映画「the MENU」を観てみた (original) (raw)

久しぶりの投稿です。

最近お仕事とプライベートがバタバタしていて、そもそも映画も見られず…

久しぶりの映画というスパイスも相まってか、めちゃよかったです。

題名を観た時、てっきりカニバリズム系の映画だと思っていました。

客人を様々に料理し、客人に食させる映画だと。

それならどれだけよかったか

個人的にはめちゃくちゃ響きました。というかめっちゃしんどい気持ち爽快な気持ちがないまぜになって、ええ感じでした。

あらすじ

孤島に佇むレストランを訪れた若いカップル(アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト)。そこではシェフ(レイフ・ファインズ)が極上のメニューを用意している。しかし、レストランのゲストたちはこのディナーに衝撃的なサプライズが待ち受けていることに気づくのだった…。脚本 セス・レイスとウィル・トレイシー、監督 マーク・マイロッドが贈るダーク・コメディー。-amazon prime videoより

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※以下、所感のためネタバレを含みます。

所感

きっち~~~~~~!!!!でもざまぁぁぁぁぁみろぉぉぉぉ

これ、「奉仕する者」と「奉仕される者」の関係を、食事のフルコースと、そこに参加する人々で表現しているんですよね。めっちゃおしゃれなスリラーだ。

ちなみに観客が「奉仕される者」なのか「奉仕する者」なのか、どっちよりなのかで気持ちが変わるかと思いますが、映画を楽しむ層はきっと一般大衆寄りだと思うので、おそらく主人公のマーゴやシェフの気持ちには少なからずシンパシーを抱くのではないでしょうか。

どんだけ超一流の料理人として名声を得ても、食事を提供するという「奉仕する者」という立場は崩れないんですよね。シェフを称えるようなことを言っている客人も「奉仕される」ことには何ら疑問を持たないんですよ。

これ、たぶん飲食業とか、サービス業とか、医療職の人とか……

めちゃめちゃ見覚えありません????

もちろんお給料をもらっているから、仕事であることには変わらないんですけど、仕事の関係であるはずなのに、その場には「上下関係」が確かに存在するんですよね。

お客さん、患者さんがいなければこの仕事は成り立たないわけですが、その構造上「奉仕する者」にならざるを得ないわけです。

私も医療職なのでこの苦悩というか、確かに存在する格差につらくなったことがあります。

地面に落ちているゴミや患者さんの靴下を、患者さんの指示で拾わされた時や丁寧に説明しても「たかが〇〇に言われたくないんですけど」と言われた時に「大学院までいって勉強して、結果がこれか……」みたいなやるせない気持ちになりました。(まぁそれも、繰り返していくうちに、だんだん麻痺してきて慣れてきちゃうわけですが)

まずは主人公のマーゴ。アニャかわええええええ

私はこの女優さんをラストナイト・イン・ソーホーで知ったのですが、めちゃかわいいよね。力強い目元が特に好きで。

そんなマーゴが美食家の彼氏と超高級なレストランを訪れます。(どうにも彼氏じゃないっぽいことが後半判明)

そのレストランは孤島にポツンと立っているんですけど、食材はその地のものを使い、スタッフたちも皆がその島で寝起きしているという徹底ぶり。美食にうるさい人々はそんなストーリーも楽しんでいます。「奉仕する」ためにそこまで手を込めているわけですからね。

お客たちもスペシャルな方々です。明らかに富裕層っぽい人、成金ぽい金持ち、料理評論家、俳優とその愛人…など普段ではなかなかお目にかかれないような人たちが来ています。

また、この金持ちたちの雰囲気が鼻につくこと!(笑)彼氏もなんですけど、ひとつひとつの料理を色々と分析するんですよね。シェフの言葉に感涙したり。

パンのないパン皿ってなんやねん

とマーゴは思っていても、みんなその意図を考えだしたり。その突拍子のなさを楽しんだり。ここは完全にコメディーです。

(映画を見てどうこう言ってるおまえもやないかいっていうのはご愛敬で)

ただ、料理はどれも(明らかな激ヤバの一部を覗いて)盛り付けが美しくて、見ていて飽きさせません。おしゃれすぎて「どこ食べるんだ?これは飾りか?食べられるのか?」みたいな見た目なのも再現度が高い。

見た目だけで判断すれば、美しい>美味しそう…ではあるんですが。

また途中途中で挟み込まれる家庭料理のアンバランス加減も面白く、シェフの語りも興味深く惹きつけるものになってます。スタッフたちも一糸乱れぬ動き方で空間そのものが高尚な雰囲気をまとっているの特別感があって大変良き。

そんな雰囲気・演出もあわせて高級なコース料理、という感じです。

(後で見返してみると料理研究家「彼は階級による食の違いにいつもこだわっていたけど…」とこの映画の主題を持ち出していたりしますね。)

話が進んでいくにつれて、金持ちたちの正体が明かされていきます。

成金たちは不正にお金の横領をしていたり、料理評論家はけちょんけちょんに店をこき下ろして廃業に追い込んだり……「奉仕される側」として強者の権威を存分にふるっていたことが分かります。

あまりの不可解さにしびれを切らしたマーゴはシェフの料理に感涙する彼氏と口論になり化粧室へと向かいます。そんな中シェフが入ってくる。(激ヤバ)

ここで料理に手を付けないマーゴに「真剣に作った料理を残されると傷つく」ともっともらしいことを言います。完璧に見えるシェフのめちゃくちゃ人間らしいシーンです。

そして第一の衝撃なシーン。副料理長の自殺

めっちゃおどろいた~~~~

ここから混沌に落とされていきます。

そんな中マーゴに選択肢が。「与えるものとして死ぬか、奪うものとして死ぬか」

要は「奉仕される者」になるか「奉仕する者」になるか選択を迫られます。

また、この問答の途中でマーゴは性産業従事者として働いていたことがわかります。(しかも金持ちのうちの1人が客だったし、オーダーが結構キッツイ笑)

マーゴはシェフと同じく「奉仕する側」だったわけです。だから、本来主人公は「招かれざる客」だったということがはっきりします。だからこそこのシーンは同じ苦悩をともにする同業者としての共感関係が見られて、観ていて少しホッとするんだよな。

違和感と言えば、マーゴひとり、ペラッペラのびっくりするぐらい薄着のワンピースにブーツ、安っぽいアクセサリーという謎スタイルだったんですけど、わざと「そういう場に慣れていない」「そもそもTPOに適した洋服を準備できない」様を表したスタイリングだったんだなぁと。(スタイリングした人、天才か??)

スタイリングのみならず、確かにマーゴめちゃくちゃ浮いてるんですよ。もちろん言動もなんですけど、みんながやれ食材がどうの、どこどこではどうの、みたいな料理談義にうっとりしたり、謎な料理に高尚な解釈をしているのを「バカじゃないの?」って雰囲気で見ていたり。

そんなバカな空間に酔いしれる金持ちたちと、白ける主人公、プロとしてその空間を作り維持するスタッフたち。三者三様の有様が見ていて面白い。

ある種、シェフとマーゴは構造的に強制された「奉仕する者」同士なんですよね。

一時、シェフに樽を持ってくるように促され、抜け出したマーゴは島の中にあるシェフの自宅を探ります。そこでは彼がバーガー店の肉焼き係から料理人として確かに成り上がってきた過去が見つかります。今では金持ちたちがこぞって求める彼の高尚な料理も、原点は街中のバーガー屋なのです。

これ、めっちゃジーンときたよ…

そうだよな、どんな料理人だって、初めは大したことないはずだよな。

彼の地位ははじめからあったものではなく、彼の努力で積み上げられたもので、そんな彼の料理を高尚がって(味わうではなく)食べる金持ちたちは、とんでもなく滑稽ですよね。

「料理は本来、客の食べたいものを食べさせて腹を満たすものだ」という根本の目的からどんどんそれでしまっている成れの果てがこのレストランなわけです。

それを知っているのは「奉仕する者」である主人公のマーゴだけなのです。

そんなマーゴ、最後にチーズバーガーをオーダーします。

これがめっちゃ美味しそうなんだよな〜〜〜

はじめて、美しい<美味しそうな料理が出てきました。

またこれを手ずから作るシェフも、少し楽しそうな面持ちで、手元が鮮やかで美しいんですよ。本来の彼が映し出されているようです。

「お腹がすいている客の望むものを出し、お腹いっぱいにさせる」

それが料理人という「奉仕する者」の役目なわけです。ここで彼はマーゴの手によって原点に戻されます。

食べきれなかったチーズバーガーとお土産を受け取って彼女は脱出します。

その時のシェフの晴れやかな顔よ…結局彼は「奉仕する者」から脱することはないものの、その喜びを味わうのです。

最後のデザートは「スモア」

スタッフも客もみんな丸焼きになります。

スモアってところが良いよね。最後の最後で庶民の食べ物で締めです。

「奉仕する者」から「奉仕される者」への逆襲であり、罰で、火を使ったのはある種「浄罪」なんだろうと思います。

シェフをはじめ、スタッフたちも客たちに危害を加えることは罪である、と自覚しているからこそ火をもって自らを罰し、そして罪を洗っているのでしょう。

キリスト教的な考え方からするとやはり、火は浄罪の意味があるようです。宗教的な観点からレビューを書いている方がいらしゃいました。確かに、魔女狩りでも火あぶりだったもんね。)

ということは、あのレストランはいわば煉獄(地獄と天国の間)なのでしょう。だからこそ、地上から離された孤島にあるのかもしれません。

ひとり脱出した主人公はチーズバーガーをバクリ。最後にメニュー表で口を拭います。このシーンも良いよね……結局、料理は食べるために存在しているので、小洒落たメニュー表なんて不要なんですよね。うまいかどうか。このチーズバーガーは確かに美味しそうでした

一般庶民の皆様、特にサービス業や飲食、医療なんかに携わっている人には見てはちゃめちゃな気持ちになってほしいです。

一緒にはちゃめちゃになろうぜ。