hantubojinusi’s diary (original) (raw)
シオン
この薄紫色の花は、シオン属のシオン(紫菀、Aster tataricus)という多年草。別名はオニノシコグサ(鬼の醜草)、十五夜草、思い草。原産地は中国北部、朝鮮半島、シベリアで、古くは薬用として中国・朝鮮から日本に伝えられ、平安時代には観賞用としても栽培されてきたという。日本では中国地方と九州の山間部の湿った草原に自生する。草丈は2mにもなり、開花期は夏から秋。花は周囲に花弁のような薄紫色の舌状花が一重に並び、中央は黄色の筒状花を咲かせる。根及び根茎にはサポニンなどを含み、民間療法で痰切りや咳止めに利用されるが、乱用には注意が必要である。
ヤノネボンテンカ
こちらのフヨウに似た花は、ヤノネボンテンカ(矢の根梵天花、Pavonia hastata)という南アメリカ原産の帰化植物。別名タカサゴフヨウともいう。和名の由来は、葉がやじりのような形で、日本には珍しいので梵天(インド)からきたのだろうという意味。花は一日花で朝開き夕方閉じる。
コエビソウ
こちらの風変わりな花は、メキシコ原産のキツネノマゴ科のコエビソウ(Justicia brandegeeana)という常緑の多年草。朱色の苞が重なったユニークな形がエビのように見えるのが名前の由来である。苞は朱色のほかに黄色があり、苞の間から出る花は白やピンク、赤色などがある。熱帯植物だが耐寒性もかなりあり、関東南部では戸外でもよく育ち、ほぼ一年中咲き続ける。
こちらの鮮やかな星型の花を咲かせているのは、アカネ科クササンタンカ属のペンタス(Pentas lanceolata)という低木。ペンタスの語源は、古代ギリシア語で「5」を意味する「πέντε」で、ラテン文字だと「pente」となり、5つの花弁に由来する。原産地は熱帯の東アフリカからイエメンで、暑さに強いが耐寒性は低い常緑植物。春5月から秋10月まで長期間、星型の花を30〜40輪咲かす。花色は白、赤、ピンク、紫の4種。
こちらの小さな花は、モクセイ科モクセイ属のキンモクセイ(金木犀、Osmanthus fragrans var. aurantiacus)というモクセイ(ギンモクセイ)の変種。和名の由来は、樹皮が動物のサイ(犀)の足に似ることから中国で木犀と名付けられ、白花のギンモクセイに対し、キンモクセイの花はオレンジ色や赤色が見立てという。中国原産で、日本には江戸時代(17世紀頃)に雄株だけが渡来し、実を結ばないため挿し木で北海道と沖縄以外の日本中に増やされた。花は甘い香りを放ち、ジンチョウゲ、クチナシと合わせ、日本の三大芳香木の一つとされる。花は薬用にもなり、滋養保健、食用増進に乾燥花を煮出して花茶とする。
トキワサンザシ(ピラカンサ)
こちらの赤い実をたくさんつけているのは、トキワサンザシ属のトキワサンザシ(Pyracantha coccinea)という常緑低木。園芸上の通称では、属名のピラカンサと呼ばれる。原産地は西アジアで、明治中期に渡来した。初夏に白い小さな5弁花を多数咲かせ、10月頃鮮紅色の実を多数熟す。花も実も美しいので、庭木などに広く植栽される。
カントウヨメナ
こちらのキク科の花は、シオン属のカントウヨメナ(Aster yomena var. dentatus)という多年草で、道端でよく見かける野菊の一種である。東海地方以西に自生するヨメナとよく似るが、こちらは関東地方以北に自生する。箱根に近い御殿場市郊外で見かけた。近似種のユウガギクとヨメナとの雑種起源とされる。万葉集に詠われるヨメナは食用されるが、カントウヨメナは食用にはしないという。
イワシャジン
こちらの釣鐘型の花は、キキョウ科ツリガネニンジン属のイワシャジン(Adenophora takedae)という多年草。中部地方から関東地方南部、東海地方の山地の湿った岩の間などに生える。葉は細長く垂れ下がり、秋に細長い花柄の先に8〜10個ほどの花を総状花序に咲かせる。花冠は釣鐘型で紫色、萼片は線形。
リンドウとセンブリ
こちらの青い花は、秋の山を代表するリンドウ科のリンドウ(Gentiana scabra var. buergeri)という多年草。和名は中国の竜胆に由来し、中国では熊胆(くまのい)より苦いという意味で竜胆と名付けられた。全草が苦く、特に根は大変苦くて薬用になる。別名、イヤミグサ(胃病み草)、ケロリグサなど。本州、四国、九州に分布する。秋に鐘型で青紫色の花を咲かせる。竜胆の上に見えるのは、リンドウ科センブリ属のセンブリ(Swertia japonica)という二年草。和名の由来は、全草が非常に苦く、煎じて「千回振り出してもまだ苦い」から「千度振り出し」が略されたとのこと。苦味は非常に強く、最も苦い生薬といわれる。別名は、トウヤク(当薬)、イシャダオシ(医者倒し)など。中国、朝鮮半島、日本の関東地方以西にかけて分布する。秋に5弁の白い花を咲かせるが、まだ開花前の蕾の状態だった。
エッチュウミセバヤ
富士宮のまかいの牧場で見かけた、このきれいな花はベンケイソウ科のミセバヤ(Hylotelephium sieboldii)という多肉性の宿根草の変種とされる、エッチュウミセバヤ(H.sieboldii var. ettyuense)という園芸品種。「見せたい」という古語が語源のミセバヤは古典園芸植物の一つで、玉緒(たまのを)とも呼ばれ、かなり古くから全国に広まった。エッチュウミセバヤは1973年に新種として発表され、半球型の花序が美しい園芸品種が出回っている。
ムラサキシノブ
こちらは河口湖の大石公園で見かけたムラサキシノブ(Callicarpa japonica)。白実のシロシキブは9月に見かけていたが、やはり紫色のムラサキシノブは鮮やかで美しい。
こちらの白い花は、キンポウゲ科のシュウメイギク(Anemone hupehensis)。中国からかなり古い時代に渡来した帰化植物である。キクの仲間ではなくアネモネの仲間である。花色は赤紫色が基本だが、弁数が少ない品種や白色の品種が多く栽培されている。
こちらはよく見かけるヒャクニチソウ(Zinnia elegans)の各色勢揃い。和名は百日草で、開花期間が長いことによる。丈夫で色褪せしないので花壇用や切り花用とされる。原産地はメキシコで、アステカ族が16世紀以前から栽培していた。日本には1862年(文久2年)以前に渡来した。八重咲など品種改良も盛んに行われ、花色も赤、オレンジ、黄色、白、藤色、紫などがある。
コキア
大石公園では、河口湖の手前にコキアが赤く色づき、背景の富士山とのコントラストを楽しむことができるのだが、あいにくの曇り空で富士山の姿は見えなかった。コキア(Basia scoparia)は、ヒユ科ホウキギ属の常緑低木で、以前はコキア属だったので今でもコキアと呼ばれている。観賞用に栽培されているのは主に変種のトリコフィラ(ハナホウキギ)で、丸みのある草姿で秋には美しく紅葉する。ホウキギの和名の如く、刈り取って陰干しして草箒を作るのに利用される。
我が家のヤモリ
この7月中旬から10月中旬までほぼ毎晩、我が家の高窓にヤモリが出没した。10数年前、一軒家だった頃の庭にあったキウイの木にはよく登っていたが、その後は見かけなかった。10数年大きな水槽で飼っていたイモリは数年前に死んでしまったので、ヤモリの姿を曇りガラス越しでも見ることができて嬉しい。ヤモリは大きいものから小さいものまで1日に1尾か2尾現れるが、明かりに集まる虫を追いかけて食べる姿が微笑ましい。
本州に生息するヤモリは、ニホンヤモリ(Gekko japonicus)だけで、江戸時代にシーボルトが新種として報告したため、種小名にjaponicusが付けられているが、ユーラシア大陸からの外来種と考えられている。本州以南の日本の他、中国の東部、朝鮮半島にも分布する。主に民家やその周辺に生息し、都市部では多く、郊外では少なく、原生林には生息しない。寿命は5〜10年という。しかし、多くの都道府県で準絶滅危惧種に指定されている。
9月から10月にかけて見かけた花を取り上げてみる。この白い花は秩父の民宿の近くで夕方に見かけた花。トウダイグサ科のハツユキソウ(Euphorbia marginata)という一年草。和名の初雪草は、夏になると頂部の葉が白く縁取られてよく目立ち、その姿を雪を被った様子に例えたもの。北アメリカ原産で、日本には江戸時代末期の1860年頃に持ち込まれた。8月になると株全体が緑と白のコントラストに美しく彩られ、もっぱら葉を楽しむ観賞用とされる。花は小さくて鑑賞価値は低い。他のトウダイグサ属と同様、茎や葉の切り口から出る白い乳液には毒性があり、肌に触れるとかぶれることがある。
こちらの花も秩父で見かけたもので、ウリ科のキカラスウリ(Trichosanthes kirilowii var. japonica)という蔓性の多年草。北海道から九州に自生する。葉は切れ込みのあるハート型で、表面に光沢を持ち、葉の表面に多数の短毛を持つカラスウリと区別できる。雌雄異株。夏の日没後から白い花を開花し、翌日昼頃まで開花し続ける。皮層を除いた塊根は、カロコンという生薬で、解熱、止渇、消腫などの作用がある。民間療法では、果実から採取し日干しした種子カロウニンを咳止めや痰切りに使われる。
近所で見かけたこの花は、シソ科のハナトラノオ(Physostegia virginiana)という宿根草。別名、カクトラノオ。北米東部原産の園芸植物で、日本には大正時代に入り、丈夫なため地下茎でよく増える。花穂は四角錐で、規則正しく並んで咲き、花色は濃桃色から白花まである。
ベニベンケイ
こちらの赤い花は、ベンケイソウ科カランコエ属のベニベンケイ(Kalanchoe blossefeldiana)という多年草。マダガスカル原産の園芸植物。矮性種、高性種、斑入り種などがあり、花色も白、黄色、ピンク、赤、オレンジなどがある。八重咲品種もある。
斑入りヤブラン
こちらの花は、ヤブラン(Liriope muscari)という多年草の斑入り種。ヤブランという和名は、薮に生え、葉の形がランに似ているからといわれる。テッポウダマ(福島県)、ネコノメ(新潟県)、ジャガヒゲ(岐阜県)などの地方名もある。東アジアに分布し、日本では全土、主に本州以南に分布する。林内の下草として自生するが、庭園などの縁取りなどに植えられる。塊根を生薬として利用され、咳止め、滋養強壮などに使用される。
こちらの花は、ツユクサ科のムラサキゴテンTradescantia pallida ‘Purpurea’)という園芸植物。別名、パープルハート、セトクレアセアという。全体が紫色をしており、葉はやや多肉で長楕円形。6〜9月頃に紅紫色の花をつける。メキシコ原産で1955年頃に渡来した。耐寒性はそれほど強くないが、東京より西であれば戸外でも越冬可能である。
ジュズサンゴ
こちらの花はジュズサンゴ科のジュズサンゴ(Rivinia humilis)という常緑性の多年生草本。原産地は北アメリカ南東部で、観賞用に世界各地に広がった。日本では1906年頃に小笠原諸島に侵入し、沖縄では本土復帰後に観賞用のものが逸出して雑草化した。岡山県、宮崎県にも侵入している。細長く伸びる穂に白い花を並べてつけ、果実が赤くなって美しい。南アメリカのコロンビアでは染料用に栽培され、赤い果実をワインやお菓子の染色、織物の染料に利用している。周年にわたり開花結実するため、白い花と赤い果実を同時に鑑賞できて人気がある。
こちらのブーゲンビリア(ブーゲンビレア、Bougainvillea)は、丈夫で長期間開花することから熱帯各地で親しまれている蔓性熱帯花木である。原産地は中南米。美しく着色した部分は苞で、中心部に白い小さな筒状の花をつける。花色は紫、ピンク、マゼンタ、橙、黄、白色まで変化に富む。
こちらの目立たない草は、ヤマゴボウ属のヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)という多年草。北アメリカ原産で、日本には明治時代初頭に渡来した帰化植物で、市街地の空き地や造成地などで見られる。初夏から秋にかけて白色ないし薄紅色の花からなる花穂を枝先につけ、花後に果実は黒紫色に熟す。潰すと赤紫色の果汁が出る。この果汁は強い染料で、衣服や皮膚につくとなかなか取れない。アメリカではインクベリーなどとも呼ばれ、インクの代用とされた。ヨウシュヤマゴボウは有毒植物で、果実も含め全草が有毒である。毒成分はアルカロイドやサポニン、アグリコンなどだが、根には硝酸カリウムが多く含まれる。誤食すると、2時間ほどで強い嘔吐や下痢が起こり、摂取量が多いと瞳孔を開き、強い錯乱状態から痙攣や意識障害が生じ、最悪の場合、呼吸障害や心臓麻痺を起こして死に至るので、十分な警戒を要する。住宅地周辺でよく見かけるので、厄介な雑草である。
キキョウの白花種
こちらの花は、キキョウ(Platycodon grandiflorus)の白花種である。花色は青紫色が普通だが、白色や桃色の花をつけるものや二重咲きになる園芸品種もある。キキョウの根はサポニンを多く含むため、生薬として利用され、鎮咳、去痰、排膿作用があるとされる。
こちらの空色の花は、イソマツ科ルリマツリ属のルリマツリ(Plumbago auriculata)という熱帯性常緑低木である。原産地は南アフリカ。別名はアオマツリ、プルンバゴとも呼ばれる。初夏から晩秋まで花を咲かせる。空色のほか、白色、薄紫色の品種もある。和名のルリは花色、マツリはマツリカ(ジャスミン)に似た花の姿に由来する。
こちらの花は、ヒガンバナ科ヒガンバナ属のヒガンバナ(彼岸花、Lycoris radiata)という有名な多年草。別名は曼珠沙華、葬式花、カミソリバナ、シビトバナ、トウロウバナなど数百以上あるという。原産地は中国大陸で、日本では史前帰化植物に分類され、全国に分布し、田畑の縁、墓地、道端などに生育する。有毒植物で、特に鱗茎には作用の激しいアルカロイドなどを含む。経口摂取するとよだれや吐き気、腹痛を伴う下痢を起こし、重症の場合、神経麻痺を起こして死に至ることもある。
シロシキブの花
8月に近所で見かけた花をいくつか取り上げてみる。この小さな花は、ムラサキシキブの白実の園芸品種の花で、シロシキブ(Callicarpa japonica f.albibacca)と呼ばれる。ムラサキシキブ(Callicarpa jaonica)は、北海道南部から沖縄まで広く自生し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に分布する。果実が紫色で美しいが、小さい花も淡紫色である。このシロシキブは、8月上旬に集散花序を出し小さな白色の花を咲かせていた。
シロシキブの実
こちらが9月上旬に白い実をたくさんつけたシロシキブである。紫色のムラサキシキブの実とは違った風情がある。
ヤナギバルイラソウ
こちらの白い花は、ヤナギバルイラソウ(Ruellia simplex)の矮性種。キツネノマゴ科ルイラソウ属の多年草。1970代に沖縄に持ち込まれ、暖地を中心に自生する帰化植物となり、繁殖力が強いため現在は駆除対象になっている。開花時期は7〜9月。紫色が多いが、園芸用にはこのように白色で矮性のものも出回っている。
キョウチクトウの白色種
夏の花といえば従前、サルスベリ(百日紅)とキョウチクトウ(夾竹桃)が双璧だったが、最近、キョウチクトウ(Nerium oleander var.indicum)の赤い花はすっかり見かけなくなった。ようやく見つけたのは園芸品種の白色種。キョウチクトウはインド原産で、日本へは中国を経て江戸時代の享保年間(1716-36)あるいは寛政年間(1789-1801)に渡来したといわれる。庭園樹や街路樹に使われるが、強力な毒(オレアンドリンなど)が含まれる有毒植物でもある。
アラゲハンゴンソウとマツバボタン
こちらのプランターに植えられているのは、アラゲハンゴンソウとマツバボタンである。アラゲハンゴンソウ(Rudbeckia hirta)は、オオハンゴンソウ属の越年草。北米原産で、戦前から北海道の牧場で知られていた帰化植物。近年では全国に分布している。マツバボタン(Portulaca grandiflora)は、南アメリカ原産のスベリヒユ科の一年草。年々種が零れて新たな花が増えるのでホロビンソウ(不亡草)とも呼ばれる。花色は赤、黄、白、オレンジ、ピンクなどで、八重咲き種もある。
こちらの花は、よく見かけるニチニチソウ(Catharanthus roseus)。キョウチクトウ科の一年草。マダガスカルを中心とする熱帯〜亜熱帯が原産。花色は白、赤、ピンク、紫、赤紫など。最近では青系品種も出回っている。
ニチニチソウのピンク種
こちらの花がニチニチソウのピンク種。ニチニチソウは、開花期が5月から11月と長く、次々に咲くので「日々草」という。暑さや乾燥に強く、熱帯では多年草であるが、日本などの温帯では耐寒性が弱いため一年草として扱われる。
ガーベラ
こちらの真っ赤な花は、よく知られたガーベラだが、ガーベラ(Gerbera)とは、ガーベラ属の総称で、狭義にはアフリカセンボンヤリ(Gerbera jamesonii)のこと。南アフリカ原産の多年草で、熱帯アジアやアフリカに約40種の野生種がある。ヨーロッパで品種改良され、園芸品種は2000種以上あるという。花色は赤、ピンク、白、黄、オレンジなど。
アメリカフヨウ
こちらの大柄な花は、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)というアオイ科フヨウ属の耐寒性宿根草。北米原産で、現地では川沿いなど湿地に自生している。ハイビスカスの一種で、乾燥に強い園芸品種が多い。一日花で、花色には赤、白、ピンクがある。
こちらの花が同じくアオイ科フヨウ属だが落葉低木のムクゲ(木槿、Hibiscus syriacus)である。中国原産で、平安時代初期までに日本に渡来していたと考えられている。『万葉集』では、秋の七草の一つとされる朝貌(あさがお)がムクゲだという説もあるが定かではない。
ムクゲの花色は白、ピンクなど様々で、このように底赤のものが多い。雌蕊の花柱は長く突き出る。花は一日花で、普通は一重咲きだが八重咲き品種もある。この花は「日の丸」という品種と思われるが、園芸品種は非常に多いので断定できない。
ポドラネア・リカソリアナ(ピンクノウゼンカズラ)
こちらの淡いピンク色の花は、南アフリカ原産のポドラネア・リカソリアナ(Podranea ricasoliana)というノウゼンカズラ科の蔓性木本。別名、ピンクノウゼンカズラという。花期は8〜10月。薄桃色の花の先端は5裂して平開し、内側にピンクの筋が入り、弱い芳香がある。全体的な色合いには濃淡に差があり、この花はかなり淡い色調である。
こちらの橙赤色の花もノウゼンカズラ科の花で、北アメリカ原産のアメリカノウゼンカズラ(Canmpsis radicans)という蔓性木本。ノウゼンカズラに似るが、花冠は橙色〜赤色で中まで同色、萼片は短く花とほぼ同色である。平安時代には日本に渡来していたという中国原産のノウゼンカズラは、萼片が長く緑色、花冠は橙赤色だが中が淡橙色と黄色味を帯びる。
当部、アマミノクロウサギの糞
東又泉(アガリマタイジュン)からビンジルガナシへ向かう遊歩道は、駐車場のトイレの上を通るが、その道端にアマミノクロウサギの糞がたくさん転がっている。当部集落では庭先にも遊びに来るというアマミノクロウサギだが、一体何を食べて、こんなところにも出没するのだろうか?
ビンジルガナシの祠
この祠内にある人頭大ほどのくびれを持つ石のことを、当部集落ではビンジルガナシと呼び丁寧に祀っている。この一帯は集落でテラと呼ばれ、その後背に聳える山はカミヤマと呼ばれ、草木の伐採が禁じられてきた。そのためこの一帯にはオキナワウラジロガシなどの巨木が群生するなど特徴的な植生が残っている。
ビンジルガナシ
このビンジルガナシの詳しい由来は不明だが、『徳之島事情』(明治28年)によると、旧正月に大祭を行ってこれを祀り、毎月一日と十五日には守人(管理者)が祭祀を行なっていたとされる。伝承によると、松福嘉美という人によって神事が最初に行われ、代々その子孫によって神事が継承されてきたというが、近年ではその継承者も絶えてしまい、集落によって祠が造られ、集落の守護神として祀られているという。
このあたりにもアマミノクロウサギの糞がたくさん落ちていた。アマミノクロウサギはカシやスダジイからなる常緑広葉樹林や二次林に生息し、渓流周辺の石の上や林道などの一定の場所に糞をするという。食生は植物食で、ススキやボタンボウフウなどの草本、アマクサギやエゴノキなどの木本、杉やみかんなどの樹皮、スダジイの果実、筍などを食べる。左下の糞は、かなり新しい糞であろう。
オキナワウラジロガシの巨木
ビンジルガナシの前の道を奥に進むと巨木が現れる。このオキナワウラジロガシ(Quercus miyagii)は、奄美大島、徳之島、沖縄県の山岳地に分布する日本固有種。巨大な板根に支えられ、樹高20mの巨木になる。秋には日本最大級のドングリがたくさん実る。材は硬堅で緻密、沖縄では古くから琉球建築の建材として用いられた。
アマミノクロウサギ観察小屋
駐車場前の鬼塚街道を奥に進み、南部ダムを左に分けて、右の当部林道に入ってまもなく、アマミノクロウサギ観察小屋に着く。アマミノクロウサギが小屋近くにやって来るように、付近にはウサギが好む植物が植えられ、移動に使うトンネルも設置されている。アマミノクロウサギは夜行性なので、日中に姿を見ることはない。小屋の裏手と南部ダム近くに設置されているビデオカメラで記録した映像を、事前予約すれば小屋の中で見ることができる。アマミノクロウサギの祖先は、奄美群島が大陸と陸続きになっていた時代(約1000万年前)に渡ってきて、約100万年前に海の水位が上がって高い山のある奄美大島と徳之島に取り残され、独自の進化を遂げてきた。
アマミノクロウサギ観察小屋入口
アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島の固有種で、黒い毛皮、短い足、穴を掘るための大きな爪を持つ。成長すると体長は50cmほど、体重は最大3kgになる。多い年で年2回繁殖し、うさぎとしては珍しくほとんど1度に1頭だけ子を産む。「生きた化石」とも呼ばれ、特別天然記念物に指定され、環境省レッドリストでは絶滅危惧1B類とされる希少動物で、徳之島での推定個体数は1,500〜4,700頭(2021年現在)となっている。ちなみに奄美大島では10,000〜34,400頭と推定されている。
モミジヒルガオ
こちらのアサガオに似た花は、帰化植物のモミジヒルガオ(Ipomoea cairica)というヒルガオ科サツマイモ属の宿根草。別名、タイワンアサガオ、モミジバアサガオ、モミジバヒルガオという。熱帯アジア〜アフリカに広く分布している。葉がモミジのように掌状に5〜7裂するので命名されたが、実際には全裂、ほぼ掌状複葉に近い。熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県で定着が確認され、強健なため「生態系被害防止外来種」に指定されている。
ヒメシルビアシジミ
この小さな蝶は、南西諸島で最も普通に見られるシジミチョウである、ヒメシルビアシジミ(Zizina otis )の雌に違いない。トカラ列島以南の西南諸島に分布する。一般にシジミチョウの判別は、翅裏の斑紋で行うのだが、雌の翅表の違いは少ない。ただし、この雌の蝶の翅表の基部に弱い青藍色班があるので、ヒメシルビアシジミと判別する。
帰りの空港へ戻る前に時間があったので、天城町岡前集落にある西郷公園を訪れた。その入り口近くで見かけた、この真っ赤な花は、テイキンザクラ(Jatropha integerrima)というトウダイグサ科ナンヨウアブラギリ属の常緑低木である。提琴とはバイオリンのことで、葉の形がバイオリンを連想させることによる。西インド諸島原産で、庭木や公園樹に用いられる。花は5弁で見かけはサクラに似て、鮮紅色で集散花序につく。花期は3〜9月だが、春に花数が多い。樹液、果実、種子は非常に有毒で、摂取すると重篤な病気を引き起こすので注意が必要である。
「西郷南州謫居之跡」碑
西郷公園にあるこの碑が「西郷南州謫居之跡」碑。西郷隆盛は薩摩藩主の怒りに触れ、奄美大島と沖永良部島の2回流罪にあったが、沖永良部島へ流される途中で、徳之島にも上陸し、岡前には69日間滞在した。右手には島民と力試しに使ったという「力石」が三つある。西郷の体格は大柄で、身長179cm、体重100kgほどだったと推定されているという。
「西郷南州顕彰碑」
「西郷南州謫居之跡」がある場所は公園となっていて、小高い丘に「西郷南州顕彰碑」が建っている。西郷はここから海を望み、奄美大島に残した妻子に思いを馳せたという。
西郷公園より眺める寝姿山
ここから見える海は徳之島の西側で、北東にある奄美大島を直接眺めることはできない。北に見える山は寝姿山で、洗い髪をしている妊婦に例えられる。左に端正な横顔、そして豊満な胸、お腹のあたりは命を宿しふっくらして、天を仰ぎ寝ている姿に見えるという。「徳之島子宝空港」に到着するときに初めて眺めた空港からの景色がこの寝姿山だったことを思い出しながら、五月上旬の二泊三日の旅を終えた。
ベニモンアゲハ
こちらの色鮮やかな蝶は、ベニモンアゲハ(Pachliopta aristolochiae)という熱帯アジアに広く分布する蝶である。後翅の中央に白い斑点があり、その周囲に赤い斑点が並ぶ。斑点は裏側の方が大きく鮮やかであり、雌の方がややくすんでいるので、この蝶は雌である。体部側面及び尾部の紅色も鮮やかである。インドから東南アジアに生息し、1968年ごろ八重山諸島に、20世紀末に沖縄本島、21世紀初頭に奄美群島にまで分布を増やしている。
ベニモンアゲハ
ベニモンアゲハの幼虫は食草ウマノスズクサ科植物に含まれる毒成分アルカロイドを体内に蓄えるため、成虫にも毒があり、鳥は不味くて吐き出す。毒蝶だが病気には弱く飼育は難しいとされる。同じ分布域に生息するシロオビアゲハの雌には、ベニモンアゲハとよく似た体色を持つタイプがいてベニモン型と呼ばれる。食草はミカン類なので毒はないが、ベニモンアゲハに似せて敵から身を守っている。
イシガケチョウ
徳之島には関東地方では滅多に見られない蝶が何種類もいる。例えば、このイシガケチョウ(Cyrestis thyodamas)もそうだ。紀伊半島以南、四国、九州、南西諸島に分布するタテハチョウ科のチョウである。国外ではアフガニスタン、ヒマラヤ、インド北部、東南アジアなどに分布する。食樹はイヌビワ、イチジクで、奄美ではガジュマル、アコウも食す。吸蜜している花は、南西諸島でよく見かける外来種のシロバナセンダングサである。
サンゴジュ
小さくて白い花の蕾をたくさんつけているのは、サンゴジュ(Viburnum odoratissimum)という常緑高木である。暖地の海岸近くに生え、珊瑚に見立てられた赤い果実がつき、庭木、生垣、防風・防火樹に利用される。関東南部以西、四国、九州、沖縄までに分布し、国外では東南アジア、インドなどに分布する。花期は初夏なので、5月ではまだ蕾で、右端にわずかに開花しているものがあり、花冠は5裂する。遊歩道を通り抜けたら金見の集落を通って元のソテツトンネル入口に戻る。
畦プリンスビーチ海浜公園
金見崎から東海岸を南下すると、畦プリンスビーチ海浜公園に着く。昭和47年(1972)、当時の皇太子と美智子妃が訪れたことからこの名がつけられた。公園は多目的広場・キャンプ場・ビーチの三つに分かれて整備されている。
畦プリンスビーチ
発達したサンゴ礁に囲まれた白い砂浜が約1.5kmに渡り続いている。この畦プリンスビーチと水平線が見渡せるコバルトブルーの海が評価されて、「奄美群島国立公園」に指定されている。
畦プリンスビーチ
パパイヤの木とソテツ
ビーチに沿って南へ歩いていくと展望台の入り口に大きなパパイヤの木が立っていた。パパイヤ(Carica papaya)は、常緑小高木の熱帯果樹で、10m近くになることもある。果実は10〜30cmほどになる。見上げると20個ほどスズナリになっている。このような高木は見たことがない。その向こうにもヤシかソテツのような高木が立っている。ソテツ(Cycas revoluta)は、普通、高さ1.5mほどだが8mにもなることがあるという。合わせて異様な熱帯風景といえよう。
展望台から見下ろす畦プリンスビーチ
展望台に登ると、畦プリンスビーチのサンゴ礁の海がよく見える。北東に与路島と請島、その彼方後ろに加計呂麻島がかすかに横たわっている。どの島も一度は行ったことがある奄美大島の南に浮かぶ島々である。だが、向こうの島から徳之島が見えたかどうかはよく覚えていない。
黒畦と井之川岳
南の方に目を向けると、畦プリンスビーチの向こうに小さな岬、黒畦があり、その向こうに大きな山、井之川岳(644m)が高く聳えている。井之川岳は、徳之島の最高峰で、奄美群島内でも奄美大島の湯湾岳(694m)に次ぐ高い山である。徳之島には古くから山岳信仰がある。頂上付近には「犬呼石」という巨石があり、イノシシ狩の際にその上に立って犬を呼べば山林中に聞こえるという。特別天然記念物のアマミノクロウサギをはじめとした奄美群島ならではの貴重な動植物が生息・自生している。
イジュの大木
次にそのアマミノクロウサギの観察小屋を見に、井之川岳の西麓にある当部の集落に向かう。その途中、兼久と当部の中間あたりで、午前中に見かけたイジュの大木をまた見かけた。道路脇の立派な高木が白い花で埋め尽くされていて、なかなかお目にかかれる光景ではないだろう。
東又泉(アガリマタイジュン)
当部集落に着くと、クロウサギの里・当部散策のための駐車場があり、すぐ裏手に島内随一の湧き水、東又泉(アガリマタイジュン)がある。昔からアガリマタミズと呼ばれて村人の飲料水はもちろんのこと、生活用水として重宝がられてきた。薩摩藩時代、亀津代官所の代官にまで知れわたり、部下に水を取り寄せさせて試飲し、その美味の虜になったとの言い伝えがあり、別名、代官水とも呼ばれている。島内各地からこの名水を求めて訪ねる人々が絶えることがないという。
ヤシ科の植物
東又泉入口近くでヤシ科の植物が葉を広げていた。葉の形、幹の形から、ヤシ科の植物であることはわかるが、育成中のココヤシ(Cocos nucifera)と思うが断定はできない。徳之島には数種類のヤシが植樹されているからである。
金見崎ソテツトンネル
徳之島東部を南北に占める徳之島町の北部、徳之島の最東北端に景勝地、金見崎ソテツトンネルと金見崎展望所がある。約250mにわたり鬱蒼としたソテツの林が海岸線に向かってのびている。
ハイビスカス
ソテツトンネルの入り口にはハイビスカスの真紅の花が咲いていた。ハイビスカス(Hibiscus)は、赤や黄色、白、ピンク、オレンジ色など原色の鮮やかな花色が魅力の熱帯花木である。沖縄や奄美には古い時代に移入され、生垣や街路樹として親しまれてきた。本土への渡来は、慶長年間(1610年頃)に薩摩藩主島津家久が琉球産ブッソウゲを徳川家康に献じたのが最初の記録とされる。一日花だが花期は長く、5月から10月頃まで咲き続ける。
ハイビスカス
ハイビスカスの原種は、ハワイ諸島、モーリシャス島に数種が分布するが、ハイビスカスの基本種とされ、沖縄でブッソウゲ(仏桑華)、アカバナなどと呼ばれて親しまれている
ヒビスクス・ロサ・シネンシス(Hibiscus rosa-sinensis)は、原種なのか人工的な交配種なのか今では定かではなく、沖縄への来歴も不明ともいわれる。1万種近くあるといわれる園芸品種は、主にオールドタイプ、コーラルタイプ、ハワイアンタイプと3系統に分けられるが、ハワイアン系の品種がほとんどを占める。
ソテツトンネル
ソテツトンネルに入ると、道の両側から迫ってくるソテツの巨木に圧倒される。約350年前に植えられたというソテツは、古色蒼然として歴史を感じさせるが、生き生きと誇らしげに長い葉を広げている。
タイワンツチイナゴ
ソテツの葉に1匹のバッタが止まっていた。イナゴの一種で、タイワンツチイナゴ(Patanga succincta)である。ツチイナゴと同じく独特な模様がある褐色あるいは黄褐色のバッタである。胸部の周囲が黄色く縁取られることで区別される。ツチイナゴより大きくオスは約6cm、メスは約8cmと日本最大のバッタである。屋久島と奄美群島との間にあるトカラ列島以南の南西諸島に分布する。国外ではインドから東南アジアまで広く分布する。サトウキビ畑の害虫としても知られる。
ソテツトンネル
ソテツトンネルのソテツは、元々、金見集落の畑の境界線と北風による防風対策のために植えられたものだが、長い時間をかけて成長し、見事なトンネル状になった。
ソテツトンネル
徳之島ではハブ対策として「草むらには入らない」というのが常識だが、ソテツトンネルも例外ではない。なるべくトンネルの中央を歩き、ハブには十分注意しよう。ソテツの赤い実がなっていても取ろうとしてはいけない。
パンダナマイマイ
こちらの小さなカタツムリは、徳之島で最も普通に見られる種とされる、キカイウスカワマイマイかあるいはパンダナマイマイであろう。残念ながら素人には同定が難しいが、どちらかといえばパンダナマイマイ(Bradybaena circulus)と思われる。
ツマグロヒョウモンのオス
ソテツトンネルを抜けると、金見崎展望台まで遊歩道が続く。シマアザミの花に吸蜜している蝶は、ツマグロヒョウモン(Argyreus hyperbius)である。メスは前翅の先端が黒紫色地で白い帯が横断するが、オスの翅は普通のヒョウモンチョウの姿である。よってこれはオスである。本州以南南西諸島に分布する。80年代以前は近畿地方が分布北限だったが、その後、関東及び東北中部まで生息域が広がっている。シマアザミ(Cirsium brevicaule)はトカラ列島以南に自生し、徳之島を含む奄美群島では古来より薬草や食材として利用されてきた。徳之島では「向春草」(アマミシマアザミ)という健康サプリで売り出されている。
こちらの花は、クマタケラン(熊竹蘭、Alpinia formosana)という常緑多年草のランである。ゲットウ(月桃)とアオノクマタケランの中間的な形態を示し、両種の雑種と推定されている。花序が垂下せず直立する点でゲットウと異なり、唇弁に紅色と黄色の斑紋がある点でアオノクマタケランと異なる。九州南部から琉球に分布する。奄美群島では葉を「かしゃ」と呼び、よもぎ餅をクマタケランやゲットウの歯で包んだ「かしゃ餅」が食される。
オオハマグルマ
この黄色い花は、キク科ハマグルマ属のオオハマグルマ(Wedelia robusta)という多年草。本州紀伊半島南部から四国南部、九州および南西諸島に分布する。黄色の頂に普通3個(稀に1個)付き、舌状花は8〜12個。近縁種のネコノシタ(ハマグルマ)は頭花が1個であり、キダチハマグルマの頭花は3〜6個で舌状花は6〜15個だが、つる性である相違で区別する。沖縄諸島を中心とする南西諸島には、1970年代に導入されたアメリカハマグルマが、繁殖力が強すぎるため緊急対策外来種に選定されている。
金見崎展望台から金見海岸を見る
金見崎展望台からは太平洋と東シナ海の二つの海を同時に見渡せる一大パノラマが広がり、天気が良い日には加計呂麻島、与路島、請島の島影や釣りのスポットとして有名な「トンバラ岩」を望むことができる。眼下に広がるのは金見海岸で、樹木に隠れたあたりに珊瑚礁で囲まれた大きなリーフがあり、シュノーケリングやタイドプール観察など様々な遊びが堪能できる。
与名間ビーチ
二日目の宿泊地は与名間ビーチの近くだった。与名間ビーチは全体が海浜公園として整備されていて、徳之島で一番きれいなビーチといわれる。ここが徳之島で行われるトライアスロン大会のスタート地点である。
ムシロ瀬周辺の低木地
徳之島北西端に位置する景勝地、ムシロ瀬周辺の低木地は、大島紬の染料に使うシャリンバイや、アダン、クサトベラ、モンパノキなど多彩な植物に恵まれている。展望台に向かう道端にも岩がゴロゴロしている。
アダン
展望台の右手にある遊歩道の脇にタコノキ科のアダンが豊富に生えている。島の人々はアダンの葉を編んでカゴや草履を作り、生活雑貨の材料として活用してきた。
遊歩道脇にはクサトベラも茂っている。クサトベラ(草海桐花、Scaevola taccada)は、クサトベラ科の常緑低木で、太平洋からインド洋にかけての熱帯・亜熱帯の海岸周辺に自生し、日本では薩南諸島以南の南西諸島と小笠原諸島に産する。茎は下部が木化するが柔らかいのでクサトベラの名がある。花冠は5裂し、白くて紫色の筋があり、開花後次第に黄色に変色する。
ムシロ瀬、「女性の横顔」
遊歩道を下っていくと、珊瑚礁の多い奄美群島では珍しい花崗岩の壮大な海岸線、ムシロ瀬が広がる。むき出しの岩がまるでムシロを敷き詰めたように連なることから名付けられた。巨岩だらけのだだっ広い景観の中に、名前をつけられた巨岩がいくつか紹介されている。この岩は、「女性の横顔」という巨岩だが、正面から見るとどこが横顔なのかわからない。左手から眺めてようやく岩の左下に唇のように見える箇所があるのに気付いた。
「カメ」
ムシロ瀬の花崗岩は、6千万年以上前に地下およそ10kmで形成されたもので、地殻変動によって分割され、岩塊は徐々に地表に押し上げられた。地表で冷やされるにつれ、岩塊はさらにひび割れた。何千年にもわたって風波により浸食し、変わった姿に形作られた。この岩はその姿から「カメ」と呼ばれている。
ムシロ瀬の遊歩道
ムシロ瀬の印象的な光景は、奄美群島の大部分を包含する奄美群島国立公園の一部である。岩だらけの海岸線を眺めるために左右にそれぞれ100mほど細い遊歩道が整備されている。右手にはアダンの群生と岩畳との境目に遊歩道が伸びている。
ムシロ瀬の遊歩道
その遊歩道を右手に進むと、「傷だらけの岩」が見え、そのはるか彼方まで険しい海岸が続き、離れ岩も認められる。手前右手に生えるのモンパノキで、花は咲き終わって実がなりはじめている。
モンパノキ
モンパノキ(紋羽の木、Heliotropium arboreum)はムラサキ科キダチルリソウ属の常緑低木で、別名はハマムラサキノキという。東アフリカからアジア、オセアニア、太平洋諸島の熱帯から亜熱帯の海岸に生育する。日本では南西諸島の奄美群島以南および小笠原諸島に自生する。低木から5mほどの小高木になる。葉の表裏ともに銀色の細かい毛が密生し、ビロードのような手触りがある。小さく白い花は集散花序に密生する。スーキ、ガンチョーギー、ソーギキ等、島によって多様な地方名を持つ。ガンチョーギーとは、眼鏡木つまりガンチョウ・キという意味で、沖縄で潜水用眼鏡の縁に使われたことによる。葉は民間薬として、絞り汁を服用して食あたりに用いる。沖縄では葉の汁が魚の毒消しに使われる。若葉は天ぷらで食用される。また、潮害や塩害に強いことから、防風・防砂林として利用される。
「傷だらけの岩」
右手の遊歩道を進むと「傷だらけの岩」に辿り着く。巨岩に縦横に亀裂が入る姿から名付けられた。
「傷だらけの岩」
ムシロ瀬は人気の釣り場で、釣り好きが釣り糸を垂らすことができる場所がたくさんある。ムシロ瀬の海では年間を通してウミガメが泳ぎ、冬には時々ザトウクジラが見られる。「傷だらけの岩」を回り込んで、右側面を見ると縦横の亀裂はさらに深くなっている。遊歩道はこのあたりで終わるので引き返す。
ヤブヤンマ
岩にトンボが止まっていた。ヤンマの種類だが、名前を調べるのが難しい。
トンボに詳しくないので残念ながら断定できないが、黄色―黄緑色の斑紋から、ヤブヤンマ(Polycanthagyna melanictera)と思われる。東北から沖縄諸島に分布する。未成熟個体は複眼が褐色だが、成熟するとオスは複眼が青く、メスは複眼が緑色になる。時期的に見ても未成熟個体であろう。
「女性の横顔」の岩と「カメ」の岩
ムシロ瀬の遊歩道を中央まで戻ると、「女性の横顔」の岩と「カメ」の岩とが向かい合っているのに気付いた。とはいえ、こうした名前が似合っているかは別問題で、無理気味な感じがする。
潮溜まり
次に遊歩道を左に進むと、大きな潮溜まりがあった。引き潮でも海水が残りそうなので入江と呼ぶべきかもしれない。亀裂の入った大きな岩盤があちこちに見られる。
「ろうそく岩」
さらに遊歩道を左に進むと、「ろうそく岩」と呼ばれる岩に出会った。この岩は切先を空に向かって突き出しているので、まさに「ろうそく岩」と呼ぶのが相応しいと思う。ここで左の遊歩道も終わるので引き返した。
イジュ
徳之島北西端のムシロ瀬から北東端の金見崎に向かう途中、手々海浜公園がある天城町の手々に入ると、県道沿いにたくさん花が咲く大きな木が目に入った。沖縄でイジュと呼ばれるヒメツバキ属の亜種とされるが、小笠原でヒメツバキと呼ばれるものと同種か別種かで諸説あり統一されていないという。学名はヒメツバキ(Schima wallichii)と同じである。
イジュ
イジュは奄美以南の琉球列島に分布し、国外では東南アジアや東部ヒマラヤまでに分布する。常緑性の高木で、高さは10m以上にもなる。花期は3〜5月。花弁数は5〜6枚、白くて大きく開く。花の径は約5cm、花弁は広卵形の浅いお椀状で、基部に多数の雄蕊が合着する。