バングラデシュのビル倒壊とグローバリゼーション: 極東ブログ (original) (raw)

2013.05.09

バングラデシュのビル倒壊とグローバリゼーション

先月24日、バングラデシュの首都ダッカの近郊で、縫製工場が入居する8階建てビルが倒壊し、そこで働いていた労働者を中心に多数の死者が出た。こうした事故では救助の限界から日を追うにつれて死者数が増える。7日までに2400人が救助されたものの、死者は900人を越えた(参照)。
ビル倒壊による事故は途上国ではそう珍しいことではない。韓国でも1995年6月29日、ソウル特別市瑞草区の三豊百貨店が突然倒壊し、死者502人を出したことがある。この事件でもビル建設の問題が指摘されたが、今回のバングラデシュのビル倒壊でも、現地では倒壊の危険がある程度予想されていたらしく、バングラデシュ警察は危険性を知りながら労務させた責任者を逮捕し、取り調べている。
この事件の報道が日本に比べ、欧米で大きく取り上げられているのは、途上国にありがちな問題として矮小化されないからである。どのように問題となっているか。
なお、日本の知識人と称する人たちは、途上国の労務関連の問題を、グローバリゼーションがもたらす労働環境の劣悪さや、それをもとにした日本の消費活動といった問題に歪曲しがちであり、グローバリゼーション批判という思考制度に嵌ってしまっているようでもある。
今回の問題は大別して二つある。一つは、倫理基準である。そう言うとまたグローバリゼーション問題のように日本では受け取られがちであるが、事態は逆でもある。今回の事件では、倫理基準がなかったのではない。その適用に不備があったとはいえるとしても。結論から先に述べると、倫理基準をきちんと普及させることがグローバリゼーションであり、グローバリゼーションによって今回のような悲劇は回避が可能である。
今回の事例で問われたのは、英国の倫理的業者推進非政府組織(NGO)の倫理的貿易イニシアチブ(ETI: Ethical Trading Initiative)である。1998年に英国の企業、労働組合、NGOが協力して、公正貿易の問題と企業の倫理規範を検討して、2000年1月に策定された倫理規範である。経緯から了解しやすいが背景には国際労働機関(ILO)の動向もある。
今回の倒壊ビルで製品を調達していた激安ブランド「プライマーク(Primark)」は世論から事故の責任を問われたが、問われた要点は、日本でよく取り上げられる枠組みのように安売りのために倫理規範を無視していたことではなさそうだ。プライマークとしてはETIと共同し、倫理規範には配慮していたらしい(参照)。しかし現地で倒壊の懸念がありながらこの事故が発生したことは、ETIの現状の限界を示している。その意味で、問題は安売りをもたらすグローバリゼーションの弊害ではなく、グローバリゼーションをより厳格にするための、グローバリゼーションの推進の方向性にある。
今回の事例でいうなら、バングラデシュでは建造物の施工規制が十分ではないので、むしろ対外的に規制強化を推進させる必要がある。
もう一つの問題は、この事故をきっかけにグローバリゼーションをもたらす外国資本がバングラデシュを回避するとなれば、バングラデシュの産業が衰退し、この国の貧困を深刻化する懸念があることだ。
今回の事態で、バングラデシュ政府が自国の繊維・衣料品産業を守ろうとして、労働者をないがしろにしているように見える部分もあるが、国家経済の全体を配慮せざるをえない側面もある。
基本的にグローバリゼーションがもたらす安価な製品の貿易は、輸出側の国益にもかない、その国の生活レベルを向上させ、輸入側の貧困層にも安価な製品による生活レベルの向上をもたらす。グローバリゼーションは貧困層の生活水準を押し上げる避けがたい運動でもある。
フィナンシャルタイムズへのジョングラッパー(John Gapper)氏の寄稿でも、同種の指摘がなされている。JBPressの翻訳記事「バングラデシュのために西側企業がすべきこと」(参照)より。

西側企業がまずしなければならないことは、最も簡単なことだ。今回の事故に関連してイメージが傷つくことを恐れてバングラデシュから撤退したりせず、同国内にとどまり、女性に仕事を提供し続けることだ。何はともあれ、繊維産業は別の選択肢――地方の農場で働くこと――よりも高賃金の仕事を提供しており、女性を解放する助けになってきた。

もちろん、グローバリゼーションの弊害はある。だが、その弊害をもって、諸悪の根源にすることはできない。当たり前のことだが、その調整に政治や各種の政策が必要になる。

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