『スパイダーマン:スパイダーバース』 跳べ、スパイダーメン (original) (raw)

監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン、声の出演:シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ、キミコ・グレン、ジョン・ムヘイニー、リーヴ・シュレイバー、マハーシャラ・アリ、ブライアン・タイリー・ヘンリー、キャスリン・ハーン、ゾーイ・クラヴィッツ、リリー・トムリン、クリス・パインほかの『スパイダーマン:スパイダーバース』。2018年作品。

第91回アカデミー賞長編アニメーション賞受賞。

ニューヨークのブルックリン。私立中学に通うマイルス・モラレスは突然変異したクモに咬まれて特殊な能力を身につける。暗黒街のボス、キングピンの加速装置による実験で異次元からさまざまな“スパイダーマン”たちが現われて、キングピンのさらなる企みを阻止するために協力し合う。

IMAXレーザー3D字幕版を鑑賞。

去年公開された実写スーパーヒーロー映画『ヴェノム』のエンドクレジットの途中でこの映画の一部が流されていましたが、その時の僕の印象は最悪で、「こんなもん、ぜってぇ観ねぇ」と思った。

やがて公開が近づいて日本版の予告篇も流されだしたけど、やっぱり惹かれるものがなくて華麗にスルーするつもりだったんですが、先行上映を観た人たちの評判がすこぶる良くて「アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞も納得」「できればぜひIMAXで」みたいな感想をやたらと目にしたので気持ちが大いに揺らいで(意志薄弱)、「これはもしかしたら去年の『レディ・プレイヤー1』的なアトラクション・ムーヴィーなのだろうか」と思い始めたのでした。

僕が好きだった『インクレディブル・ファミリー』や『シュガー・ラッシュ:オンライン』を抑えてオスカーを受賞したことも、とりあえずそれに相応しい映画なのか自分の目で確認したくて。

それで観にいってきたのですが。

…この映画が大好きなかた、あるいはこれから観ようと思っていて期待している皆さんには申し訳ありませんが、巷で聞く「最高!」「傑作!」という絶賛とは程遠いテンションの低い感想になると思うので、ご了承くださいませ。

では、以降はネタバレにご注意を。

う~んと、いや、別に観たことは後悔していないし、久しぶりにディズニーやピクサー以外のアニメを観たので新鮮な感覚もあったんですが。

まず、これはある程度「スパイダーマン」に慣れ親しんでいる人向けだよなぁ、と。

あ、レオパルドンは出ませんので、あしからず。

僕は原作コミックの方にはまったく触れていなくてこれまで実写版映画だけを観てきたんですが、メリー・ジェーン(MJ)とかメイおばさんとかグリーンゴブリンなど、お馴染みの登場人物を知ってるのとまったく知らないのとでは内容の理解度や面白さを感じられる度合いがかなり違うのではないだろうか。

主人公の少年マイルスがスパイダーマンになるいきさつは一応描かれるから、まったく知識がなくてもお話の意味はわかるだろうけど、この手のアニメ作品特有の「専門用語による説明とともにどんどん話が進んでいく」作劇は慌ただしく、一方でマイルスがスパイダーマンの能力を身につけたり他の次元のスパイダーマンたちと出会うまでは結構尺を取って描いているので、映画が始まってからずいぶん長いこと「これはいつになったら面白くなるのだろう」と思いながら観ていた。

コミックブックの粗い印刷を模した作画とか技法的にはいろいろと新しい試みをしているんだろうけど、警官で責任感の強い父やチョイ悪風の叔父さんとか、ちょっと登場人物の役柄があまりにテンプレ過ぎて僕は正直マイルスにまつわる前半のエピソードにはノれませんでした。かなり退屈だった。

まぁ、ほんとはこの映画はマイルスと同じぐらいの歳の人たちに向けて作られているのだろうから、僕みたいなおっさんがあーだこーだと文句垂れるのはお門違いなのでしょう。

マイルスが黒く塗ったスパイダースーツを着だしてからはかっこいい場面も結構ありましたが。

最後にマスクをかぶったままでお父ちゃんに抱きつく時の顔が、目を細めた猫みたいで可愛かったw

マイルスのスパイダーマン覚醒譚はこれまでにもいろんな俳優が演じてきたピーター・パーカーのそれのアレンジだから「またかよ」と思ったし、それよりも別の次元からやってきたスパイダーグウェンやペニー・パーカー、スパイダーマン・ノワール、スパイダーハムたちの各エピソードにもっと時間を割いてほしかった。

そうすることで僕などはこの映画で初めて知った彼らのことをより好きになれて、思い入れも込められただろうから。

3DCGで描かれるアニメーションは一見華やかだったり手が込んでいるんだけど、内容そのものは少年の親子関係や仲間たちとの出会いと共闘、その成長を描いた実にオーソドックスな青春物で、この映画が人気があるのもそういう物語的にはとてもわかりやすくて共感もしやすい部分が大きいのかもしれない。

マイルスはいじめられっ子じゃないし勉強だってやりゃあできる子なんだろうけど多少みんなから浮いてるところもある、今風な主人公。

僕は知らなかったけど、「スパイダーバース」というのは原作コミックがあって、この映画に登場するいろんなタイプの“スパイダーマン”(スパイダーウーマンもいますが)はみんな原作があるようで。

だから、いつもはそれぞれが違う世界観の作品で主人公として活躍しているヒーローたちが一堂に会して手を組んで共通の敵と戦う、というのはアベンジャーズもそうだし、あるいは僕が子どもの頃に観ていた、ドラえもんやハットリくん、パーマンなど藤子不二雄作品の主人公たちが共演するアニメや、あるいは永井豪作品のヒーローたち、またはウルトラマンや仮面ライダー、戦隊物のヒーローたちの共演作のようなワクワクする感覚を蘇らせてくれるし、原作を知っていればより燃えるでしょう。

僕は実写版ではブライス・ダラス・ハワード(『スパイダーマン3』)やエマ・ストーン(「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ)が演じたグウェン・ステイシーが変装するスパイダーグウェン(声:ヘイリー・スタインフェルド)がよかったなぁ。

クラゲかクリオネみたいなデザインが可愛いスパイダーグウェン

声を担当したヘイリー・スタインフェルドはヒロインを演じている実写映画『バンブルビー』の公開も控えてますが、最近活躍が目立ってますね。

スパイダーグウェンのコスチュームとその身のこなしは僕が見たい仮面のスーパーヒロインの条件を満たしていて、パーカーのフードそのままな出で立ちとかひたすらカッコイイ。

トウシューズを履いて闘うスパイダーグウェンの身体の動きはちゃんとバレエが基になっている

日本のアニメの女の子キャラや女性アイドルみたいに未成熟なところを強調するのではなく、アスリートのような動きと物腰で(『シュガー・ラッシュ:オンライン』でガル・ガドットが演じたシャンクのように、ハリウッド映画の闘うヒロインの典型的な型の一つでもあるが)、それがかえってセクシーに感じられる。彼女を主人公にした作品(もうあるのかな?)が観たい。

スパイダーマン・ノワールは仮面をかぶりトレンチコートの襟を立てた姿がちょうど『ウォッチメン』のロールシャッハっぽくて、まさしく“ノワール”っぽい雰囲気とか、白黒の世界観なのでルービックキューブの色の識別ができないとか笑うし、これもいいキャラだなぁ。

声を演じてるのが「アメコミといえばこの人(熱心なアメコミ・コレクター)」のニコラス・ケイジというのもねw

まるでタイムボカン・シリーズの“おだてブタ”みたいなスパイダーハムは「トムとジェリー」とか「ルーニー・テューンズ」っぽいカートゥーンの世界のキャラクターで、他のスパイダーマンたちとはもっとも異質な存在だからこそクライマックスの活躍ぶりが頼もしく(武器は「シティハンター」っぽい巨大ハンマー)、カワイイ。ちょっと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のアライグマを思わせる。

僕が一番抵抗があったのはあえて日本のアニメ風の絵柄で描かれて喋り方もキャピキャピしてるペニー・パーカー(声:キミコ・グレン)なんですが(どうしてもああいうヲタク向けのキャラクターデザインと作画・演出に馴染めない)、それでもずっと映画を観てるうちに、みんなと力を合わせて戦うその姿にふと涙ぐみそうになる瞬間があった。

日本のアニメのイメージとしてはそんなに間違ってない気もするが

前にもどこかに書いたけど、アニメという「絵であるキャラクターたち」が一心に何かに打ち込む姿にはどこか心を動かされるんですよね。

どうせ多次元を描くのなら、それこそ「デッドプール」シリーズのようにメタ的な要素も入れて、この映画を観ている僕たち観客もまたこの作品の一部であるかのように描いてくれていたら泣けたと思うんだがな。

デップーと違ってスパイディはメタフィクションはやらないのだろうか。

スパイダーマンというのは素顔を隠したコスプレヒーローとしてはとてもキャラが立ってるし、スーパーヒーローの代表格の一人でもあるので、その存在が象徴するのは「スーパーヒーローという存在」そのものでもある。

そしてバットマンやスーパーマンよりも身近で友だち感覚なところもあるから、こうやってさまざまなヴァリエーションが作れるんですよね。

まだ背が伸びきってなくていかにも少年体型のマイルスが黒く塗ったコスチュームの上に普段着を着ていても違和感がないのは、スパイダーマンというのはもはやマスクが中の人間の肉体の一部だから。

今回この映画を観てあらためて感じたのは、スパイディのコスチュームデザインがいかに秀逸か、ということ。

ピッタリ張りついた伸縮性のある全身タイツは頭の形状や身体のラインを強調していて、アクションのたびに躍動感をダイレクトに伝えるし、口許も隠れてて大きな白い目があるだけなのにその大きさが変わって意思や感情を表現する。シンプルなデザインだからこそ観る方は自由に彼らの心の内を想像することができる。これは口が露出しているバットマンとも表情の変化が一切ないアイアンマンとも異なる、スパイダーマンだからこその魅力。

デッドプールとかその後生み出された「変形するマスク」ヒーローたちの元祖なんだよね。

マイルスのスーパーヒーローとしての先輩、もしくは師匠的な役割を果たすのがピーター・パーカーならぬピーター・B・パーカー(声:ジェイク・ジョンソン)。ちなみにイケメンの方のピーターの声はクリス・パイン。すぐ死んじゃうけど。

この作品でのピーター・パーカーはこれまで実写版でいろんな俳優たちが演じてきたちょっと頼りなさげなティーンエイジャーではなくて金髪でマッチョな完全無欠の男で、一方、ピーターBの方は運動不足で『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセン並みに腹が出てて(このアニメでは『グリーンブック』のマハーシャラ・アリがマイルスの叔父アーロン役で声の出演をしている。ほんと引っ張りだこだなぁ)、MJとも別れてヒーローを続けるモティベーションを失っている。

ちょっとディズニーアニメの『塔の上のラプンツェル』のユージーンを思わせる、一見だらしなさそうなコメディリリーフでもあり、でも本当は正義感溢れる男という役柄。

そんな彼が若いマイルスと出会って共闘するうちに、再び闘う意味を取り戻す。

この映画のピーターBはキャラも顔も実写版の誰とも似ていないけど、結婚していたMJの顔は心なしかキルステン・ダンストに似てる気がするし(声はゾーイ・クラヴィッツ)、グウェンもちょっとエマ・ストーンっぽい。メイおばさんもなんとなくサム・ライミ版の彼女の顔に似てるよーな。

まぁ、原作の方がもともとそういうデザインなのかもしれないけど。

サントリーのアンクルトリスみたいなデフォルメされまくったデザインの悪役キングピン(声:リーヴ・シュレイバー)は、かつてベン・アフレック主演の実写映画『デアデビル』で今はなきマイケル・クラーク・ダンカンが演じてました(ネットドラマ版ではヴィンセント・ドノフリオ)。

異なる絵柄や世界観のヒーローたちが出会うお話だから構わないんだけど、なんかもう1960年代のリミテッド・アニメみたいな四角いおじさんが暴れる姿はシュールだった。

キングピンが加速装置でやろうとしていたのは事故で亡くなった妻子を蘇らせることで、悪役にも同情すべき理由があって…みたいな作劇は僕はあまり好きじゃないのでこいつはヴィラン失格だと思いますが、そのためにスパイダーマンことピーター・パーカーを殺した彼は最後に追い求めた妻子を取り戻すことができないままマイルスに捕らえられる。悪役が甘やかされていなかったのはよかったです。

アーロン叔父さんも、すぐに彼の正体は予測できちゃったからなぁ(なお、アーロン・デイヴィスというキャラクターは実写の『スパイダーマン:ホームカミング』でドナルド・グローヴァーが同姓同名の人物を演じている)。

まるでスポーンみたいな格好のプラウラーはかっこよかったけど、ピストル一発で死んじゃうって弱過ぎなのでは^_^;

なんだかんだ言いつつも、最後の別れのシーンでは、彼らはまたそれぞれの世界に帰ってスーパーヒーローとして活躍し続けるのだ、と思うとちょっとウルッときましたけどね。

エンドクレジットのあとの昔のアニメ版のギャグはよくわかんなかったけど。

指を差すな!

せっかく観るならIMAXで観た方が映像も音もより迫力があって楽しめるのは間違いないんだけど、正直な感想を述べると、観る前に期待した去年の『レディ・プレイヤー1』のようなアトラクションとしての面白さは僕は感じませんでした。3D効果も、飛び出さないし奥行きもそんなに感じることはなかった。

しつこくて悪いけど、これなら僕は『インクレディブル・ファミリー』や『シュガー・ラッシュ:オンライン』をIMAX3Dで観たかったなぁ(どちらも僕が住んでるところでは3Dでやってなかった)。

スタン・リーおじいちゃんが出てましたね。あらためてご冥福を。

この映画が面白くて大好きで大絶賛な人たちのことをとやかく言う気はないし、これから観ようとしている人の期待に水を差すようなこともしたくないんですが、僕みたいに「う~~ん、それほどでも」という人間もいた、ということで。

こうなったらアベンジャーズの新作に期待しよう。

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