ゲームで学ぶ経営戦略:ディプロマシー - 人と組織と、fukui's blog (original) (raw)

5月1日に富山にあるポエシア・ブランカにて、ゲームで学ぶ経営戦略:ディプロマシー編なる企画を行うことになりました。そんなわけで今は、交渉ゲームの金字塔と言われるディプロマシーから、経営戦略に応用出来る要素を抽出する作業を行っています。(なんというか、こういう作業が僕は心の底から好きなんですよね。)

第一次世界大戦を舞台にした このボードゲームの特徴はなんといっても、『最初の国決めの時以外、運の要素は一切無い』という、ハードボイルドなゲーム内容にあります。テクノロジーとか、ユニット毎の強さの違いみたいなものもなく、戦いは純粋に「地政学上の優位性と交渉力を活かして、戦力をどれほど集中できたか。」にかかっています。(実際のプレイの様子をご覧に知りたい方はこちらをご覧ください。)

戦いで圧倒的な強さを誇りユーラシア大陸を制したチンギス・ハン。そして、ヨーロッパを制したナポレオン。彼らはいずれも他国に勝る高機動部隊を作り上げ、敵を分断し、戦力を一点に集中し、連戦連勝を続けました。スケールは違いますが、織田信長のいくつかの戦いにも、彼らの用兵の片鱗が見て取れます。(参考:ビジネス上の競争を優位に進める「高機動」

戦力を集中し、敵を分断し、各個撃破する。これは、必勝の戦術です。戦略は、この必勝の戦術を実現するために、周囲の状況を整えることにその原則があります。周囲と粘り強く交渉し、資源を配分し、絶対に勝てる状況を作り上げる。これが戦略であり、その指針となるのが、捨てること/差別化すること/速くやること なのです。

※余談ですが、必勝の体制を整えて織田家との戦に臨んだ今川義元が織田信長の乾坤一擲の用兵にやられたのは皮肉でした。こういった戦術面での勝利が戦略面での勝利を覆す例はその逆に比べ、極少数です。信長にしてもわずかに残された戦術上の勝利で戦略上の勝利を拾う方法しか残されていなかったが故に神頼みをしたのでしょう。雨が降ることを予測していたといいますが、もし降らなかったら、歴史は変わっていたかもしれません。

1)戦略とは捨てること:選択と集中

さて、事業戦略に関してよく聞く言葉として、選択と集中なる言葉があります。これは大事な言葉ですが、選択とは事業分野を選ぶこと。すなわち、市場を選択することです。本blogでも、外部環境の変化を見極めることの重要性事業の成功の8割は市場で決まるということを繰り返し述べてきましたが、これを見誤ると先行きが暗い市場にリソースを集中してしまうことにもなりかねません。これは選択と集中の失敗例です。

また、市場とは絶対的なものではなく、他社にとっては衰退市場であるものが、自社にとっては成長市場であるケースもあります。(たとえば国内で輸出入が規制されている産業の場合、規制が撤廃されたら国内企業にとっては衰退市場であり、海外企業にとっては成長市場と成り得るでしょう。)

ディプロマシーでは、こういった周囲が何を狙っているか(環境変化)を読み取り、どこに(経営)資源を集中するかが毎回毎回問われるのです。

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具体的にいうと、ディプロマシーの陸軍・海軍のユニットが保有する戦力はすべて同じ(1ポイント)です。技術や性能の差といったものはありません。また、同じ戦力で戦った場合、必ず防御側が勝つようになっています。また、スタック(ユニットを同一エリアに重ねること)はできません。

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そこで攻め手としては、なんとか戦力(資源)を集中する必要に迫られるわけです。しかし、それぞれのプレイヤーが担当する国の初期戦力はどの国も等しく3ユニットしかありません(海軍・陸軍の違いはあります)。だから、どこかの国を攻めようと思ったら、守りがおろそかになって他国につけ入る隙を与えることになります。まさにトレードオフ。何を捨てて、何に集中するかといった経営判断が問われるわけです。

そこでコマを実際に動かす前にある、交渉タイムで他国と交渉を行うわけです。一緒に攻めよう。あるいはどこそこをやるから攻めるな等々…。こういった交渉を通じ、資源を集中できる環境を事前に整えておくこと。これがすなわち戦略です。(ビジネスの場合、資金を調達する、大手企業とパートナー契約を結ぶ、とかに置き換えることができるでしょうか)ちなみに、口約束だけにしておいて、裏切っても一切かまいませんので、交渉相手の見極めが重要になります。おそらく相応のメリットがある取引でないと、相手も乗ってこないことでしょう。

2)戦略の本質は差別化にあるさて、他国の動きや思惑が外部環境だとしたら、各国が持つ特徴は内部環境になります。この内部環境の違いが強み・弱みとなるわけです。

などなど、それぞれ、本国の立地と軍隊編成によって非常にバラエティに富む内部環境を保有しています。この内部環境の違い(=差別化要素)を活かし、目的を達成していくことがすなわち戦略です。領土を獲得することで更なる戦力の充実が可能になります。一方、国土が広くなるぶん、守りが難しくなります。領土が拡大すれば拡大するほど、高度な経営判断や交渉が求められるわけです。

まさに、経営の疑似体験と言える内容と言えるのではないでしょうか。

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美しいゲームボード。覇権を争う7カ国が色分けされています。
立地と陸海軍の戦力比が差別化要素になります。

3)速くやること

現実のビジネスでも、同じタイミングで企画を思いついても、サービスリリースまでに時間がかかれば時期を逸してしまいます。多くの資源を持つ大企業が、意思決定や稟議に必要以上に多くの時間をとられ、市場進出のタイミングを失ってしまう例も多々見受けられます。また大企業に、ベンチャーが勝てる数少ない利点のひとつが、意思決定の速さと小規模な組織から生まれるスピードです。

ディプロマシーでは、このスピードの重要性を、二つの側面から知ることができます。

ひとつは交渉時間に限りがあること。時間内に他国との交渉がまとまらなければ、効果的に戦力(資源)を運用することができません。他国が領土を広げている間、非効率な資源運用をしなければならなかったり、運に任せて博打をするしかなくなるのです。相互のメリットを見極めて、実りのある提案をすること。これが交渉を効果的にまとめるひとつの方法です。

もうひとつは、時間とともに国家間の差が広がることにあります。早期に戦略・戦術を実らせた国は新たな戦力を得て、交渉上非常に優位な立場にたちます。一方、戦略・戦術が失敗したり、立案・実行に手間取った国は大きく出遅れます。終盤挽回するには序盤の二倍以上の努力が必要になります。ここでも時間の重要性を知ることができると思います。

■最後に

僕は企業からの依頼を受けてビジネスゲームやケーススタディーを作成するという仕事を5年ぐらい行っていました。その経験からいうと下手に学びのために準備されたゲームよりも、優れたゲームからビジネスに応用できる要素を学ぶ方が遥かに役に立つ。という実感を持っています。

つまり、ロバート・キヨサキが作ったキャッシュフロー・ゲームで学ぶより、モノポリーから金融に関係する要素を学び取った方が良いということです。

それは、学びのために準備されたゲームはどうしても特定の知識やTIPSを学ぶためのものになりがちで、その知識やTIPSを学んだ人には得られるものが少ないからです。それに比べて優れたゲームには、競争の本質が隠されています。だから、何度も繰り返し、工夫することで学びを得られるわけです。(必勝法が編み出しにくいという理由もありますが。)

経営者や政治家に囲碁や将棋を好む人が多いのはこういった競争と繰り返す工夫の面白さを体感しているからかもしれません。

事業計画を立てるのは年に1回、多くて数回。若手の場合にはその機会すら回ってこないかもしれませんが、こういったゲームを通じ、普段から戦略・戦術の基礎を抑え、いざ事業戦略立案の機会が回ってきたときに戸惑うことなく案をまとめることが出来るよう、普段から様々な機会(たとえばゲームの場とか)を利用して、牙を研いでおくといいかもしれませんね。

それでは、また。

※ディプロマシーに興味のある方は、是非下記のリプレイレポートもご覧ください。偉そうなことを言っている僕が弱いのは…。戦略の前に政治で負けていたからでしょう。涙

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