『シュガー・ラッシュ』 ヒーローになりたい (original) (raw)
リッチ・ムーア監督のディズニーCGアニメーション映画『**シュガー・ラッシュ**』。
2012年作品。
Owl City - When Can I See You Again?
ヴィデオゲーム「フィックス・イット・フェリックス」で悪役をつとめるラルフは、修理工フェリックスの活躍でビルから落とされては泥だらけになってゴミ溜めのねぐらに帰る毎日に嫌気がさして、フェリックスのようなヒーローになるために“メダル”を手に入れようと別のゲーム「ヒーローズ・デューティ」にまぎれ込む。
春休みということで家族連れが大勢きてるなか、おっさん一人で観てきましたよ。
同時上映は、第85回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した『紙ひこうき』。
『紙ひこうき』 監督:ジョン・カース
通勤途中に電車の駅で出会った女性に一目惚れした若い会社員。
その女性がたまたま会社のとなりのビルにいるのをみつけて、気づいてもらおうと書類を次々と紙飛行機にして飛ばすがなかなか彼女のところへは届かない。
彼女の口紅のあとが付いた飛行機も墜落、あきらめかけたところ、ビルの谷間に落ちた紙飛行機たちが彼を後押しするようにまとわりついてきて、自分の口紅が付いた紙飛行機をみつけた彼女もみちびかれるようにあの駅へ。
そこでふたたびふたりはめぐり逢って、めでたしめでたし。
…という、モノクロームのサイレント風の演出で描かれた愛らしい小品。
いっしょに観ていた子どもたちのなかから「あれー?これ違うー」という声も(^o^)
でも登場人物たちの仕草(自分の書類を手でかくす会社の同僚とか)に、客席のおもに大人たちから笑いがこぼれてました。
そしてお目当ての『シュガー・ラッシュ』の上映開始。
ところで今回、この映画はすべて吹き替えによる上映だったようで、字幕版はまったくやっていませんでした。
おなじディズニーの『塔の上のラプンツェル』は字幕と吹き替えの両方をやってたのに、なんでだろう。
春休みで子どもたちが観るからという理由もあるだろうけど、せめてレイトショーで1日1回ぐらいは字幕版を上映するとか、選択の余地をのこしてほしかった。
オリジナル版の音声で映画を観たい人だっているんだから。
吹替版で主人公のラルフの声を担当しているのは、おなじみ山ちゃんこと山寺宏一。
オリジナル版はジョン・C・ライリー。
結果的には『ラプンツェル』のときとおなじく吹替版の出来が良いので観ていて抵抗はなかったけれど、ジョン・C・ライリーの声でしゃべるラルフも観てみたかった。
ピクサーの『メリダとおそろしの森』のときもたしか字幕版はなかったし、これはピクサーの総帥でこの『シュガー・ラッシュ』でも製作総指揮をつとめるジョン・ラセターの方針だったりするんだろうか。
吹き替えに慣れてる人が増えてきたからかもしれないけど、劇場でオリジナル版が観られないって変じゃないかなぁ。
気をとりなおして、あらためて『シュガー・ラッシュ』の内容の説明を。
その前に、僕の感想ではいつもストーリーの核心部分やオチまでおもいっきり書いちゃってますので、まだ映画を観ていなくて内容をくわしく知りたくないかたは、この映画はふつうにお薦めですからぜひごらんになってください。
そのあとでまたこちらにお越しいただければ。
この映画にはオリジナルキャラ以外に現実に存在するゲームキャラたち(なんか妙な言い方ですが)も多数登場しているけど、ゲームをいっさいやらないので彼らについての知識がまったくといっていいほどない僕(ゲーム経験はファミコン時代で止まっている)なんかが観てもまったく問題ありませんでした。
特にマニアックなネタがあるわけでもないので、小さな子どもさんでも大丈夫。
僕は2Dで観てじゅうぶん楽しめたけど、レースシーンなどは3Dだとより迫力があるかもしれないですね。
それでは、以下
ネタバレあります。
かつて『ロジャー・ラビット』がカートゥーン(アニメ)の世界を舞台にそこに住むアニメのキャラクターを主人公にしていたように、また「トイ・ストーリー」シリーズがオモチャたちの活躍を描いたように、ここではゲームセンターにあるアーケードゲームの世界が舞台になっている。
『ロジャー・ラビット』(1988) 監督:ロバート・ゼメキス 出演:ボブ・ホスキンス クリストファー・ロイド
主人公のラルフは超人ハルクとドンキーコングが合体したような風貌で、異様に腕がデカくてとにかくなんでも破壊するのが得意の大男。
彼はフェリックスが主人公をつとめるゲームで悪役を割り振られているので、いつも最後はみんなにビルの上から落とされて痛い目に遭う。
毎日ボロボロになってがんばっているのに、仲間たちにもてはやされるのはいつもフェリックスばかりで、ゲームの30周年記念のパーティにもよばれない。
俺もフェリックスのようにごほうびに“メダル”をもらって、ヒーローになりたい。
そんな思いがつのる一方だったが、ある日いきつけのバーで飲んでいると、別のゲームからきた男が酔いつぶれていて、彼が住む最新型シューティングゲーム「ヒーローズ・デューティ」でメダルを手に入れることができることを知る。
ラルフは自分が住んでいた「フィックス・イット・フェリックス」から出て、「ヒーローズ・デューティ」の隊員になりすますが、そこは彼がそれまで住んでいた8ビットののどかな世界とは大違いの“サイ・バグ”の大群と殺しあう、『スターシップ・トゥルーパーズ』もかくやという戦場だった。
ほかの隊員たちや女軍曹カルホーンの目を盗んでメダルを手に入れたラルフだったが、サイ・バグの卵をふんづけてしまい、うまれたサイ・バグの幼虫とともに非常用シャトルで「ヒーローズ・デューティ」を飛び出してしまう。
脱出ポッドでお菓子の国のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」に不時着したラルフは、そこでヴァネロペという少女と出会うのだった。
先ほど僕にはゲームの知識がない、と書いたけど、それでもまぁ「パックマン」とか「ストリートファイターⅡ」の名前ぐらいは知ってて、だからそれらに出てくるゲームキャラクターたちがこの映画にも登場して主人公のラルフとからんだりしてるのをながめてるのは面白かったし、彼らがこの映画の世界観をよりリアルで親近感のわくものにしてくれていたと思います。
ちょうど『ロジャー・ラビット』にミッキーマウスやベティ・ブープが出ていたように。
悩みをかかえるゲームの“悪役”たちがグループセラピーに通ってたがいに励ましあっている様子がなんとも泣かせる。
彼らが移動車に乗ってゲーム・セントラル・ステーション(ゲーム機の電源があつまってるコンセントボックス)にむかうと、そこにはたくさんのゲームキャラたちが行き来している。
はやくもここで涙ぐんでしまった。
なんだこの感動は。ゲームのことよく知らないのに。
Wreck-It Ralph OST - 7 - Wreck-It Ralph
ちなみに、やはり『ロジャー・ラビット』のミッキーたちがそうだったように実在するゲームキャラたちの出番はカメオ出演的なもので、本筋で活躍するのはラルフやヴァネロペなどこの映画のオリジナルキャラクターたち。
「ハクション大魔王」のアクビちゃんみたいな顔のヴァネロペは、こまっしゃくれててとってもキュート。
プログラムに不具合があるということでレースに参加させてもらえず、キャンディ大王やレーサーたちからつま弾きにされていたヴァネロペは、それでもめげずになんとか本選の代表をきめる予選レースに出ようとする。
ヴァネロペだけでなく、キャンディ大王やフェリックスなど、この映画の登場人物たちのデザインはどこかかつてのタツノコプロのアニメをほうふつとさせる。
まぁ、タツノコがディズニーの絵柄の影響をうけた、というのが正しいのだろうけれど。
1950年代が舞台の『ロジャー・ラビット』が騒々しい外観(ひさしぶりに予告篇観たらあまりにけたたましいんでおどろいた)とは裏腹に意外と陰惨な(現実の人間が殺される)ノワール調で描かれていたのに対して、この『シュガー・ラッシュ』は明るく愉快でちょっとホロリとさせる、まさに『トイ・ストーリー』のゲーム版といった感じに仕上がっている。
おもえば、僕が今年はじめて観るアニメなんだよなぁ。
今年に入って観た映画のなかでもけっこう上位に入ると思います(って、まだそんなに本数観てないけど)。
だから基本的には満足なんだけど、それでも気になったとこをちょこっとだけ。
僕の近くの席で観ていた子が、途中でちょっと退屈しちゃったのか「ねー、あの人どうなったの」とかしゃべりだしたんでちょっとドキドキしました。
いや、子どもが大勢観にきてるんで途中で客席でしゃべる子がいるかもしれないのは想定の範囲内だったんですが、子どもも観るアニメ作品としては彼らに飽きられてはマズいわけで、僕は作品に対して「がんばれ、もちこたえろ!」と念じて内容とは違うところでハラハラしながら観ていました。
その後、後半のレースシーンになるとその子はおとなしくなってそのまま最後まで静かに観ていたんでホッとしましたが。
僕はその子がなんで一瞬退屈したのかちょっとわかる気がするんだよね。
というのも、この作品ではラルフやヴァネロペ、カルホーンやキャンディ大王などの主要登場人物たちがこの世界の設定やルールについて台詞で説明するシーンがけっこうある。
先ほどから何度もタイトルをあげている『ロジャー・ラビット』は、アニメのキャラクターたちが実写の人間たちとおなじ世界で共存しているという設定だったし、『トイ・ストーリー』のオモチャたちには自分たちがしゃべったり動いたりしているところを人間に見られてはならないというルールがあって、観客はそれさえ知っていればあとはなにもむずかしいことはなかったんだけど、この『シュガー・ラッシュ』の設定やルールは若干複雑。
たとえばラルフのように、自分のいたゲームを出てセントラル・ステーションからほかのゲームに移動したキャラはそこで死ぬと二度ともといたゲームにはもどれない、とか(キャラがいなくなったゲームは“故障”として電源を抜かれて撤去されてしまう)、彼らをおそうサイ・バグ独自の習性とか、ヴァネロペの「不具合」のくだり、また悪の黒幕がプログラムをいじって「シュガー・ラッシュ」の住人たちの記憶をうしなわせたことなど、どういう理屈なのか小さな子にはちょっとわかりづらいところがあると思うのだ。
「それぐらい子どもだってわかるよ!」といわれるかもしれないけど、僕の近くの席の子がおしゃべりをはじめたのは、ちょうどラルフとヴァネロペがこういった舞台の設定について会話してる場面でした。
舞台となる世界の設定やルールについて台詞で延々と説明する、というのは『マトリックス』だってそうだったし、『インセプション』なんて映画のほとんどは説明に費やされてたけど、でもアニメキャラが設定についてしゃべってるのをずーっと聴かされてもそりゃ飽きちゃうよな、と。
最近の押井守のアニメが退屈なのも(好きな人スイマセン)登場人物が延々台詞で説明してるからだし。
ドリームワークスの『シュレック』にしても設定はごくシンプルで、今回のような「台詞での説明がちょっと多いかも」と感じるような場面はなかったので(逆に『メリダ』は説明不足な気がしたが)、この『シュガー・ラッシュ』も台詞だけではなくてなんとか絵の動きで伝えることはできなかったのかな、とちょっと思いました。
それでも映画の進行を邪魔するほどのことはなかったし、すでに観た多くの人たちもシナリオの出来を褒めているようなので、そんなにとやかくいうほどのこともないけれど。
ヴァネロペにイジワルするレーサーの女の子たちの出番がもっと多かったらよかったな。
リーダーのタフィタもほかの女の子たちも全員似たような顔をしているので、タフィタ以外のキャラの判別がつかないし。
「シュガー・ラッシュ」というレースゲームの性質上、レーサーたちのキャラクターデザインがみんな似通っているのはしょうがないんだろうけど。
海外版ではそのなかに「ミンティ・ザキ」という子がいて、Facebookで「彼女の名前はハヤオ・ミヤザキからとられてるんだよ」「うん、知ってた」みたいなやりとりがあって微笑ましかったけど、日本公開版では「ミンティ・サクラ」という着物を着たキャラになっている。
もっともろくに台詞もないような小さなキャラなので、よく観てないと見逃すけど。
かくれキャラみたいなもんですかね(^o^)
海外公開版と日本公開版
さーて、どこが違ってるでしょーか?(^o^)
この映画の主人公ラルフについては、「気のいい力持ち」といった感じの素朴なキャラクターでシュレックのようにその容貌や性格にひねりがあるわけでもないので、彼のまわりにいる登場人物たちの面白さで見せていくことになる。
せっかくパワーファイターなんだから、ほかの豪腕キャラと力くらべをする場面なんかがあってもよかったかも。
僕のお気に入りはフェリックスなんですけどね。
8ビットのキャラのカクカクした動きとふだんのなめらかな動きを使い分けたり、「もっと!」といいながらカルホーン軍曹にボッコボコにされたり、閉じ込められた牢屋の鉄格子をハンマーで叩いたら反対に頑丈になっちゃったり(客席で笑いがおこってました)、ナイスなキャラ。
カルホーンといえば、ディズニーではじつにめずらしいタイプの女性キャラで、僕は映画を観る前はてっきりヴィジュアル系の男性キャラだとばかり思っていた。
なんかタカラヅカの男役みたいな顔と立ち居振る舞いで、結婚式の最中にフィアンセをサイ・バグに殺されたという設定をプログラミングされている哀しきたたかう姐さんである。
彼女とフェリックスのキスシーンはちょっとグッときてしまった。
けっきょく、ヴァネロペをレースに出場させることを阻みつづけていたキャンディ大王の正体は、かつて「ターボ・タイム」というゲームの主人公だったキャラクター、ターボだったことが判明する。
「ターボ・タイム」は人気ゲームだったが、やがて最新ゲームにその地位を取って代わられ、人気をうばわれたターボは電源コードをとおってその最新ゲームに侵入、バグをおこしてもといたゲームとともに撤去されてしまった。
しかしひそかに生き延びて「シュガー・ラッシュ」に侵入したターボはキャンディ大王になりすましてプログラムを改ざん、もとはこのゲームの王女だったヴァネロペを王座から追放したのだった。
ターボがその正体をあらわす場面は、「これぞ悪役」といった感じでワクワク。
たしかにいつもなら、このターボというキャラクターをもっと掘り下げてうんたらかんたら…と難癖つけてるとこだけど、でもこういう勧善懲悪大好きなので。
ディズニーは『ラプンツェル』以降、しばらくは昔ながらの「おとぎ話」の映画化はおこなわない、といってるそうだけど(※その後しっかり『アナと雪の女王』を公開してますが)、みにくいアヒルの子やシンデレラのような「みんなから仲間はずれにされていた者がじつは…」という物語は形を変えてうけつがれている。
「欠陥プログラム」だと思われていたヴァネロペは、じつは「シュガー・ラッシュ」の王女だった。
最後に彼女は「国の代表は選挙できめる」といってるけど。
生意気でみずからレーシングカーを操縦するヴァネロペは、昔ながらのディズニーキャラクターというよりもいかにもピクサー映画の登場人物っぽい。
ラルフが最後に望みどおりヒーローになって…というのではなく、“悪役”としての自分をうけ入れて誇りをもってこれからもみずからの役割を果たしていく、という結末も今っぽいですよね。
吹き替えについては、主要キャラクターを担当しているのは山寺さんはじめほぼプロの声優さんたち(ヴァネロペをいぢめるタフィタの声を友近が演じている)だし、女芸人さんたちが声をアテているのは最後にレーサーの女の子たちがちょこっとしゃべる場面だけなので(森三中の一人の声がすぐわかってしまうが)安心して聴いていられました。
劇中やエンドロールにはAKB48の曲「Sugar Rush」も流れてます。
世界的にはアウル・シティが歌う「When Can I See You Again?」がこの映画の主題歌とされているようですが。
今年のアカデミー賞長編アニメーション賞には『メリダとおそろしの森』がえらばれたけど、僕は『シュガー・ラッシュ』の方が断然面白かったけどなぁ。
なにか技術的なことが理由の受賞なんでしょうかね。
『トイ・ストーリー』ほどの完成度や感動には至らなかったけど、でもこの映画が好きです。
また観たいなぁ。
ゲーセンのゲームのなかという狭い世界が舞台ということもあって『トイ・ストーリー』のようなシリーズ化はむずかしいかもしれないけど、短篇でもいいからぜひ続篇かスピンオフを作ってほしいです。
※2018年に続篇の『シュガー・ラッシュ:オンライン』が公開。
追記:
その後、4/3に【3D】で2回目の鑑賞。
春休み最後の映画鑑賞ということか、子ども連れがこの前よりも多くて大勢でにぎやかに観ました。
IMAXではなくてふつうの3Dだったけど、迫力はじゅうぶん。
うしろで観てた若いお母さんがしょっちゅう「あっ」とか「フフッ」とかちっちゃくリアクションしてて、子どもより愉しんでる感じでなんだか可愛かった。
ストーリーとかもうわかってるんだけど、また涙ぐんでしまった。
この映画、ほんとよくできてるなぁ。
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