Jovian-Cinephile1002’s blog (original) (raw)

シビル・ウォー アメリカ最後の日 70点
2024年10月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キルステン・ダンスト ケイリー・スピーニー
監督:アレックス・ガーランド

2023年から楽しみにしていた作品。事前情報は極力仕入れずにチケット購入。イメージとは違ったが、これはこれでありだと思えた。

あらすじ

内戦勃発から14か月、一度もメディアの取材を受けない大統領にインタビューを試みるため、戦場カメラマンのリー(**キルステン・ダンスト)は仲間と共にワシントンDCを目指していた。ふとしたことから知り合ったカメラマン志望のジェシーケイリー・スピーニー**)と旅路を共にするが、道中では分断されたアメリカの現実を目の当たりにすることになり・・・

ポジティブ・サイド

キルステン・ダンスト演じるリーと、彼女にあこがれるケイリー・スピーニー演じるジェシーのロード・トリップが前半、後半は戦闘の最前線を行く従軍カメラマンの師弟の物語だった。

ワシントンに向かう途上で出会うアメリカ人たちが、同胞であるはずのアメリカ人を虐待する、あるいは訳も分からず殺し合う風景に遭遇していく。ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルガザ地区レバノンへの攻撃が思い起こされるが、これを同国人同士でやってしまうのが内戦の恐ろしいところであると慄然とさせられる。

トレーラーにもあった、”We are American.” に対するジェシー・プレモンス演じる不気味な兵士の ”What kind of American are you?” という問いが剣呑だ。これに対する一定の答えがあるのだが、それはまさに多くの近代国家の歴史そのもの。日本とて例外ではない。もう一度、アメリカ合衆国は United States of America であるということを思い起こそう。我が兵庫県も五か国連合(摂津、丹波、但馬、播磨、淡路)で、時にヒョーゴスラビア連邦などと言われるぐらいにバラバラである。もちろん内戦をジョークにはできないが、国家としての一体感よりも、個人の収入や生活の方が大事なのだ、という局面にアメリカ、そして先進国が至っていることは間違いない。そうした状況では、分断が分裂に至ることもありえるだろうと感じる。

後半から終盤はワシントンの市街戦、そしてホワイトハウス陥落を描く。詳細は観てもらうしかないが、米国はアブグレイブ刑務所から特に何も学んでいないことを感じさせるものだった。それがアレックス・ガーランド監督の抱える問題意識なのだろう。銃撃戦の迫力は文句なし。砲塔を戦車で吹っ飛ばすシーンの迫力も文句なし。容赦のない破壊の行き着く先はどこになるのか。やはりアメリカ人はウサーマ・ビン・ラーディンの暗殺と死体遺棄を反省していないようである。これもアレックス・ガーランド監督の問題意識の表れなのだろう。

civil war とは内戦を指すが、特に the Civil War と表記すると、アメリカの南北戦争を指す。『 アンテベラム 』でも描かれたように、南北戦争奴隷制度の有無および保護貿易(北の合衆国= United States of America)と自由貿易(南の連合国= Confederate States of America)が主な対立軸だった。

本作では、カリフォルニア州テキサス州を中心とするWF(Western Forces)が連邦政府軍を相手に戦っているという、東西戦争の様相を呈している。その原因は分からないし、明示もされない。ただ、D・トランプが大統領に就任した2017年、世間では盛んにアメリカは United States ではなく Divided States になったと言われていたのは多くの人の記憶に新しいはず。また彼の支持者が選挙不正の疑いを不満に思って連邦議事堂に大挙して乗り込んだ事案は、先進国の民衆が暴徒化したという意味で衝撃的でもあった。それこそ『 ジョーカー 』のように、何かきっかけがあれば民衆は一挙に暴徒化しうるのである。

そういった意味で本作は確かに現代アメリカ的である。そして現代アメリカ的ということは、数年もしくは数十年後の日本的でもあるということである。

ネガティブ・サイド

途中で合流してくるジャーナリスト仲間は、もう少しプロフェッショナルに描けなかったのか。それまで筋金入りのジャーナリストとして描かれてきたジョエルやリーが、急に薄っぺらく見えてしまった。

最後の最後にリーが見せた行動は、従軍記者としてのキャリアの長いリーらしからぬ動作。行動については旅路の中で経験した喪失と悲嘆で説明がつく。問題はその動作。ここに説得力がなかったので、最後の最後にやや白けてしまった。

総評

インタビュー記事などを読むに、キルステン・ダンスト自身もメリー・コルビンを意識していたようである。本作も面白いとは感じたが、残念ながら『 プライベート・ウォー 』ほどではなかった。随所に流れる能天気なオールディーズと波長が合うかどうか。案外、本作の評価はそこで決まるようにも感じる。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

secede

分離する、の意。ラテン語では se = apart、cedere = to go である。つまり「離れて行く」ということ。Brexit の際のニュースで使われることが多かったので、BBCやCNNの視聴者なら耳にした、あるいは記事で見たことがあるだろう。secessionist secessionist = 分離独立運動のように使う。cede = 行くだと理解していれば、precede = 先行する、proceed = 前進する、exceed = 超過する、succeed = 成功する(どんどん行く)、concede = 譲歩する(共に行く)などもパッと整理して理解できるだろう。

次に劇場鑑賞したい映画

犯罪都市 PUNISHMENT 』
『 ぼくのお日さま 』
『 花嫁はどこへ? 』

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熱烈 80点
2024年9月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ワン・イーボー ホアン・ボー
監督:ダー・ポン

ボーン・トゥ・フライ 』主演のワン・イーボーが今度はブレイキンのダンサー役を演じる。またしても妻のリクエストでチケット購入。

あらすじ

ブレイキンのプロチーム「感嘆符!」は、中心メンバーのケビンが財力を武器に好き放題。ある時、ケビンの代役が必要になり。コーチのディン・レイ(ホアン・ボー)は、地元のイベントで細々と活躍している、かつてのオーディション参加者チェン・シュオ(ワン・イーボー)を加入させるが・・・

ポジティブ・サイド

我が母校には Smooth Steppers というストリートダンスのサークルが2000年には既に存在していて、寮の洗面所で踊っている後輩もいたりした。五輪の種目にもなるなど、本当にストリートダンスは一般に普及したのだなと個人的に感慨深かった。

肝心の映画の出来はというと、これが非常に良かった。発展目覚ましい浙江省杭州の中心で練習する感嘆符!と、実家の手伝いと洗車アルバイトと地元のイベントの掛け持ちの中でダンスの練習を積んでいくチェン・シュオの対比が残酷にすら映る。

しかし、チェン・シュオが代役ながらも感嘆符!入りを果たしたことで、少しずつ彼の人生も変わっていく。そこで良い味を出すのがコーチのディン・レイ。『 ボーン・トゥ・フライ 』のチャン・ティン隊長的のようなゴリゴリの軍人ながら、良き家庭人でもあるというおっさんではなく、ダンスに生き、ダンスでしか生きられないという、ある意味で永遠の少年 = puer aeternas だ。しかし、このおっさんが少年のままで居続けるのか、それとも色々と物事を割り切って大人になってしまうのかというサブプロットが、若年でありながらも母や叔父を支え続けてきたチェン・シュオの生き方との対比になっていて魅せる。

悪役であるケビンも単なる悪ではなく、チェン・シュオとは対照的な意味での子ども。レーシングカーコースのあるだだっ広い部屋で無言でクルマを走らせる姿は、いくら爆走しても決められたコースから外れられない自身の境遇と重なっていた。

アップダウンを経ながら、最終的にケビン率いるチームとのバトルに挑む感嘆符!。ここでのダンスシーンは圧巻の一語に尽きる。孤独のままに踊るケビンとチームで踊る感嘆符!という構図が、個々の力で踊るケビンのチームと観客を味方につける感嘆符!という構図に変わっていく。この過程が非常にドラマチックだ。そして最後の最後、一歩間違えれば『 少林サッカー 』的になりかねない大技が決まった瞬間のカタルシスは筆舌に尽くしがたいものがあった。

ガリーボーイ 』的なサクセス・ストーリーを、『 ピッチ・パーフェクト 』のような仲間とのビルドゥングスロマンとして、そしてダンス・パフォーマンスは『 マジック・マイク 』並みのセクシーさとパッションで見せてくれる作品。総じて『 スウィング・キッズ 』と同レベルの傑作と評してよいと思う。

ネガティブ・サイド

カメラワークに少々注文を付けたい。ケビンのチームの外国人助っ人たちの実力を観客および感嘆符!に見せつける、かつ五輪競技でもあるブレイキンの魅力を観客に伝えるために、真正面からの定点カメラで撮影し、映し出してほしかった。理想はBTSのDynamiteの練習動画である。

チェン・シュオの父親の踊っているシーンや回想、もしくは写真が見てみたかった。ディン・レイが疑似的な父親になっているのは分かるが、やはりダンサーだったというチェン・シュオの父とチェン・シュオのつながりを体感してみたかった。

総評

TOHOシネマズ梅田も座席はほぼ完売で、驚きの女子率&マダム率。トイレ前で「3回目なのに、また泣いちゃった」と感想を言い合う女子、エレベータの中でこれから広島や愛知に帰ると言っていたマダムたちも見かけた。ワン・イーボーは確実に中国という枠を超えてアジアのスターになりつつある。公開している劇場も少なくなってきているので、観るのならばお早めに!

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

ガンベイ

乾杯の意。劇中でもやたらと一気飲みをするが、漢字を見れば納得である。Jovianの学生時代を振り返っても、確かに Chinese American や Chinese Australian は、一気に盃を空けていた。一気飲みは自己責任で!

次に劇場鑑賞したい映画

『 シュリ 』
『 シビル・ウォー アメリカ最期の日 』
犯罪都市 PUNISHMENT 』

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あの人が消えた 50点
2024年9月28日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:高橋文哉
監督:水野格

妻が「面白そう」というのでチケット購入。

あらすじ

配達員の丸子(高橋文哉)は、担当地域のとあるマンションへの出入りを繰り返す中で、ある住人が自分の大好きなネット小説の作者であると知る。しかし、そのマンションには奇妙な住人が住んでいて・・・

ポジティブ・サイド

物語の早い段階から『 ピンクとグレー 』みたいなストーリーか?と少し身構えていたが、全然違った。予想が外れて満足な時もあれば、不満なこともある。本作はその意味では満足できた。

トリックに関しては伏線の張り方がフェア。というか、少々あからさますぎると感じたが、鑑賞直後の劇場内での観客の反応を見聞きするに、これぐらいがちょうどいい塩梅なのか。これから鑑賞する向きに一つだけ(本当は10個ぐらい出したいが)ヒントを与えるとするなら、Tシャツとなるだろうか。おっと、ヒントが二つになってしまった。

クリーピー 偽りの隣人 』でも感じたが、本作の舞台となるマンションをスタッフはよく見つけてきたなと思う。あの構造は気持ち悪い。

コロナ禍を「過去」にしてしまっているが、トラック運転手に代表される配達員への感謝の気持ちを忘れてはいけないというメッセージは個人的に高く評価したい。

ネガティブ・サイド

某作品と某作品の重大なトリックを全くと言っていいほど換骨奪胎せずに取り込んでしまうのはいかがなものか。『 レディ・プレイヤー1 』が『 シャイニング 』のネタバレをかましたのとは訳が違う。それとも本作を劇場に観に来るような層は某作や某作を観ない、製作側は決めつけているのだろうか(TOHOシネマズの観客はポップコーンを床に散乱させる率が高いのは確かだが)。

トリックに重きを置くのは分かるが、住人から聞く話と丸子が実際に見聞きする話が都合よく一致するのは何故なのか。特にごみの分別ネタ。住人の方はともかく、トラック運転手がそこまで観察できるものなのか。また痴話喧嘩に対する苦情の話も大いなる矛盾。作っていて、あるいは脚本段階でおかしいと思わなかったのだろうか。

あの交番勤務の巡査長、普通にけん責食らうか、降格やで。

梅沢富美男のネタは不要。誰得やねん。

総評

劇場鑑賞中に隣の妻に「これ、アレやな?」とささやいて、妻も頷くこと2回。ドンデン返しにすべてを懸ける姿勢は評価したいが、それをやるなら先行作品に最低限の敬意を表すべきだ。最低限の敬意とは、少なくとも少しは自分流のアレンジを加えること。それをしないのはパクリと言われてもしょうがない。『 オリエント急行殺人事件 』のような完全リメイク、または舞台を現代日本にしたリメイクの製作を模索すべきだったように思う。観客の評価は高いようだが、シネフィルの大半は「うーむ・・・」と悪い意味で唸る作品か。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

reincarnation

転生の意。rebirth とも言う。ただ、reincarnation は「再び肉体を得る」という意味で、ここには魂もしくは意識は維持されているというニュアンスがある。異世界転生を訳す際はこれがふさわしい。一方、『ジュラシック・ワールド リバース』は rebirth で、これは再び赤ん坊が生まれるの意。つまり、今回産み出されるジュラシック・ワールドは『 ジュラシック・パーク 』あるいは『 ジュラシック・ワールド 新たなる支配者 』(この副題は壮大な誤訳・・・)のキャストが出てくるわけではありませんよ。ということ。

次に劇場鑑賞したい映画

『 シュリ 』
『 シビル・ウォー アメリカ最期の日 』
『 熱烈 』

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404Not Found 50点
2024年9月21日~23日にかけて読了
著者:法条遥
発行元:講談社

最近、断捨離で本やCD、DVDなどを古本屋に売っている。その古本屋で目についた本書と『 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 』を購入。

あらすじ

池上裕也はビルの屋上から飛び降りて自殺した。しかし、次の瞬間、裕也は自室のベッドで目覚める。そして、自分が記憶はそのままに前日に戻っていることを知る。その後も、裕也の周囲では不可解な事象が相次ぎ・・・

ポジティブ・サイド

中二病全開の男子高校生の脳内が前ページにわたって展開される。これを面白いと思えるかどうかが本作の評価を分けるポイントのひとつ目となるだろう。

二つ目のポイントは、読者がどれだけタイトルでピンとくるか。404 Not Found を見たことがない、あるいはそれが何であるのかさっぱり分からないという人は、残念ながら対象外(そういう人はどうやってこのブログに到達したのだろうか・・・)。「ああ、このタイトルは、つまりアレだな」と思える人が対象だ。

三つ目のポイントは、著者の法条遥の『 リライト 』を読んだことがあるかどうかだ。というか、Jovianは『 リライト 』、『 リビジョン 』、『 リアクト 』、『 リライブ 』を古本屋に売り払って、本作を購入したのだ。つまり、この作者のある種の癖のようなものを許容できるかどうかも重要なポイントとなる。その癖とは、野﨑まどが常に人間以上の存在を描こうとしたり、あるいは辻村深月が心に傷を隠し持つ10代を描き続けるようなものである。『 リライト 』シリーズ読了者なら、本作の構造にはすぐに気が付き、そのうえでどのような捻りを加えてくるのかを楽しめるはず。『 リライト 』未読者は、先にそちらを読むのもありかもしれない(ただしJovian個人の感想では『 リライト 』は面白い、『 リビジョン 』はまあまあ、『 リアクト 』と『 リライブ 』は何じゃそりゃ、である)。

300ページ弱なので、電車の中で読めば、通勤時間次第だが、3日から5日で読めると思われる。たまにはスマホではなく、書籍をお供に電車に乗ろう。

ネガティブ・サイド

ネタが古い。というか、カバー裏にも「2008年に書かれたプロトタイプを、全面的に改稿云々」とある。なので、おそらくアイデアそのものは2000年代中盤に練られ、さらに原案自体は2000年前後に得られたものと推測される。第一刷は2013年2月なので、10年以上前の作品。そのため時間の経過と共に作品の持つテーマも陳腐化してしまう。ミステリやSFには時間の経過と共に風化しないテーマや大トリックが存在するので、ここは敢えて辛めに評価させてもらう。

中二病全開なのは結構だが、明らかに誤った知識、あるいは皮相的な知識がある。たとえば量子力学不確定性原理は、量子の運動と位置の両方を正確に確定させることはできないという意味だが、裕也はそれを間違えて解釈している。もちろん、裕也の間違いであって作者自身の誤りではない可能性もある。哲学論について裕也が自分の誤りを教師に突っ込まれるシーンがあるからだ。ただ、この教師、物理専攻なのである。なので哲学に突っ込むよりも、物理学的に突っ込んでほしかった。

あと裕也、ページを追うごとにどんどんアホになっていく。55ページでは事象を時系列にメモにまとめてくれたのに、以後はすべて一人語り。彼の世界の不可解さを理解できない、あるいは馴染みがない読者向けに、もう1~2回は裕也の体験の時系列もしくは図示があってもよかったのではないか。

総評

ジャンルを特定するのが難しい。というのも、ピンポイントにジャンル分けしてしまうと、それだけで白けてしまう人が多数いるからだ。あるいは、それによって購読意欲が増す層もいるにはいるがマイノリティだろう。敢えて言えばサウンドノベルが近いか。テーマが古い本ではあるが、描かれているキャラクターの内面は普遍的なものなので、ラノベ感覚で読むのが正解かもしれない。ハードSFが好きだという層には決してお勧めはできない。

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clairvoyance

千里眼あるいは予知の意。英検1級を目指すのでもない限り、特に知っておく必要はない。ただ、こうした能力の持ち主がしばしば登場するのが映画や小説の世界。なので英語好きのシネフィルやビブリオフィルは、こうした語彙も知っておくとよいかもしれない。

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
ヒットマン
『 シュリ 』

404Not Found (講談社ノベルス ホC- 1)

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侍タイムスリッパ- 80点
2024年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山口馬木也
監督:安田淳一

単館上映から全国ヒットした『 カメラを止めるな! 』の再来と聞いてチケット購入。確かに近年まれにみる傑作だった。

あらすじ

時は幕末。会津藩士の高坂新左衛門(**山口馬木也**)は討幕派の長州藩士との決闘の最中、落雷を受けて標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった・・・

ポジティブ・サイド

現代人が過去、特に戦国時代にタイムスリップする邦画はいくつも製作されてきたが、江戸時代の武士を現代に連れてくるというのは相当に珍しいのではないか。このアイデアだけでも本作には価値がある。

ゴリゴリの会津藩士、すなわち保守派の武士の新左衛門を山口馬木也が好演。話しぶり、立ち居振る舞い、表情、すべてが武士だった。普通ならこんな石頭の守旧派がタイムスリップ、特に未来へのそれに順応できるはずがないのだが、飛んだ先が時代劇の撮影現場で、なおかつ見覚えのある寺が目と鼻の先にあったことが幸いした。なによりも武士の本懐(武士道とは死ぬことと見つけたり)を果たせる仕事としての斬られ役、これに出会えたことが大きい。徳川幕府の世が終わって140年。佐幕派会津藩士としては斬る側よりも斬られる側になるべきだろう。

新左衛門とその周囲の人間とのドラマも見せる。助監督の優子寺の住職やその妻、さらに剣心会の師範らが、妙な男だと思いながらも新左衛門に親身に接していく様はそれだけで現代人が忘れかけている優しさを思い起こさせて、ほっこりとして気持ちになれた。

タイムスリップものとしてはお約束の展開が中盤に起こるが、この人物を巻き込むことで、コメディ風のドラマが一気にシリアスなものとなる。忘れてはならないが、新左衛門は死に場所を見失った武士なのである。最後の最後の殺陣のシーンは圧巻の一語に尽きる。低予算映画ゆえにスタントやCGなどを使わず、それゆえに生身の迫力を生み出せていた。

時代劇には大道具、小道具、ヘアメイク、メイクアップに、役者の独特の所作(その最たる例はもちろん殺陣)など、映画作りの基本的な要素がふんだんに詰め込まれている。かつての怪獣映画、とくにモスラキングギドラなどは10人がかりでピアノ線を使って操演していたと言うが、これは今やロスト・テクノロジー。もちろん、古典的、伝統的なものすべてを保存しなければならないとは思わないが、日本映画の土台を維持するためにも時代劇には生き残ってほしいと本作によってより強く思わされた。

映画を作るという映画にハズレなし。このジャンルにまたも傑作が生み出された。ぜひチケットを購入して劇場鑑賞されたし。

ネガティブ・サイド

幕府滅亡から140年ということは2007年。確かにキャラクターたちはガラケーを使っていた。が、冒頭で出てきた看護師さんがナースキャップをかぶっていたのは何故?ナースキャップは2000年頃にはほとんど姿を消していたはず。現代でも時代考証は必要だ。

新左衛門がケーキの美味しさに感涙するシーンでは、説明的なセリフは不要だった。新左衛門の心情を観客の想像力に委ねる作りの方が良かったのではないかと思う。

総評

年間ベスト級の傑作である。役者の演技が際立っていて、脚本にも穴がなく、ストーリーのテンポもよく、軽妙な部分は軽妙に、重厚な部分は重厚に仕上がっている。何よりも人間ドラマとして優れている。NHKの『 歴史探偵 』で「戊辰戦争会津」を少し前に観たこともあり、新左衛門という人間のバックグラウンドが頭にあったことも大きかった。もちろん、背景知識や時代劇に関する造詣がなくとも本作は楽しめる。時代劇はちょっと・・・という向きにも自信を持ってお勧めできるヒューマンドラマの傑作である。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

choreography

振付の意。映画ではしばしば fight choreography と dance choreography が重要で、その専門家も多数いる。本作の sword action choreography には必見である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
ヒットマン
『 シュリ 』

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ナミビアの砂漠 70点
2024年9月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:河合優寛一郎 金子大地
監督:山中瑶子

あんのこと 』の河合優実主演作ということでチケット購入。

あらすじ

カナ(**河合優)は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる恋人のホンダ(寛一郎)と同棲しつつ、ハヤシ(金子大地**)とも逢瀬を繰り返していた。ある時、出張から帰ってきたホンダがあることを告白してきて・・・

以下、軽微なネタバレあり

ポジティブ・サイド

21歳の奔放女子ながら、その中身は空虚で、仕事にも友情にもどこか身が入っていない。その一方で健全にセクシャルな魅力も放っているカナというキャラクターは、おそらく一種のサイコパスなのだろう。そうでなければ離人症か。カナというキャラを一言で表すなら「自分で自分が分からない」、これである。誰もが経験する感覚だが、それを非常にリアルに体現している。

友達もいるし、恋人もいるし、浮気相手もいるし、職場の上司や同僚もいる。それでもカナは孤独である。なぜか。満たされないからだ。ホンダから注がれる愛情にも満足できず、ハヤシから愛情を注がれないことにも満足できない。そのハヤシとの喧嘩のシーンは圧巻だ。というのも、言い争いではなく取っ組み合いだからだ。それもかなりロングのワンカットで、リハーサルは大変だったと思われるが、それを見事にやってのけている。

喧嘩するほど仲がいいと言うが、カナとハヤシはある意味で冷めてしまった夫婦のような関係であると思う。劇中でも「二人ではなく、一人と一人」という台詞があるが、これが実に腑に落ちる。この二人でいるはずなのに独りでいるように感じてしまうカナの背景には何があるのか。それが少しずつ明らかになっていく中盤以降の展開は非常に重苦しい。

本作は撮影面でもユニークだ。家の中では手ぶれが見て取れる一方で、家の外のシーンでは定点カメラで撮影されている。『 幼な子われらに生まれ 』でも家の中ほど手ぶれしていて、それが臨場感、つまりその場に自分も居合わせているかのように感じさせるのと同じ手法がここでも見られた。家の中と外のギャップ、それを絶妙に橋渡しする存在としての隣人が非常に良い味を出している。

カナの抱える悲しい過去や、少し人と異なるバックグラウンドを持つことが、カナを追い詰める。しかし、そのことが逆に希望にもなっている。ナミビアの砂漠というのは古い歌謡曲『 東京砂漠 』の現代版ということだろう。砂漠に点在するオアシス。そこにわずかばかりの動物が集まってくる。動物たちは決して仲睦まじく交わろうとはしない。ただ、相手を追い払うこともない。広い砂漠で偶然に出会った。その相手の存在を決して否定しないこと、その相手と共存すること。それが現代人の生き方の一つのモデルになるのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

カナがある意味で現代人の脆さを体現しているのは分かるが、カナの精神の均衡を壊すきっかけが、うーむ・・・ もちろんショッキングな出来事であることは間違いないが、それをあたかも女性だけが重く受け止められる事象であるかのように描くのはいかがなものか。

また、カナの精神的な不調をそのままメンタルの病に還元してしまうのも安易というか安直というか。中島歩演じる心療内科医がいくつか鑑別を挙げて、その後の方針も示していたが、ここはもっとダイレクトに心の不調の原因となる出来事や、それを維持させている環境についてダイレクトに示唆を与えても良かったのではないか。そのうえで、オンライン診療よりも、人と人との出会いと交わりにこそ意味があるのだ、という幕引きはありえなかっただろうか。

総評

『 あんのこと 』と並ぶ河合優実の代表作であることは間違いない。現代社会の一種の病理を非常に分かりクリエイターたちがあぶり出した作品。ただし『 カランコエの花 』のように、時間の経過と共に作品のテーマ自体が新奇性を失うものでもない。カップルのデートムービーには決して向かないと思うが、同棲前に一種のシミュレーションとして鑑賞してみるのも、それはそれでありかもしれない。

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ティンブトン

I don't understand. の意。つまり、「理解できない」「言っていることが分からない」ということ。劇中でこの台詞が使われることでカナの孤独がより際立っていた。現代人の病理(と言っていいのかどうか・・・)に、他の人と一緒にいる時により強く孤独を感じる、というものがあると思うのだが、どうだろう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
『 侍タイムスリッパ- 』
ヒットマン

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ポライト・ソサエティ 70点
2024年9月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:プリヤ・カンサラ
監督:ニダ・マンズール

カンフーものということでチケット購入。

あらすじ

パキスタン系の家庭に生まれたリア(プリヤ・カンサラ)はスタントウーマンを目指して日々トレーニングを続けている。しかし教師には現実的ではないとたしなめられ、クラスメイトからは馬鹿にされる。ある時、母の知り合いからパーティーに招かれたリア一家。ホストファミリーの男性医師に見染められたリアの姉、リーナが結婚することを知った時、リアは何かを不審に感じて・・・

ポジティブ・サイド

主演のプリヤ・カンサラの芝居に、とにかくエネルギーが満ち溢れている。日々、スタントや空手のトレーニングに励み、その様子をホームページにアップ。憧れのスタントウーマンにもメールを送り続ける。一方で街中の中華屋でついつい鶏の丸焼きを買い食い。その姿を知り合いに見られそうになると、思わず隠れてしまう。冒頭の数分でリアというキャラクターのパーソナリティの大半が把握できる。それもプリヤ・カンサラの過剰一歩手前の演技があってこそ。

展開も分かりやすい。美大を休学中の姉が、あれよあれよと玉の輿に乗ってしまうが、この結婚、どうも怪しい。『 きっと、それは愛じゃない 』を反対側から見たようなストーリーなのだが、今作はかなりの捻りを加えてきている。これはなかなかの twist で、近いところでは『 この子は邪悪 』がちょっと近いか。ヴィラン役の女性もすごい迫力。日本だと余貴美子あたりがこのオーラを出せそう。

リアの友情物語も『 ザ・スイッチ 』的で結構面白い。異性との恋愛云々ではなく、とにかく家族愛で動くリアの姿に、時に協力し、時に飽きれてしまう友人たちとのドラマも見応えがある。インド映画と同様にダンスシーンもあり、そこでもリアが民族衣装をまとって華麗に踊ってくれるし、もちろんスタントウーマン志望らしい大立ち回りも見せてくれる。

踊りやアクションだけではなく音楽にも要注目。ある場面で浅川マキが流れてきてビックリした。Jovianはロッド・スチュワートをカバーする日本人アーティストということで少し知っていたが、まさかニダ・マンズール監督のプレイリストに浅川マキが入っているとは。

ベタベタのエンディングを迎えるわけだが、そこに至る過程はアップダウンがあって普通に面白い。ボクサーのアミール・カーンはキャリアの中で差別に苦しむこともあったが、英国もパキスタン系移民をしっかり受容できるようになってきたのだなということも感じさせる社会的な一作になっている。

ネガティブ・サイド

姉を守ろうとするあまり、婚約者のパソコンを盗み出してデータを抜いてやろうというのは普通に犯罪。『 ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ SNSなどでエロメッセージを送って反応を引き出そうとする、そして経験不足ゆえに思いがけない反応を引き出して・・・のようなプロットもありえなかったか。

ヴィランがどういうわけか強すぎる。彼女の強さの背景が一切描かれていない点は最後の最後まで気になってしまった。

総評

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 』のごとく、スタントウーマンを目指す女子高生の物語・・・と見せかけて、実はそれはサブプロットというか、メインは家族愛と10代のアイデンティティ・クライシスである。それもイングランドパキスタン系のルーツを持つことに思い悩むという『 ジョイ・ラック・クラブ 』的な段階はとっくに通り越している、あるいは最初から存在しない。自分とは何か、自分はどのように夢を追うのかというテーマをたっぷりのアクションでもって追求する佳作である。ぜひ劇場鑑賞されたし。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Get this.

直訳すれば「これを手に入れろ」だが、実際は「これ大事だからよく聞いて」である。英検やTOEICで聞いたことはないが、TOEFL iBTではちらほら聞こえる。映画やドラマでもよく使われている。たしか『 エリン・ブロコビッチ 』でもジュリア・ロバーツが使っていたかな。英語でプレゼンしたりするときに使うと、ちょっとカッコイイかもしれない。

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
ナミビアの砂漠 』
スオミの話をしよう 』

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