【映画感想】『ぼんち』(1960) / 船場商家の跡取りを主人公に大阪商人の生きざまを描いた文芸作品 (original) (raw)
DVDで映画『ぼんち』(1960年、監督:市川崑)を鑑賞。主演は市川雷蔵、原作は山崎豊子の同名小説。大映映画。
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昭和初期、四代続いた船場の足袋問屋の一人息子・喜久治(市川雷蔵)は、かつては「きくぼん」と呼ばれ商才を発揮して店を繁盛させるが、戦後となり57歳の今、妾の子に養われている身分。時代に取り残されても、なお旦那気分が抜けない喜久治は、落語家相手にかつて関係のあった5人の女をめぐる話を始める……。
船場商家のしきたりと没落を背景にして、跡取り息子と女たちを描く映画。一見、市川崑監督の作風に合わないように思えるが、市川のモダンな演出が奏功して魅力のある作品になっている。原作にはない戦後からの回想を使い、戦前や戦中を描く工夫は上手い。カラー映画で撮ったのもよい。
市川雷蔵の軽妙な芝居もいいが、やはり京マチ子、若尾文子、越路吹雪、山田五十鈴、中村玉緒たち隆盛を誇った大映の女優たちがオールスター・キャストで出演していることが大きい。とくに、ともに主人公の女である若尾文子、越路吹雪。京マチ子の3人が浴場ではしゃぐ場面は名シーンといえる。
また個人的には、芸者・ぽん太を演じた若尾文子が、船場のロケ地を日傘を差して歩く場面が好きだ。これほど傘が似合う女優はいない。
なお、没落した主人公が回想するという建付けが気に入らなかったのか、原作者の山崎豊子は「この映画は原作とちがう」と撮影現場でクレームを付けたという。それでも大映とは大きく揉めることもなく、後に『白い巨塔』などが大映で映画化されている。事態がどう収まったのか興味のあるところである。