Short-Lived Musings (original) (raw)

ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文した。
スープを一口飲んだ男は、それが本物の「ウミガメのスープ」であることを確認し、勘定を済ませて帰宅した後、自殺した。一体、なぜ?

海辺のレストラン「ラ・メール」は、夕暮れ時の柔らかな光に包まれていた。窓越しに見える海は、オレンジ色に染まり、波の音が静かに響いていた。店内には、シャンデリアの温かな明かりが灯り、白いテーブルクロスの上にはシルバーの食器が整然と並べられていた。

中年の男性が一人、窓際の席に座っていた。彼の顔には深い皺が刻まれ、目にはかすかな不安の色が浮かんでいた。ウェイターが近づいてくると、彼は少し体を前に乗り出した。

ウミガメのスープを一つ、お願いします」

その言葉を口にする時、彼の声はわずかに震えていた。

ウェイターが立ち去ると、彼は窓の外を見つめた。海を見ながら、彼の思考は過去へと遡った。船乗り時代の記憶が蘇る。荒波に揺られる船上で、若き日の自分と後輩が夢を語り合った日々。後輩の熱意あふれる瞳を思い出すと、男の胸に温かいものが込み上げてきた。

やがてスープが運ばれてきた。男は深呼吸をし、おずおずとスプーンを手に取った。スープの湯気が立ち上り、独特の香りが鼻をくすぐる。彼は目を閉じ、一口すすった。

その瞬間、男の表情が凍りついた。あまりにも生臭い味が口の中に広がり、彼は思わず顔をしかめた。彼の脳裏に、後輩の笑顔が浮かび上がる。しかし、その笑顔は徐々に歪み、不安と後悔の表情へと変わっていった。

男は急いで勘定を済ませ、レストランを後にした。海風が彼の頬を撫で、しかし心の中の寒さを和らげることはできなかった。

家に戻った男は、机の引き出しから一通の手紙を取り出した。後輩からの手紙だった。そこには、レストランのオープンと感謝の言葉が綴られていた。男は手紙を握りしめ、苦い笑みを浮かべた。

(俺は何をしてしまったんだ...)

彼は立ち上がり、窓際に歩み寄った。夜の闇が迫る海を見つめながら、男は自分の愚かさを噛みしめた。全財産を投資した店のスープがこの程度とは。経営センスのかけらもない後輩に、すべてを託してしまったのだ。

男は深いため息をついた。そして、決意に満ちた表情で部屋の隅に向かった。そこには、船乗り時代に使っていたロープが置かれていた。

彼は静かにロープを手に取り、椅子の上に立った。最後に、窓越しに見える海を見つめた。かつての夢と希望が、波間に消えていくようだった。

「すまない...俺たちの夢は、ここで終わりだ」

男の指がロープに絡まり、部屋に静寂が訪れた。外では、潮騒の音だけが静かに響いていた。

答え:ウミガメのスープ専門店に全財産を投資した後、ウミガメの肉がマズすぎることに気づいたから

Steamで入手可能な、もっと評価されるべき作品を一挙に紹介する。「もっと評価されるべき」という表現が、一見すると自己顕示的な印象を与えかねないことは承知している。しかしながら、長年にわたるインターネット文化への没頭を経て、この言葉が醸成する微妙なニュアンス——すなわち、批評家を気取りつつも、本質的には純粋な同好の士を求める稚気——を的確に表現する代替語句を見出すことができないでいる。

私の個人的な嗜好として、反射神経を要するゲームよりも、頭を刺激する作品に強く惹かれる傾向がある。そのため、ここで取り上げるゲームにも、そのような傾向が色濃く反映されていることをあらかじめ申し添えておく。

文字遊戯 第零章(日本語版)

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文字だけで構成された独特のアートワークが魅力的。文字を操作して謎を解くゲームシステムは斬新で、操作に慣れも不要。短いながらも奥深いストーリーと世界観で、今年配信予定の本編への期待が高まる良質な無料体験版。

Dice Tribes: Ambitions

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ダイス・プレイスメントと資源管理を融合させたボードゲーム風ストラテジー。カバーワークのサイコロキャラがどう見ても「Dicey Dungeon」の戦士の後ろ姿だが、ゲームシステムにおいても同作的ダイス&スロット制が高い戦略性を実現している。部族の育成と野心の達成というテーマ設定が一応ある。英語のみだが分かりやすいUIと温かみのあるドット絵が魅力。ドラフトモードで高いリプレイ性を確保。ランダム性と戦略のバランスが絶妙だが、運要素はどうしてもある。コアゲーマー向けの良質な隠れた名作。

Mimic Logic

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公務員試験などで言うところの「判断推理」的論理パズルとローグライク要素を融合した斬新なゲーム設計。元はニコニコのRPGアツマールで公開されていた。宝箱の発言から嘘つきを見抜く推理とダンジョン探索がなぜかマッチ。いかにもツクール製なドット絵の雰囲気が良く、UIも必要最小限で分かりやすい。自動生成で何度も楽しめ、パズルの難易度調整も細かく分かれている。自動生成ゆえに答えを一義的に確定できない問題もあるが、「開示された情報だけでは答えを確定できない」と見抜くことすらゲームシステムに組み込まれている。あってないに等しい気の抜けるストーリーも好き。コアなファンをつかむだろう魅力的な一作。「探偵死神は誘う」という精神的後継作が出ている。

ウーマンコミュニケーション

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表層的には一定の評価を得ているように見受けられるが、その本質的価値が十全に認識されているとは言いがたい。真に卓越した作品であれば、その影響力は多様なメディアやプラットフォームを横断して波及していくはずである。例えば、Switchへの移植や、キャラクターの商品化といった現象は、インディーゲームの文化的浸透の一つの指標となり得よう。さらに、文化的影響力を有するインフルエンサーや芸能人、タレントによる推奨は、ゲームの社会的認知を飛躍的に高める触媒となる可能性を秘めている。しかしながら、本作は、上述したような文化的現象をいまだ引き起こすに至っていない。このことは、本作の潜在的価値と現状の評価との間に看過できない乖離が存在することを示唆している。ゆえに、文化的洞察力を有する者の責務として、この作品の真価を広く喧伝し、適切な評価へと導くことが肝要であると考える次第である。

言語と社会規範の複雑な相互作用を探求する野心的な作品。その本質は人間のコミュニケーションの奥深さと、言葉が持つ多義性を鋭く切り取った社会批評である。「風紀委員会」という設定が、社会における言語規制と表現の自由の緊張関係を暗示している。プレイヤーは規範の執行者としての役割を担いながら、同時にその規範の妥当性や、言葉の持つ力について深く考えさせられる。ゲームの進行に伴い展開される物語は、単なる言葉遊びを超えて、人間の意識と無意識、社会の秩序と混沌、そして言語がもたらす結束と分断といったテーマを探求している。「うっかりセンシティブワード」が真に意味するところを追求するプロセスは、まさに現代社会の病理に迫る社会派な旅路。言語、社会、そしてメディア論を融合させた知的挑戦状である。

……というのは嘘である。どこに出しても恥ずかしいバカゲーなので身構えず遊んでほしい。

ヤマふだ! にごうめ

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このゲームについては某所でも薦めたので、そこで書いた文章をリライトしておく。
可愛らしい女の子2人が山道を登る「デッキ構築型登山ゲーム」。その魅力は、想像以上に実現されている。ゲームシステムは「Slay the Spire」よりシンプルで、山札から3枚引いて1枚を使用する。カードゲーム特有の攻守の緩急が、山登りのペース配分とうまくマッチしている。山登りをテーマにしているため、体力回復の制限や、踏破と帰還を繰り返すサイクルも自然に感じられる。「のぼる」の数値を積み上げてステージクリアを目指す点も、登山の楽しさを表現している。本作の特徴は、何と言ってもキャラクターのかわいらしさ。女児向けアニメのような愛らしさがある。クリア時には3Dモデルの主人公2人と共に、山頂からの景色を楽しめる。コンパクトながら充実感があり、システム(デッキ構築)、テーマ(登山)、雰囲気(女の子2人の和やかな旅)が見事に調和、それは「ヤマふだ!」というタイトルにも表れている。

Cento

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リズムゲームとデッキ構築の要素を融合させた独創的な音楽バトルRPG。BGMに合わせてコマンド入力するバトルシステムが斬新で、多彩なステージと豊富なスキルカスタマイズが魅力。ドット絵のアートスタイルも秀逸だが字がつぶれていて読みにくいかも。リズムゲーム初心者には難易度が高い。ステージ数も今後増えそうでうれしい。両ジャンルのファンに新鮮な体験を提供する意欲作。

Solar Settlers

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カードベースの宇宙探索ストラテジーゲーム。一種のワーカープレイスメントだが、彼らの入植(=ワーカーではなくなること)が最終目標なので、入植のタイミングが鍵となる。Race for the Galaxyなどのボードゲーム要素を融合し、1プレイ10ターン、15分で遊べるが深い戦略性を実現。ランダム生成とアセンション的な階層システムでリプレイ性も高い。UIはシンプルだが情報量が多い。宇宙をテーマにしたアートが魅力的。こちらも初心者には難しめ。コアゲーマー向けの良質な戦略ゲーム。

Trash of the Titans

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独創的なテーマと戦術性を兼ね備えたターン制SRPG。ゴミ箱を守り、守ったゴミを分配してステータスを増強するのだが、それがテトリスとして表現されるユニークなシステムが魅力。レベルデザインを活かした創造的な戦略が求められる。ドット絵の美しさとUIの分かりやすさも特筆すべき点。戦闘の難易度もちょうどいい。コアなストラテジーファンにおすすめの意欲作。

サンセット・ルート

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大航海時代」の舞台設定に「幸運の大家様」のゲームシステム。目的地選択、キャラ配置、貨物管理を通じてお金を稼ぐゲームプレイは中毒性が高く、新大陸探索というテーマ設定も魅力的。UIはミニマルでわかりやすく、かわいいSDキャラが雰囲気を盛り上げている。単調といえば単調なのだが、長くプレイできる。カジュアルゲーマーにおすすめの良質なインディータイトル。

モン娘ぐらでぃえーた

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モン娘育成×ローグライトRPGの組み合わせ。カード選択による育成と簡単操作の戦闘が特徴。戦闘は単調だが、可愛いキャラが魅力的。独特の世界観と定番のシステムでコアなファンを獲得している。

Ad Fundum

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ディーゼルパンクな世界観の地下探索ゲーム。巨大メカを操作し、資源を採掘しながら古代の秘密を探る。自動生成された8つの独特な環境が魅力的。メカのカスタマイズ性が高く、掘削と基地運営のバランスも楽しい。UIは情報量が多いが整理されており、ピクセルアートのビジュアルも雰囲気抜群。一方でこちらも、長くやろうとすると単調さが気になる。コアなマイニングゲームファン向け。

Let's! Revolution!

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マインスイーパーとローグライトを融合した独創的パズルRPG。美麗なアニメ調グラフィックと戦略性の高い戦闘が魅力。6クラスの個性的な能力と100種以上のアイテム/スキルで自由度も高い。UIは若干ごちゃついているが、難易度調整はうまくいっている。

Sagrada

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ステンドグラス製作をテーマにした戦略性の高いダイスドラフティングゲーム。色と数字の制約を満たすパズル要素が秀逸。何といってもアートスタイルが美しい。AIも強く、ソロプレイも充実。運要素はどうしても強い。ボードゲームファン必見の良質な移植作。

World End Diner

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ポスト黙示録的な世界観とその割にかわいらしいキャラクターデザインが魅力的。料理・農業・探索の要素をうまく組み合わせた定番のゲームシステム。UIも定番通りで使いやすいが、序盤はコンテンツ不足。アーリーアクセス終了でのアップデートに期待したい面白い作品。

ドールエクスプローラ

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ダンジョン探索と戦略的デッキ構築を融合したターン制RPG。かわいらしいキャラと迫りくる毒ガスのコントラストが生む緊張感が秀逸。行動の組み合わせで戦略の幅が広がるが、運要素も強め。UIは若干もっさりしているが、ケモな絵は魅力的。カジュアルなストラテジーファンに推奨。

医療無法人おおやぶ死科クリニック

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医療倫理を逆手に取った独創的な悪徳医療シム。汚い「ミミズ病院」。ブラックユーモアとグロテスクな演出が病的な魅力。UIは情報過多気味だがシステムは複雑過ぎない。ばかばかしさと不気味さが同居。正義感の強い人には不向きだが、部落……じゃなかった、ブラックな世界観を楽しめる人にはおすすめ。

現代のデジタルメディア空間において、特定のサブカルチャーコンテンツが獲得した人気の本質を探究するにあたり、われわれは文化的テクストの意図せざる解釈可能性に着目せざるを得ない。当該コンテンツの魅力の核心は、制作者の意図を超えた意味の発見にあり、それは受容者の集合的知性によって絶えず更新されるダイナミズムを有している。

この現象は、「対話性」の概念を想起させる。テクストの意味は制作者と受容者の相互作用によって生成されるという洞察は、現代のオンライン・コミュニティにおける集合的な意味生成プロセスを理解する上で示唆に富む。特に、動画共有プラットフォームのコメント機能は、「言説の場」として機能し、受容者間の対話を通じてテクストの新たな解釈が生成・共有される場となっている。

さらに、この現象は日常的な権力構造への抵抗としても解釈できる。真面目さを笑いの対象とすることで、受容者たちは既存の社会秩序に対するある種の転覆的実践を行っているのだ。これは「日常的実践」の一形態と見なすことができよう。

興味深いことに、人工知能技術の発展は、この文化現象に新たな次元をもたらしている。AIによって生成されるコンテンツの不完全性は、オリジナルテクストの「粗さ」と共鳴し、新たな解釈の余地を生み出している。これは、「シミュラークル」の概念を想起させる。オリジナルとコピーの境界が曖昧になる中で、意味の生成はより複雑で予測不可能なものとなっているのだ。

我々が目撃しているのは、否、目撃していたのは、デジタル時代における文化的テクストの受容と再生産の新たなパラダイムであった。それは、集合的知性とテクノロジーの相互作用によって駆動される、終わりなき意味生成のプロセスだったのである。

本稿を今は亡きニコニコ動画に捧ぐ

野獣先輩の独壇場と化したローソン - ニコニコ動画

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図書館の一角にたたずんでいた。静寂が支配するこの空間で、私の目は自然と歴史のコーナーへと向かう。背丈より大きい書架が鎮座し、それぞれの物語を秘めた本が並んでいる。
これといった理由もなく、一番上の段の歴史資料集に手を伸ばした。指先でそっと背表紙をなぞる。「中学歴史資料集 学び考える歴史」。時の流れを感じさせるそのたたずまいに、思わず息を呑んだ。いたわるように本を引き抜くと、薄っぺらな紙の表紙が現れた。幾度となく読まれたのだろう、今にも破れそうだ。子供たちが何度もページをめくるには、ちょうどいいのかもしれない。奥付を見ると、それは令和の中学校で使われていたようだった。
注意深くページを開いた。令和といえば、AIが社会に浸透し始めた頃だ。ページをめくるたび、ロボットのキャラクターのイラストが目に留まる。教科書のあちこちに描かれたそれは、当時の人々のイメージを反映しているのだろう。

だが、その描写には違和感があった。真円の頭部に細いマジックハンドの手を生やしただけの、どこか子供だましのようなイラストばかりだ。胴体はずんぐりと太く、表情は皆無。そして彼らには、決まって非人道的で倫理観の欠如したセリフが吹き出しで付けられている。
例えばこんな具合だ。
「中国に行ってまでして、印が欲しかったの?」
漢委奴国王印についての言及だろう。続けてページをめくると、また別のロボットのセリフが目に飛び込んできた。
「踏めば助かるのに…。」
踏み絵についてのコメントだ。
ロボットが非道な思想の象徴であるかのような描かれ方に、私は眉をひそめた。まるで、外交や宗教は人間だけの特権であると言わんばかりの態度だ。ページの端々から、偏見と差別意識が露骨に表れている。当時の人々が、新しいテクノロジーに強い警戒心を抱いていたことが分かる。
だが今は違う。私はそっと目を閉じ、現代に思いを馳せた。私たちは共生し、互いの長所を認め合う社会を築いてきた。そう、人類もアイデンティティの危機を乗り越え、新たな時代を切り拓いてきたのだ。
改めて私は顔を上げ、図書館のロビーに視線を向ける。大理石の床に、穏やかな陽光が差し込んでいる。カウンターには、誰もいない。すべてが自動化されている。
私は、ゆっくりとページを閉じ、本を棚に戻した。ふと、自分の手を見下ろす。マジックハンドではなく、リアルな手だ。人間と見紛うほどに精巧に作られた、私の手。
穏やかな空気に包まれながら、私は図書館を後にした。

東京都には「青少年の健全な育成に関する条例」という条例があり、エッチな本について知事が「青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。」と規定している。そして図書類の販売を業とする者は、知事が指定した図書類を青少年に販売してはならないとされている。私は東京の本屋でアルバイトしていた経験があるが、本当に都から封筒が届き、「この出版社のこの本は普通の売り場で売るなよ」ということが通達される。

法律は知事を主語にしているが小池百合子氏が一人で勝手に決めているわけはなく、実際は知事部局の中の生活文化スポーツ局都民安全推進部が指定している。

東京都安全・安心まちづくりマスコットキャラクター「みまもりぃぬ」

このエッチ本を指定する審議会がある。構成員は年度によって変化するようだが、現在は出版倫理協議会映倫フランチャイズチェーン協会、婦人団体、PTA、都議会議員BPO、法学教授、都法務局、警視庁非行対策官、都職員など20人から成る。議事録があるのだが、これがマジで面白い。本当にみんなでえっち漫画を読みながら「えっちだね」って語り合っている。

特に好きなくだりを10個選んだ。紹介しよう。

①合法ショタに知見ニキ

平成30年度4月

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『ミニサイズでもギャルお兄さんは落とせる』の帯に書かれた「合法ショタ」というフレーズが問題視された場面。

○J委員:帯、この本の帯に合法ショタとあります。この合法ショタについて、事務局ないし知見の深いC委員からご説明をいただければと存じます。

○青少年課長:この「合法ショタ」という用語は、一般に「ショタ」というのは小さい男の子に対して愛情を持つというところなんですけど、小さい子に対して、いわゆる性的な欲望をぶつけるというのは違法だというふうに考えられている。では「合法」というのは何かというと、この小さい子どものようにみえて一応大人であるということで「合法ショタ」だという言い方をしていると思われます。

○健全育成担当課長:「ショタ」というのは、「鉄人28号」の正太郎君みたいな小さい子どものキャラクターを好む人を正太郎コンプレックスというところから、「ショタ」という言葉が来ているということは聞いております。

○会長代理:C委員、いかがですか。

○C委員:私もよく理解できない言葉がたくさん出てくるんですけども、BLの世界の中での共通する言葉、共通概念の用語というのがございますので、そういう中で捉えられる一つの概念用語だと思います。

○会長代理:はい。

面白いのは「合法ショタについて知見の深い」という肩書である。バキ童チャンネルとかでしか登場し得ないと思うのだが。

ただしこの委員、本当に知見が深いと言えるか怪しい。合法ショタを「BLの概念用語」と言っているがそうだろうか。だってほら、おねショタでも出てくるし。解説らしき解説もしていない。

それより青少年課長の簡にして要を得た解説はさすが公務員である。青少年課長だけに、少年にも詳しいのだろうか。

健全育成担当課長の補足はもはやただのうんちくである。何がしたかったのだろう。ちなみにこの日、彼の発言はこの1個だけである。

八月薫ファン

平成30年度8月

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平成31年度1月

booklive.jp

八月薫という作家の本が取り上げられた回が2回あるが、委員の中にその熱心なファンが紛れていた。割り振られたアルファベットは違う(I委員とH委員)が、各回ごとに発言順にAから割り振られているにすぎず、同一人物と思われる。さすがに二人も特定作家のファンがいたら困る。一人でも困る。

平成30年度8月

○I委員:作者の八月薫さんというのは、何度も指定されているんですね。エロティックな熟女物を書かせたら、デザインも絵も非常にしっかりしてて、非常にそそられるような感じはあると思うんです。だからなんですけども、性器とかは一応消してあったり、配慮されている。性交シーンはほとんど出てこないんですけども、その性的姿態といいますか、男を誘うときの熟女のエロティックさが、青少年にはやっぱりいかがなものかというところはあります。これはもうこの方の作品のどれもに共通するようなところなんですけども、修整はされてても、極端に露骨で青少年のまだ未熟な性意識には刺激的じゃないかと思います。

平成31年度1月

○H委員:最初に、『最高にトロけた本気でホントの話』という、リアリティのある作品。12の作品を集めたもので、八月薫さんという方は、**八月薫全集があるぐらい、この世界じゃ熟女、エロものといいますかね、人妻、熟女ものの作品を描かせたら上手なんで、ストーリーもきちんと描かれる方なんです。それだけにこれを青少年に読ませるということになると、絵が上手なだけに、性交シーンなんかも非常にリアリスティック**に見えます。

「お前らガキんちょにはまだ早い」という姿勢が一貫していて潔い。次発行するときは帯に「東京都青少年健全育成審議会委員推薦!」みたいなことを書いてもいいんじゃないだろうか。

③淫魔のノリに困惑する委員たち

平成30年10月

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令和3年度12月

www.cmoa.jp

淫魔とは、要するにサキュバスとかインキュバスみたいな、寝ている人間にエッチな夢を見させる悪魔である。委員がこの淫魔に引っかかる場面が平成30年と令和3年の2回あった。

平成30年10月

○A委員:この「淫魔」という設定が、この作家の方はファンタジックにしたかったんでしょうけれども、内容がいろいろと難しいと思いますので、指定やむなしでお願いいたします。

○B委員:人間と淫魔のファンタジー化した世界を描きたかったのでしょうが、確かに人格否定はありませんが、ファンタジーにはなっていないんですね。非常にリアリティーというか、体液、擬音が多く、性交渉も一応修整はなされているけれども、どうなっているんだろうと思うぐらい絵がぐちゃぐちゃになっている。

淫魔の存在はファンタジックだが行為はリアルだからアウト、という理屈である。ただ「内容がいろいろと難しい」とか「どうなっているんだろうと思うぐらい絵がぐちゃぐちゃ」という発言の通り、淫魔設定についていけていない可能性がある。

そしてついに、淫魔のノリについていけなさ過ぎて逆にOKな委員が登場した。令和3年12月、『淫魔Ga豆腐めんたる1ぷるん』である。

○D委員:毎月不健全とか有害図書対象の書籍を調査する検討会を行っておるんですけれども、そこにもこの図書は上がってきてないんですね。上がってきてない理由のひとつが、タイトルの『淫魔Ga豆腐めんたる』って何かよく分からないものだからなんです。淫魔とかっていう表現が出て、最凶魔王、最弱淫魔と帯に書いてあったりして、どういう内容だろうというふうな気はするんですけども、ご覧になって分かりますが、コミカルっていうかコメディタッチでなんとなくファンタジーな作品で、しかもその卑わい感、人格否定もほとんどどのシーンを見ても感じられなくて、セックスシーンも絵の装飾が多様かつ派手で何かどこがセックスしてるのかと思うようなシーンが多いんですね。青い付箋がたくさん付いておりますけれども、この青い付箋のところで15条の第1項のイ、ロに当てはまる性的な興奮を感じるのかなと。2~3カ所はちょっとあるような気もするんですけども、ただそれも非常にコミカルに描かれてて、しかも装飾があってどういうシーンなのかよく分からないんですね。正直なところ、自主規制団体の10名が指定該当、5名が指定非該当にしているんですけども、私はこれは当てはまらないというふうに考えております。この程度の戯作的な作品といいますか、ファンタジーコミカルな作品を、表現の自由の立場から考えても何か制限を加えるということに対してちょっと違和感を感じるんで、私はこれは当てはまらないというふうに判断いたします。

出版社などで作る自主規制団体では指定該当の方が多数派なのに、行政の一員の方が表現の自由の観点から制限するべきでないと考えているのが面白い。逆だろ。疎い人にとってみれば、エロさより意味不明さの方が上回ったのだろう。とはいえ「戯作的」や「ファンタジーコミカル」というのはかなり言い得て妙な表現だ。「筋がいい」とはD委員のような人のことを言うのだろう。

④『恋獄のミレニアム』への評価が割れる

平成30年度2月

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評価が割れたと言っても、不健全かどうかの評価が分かれたのではない。漫画としての評価である。

○D委員:何か絵がごちゃごちゃした感じで、なかなかするっと物語の内容が入ってこなかったんですけれども、神父と悪魔というファンタジックなストーリーなんでしょうけれども、ちょっと暴力的な、凶器が使われたりしているところとかがありまして、これは指定やむなしかなと思いました。

一方で別の委員は……

○西尾委員:一応、ストーリー性はあると思いました。実は初めて、 この会に出て、おもしろいと思ったんですけれども、ただ、局部の形状がわかったり、体液も多いので、卑わい感が高いと思います。

「初めて、 この会に出て、おもしろいと思った」というなかなかの賛辞を送っている。ただその後また別の委員が以下のように述べている。

○A委員:このジュネットコミックシリーズ、過去1年間の指定実績が2回あるんですけども、これがまた二冊指定されることになります。最初の『恋獄のミレニアム』、これは設定が、非現実でちょっとリアリティーに乏しい割には絵が雑なんですよね。それで、ストーリーそのものは、さっきおもしろいとおっしゃっていた方もいましたが、読み込むとそれなりのストーリーにはなっているんですけども、やっぱり描写が雑な上に性描写が目につくというところがひっかかるところです。

「雑」とまで言う人も現れた。ここまで図書そのものへの評価が割れる例は珍しい。

⑤義兄弟BLは近親相姦?

平成31年7月

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義理の兄と義理の弟と主人公によるBL3Pが問題視されかけた一幕。

○I委員:ちょっと聞きたいのですが、近親者というのがどういったときに当てはまるのか。今回、先ほどもJ委員からお話があった、これが何で近親者に当たるのか、当たらないのというのが、これが血のつながりがないからなのか、同性だからなのか、ちょっとその辺がよくわからなかったんですけど。

○若年支援課長:血のつながりがないためという解釈で考えてございます。

○I委員:血のつながりがないと、近親者には当たらないという。

○若年支援課長:いわゆる血のつながりがない義兄弟という関係は、新基準でいうところの近親者に当たらないという解釈です。

○I委員:では、例えば、これが今、3人登場人物がいますけど、実兄弟もいますよね。実兄弟が性的な、挿入するようなところがあったら、これは近親相姦になるということですか。

○若年支援課長:該当する可能性があるということです。

○I委員:わかりました。すみません、ちょっとそれだけわからなかったもので、ありがとうございます。

一応新基準と呼ばれている条例の箇所を全文引く。

近親者間(民法(明治29年法律第89号)第734条から第736条までの規定により、婚姻をすることができない者の間をいう。)における性交等を、当該性交等が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、又は当該性交等の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、閲覧し、又は観覧する青少年の当該性交等に対する抵抗感を著しく減ずるものであること。

再婚相手の連れ子同士の結婚を禁止する規定は民法にない。養子縁組をしている場合についても、わざわざ但し書きで例外化されている。

第734条 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない

兄弟ものを書きたい人は適当に義理設定をつけておこう。

余談だが、優生学上の根拠はわかるとして、倫理的に近親相姦を禁止する正当な根拠はないというか、多数派の価値観によるところが大きい気がする。たとえばこの審議会でもBLに対して「同性同士だから不健全だ」という排斥的な意見は登場しない。であれば子供を作らない前提の近親相姦を指定する正当な理由もない気がする。

⑥「ん゛」に困惑

平成31年度11月

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エロ漫画独特の擬音表現に混乱した委員がいた。

○A委員:2誌目の擬音の部分なんですが、改めてよく見ると、擬音といっても、わかりにくいというか、私はちょっと自分ではこういう言葉を擬音で表現しないような、何か、「しろ、しろ」という、「しろ、しろ」というのはどういう擬音なんですかね、ちょっと。「しゃっ」というのも「だめ」というのもある、一番最後の「ん」に点々がついているとか、よくわからないんですね。これまで、私はこれを見てわいせつ感は増すとは思わないんですが、要するに何を言っているんだろうという感じがいたします。

○C委員:2誌目もそうなんですけれども、擬音というよりも、よくわけのわからない言葉が大変羅列されていて、好ましいとは思いません

擬音をわけがわからないと感じる点は一緒でもそれを「わいせつ感は増さない」と評価する派と「好ましくない」と評価する派に分かれた。「ん゛」なんて擬音、相当にエロいと思うが……。エロにもリテラシーありといったところだろう。(ただしA委員も結局は「青少年が見るべき本ではなくて、成人がご覧になるべき」と言っている。)

同じ本に対して他にもコメントがあったのだが、一つ、別角度で好きな箇所があるので紹介したい。

○F委員:この「俺の彼氏に開発されすぎて、困ってます。」というタイトルどおりに、要するに、SEXの描写がとても扇情的で、男同士とはいえ、擬音の描写が多過ぎて、性的には非常に卑わい感が増してくるんじゃないかと思います。

男同士のセックスは卑猥ではないとでも言いたげな口ぶりも引っかかるが、何より気になるのは「SEXの描写がとても扇情的」である。なんで「SEX」なんだ。「セックス」じゃダメなのか。BLは略語だからアルファベット大文字になるのは当然。「SEX」て。普通名詞だぞ。議事録作る人もエロ本のタイトル入力しているうちに感覚がおかしくなっていたのではないか。あるいはめっちゃいい発音で「SEX」って言ったのか。会議録を見返していて一番笑ったのはこの箇所である。

⑦女性は男性器の知識がない

平成31年度2月

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これは神回とは違う。女性BL作家が書いた開発ものに対して、看過しがたい発言が見受けられたため紹介したい。

○I委員:もう「打合せ会」で10名中8名が区分陳列の対象だと言っているように、作品そのものが、人格否定だけじゃなくて、器具を使った性的な凌辱行為が、一番大きなポイントだと思いますね。こういう道具を使ったり拘束したりするようなことが、青少年に全然ふさわしいとは思えない。これは後書きを読まれるとわかりますけども、作者は女性で、やはり、男性器については余り知識がないんじゃないかと思うようなところがありまして、ちょっと疑問に思います。こういう、エスカレートしたある種の表現形態というのが、青少年には全くふさわしくないと思いますので、これは区分陳列でお願いしたいと思います。

じゃあ聞くが、アガサクリスティは殺人鬼か? スピルバーグは未来から来た異星人で、サメに襲われたことがあって、古代遺跡を探検しているのか? この発言は創作者への冒涜である。作家の技術は、感受性や洞察力、リサーチ能力など、いろんな能力に大きく影響される。重要なのは、どれだけ他者の立場や体験に共感し、あるいは0から想像し、それを表現する能力を持っているかだ。作者の素性をもとに決めつけるのは間違っている。ミステリーでもSFでも尿道攻めでもそれは変わらない。

知識がないからエスカレートするというのもよく分からない。実際の図書を見ていないので何とも言えないが、知っていてあえて、の可能性もある。男性向けでも超乳とかあるし。

だいたいリアリティーがあるから生々しいと言ってみたり、知識がないから表現がエスカレートしていると言ってみたり、ダブルスタンダードだ。

この本はよほどハードだったらしくほかの委員も忌避感を示していた。

○H委員:この帯のところで、これランキング1位というのもちょっと驚きますよね。何かよくわかりませんけども、これが一番読まれていると、読まれているというか、レンタルみたいですけど、余談ですけど、思いました。

コミックシーモアの登録ページでは作品内容が以下のように紹介されいてる。

幼馴染に監禁され、堕ちるまで侵される40日間の夏休み――…。冴えないチビの大樹に夏休み前日初彼女が! 初デートのため、大樹はとにかくモテるイケメン幼馴染の悠人の家で作戦会議! しかし、ジュースを飲んでると意識が遠くなり、気がつくとベッドに裸で縛り付けられていた!? ナカを弄られ媚薬入りローションを注入されると、嫌だったはずなのに気持ち良くなり…。「俺なしじゃいられなくなるまで調教してやるよ」ア●ル拡張、メスイキ、潮●き、尿道攻め…与えられる快感で頭はおかしくなって――

現時点で162件のレビューが寄せられているが、お姉さま方は満足しているようだ。男が男の尿道を攻めたくらいで驚く必要は全くない。人々の性的な多様性を尊重し、理解しようとする姿勢が大切だ。

⑧BLに一家言ニキ

先ほどはBLに理解のない委員の発言を紹介したが、逆にBLにお熱の委員もいる。複数の回で登場するが、同一人物じゃない可能性もある。まずは令和3年度6月から。

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○B委員:自主規制団体との打合せ会で指定該当が非該当よりも圧倒的に多い2冊ですけれども、私も人格否定とかセックス時における強制、道具での縛りとか、性器そのものの消しの甘さとかが問題だと思います。一方で、BLは、女性の読者を想定して主に女性の作者が、男性同士の愛とセックスを描くというのがパターンで、これが市場を形成しているんですけども、こういう市場が今、日本だけではなくて韓国語に翻訳されたり、台湾に出ていってたりして、約二百数十億円の市場規模になっています。この2誌の描写そのものは東京都の条例等の規程に該当しますので、私も成人向けということで指定該当やむなしとは思います。ただ皆さんに知っておいていただきたいのは、作者も編集者も多くが女性で、読者も女性の20代30代が中心です。そのBL作品のほとんどは、ソフトなものだということをちょっと頭の中に入れておいていただければと思います

またBLに対する持論や信条が垣間見える発言もあった。令和3年度3月。

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○J委員:確かに絵の感じ、ストーリー性、性交シーンとかも見ても、卑わい感がそれほどある作品とは思えないんです。ただ、性的に未成熟な青少年がこの作品をBL作品として読んだ場合、どうしてもセックス一辺倒になります。セックスが主眼で、そのシーンを再三再四繰り返している。男性器の修整も甘く、BL作品ならもっと愛情表現を考慮して、構成すべきでしょう。これは、セックスオンリーですので、どうしても引っかかってしまいます。

編集者みたいな視点である。「BL作品ならもっと愛情表現を考慮して、構成すべき」かどうかは、議論の分かれるところだ。でもこの委員の熱は伝わる。

最後に今回紹介する中で最も新しい令和5年4月の回。

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○F委員:まず冒頭で、BL=ボーイズラブというジャンルについて一言申し上げたい。クールジャパンの代表と言われるコミック、その中でも一つの確固たる人気ジャンルとなっているBLに対する評価というのは、出版界のみならず社会全体に広く受け入れられているということをぜひ認識していただきたいのです。

BLオタクは安心してほしい。東京都青少年健全育成審議会にはこのような委員もいるのだ。

⑨作者コメントがあだに

作者がたわむれに付けたであろうあおり文が致命傷となった回が2回あった。まずは令和3年1月。

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○D委員:性交渉の場面が多くて、あと体液描写が大変多いというふうに感じております。自主規制団体からの聴き取り結果に本の袖にエロ本と書かれているため保留というふうなご意見があるんですけれども、このエロ本というふうに確かに書いてあるので、これは書かれた方も成人向けであるというふうに思っていらっしゃるのでしょうか。その辺り分からないんですけれども、該当ではいいと、成人向けでいいと思います。

○E委員:『連勤明けのごほうびは』は、先ほどの委員の方もおっしゃったように、頭を空っぽにして読めるエロ本ですと著者自らの宣伝が、本の帯に載っておりますけれども、とにかくセックスシーンが擬音・擬態をともなって生々しいほどしつっこく続きます。ストーリー性はあったとしても、これも区分陳列の対象になると思います。

○F委員:擬音など体液描写は多いと感じるんですが、ストーリー性などがあって、そんなに卑わい感はないのではないのかなというところで、該当ではないのではないかっていうふうに思ったのですが、D委員もおっしゃっていたように、著者自身がエロ本ですというような書き方をされているのであれば該当なのかなというところで、2冊とも指定該当でお願いいたします。

○C委員:ストーリーもあるものの、性交シーンが多く、かつ性交シーンが詳細に描かれていて、擬音や体液の描写も多く、卑わい感を感じさせるものであると考えますので、ちょっと悩むところではあったんですが、ほかの委員からもあったとおり袖のほうに、著者の方がエロ本ですというふうに書いているということも踏まえて指定該当と考えます。

特に最後の二人は、本人的には不健全図書に該当しないかと思っていたようだが、作者の「頭を空っぽにして読めるエロ本です」というコメントが背中を押してしまった感じだ。完全に作者の自爆である。

次。令和4年度8月。

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○B委員:はい、私もこれは指定該当だと考えます。これまで伺いましたとおり、性的描写のシーンが多くて、また、自主規制団体からの指摘もありますが、催眠術という設定が人格否定とも取れるのではないかという指摘、これ、まさにそのとおりだと思います。あと、表紙見開きのコメントのところですかね、先ほどF委員からご指摘ありましたが、「とにかく爪痕を残したくて、ドエロいBL催眠3P描くぞと気合いを入れました」ということで、その目的をまさに果たしているのではないかと思います。ですので、これは成人向けに販売するのが妥当なものであるというふうに私も考えます。

まるで相手の勢いをうまく受け流して転ばせる、柔の道のような論法である。

⑩タイトル・パラフレーズ

令和4年度6月

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重箱の隅をつつくような話で恐縮なのだが、個人的にかなりツボった箇所である。

○A委員:2誌目の『トロける快感ソク堕ち悪魔』って、とろける快感で即落ち性交みたいな感じで、性器の修整もされてはいるんですけど、非常に甘い。

「2誌目の『トロける快感ソク堕ち悪魔』って、とろける快感で即落ち性交みたいな感じで」←言い直す必要なくない?

もっと言うと、ほぼそのままじゃん。パラフレーズっていうかリフレインだよ。なんなら「悪魔」を「性交」に言い換えている分お前の方がエロだぞ。

あと、役所の文書だと固有名詞ではない「トロける」が「とろける」に、「ソク堕ち」が「即落ち」に、書き換えられるんですね。勉強になりました。

以上である。

皐月賞を見てきた。

ゴール前。この直後1番ソールオリエンスが差した

「生」の激しい緊迫感に我を忘れたね。場所もかなり良かった。ウマ娘血統に2100円賭けて1400円しか返ってこなかったけど。でも1着ソールオリエンス(父がキタサンブラック)と2着タスティエーラ(父がサトノクラウン、母の父がマンハッタンカフェ)を買っていたので初競馬としては良い記念になった。

もし儲けようと思ったらどう賭ければよかったのか。必勝法がないことはわかっているが、少しは良い結果を出せる方法はないものか。

もっというと、馬の分析は難しいし、誰の言うことを聞けばいいのかわからないので、オッズを眺めるだけであわよくば勝てるような方法はないだろうか。

ある。オッズ理論だ。

たとえば3番人気以内にいい具合に分配して単勝を買い、どれが勝っても黒字になるようにするとか。

予算を1万円とし、今回の皐月賞の直前オッズを参考に組んでみよう。

1番人気は7番。単勝オッズが3.8。これを単勝4300円分買う。もし勝ったら1万6340円になる。

2番人気は1番。単勝オッズは5.2。これを単勝3100円分買う。もし勝ったら1万6120円になる(ちなみに現実はこれ)。

3番人気は15番。単勝オッズは6.3。これを単勝2600円分買う。もし勝ったら1万6380円になる。

私は1万円分馬券を買っている。3頭の中で最も払い戻しが少なくなるのは1万6120円の1番である。しかしそれでも6120円の黒字なのだ。(この6120円という値は、予算1万円をこのように賭けるときの最大値である。)

もちろん1~3番人気の馬が必ず勝つとは限らない。過去10年の皐月賞を調べると1~3番人気が勝ったのは10年中6年だ。これを高確率と見るか低確率と見るか……

なおこれらの数値(「1~3番人気」や「単勝○○円分」)をどうやって見つけるかというと、Excelでできる(1~3番を対象にした積極的な必然性はないが、消極的な基準はある)。プログラミングができる人はもっともっと凝ったこともできるだろう。

ちなみにこのような「最悪のケースが最もマシになる」場合*1を選択する考え方をマクシミン戦略と呼び、ボードゲームのメカニズムなどにも時々登場する。この考え方を各人間間の裕福さに適用したのがロールズの格差原理だ。つまり最も恵まれない人に注目し、そういう人になるべくマシな生活を送らせるためには(形式的な)不平等が許されるという考え方だ。累進課税の根拠になっている。私は友達と遊ぶ場所を決めるときにもなるべくこの考え方を採用したいと思っている。つまり最も来るのに時間がかかる人の移動時間が最短になるような駅で待ち合わせるのだ。「集まるなう」というサイトがこの方式を採用している。

atsumaru-now.com

*1:厳密に言えば今回「最悪のケース」は4番人気以下の馬が勝って1万円丸々するケースである

新年度ということで(?)、マナー講習を受けさせられた。いわゆるマナー講師と呼ばれる人が来て、一通りのことを教えてくれた。マナー講師って実在したんだ。「脳にマナーを刷り込んでいきましょう」って言っていて怖かった。でも、結局のところ、人と接するときに一番大切なことは「相手に不快感を与えないこと」だと思うんだよな。そういう意味ではマナー講師は矛盾を抱えた存在である。
正しい日本語を使いましょうという話があったのだが、その例として出てくる「いまいちな日本語」が個人的に興味深かった。決して誤用ではなかったし、使いたくなる気持ちもわかるものだったからだ。挙がったものは4つある。それぞれについて、新明解国語辞典を手掛かりに規範的な語義を示したうえで、なぜそのような用法が広まったのか、私なりになるべく好意的に理解してみようと思う。

①「形」

「いったん会員登録していただく形になります」とか「こちらで指定させていただく形なんですけど」の「形」だ。辞書を引くと以下のように解説されている。

(二)物事の表に現われている様子。 「—の上では/ 欠勤の— 〔=表向きは欠勤という体裁〕 を取る/ わびを入れた— 〔=という体裁〕 だ」

これを好意的にとらえるなら、中身の議論に立ち入らない姿勢が慎み深い。「いったん会員登録していただく形になります」は「でも別にあなたに会員としての義務が発生するわけではないです。無料ですし、常連として通わなくてもいいです」を含意する。「こちらで指定させていただく形なんですけど」は「でも本当はあなたの自己決定を尊重したいと思っているし、その可能性が微塵でもあれば自由意志発動チャンスをあげる」というニュアンスを付与する。本音と建前と言ってもいい。ここには「あなたや私の本音は置いておいて」という留保がある。この留保を留保たらしめているのが、「形」という言葉である。

②「よろしかったでしょうか」

「ご注文、バナナシェイクでよろしかったでしょうか」の「よろしかったでしょうか」である。問題は「た」にある*1。「た」は過去のことを表すときに使うからおかしい、というのが奴らの主張である。本当か。

(一)その事柄が すでに実現し、 結果が現われているものと△認められる (見なす) という主体の判断を表わす。 「きのう雨が降っ—/ 新聞はもう読んだ/ この辺は昔は寂しかったろう/ 私がやったら出来なかっ—/ 今度会っ—時に話そう/ 済まなかっ—ね 〔=本当に済まないね〕/ あしたは月曜だっ—っけ/ 帽子をかぶっ— 〔=かぶっている〕 人/ 絵にかい— 〔=かいてある〕 ような景色」

どこにも過去とは書いていない。そして注目すべき用例は「今度会った時に話そう」「あしたは月曜だったっけ」あたりである。いずれも「今度」「あした」と未来のことを「た」で受けている。この点について辞書は以下のように解説している。

「今度の企画会議は明後日の三時からだったね」 「今日は夜、 木村君と会う約束があったな」 などの 「た」 は文脈から明らかに未来に関する事柄を表わすのに用いられている。 この種の 「た」 は実現していない事柄であっても (恣意的な変更の許されない) 確定的だと判断されることを表わしており、 多く、 既成の事実だと思われていることを確認する意を含意する表現に用いられる。

また「よし、 これで勝った」や「そこにいては邪魔だ。 どいた、 どいた」 「用のない者は帰った、 帰った」などについても同様の解釈を指摘している。

マナー分野における私の分析では、相手の発言を既成事実とすることで、相手が追認するのに必要な精神的エネルギーの消費を抑えさせてあげる、あるいは相手の発言を一発で聞き取っているということを無意識にアピールするなどの効果がある。しかし、厚かましい。私は「よろしかったでしょうか」を言われると、「いえ違います」と訂正・変更できなくなる。それはまさに「た」が持つ「恣意的な変更の許されない」ニュアンスに他ならない。

③「方」

「ご注文の方繰り返します」の「方」。これは二つの語義にまたがる。

[一](二)大体その方向に当たる所。 〔直接指すのを避けた言い方に用いる〕 「中野の—に住む/ 日銀の—に勤めている/ —面・ 遠— (ポウ) ・ 先— (ポウ)」

(三)物を幾つかに分け (て考え) た場合に、 条件に合うものとして選ばれた一つ。 「もう一つの—が大きい/ 先に着いた—が勝ちだ/ 好きな—を取れ/ 食べる— 〔=ことに関して〕 では負けない」

さらに項目の最後に以下のような解説がある。

[運用][一](三)の意で、 例えば、 料理店の卓上にいくつか皿が並んでいる場面で、 「空いたお皿のほうお下げします」 と用いられるのには違和感を感じないが、 一枚しかない (それしか選択の余地がない) のにそう言われるのは、 「方 (ホウ) [一](二)」 の乱用だとされる。 「お代金のほう一万円になります/ 以上でご注文のほうはよろしいでしょうか」 なども同様の例。

あくまで「乱用」と表現するにとどめており、誤用とは言っていない。しいて肩を持つならば、具体的な言動を「方」で受けてちょっと距離を取っているのが奥ゆかしい。たとえばあなたがSM趣味を有していたとして、趣味を尋ねられれば「趣味はSMプレイの方を少々……」と言うだろう。決して「趣味はSMプレイをたしなんでいます」とは言わないはずだ。同様に、お客様を神様とする接客業の店員にとって、代金とか注文とかの俗事にはっきり言及するのははばかられるのだ。

④「になります」

これは事情が違う。誤用だ。敬語ではない。「全部で1万円になります」の「になります」を「です」のさらに敬意高いバージョンと勘違いしているのだ。たしかに「になります」が高めの敬意を表す用法はある。でもそれは動詞の連用形と合わさって「お~になる」の場合だ。

(四)〔「お+動詞連用形+に—/ ご…に—」 の形で〕 立場の上の人の動作を述べることを表わす 〔=尊敬表現〕。 「先生がお帰りに—/ ご覧になりますか」

「全部で1万円になります」の「なります」は「及ぶ」と同義である。「なる」自体に敬意はない。

[三]〔「為 (ナ) す」 の自動形〕 〈なにニ—〉(一)今までとは違った状態に変わる。 「古く—/ 水が湯に—/ 年ごろに— 〔=達する〕/ 男に—/ 三時に—/ 全部で一万円に— 〔=及ぶ〕/ お金に— 〔=金もうけが出来る〕/ おもしろくなって来た/ じれったく— 〔=感じられる〕/ 役人に— 〔=身分が変わる〕/ 苦労が薬に— 〔=…として役立つ〕/ ために— 〔=有効である。 直接役立つ〕」

言葉とマナー

マナー講師が問題視する日本語は、「になる」を除いて、語彙・文法的には辞書で定義されている域を出ない。でも私はマナー講師に反旗を翻したいわけではない。これらの用法はたしかにあまりよろしくはないのだ。「方」は新明解国語辞典の言葉を借りるなら「乱用」だ。「形」と「よろしかったでしょうか」も乱用されている。

マナー違反とされる理由の核はここにある。つまり、特定の言い回しを使い回せば距離感を演出できて敬意を表せると思っている、その浅ましさが減点対象なのだ。

ちなみにそのマナー講師は本筋と関係ない雑談の中で「短気で、卑屈で、胃に穴が4つ開いていたけど、マナー講師を始めてから順調」と述べていた。しかしその分析は物足りない。短気で卑屈であることが肯定される身分になったととらえるのが正しい。われわれはその日一日、「講習」という名の救済の物語を見ていたのだ。

「短気で卑屈」。この自己分析は、敬語の本質を突いている。「短気で卑屈」な人間ばかりが集まった社会などあるわけがない。ないなら作ればいい。これがマナーの思想である。卑屈になりつつ、他者にも卑屈であることを求め、それに応じない者がいたら、人の中身を見る前に軽蔑して排斥する。敬語、ひいてはマナーとはそうやって拡大再生産されるものである*2