晴走雨読 横鎌日記 (original) (raw)

続けて、山本文緒さんの本。先に読んだ「無人島のふたり」の巻末に山本さんの著作リストや年譜が載っていたのだが、2003年に3月に「精神科にはじめてひと月入院する」との記述があり、2006年6月に「河口湖のテニスコートでうつが治った感覚を得る」とあった。そして、「うつの詳細は『再婚生活』に詳しい」と。

症状はそれぞれ違うのだろうけど、うつ病と言われた同僚を何人か見てきた。自ら命を落とした人もいれば、社を辞めた人、普通に働けるようになった人。そして、仕事相手で、「たまに症状が出るんです」という人も。今後、自分だってなる可能性もあるだろうし、すでに初期段階だったりするかもしれない。山本さんが、闘病記を書き留めているのなら読んでみようと。幸い、kindleunlimited タダで読めるし(会費払ってるけど)。

再婚生活 私のうつ闘病日記 (角川文庫)

単行本で「再婚日記」としていたのを、文庫で副題に「私のうつ闘病日記」と足した。確かに山本さんが「王子」と呼ぶ相手との生活はこのエッセイの大きな柱。年表を見ると、再婚は入院の1年前。彼の献身さはとても真似できないが、だからってすべてが良い方向にいくとも限らないところが難しい。山本さん自身も、一人になりたいとき、頼りたいときとブレがあるのがよくわかる。誰でもそうだろう。

「文庫版まえがき」を読むと、当初はタイトル通りに再婚とはどんな生活かを書きたくて始めたエッセイだったそうだ。それが、ほぼうつ病の闘病記になってしまった。前半は、かなりファンキーである。単行本を読んだ同じような病気を患っている人から、境遇があまりに違うというような厳しい感想や意見が少なからずあったそうだ。確かに同じように飲み食いができないほど金遣いは荒い。とはいえ、人気作家の部類にはいる人である。高額の車を買ったり海外で豪遊したりしたわけでもないし、このくらいはアリだろうと読んでいた。しかし、どうやら「病」は始まっていたようだ。文庫用に書き足した部分には、一財産なくしたと書いてある。

そして、入院=発症ではないのだ。初めて心療内科に通ってから入院までは約6年で闘病が5年、計11年である(このエッセイは闘病に集中)。そして、雑誌連載(「野生時代」)をしていたが、まったく書けなかった時期が約2年間あった。この2年間を振り返った、文庫のみ収録の「改めてふり返ってみました」は必読部分とみた。単行本から文庫になる時に、有名人のあとがきがついたり、単行本刊行時と現状を埋めるような部分を書き足したりすることがあるが、この加筆部分が肝である。本体が、闘病記ながらエンタメとしても読めちゃうだけに、ここで闘病記の体になった気がしている。

無人島」の後に「再婚生活」を読むと、どちらも日記形式なので「再婚」のフォーマットで「無人島」を書いたのかという気がしてきた。どこか前編を読んだような気持ちだ。こうなってくると「病気というのはどんな病気でも、平凡な日常生活から離れる、という意味で旅に似ていると思うのです。(中略)そのまま帰ってこられない旅というのも残念ながらありますが、どんな人手もいつか必ず永遠に戻らない旅立ちをするのです」の部分が妙に刺さる。

テニスをしながら、「うつ」がなくなっていくような感覚。こればかりはなってみないとわからないのだろうなと思う。踏み込みたいような、踏み込んじゃいけないような。