如月のツキ 事前に渡されるチケット (original) (raw)

まずは相談するべきではありましたね。

こちらよりどうぞ。↓↓

『事前に渡されるチケット』


『事前に渡されるチケット』

「じゃあ、これ。例のチケットね」

そう言ってタチタは、用意しておいたチケットから二枚を選んで友人であるツヅシマたちへと渡した。
それは後日行く予定のテーマパークのチケット。
それは夕方からしか入場できない代わりに通常の価格と比べてお得になっている、いわゆるナイト割引を適用したもので。
夜に行われるイベントや、人が少なくなってから乗り物を思う存分楽しみたい人にはお買い得なチケットだ。
なお本来なら開園と同時に行く予定ではあったのだが、一緒に行く予定だった残り二人の内ツヅシマの方がどうしても予定が合わなくなってしまって。
仕方がないから夜から行こうと、予定を調整した形である。

「おおー、ちゃんと夜専用なことが表記されているんだね」
「そりゃそうでしょ」
「でも、もういよいよかあ。もうちょっと先の話だと思ってたよ」
「あはは、こういうのって気がつくと目の前に迫ってて。あっという間だよね」
「ふふ、本当に」

楽しみにしている時間は長く、けれども実際にその時が来ると楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
そういう意味ではこうして目前に迫ってきているこの時を、実際に一緒に楽しむことになる友人たちと話しているこの時間が一番楽しい時間なのかもしれない。
もちろん実際に楽しんでいる時間も、その後に楽しかったよねと話し合っている時間も楽しいに決まっているのだが。

「でもちょっと思ったんだけど。なんで今、このタイミングでチケットを渡してくれたの?」
「ん?どういうこと?」
「いやだってさ?いやまあこうして事前に渡してくれるのもワクワクしてくるからいいんだけど。ぶっちゃけ当日でよくない?って思って」
「……言われてみれば。無事に手に入ったことの報告の代わりって感じ?」
「あー、いや、それは……その」
「ん?」
「それは?」

友人二人からの質問に、どうしてか答えにくそうに言葉を濁らせるタチタ。
しかし元より隠すつもりはなかったのだろう。
一度一息ついて心を落ち着けさせると、事情を説明し始める。

「こうして先に渡しておかないと、みんなが入れないからね」
「入れない……?」

すでにチケットを用意しているというのに、何を言っているのだろう……二人がそう思っていると、タチタの口から衝撃的な言葉が飛び出す。

「……実は、暇だから先に入って遊んでおこうかなーって思っちゃって」
「え……?」
「先に……?」

思わず言葉を繰り返しながらも先に何かに気がついたのはもう一人の友人、コノハマ。
自分の手にあるチケットに一度目をやったコノハマは、見比べるようにタチタのチケットへと目をやって。

「……もしかして、それは自分だけは先に入場してるからーってこと?」
「……ふふふ」
「いやいや!ふふふじゃなくて!」

今回、夜に集まって入場することになったのはツヅシマの予定に合わせたもの。
となると当然、開園と同時に行く予定だったタチタは午前から予定が空いているわけで。
それならば自分は先に行って楽しんでおこう……どうやらチケットを用意しながらそんな判断をしていたらしい。
そしてそんなタチタの行動に異議を唱えたくなったのは、自身も予定が空いているコノハマで。

「それなら私にもひとこと言ってくれてたらよかったじゃん!予定空いてたし!」
「確かに。それなら私だけ後で合流っていう流れでもよかったよね」

時間をずらすきっかけとなったツヅシマも、コノハマの言葉に援護を始めて。

「いやあ、なんというか。急に思いついたことだったからねえ……あはは」

タチタはあまり悪ぶれた様子もなく、笑いながら二人からの追及を誤魔化していくのだった。

  1. 2024/10/09(水) 18:27:26|
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