マッキンタイアの物語論 (original) (raw)
こんにちは。冨樫純です。
政治哲学に興味があり、それに関連する本を読んでいます。
そこから、個人的におもしろいと感じたところを引用し、感想を書きたいと思います。
タイトル
マッキンタイアの物語論
マッキンタイアはイギリスのスコットランド出身。40歳のときにアメリカに移住しました。
キリスト教のカトリック信者でありながらマルクス主義に傾倒していたため、その二つを接合しようと試みたこともありました。
会の相次ぐ不祥事を受けて、その反動で近代との「哲学的な訣別」をした人です。
それもあるのか、マッキンタイアは個人主義を近代的なものとして批判し、伝統的秩序を重んじます。
というのも善い生には、伝統的秩序における物語が必要だと考えられているか物語という形態が他者の行為を理解するのにふさわしいのは、私たちすべてが自分の人生で物語を生きているからであり、その生きている物語を基にして自分自身の人生を理解するからである。
物語は、虚構の場合を除けば、語られる前に生きられているのだ。(マッキンタイア 『美徳なき時代』)
実に印象的な文章ではありませんか。たしかに私たちは他の誰でもない自分の人生を生きています。
〈私〉のライフ・ストーリーがあるのです。そして自分が特定の物語を生きているように、他者も特定の物語を生きています。
私が自分の物語のなかで自分の人生を理解しているように、他者もその人の物語のなかでその人の人生を理解しているのです。
したがって、他者の行為を理解するには、その人
が置かれた「物語的な歴史という文脈」を見ることが肝要となります。
マッキンタイアはさらに、「Xにとって善い」という説明を持ち出します。
「Xにとって善い」という観念および同族の諸観念は、Xの人生の統一性についてのある考えに基づいて理解できるということである。
Xにとって何がより善く、何がより悪いかは、Xの人生に統一性をもたらす理解可能な物語の性格に依るのである。
驚くまでもなく、人間の生を統一的に見るそうした考えが欠落しているからこそ、それが元になって、道徳判断の、とりわけ徳あるいは悪徳を個人に帰する判断のもつ事実的性格が、近代では否定されているのだ。(マッキンタイア『美徳なき時代』)
Xにとっての善い生は、その人の人生に統一性をもたらす物語によって決まる――なるほどその物語を提供するのは理性かもしれないし、運命かもしれないし、自然かもしれません。
しかし、マッキンタイアはコミュニタリアンです。物語の提供者として彼が持ち出すのは、理性でも運命でも自然でもなく、共同体です。
Xにとっての善い生は、その人が属する共同体の伝統のなかにある、というのです。
このように人びとの善い生を規定するものとして共同体を理解する点にマッキンタイアのコミュニタリアンらしさが表れています。
〈私〉の人生に統一性をもたらす物語は共同体によって提供されます。そしてその共同体それ自体にも統一性のある物語が必要です。
さもなければ、私の人生の物語は不整合なものに
なってしまうからです。
そのためマッキンタイアの構想では、個人の善い生のために、伝統を保守することになります。
そのため、共同体の伝統のなかにある個人の生は、共同体の物語(伝統)における自分の役割をまっとうすることによって善いものとなります。
そしてその役割が何であるかを知るためには、アリストテレスが提唱した徳の一つである、フローネシス (実践的知恵)という知性的な徳が必要となります。
ここでフィクションの共同体を例にとってみましょう。
たとえば田中芳樹の小説『銀河英雄伝説』に登場するヤン・ウェンリーは、歴史学者になることを夢見ていました。
しかしその類まれなる軍の指揮官としての才能のため、戦争の現場から引退することを周囲が許さず、本人もその期待に応える選択をします。
自分の役割を受け入れ、それをまっとうしたのです。マッキンタイアの「Xにとって善い」 説明に照らせば、フローネシスを発揮したヤンは、(それによって早死にし、夢も叶えられず、家庭生活も営めなくなるのですが)善い生を送ったことになります。
ある人にとっての善い生とは、その人が生まれ育った共同体の伝統によって決まる。共同体の物語的秩序における自分の役割を知り、自分の人生に統一性をもたらす選択を行ってゆく。
このことは、共同体というコンテクスト(文脈)が喪われている場合には善い生は望めないことを意味すると同時に、コンテクストを共有していない他者の行為についての道徳的判断はできないということも意味します。
感想
Xにとっての善い生は、その人が属する共同体の伝統のなかにある、というのです、という箇所がおもしろいと思いました。
こういう側面はありえると思います。
下記の本を參考にしました
『正義とは何か』
現代政治哲学の6つの視点
神島 裕子著