今村翔吾『てらこや青義堂 師匠、走る』ーー公儀隠密が寺子屋の師匠となるが、、、、 (original) (raw)
今村翔吾『てらこや青義堂 師匠、走る』をオーディブルで聴き終わった。33時間51分を15倍速で聴いた。
公儀隠密であった十蔵は、その過去を隠して今は寺子屋の師匠をしている。どのような問題児も引き受けるから、トラブルはしょっちゅうだ。その都度、誠実に向かい合うから、各種の「往来もの」などを学びにくる筆子(ふでこ)には慕われている。
筆子たちのお伊勢参りに同道することになるが、将軍暗殺を狙う忍びの一団から狙われる。互いに忍術の秘術を尽くして戦う姿の活写が興味深い。そして、活躍する筆子たちとの絆にも感動する。エンタメ色の強い青春小説の傑作だ。今村翔吾は「最も自分自身を剝き出しにして書いたかもしれない」と自作を語っている。
今村翔吾は小説家志望だったが、関西大学卒業後は父親の経営するダンス教室のインストラクターだった。大病の体験と、「夢を諦めるな」と諭した生徒から「翔吾君も夢を諦めている」と返されて、夢に向かうことを決心し2015年2月に退職する。30歳だった。
執筆活動を開始し、文学賞への応募を始める。
- 2016年1月の『蹴れ、彦五郎』で伊豆文学賞の小説・随筆・紀行文部門の最優秀賞の受賞を皮切りに、受賞が続く。2016年、九州さが大衆文学賞大賞「笹沢佐保賞」を受章。
- 2017年、選考委員だった北方謙三の推薦でデビュー作を書き、2017年に祥伝社から発売。
- 2018年:角川春樹小説賞。歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞。
- 2020年:吉川英治文学賞。野村胡堂文学賞。『じんかんで』山田風太郎賞。
- 2021年:吉川英治文庫賞。
- 2020年:37歳で『塞王の盾』で直木賞。小説以外にも、自治体や新聞などからの受賞が相次ぐ。
- 2023年:角川春樹小説賞、小説現代新人賞の選考委員に就任。
毎年、受賞のオンパレードだが、受賞に至らなかった「候補」作品も12作品ほどあるから、優れた作品を量産する作家である。現在40歳。
『塞王の盾』『じんかん』を読んできたが、今村翔吾は、憲法、核、平和などを想起させる、現代とつながるテーマを選んでいる。歴史小説、時代小説に託して現代を考える作品を書き続けている。そこが受け入れられるのだろう。
私は現在、話題になっている『海を破る者』を読書中だ。これは「元寇」を迎え撃つ鎌倉御家人の物語だが、「平和」を考えさせる優れた作品だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「名言との対話」7月4日。山本コウタロウ「走れ走れコウタロウ」
**山本 コウタロー**(やまもと コウタロー、本名:山本 厚太郎(やまもと こうたろう)、1948年〈昭和23年〉9月7日- 2022年〈令和4年〉7月4日)は、日本のシンガーソングライター、タレント、政治活動家、環境学者。享年73。
東京都出身。一橋大学在学中からフォークの「ソルティー・シュガー」のメンバーとして活動。1970年に「走れコウタロウ」で日本レコード大賞新人賞を受賞。1972年に大学を卒業。1976年には「岬めぐり」がヒットする。この名曲は今も私たちの耳に残っている。その後も、音楽活動を継続し、2年間のアメリカ生活などを経験する。
また一方で地球環境問題に造詣が深く、1987年から白鷗大学で教鞭をとる。1999年から経営学部や教育学部で教授をつとめている。非常勤講師時代から2019年に定年退職するまで32年間にわたり教鞭をとり、名誉教授となる。
今回、山本の晩年のコンサートをいくつか聴いた。競馬の実況中継を描いた歴史に残るコミックソング「走れコウタロウ」と「岬めぐり」だけでここまできたと語り、笑いをとっていた。40万枚のヒットとなった「岬めぐり」は、傷ついた心をいやそうとする男を歌った優しい響きの曲である。神奈川県の三浦半島が舞台だとされ、京浜急行久里浜線の御崎口と三浦海岸駅で接近メロディとして流されている。
本名は厚太郎(こうたろう)であり、カタカナの「コウタロウ」は芸名である。バンドの練習の時間に遅れる遅刻魔だったため、メンバーから「走れ走れコウタロウ」とからかわれていた。それを曲にしたらヒットした。
山本コウタロウは1948年生まれの団塊の世代である。食と健康、男女共同参画、食と農、教育、平和などをテーマとして講演も多かった。パートナーとは結婚はせず、事実婚でもあった。
音楽と地球環境をテーマとした山本コウタロウは、大学卒業後は就職はしなかった。資本主義に飲み込まれることを拒否したのだ。「走れ走れコウタロウ」と自身に鞭打ちながら走り続けた生涯だったのだろう。多彩な生涯を送っている団塊の世代の、ある一つの典型でもあると思う。