思います。
このスタッフの次回作にも注目したいです。