道具としての放射性同位体 - 趣味:科学 (original) (raw)

原発事故のおかげですごい忌み嫌われてる様に感じるのはきっと気のせいだと思いたい(希望的観測)放射性物質。今観測されてる物の多くは本来放射性同位体と呼ばれる存在で身近にある多くの元素が中性子過剰(殆どないけどあるいは過少)になったせいでアンバランスになった存在です。中性子がほどよい一般的な物は安定同位体と呼ばれます。
一応定義としては半減期が宇宙の年齢より長くても放射性同位体と呼びますが、人によっては有る程度の長さがあれば安定同位体に含める人もいます。僕なんかは数万か数十万なら安定同位体でいいんじゃないかという人なんですが。

今まで興味なかった人まで突然放射線だ放射能だというものを意識せざるを得ない日常に放り込まれてしまったのでは、放射性物質とはとても特殊な物だという認識があるのかもしれません。その辺の認識を和らげるために、その辺に存在してる日常的なものだよとは多くの人が言ってますね。特殊なものではないという認識は不安軽減の第一歩でしょうかね。今それいうと御用学者とかエア御用とか言われてしまうみたいですが(笑 単純な科学的事実の指摘だけで御用ってマスコミ関係者からも言われるんだからやってられんだろうね

実際、放射性同位体は身の回りにあふれてる訳ですが、科学の世界ではそれがどの様に使われているのかというのをツイッターで少し聞いてみました。

放射性同位体だからこそ、というものをざっと列挙してみます。
・化石などの年代測定
・核医学
・医薬品の動態試験(体内での挙動を調べる試験)
・食物連鎖のトレース
・乱数生成のモデル

●化石などの年代測定
これは聞いたこともある人が多いと思います。これは炭素の放射性同位体を調べる検査です。ここで使われるのは炭素の放射性同位体である14Cです。
14Cは半減期がおよそ5700年程度の放射性同位体でその自然界での存在比はおよそ0です。実際の所12Cと13Cで殆ど100%であり、14Cはわずか0.000,000,000,12%(100億分の12)しかありません。
これだけわずかな物を手がかりに年代測定するという実はもの凄い技術なのですが、初期は技術的な問題で数秒に一個の崩壊を地道に数えるという気の遠くなりそうな方法で年代をはかっていたようです。
今では壊れる物を数える方法ではなく残存量を直接量る方法が主流のようです。最近の方法の方が試料の量が多く必要そうな感じを受けますが、実際は数g単位だった従来の方法に対して今の主流は1mg程度で済むようです。
また、それまで3万年程度だった限界も今の方法では6万年の試料まで測定できるようですよ。
参考:放射性炭素(炭素14)で年代を測る

●核医学
これは先日の記事にも少しtogetterのまとめを紹介しましたが、放射性同位体で作られた薬を飲むことで体内から放射線を浴びせながら(内部被曝させながら)、病理部を直接治療したり検査する為に使われています。
CTやMRIなどの外部からX線などを利用して検査する方法は臓器の位置や形状を調べる事ができます。これらに加えて、放射性同位体を多く含む薬を飲むことで血流や臓器の状態をトレースする事ができるので、CTやMRIでは確認しづらい臓器や血流の状態などを知ることができます。
PET検査と呼ばれるものもこの一種で、これは陽電子と呼ばれるものを放出する薬を飲んでから体内での循環を調べる検査です。ブドウ糖を大量に必要とする悪性腫瘍(要するにガン)の発見に使われるようですが、ブドウ糖を必要としないタイプの病気は発見し辛いという欠点もあるようです。
核医学で使われる放射性同位体は数多く有るようですが、67Ga(ガリウム)、99mTc(テクネチウム。mは励起状態を表す)などが使われる様です。PET検査では18F(フッ素)をブドウ糖に似たような挙動を示す化合物の材料とする事でブドウ糖の代わりに腫瘍に取り込ませるようです。
また、甲状腺癌などの治療には4月下旬頃まで話題になっていましたが、ヨウ素131を利用します。
参考:日本核医学界・核医学検査Q&A

●医薬品の動態試験
そもそも動態試験とは

pharmacokinetic research
生体に投与された薬物は、まず初めに吸収され血流に入り、体内の各部位に分布し、構造が変化(代謝)して、排泄される。これらの過程は薬物の効果持続時間のみならず、副作用や薬物相互作用などに関連している。非臨床薬物動態試験は,動物に投与された被験薬の吸収,分布,代謝, 排泄を調べるものである. 単回および反復投与による各種臓器・組織への分布とその経時変化ならびに蓄積性さらに,胎盤・胎児・乳汁中への移行性についても調べる.また、必要に応じて、これらの過程に影響を与える因子も検討する。(2005.10.25 掲載) (2009.1.16 改訂)(公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説より転載)

というものです。
この体内での挙動を知るためにそれに適した放射性同位体を使います。主に使うのは14Cや3H(三重水素)の様ですが、必要に応じてP(リン)やS(硫黄)などの放射性同位体を使うようです。これらは当然そのままじゃ使えないので、薬を合成する時にこれらの同位体を利用する事で薬の中に組み込みます。
参考:togetter 動物での薬物動態試験で使われるRIのお話(※RI(Radio Isotope);放射性同位体)

●食物連鎖のトレース
twitterで募集して教えて頂いたものです。

こんな事ができるのも放射性同位体故ですね。すごいおもしろい話だと思いました。
ただ仰るように安定同位体でも出来る話もあるようで、たとえばこちらの調査では窒素の安定同位体15Nを利用した食物連鎖の解析調査を行ってますね。ざっと検索した限りではこっちが主流の様に感じましたが、調べる内容にも寄るのかな。
福島原発の事故では放射性元素の生態濃縮が話題にもなってる部分がありますね。参考:食物連鎖における放射性物質汚染:デイビッド・ウォルトナ=テーブス教授(smc-japan)

●乱数生成モデル
えー、これは寄せられたリプライを直に見て頂くということで。

すごい話ですよね。

●その他
他にもワインの年代測定や溶鉱炉の耐火レンガの磨耗度調べる為にも放射性同位体はつかわれたようです。
溶鉱炉の話、レンガに放射性同位体60Co(コバルト)を混入させる事でレンガがどの程度減っているのか(出てきた鉄に60Coが含まれる)を調べていたんだそうです。
ワインの年代測定はおもしろい話で、こんな内容。

オークションで落札されたワインだそうですがそのお値段なんと当時のレートで3200万。落札主と出品者で裁判が起きてた様ですが、ソレがどうなったのかは知りません。しかし3200万だして偽物と判定されるとは…。怖いですねぇ。

オマケ

●化学反応のトレース
偶には化学系出身らしく化学っぽい内容をですね。原子と原子が反応して新たな分子を作る化学反応は無限といってもよいと思われるくらいバリエーションがあります。そのなかで有機化学分野の合成は主に炭素同士の結合を切った貼ったする分野な為、主に14Cを使った反応経路のトレースによって、どんな風に反応が進んでいるのか、などといった研究も行われています。他に18O(酸素)や2H(重水素;Dと表記することも)を使うことで電子の動きや結合の切断箇所の解明なんかもしていたり。
実際は、重水素を使ってることからも伺えるあたり、14Cや

18O

などの放射性同位体である必要はなかったと思うんですがデータの蓄積など使い勝手が良いのだと思います。
※18Oは放射性同位体ではなく安定同位体でした。訂正します。酸素の放射性同位体は(主に)15Oの様です。

<追加>
ブコメで以下のような使われ方を紹介していただきました。掲載許可を得ましたのでご紹介します。

これは島根原発周辺の被曝量調査の一環のようですが、念のため書いておくとpdf中にも書かれてる通り周辺で検出される放射性物質(137Cs)は原発由来の物ではなく、大気圏内核実験の産物である事がデータ上から判明しています。

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ということで、あちこちで使われる放射性同位体のお話でした。野放しだと危険なのは確かだけど、きっちり管理して使えばとても便利な、そして欠かせない道具なのです。

姉妹記事:道具としての放射線

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