『イヴの総て』 スターの道 (original) (raw)
ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督、アン・バクスター、ベティ・デイヴィス、ジョージ・サンダーズ、ゲイリー・メリル、セレステ・ホルム、ヒュー・マーロウ、グレゴリー・ラトフ、セルマ・リッター、マリリン・モンロー出演の『イヴの総て』。1950年(日本公開1951年)作品。
原作はメアリー・オルの短篇小説“The Wisdom of Eve”。
第23回アカデミー賞作品賞、助演男優賞(ジョージ・サンダース)、監督賞、脚本賞、衣裳デザイン賞、録音賞受賞。
劇作家のロイド・リチャーズ(ヒュー・マーロウ)の妻カレン(セレステ・ホルム)は、夫が脚本を書いた、ブロードウェイで公演中のヴェテラン女優マーゴ・チャニング(ベティ・デイヴィス)の芝居に毎日のように通いつめている若い女性イヴ・ハリントン(アン・バクスター)をマーゴに紹介する。マーゴの付き人になったイヴはその有能さでまわりの者たちの信頼を勝ち得ていく。しかし、真面目で誠実に見えたイヴには野心があることにカレンは気づくのだった。
「午前十時の映画祭8」で鑑賞。
有名な作品なのでタイトルは知っていたけれど、恥ずかしながらこれまで観たことがありませんでした。
だからどんな内容なのかも知らなかったんだけど、いやぁ面白かったですねぇ。138分という上映時間の長さがまったく気にならなかった。
往年の名作をスクリーンで、というこの「午前十時の映画祭」では、僕はこれまでに『ベン・ハー』(感想はこちら)のようなスペクタクル大作は観ることがあってもモノクロのこういうドラマを観ることはなかったから何か新鮮で。
この作品はDVDでも観られるし、だからこういうタイプの映画をこれまであえて映画館で観ようとも思わなかったんだけど、やはり名画を映画館でクリアな映像で観るのは純粋にいいものだと実感しました。
今までは「午前十時の映画祭」をやっているのが遠くのシネコンだったこともあって頻繁に通うことができなかったんだけど、最近もう少し近くのシネコンでもやるようになったので、これからもいろいろ観てみようかな。
主演のアン・バクスターは僕はセシル・B・デミル監督の『十戒』(感想はこちら)のネフレテリ役で強く印象に残っていて、あの映画での彼女は主役のチャールトン・ヘストン演じるモーゼと最初は恋仲だったがやがて敵対することになるエジプトの王妃を演じていたんだけど、その妖艶な演技が好きでした。
だから彼女が主演の『イヴの総て』はいつかは観たいと思っていた。
この映画でのアン・バクスターは、田舎から出てきてスター女優に憧れる若くて真面目な女性と、彼女がその裏の顔を覗かせる後半とで見事にキャラクターの演じ分けがされていて、同じ女性が見せる二つの顔には魅了されました。
時々彼女が大空眞弓に見える時があったけどw 髪型のせいもあると思いますが。
バクスター以外の出演者たちも皆好演で、まるで上質な舞台劇を観ているようで。
その後、実際に舞台化もされたそうで、アン・バクスターはその時には大女優マーゴの役を演じたのだとか。
映画では若き女優の卵であるイヴだったバクスターが舞台ではマーゴの方を、というのが面白いですが、オリヴィエ・アサイヤス監督が2014年に撮った『アクトレス~女たちの舞台~』(感想はこちら)でジュリエット・ビノシュが演じた、当たり役だった若い娘役から歳を取ったためにヴェテラン女優役へ演じる役を代えられる女優の話を思い出したんだけど、おそらくこの『イヴの総て』が元ネタとしてあったんでしょうね。
この映画を下敷きにしている作品って、他にもたくさんありそう。
アン・バクスターは『十戒』のあとにも映画に何本か出演しているけれど、やがてその活動は舞台やTVドラマの方に移っていく。
マーゴ役のベティ・デイヴィスが今もなお大女優として多くの人々に記憶されているのに比べるとアン・バクスターはそこまで目立ってはいませんが、でもこの『イヴの総て』ではデイヴィス同様に確かな演技力を持つ彼女だったからこそあのヒロインが務まったんでしょう。
両極端にも見えたマーゴとイヴが、やがてイヴの変化、というかその本性が露わになるに従ってどこか重なっていく。
この映画ではしばしば端役として登場するマリリン・モンローの美しさについて言及されるし(確かにこの映画でのモンローは目を見張るほど美しい)、実際彼女はその後伝説となった人だからどうしてもそれに比べるとアン・バクスターは地味に見えてしまいがちではあるんですが、でもマリリン・モンローが本当はセックス・シンボルとしてよりも演技派女優として認められることを望んでいたように、人は与えられる役割と自分が求めるものが必ずしも一致するとは限らなくて、そこに悲劇もある。
そういうことをなんとなく考えさせられましたね。
この映画では出演者それぞれが劇中で重要な役割を担っていて、アン・バクスターとベティ・デイヴィスの組み合わせは実に効果を上げているし、カレン役のセレステ・ホルム、もちろん男優陣も適材適所といった感じでそのアンサンブルの妙を堪能できる。
カレンの夫で劇作家のロイド役のヒュー・マーロウと、マーゴの夫で演出家のビルを演じるゲイリー・メリルの二人の男優たちが互いにわりと顔立ちや背格好が似ているので、どちらがどちらなのか判別できるようになるまでちょっと時間がかかったけど。
後半でイヴの誘惑に負けて妻との離婚を口走るようになるロイドと、歳の離れたマーゴ一筋のビルのキャラクターの違いがハッキリしてくると見分けはつくようになりましたが。
劇中でデイヴィスの「私はもう40代」みたいな台詞があったので、いやいや冗談でしょ、と思ってたら、この映画の撮影時、ベティ・デイヴィスは実際に40代前半だった(アン・バクスターは26歳)。…すみません、てっきり50代ぐらいかと^_^;
さすがにあの当時としても結構トウが立ってるように見えたんではないだろうか。
だって、12年後に白塗りのBBA役で出演した『何がジェーンに起こったか?』(1962)の時がまだ54歳ですよ?そんなバカな^_^;
そういえば、ベティ・デイヴィスは後年リリアン・ギッシュとともに老齢の姉妹役で出演した『八月の鯨』(1987)では、実際には10歳以上も年上で姉役のギッシュとソリが合わなくてキツくあたっていたそうだし、なかなかめんどくさい人だったようですね。
ちなみに、僕は長らく『サンセット大通り』(1950)の大女優役はてっきりベティ・デイヴィスだとばかり思い込んでいたんだけど、グロリア・スワンソンでした。いやぁ、恥ずかしいですね。
なんとなく、往年の大女優役=ベティ・デイヴィスというイメージが勝手にあったので。
こちらは『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンとウィリアム・ホールデン、そしてエリッヒ・フォン・シュトロハイム。
この『イヴの総て』でのベティ・デイヴィスはとてもゴージャスで可愛らしく見える時もあればやけに老けて見える時もあって、さっき書いたように確かにあれで40代前半と言われるとちょっと貫禄ありすぎるんだけど、あの当時は40歳ぐらいというのはもうずいぶん歳を取っている、と見做されていたんですね。
彼女の大きくて普段はトロンとした目が印象的で、でもそれをカッと見開いてまくし立てたり相手を睨む時などは、本当に迫力満点。
若い頃の写真を見ると、可愛らしいんだけどちょっと目玉オバケみたいですが。
一方、長身でいつも杖を持っている演劇評論家のドゥイット(ジョージ・サンダーズ)はどこか悪魔的で、やがてイヴの前で本性を現わし「お前は私のものだ」と言い放って、呆気にとられて笑うイヴの頬をぶつ。
ロイドとの結婚をほのめかしドゥイットにまで媚態を見せるイヴだったが、ドゥイットは結婚を許さず、イヴの話したその経歴の嘘を暴いて反対に彼女の弱みを握る。
以前もイヴがシャワーを浴びると言っても動じず話し続けていた彼は、イヴの身体には興味がないようだ。
新進女優を裏で意のままに操ることこそがドゥイットの目的だった。実力を見込んだ若手女優に対して自分の評論の力で後押しして、賞を獲らせる。まるで悪い「あしながおじさん」みたいな男だ。おそらくマーゴにも同様のことをやってきたに違いない。「私たちは似ている」とドゥイットはイヴに言う。
外見はまったく似ていないけれど、その“悪魔的な”ところがちょっと『エンゼル・ハート』のロバート・デ・ニーロっぽかった。杖も持ってたし。
それにしても演劇界が舞台だった『バードマン』(感想はこちら)でもそうだったように、今でもあちらでは評論家の影響力というのは強いんですね。
彼らの記事一つで芝居の評価や客の入り具合がガラリと変わってしまうような。
すっかり貫禄を増して女優然としているイヴが泊まるホテルの部屋に、若い女性(ランディ・ステュアート)が忍び込む。
イヴのファンだという彼女は、まるでかつてのイヴのようだ。
イヴのドレスを羽織って鏡に映る彼女に映画の前半でマーゴの衣裳を手に鏡の前でうっとりしていたイヴの姿が重なり、この若い女性の将来を予感させる。
こうして演劇界の裏側では、今日もヴェテランと新人が野心と裏切り、嫉妬を交錯させながらしのぎを削っている。
ショービジネスの裏側を描いた恐ろしくも美しい物語でした。
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