第32話「発覚?!ネモトマンの正体」(1985年11月17日放送 脚本:浦沢義雄 監督:冨田義治) (original) (raw)
この広告は、90日以上更新していないブログに表示しています。
【ストーリー】
休日の朝の食卓。眠そうなカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)。
ママ(大橋恵里子)がパパ(石井喧一)にチラシを見せる。
ママ「ねえ、パパ。新宿でコートのバーゲンやってんだって。ほら」
「行かない」とチラシを投げ捨てるパパ。伸介(岩瀬威司)は感嘆。
伸介「やった。パパ男らしい。思わず親孝行したくなっちゃう」
パパはまんざらでもない顔。むかついた表情のママとマリ(林美穂)。
マリ「私、こういうの許せない。ママお願い。この際、思い切って男つくっちゃえば?」
慌てたパパはパンを喉に詰まらせ、伸介の牛乳を飲もうとする。「あ、何すんの」と驚く伸介。カミタマンは呆れる。
公園にいる伸介とカミタマン。
伸介「 “ママお願い。この際、思い切って男つくっちゃえば?” 結局このひとことで、パパもママの買い物につき合わされる羽目になっちゃうんだもんなあ。もうちょっとばしっと生きてもらいたいよ。父親なんだもん」
カミタマン「パパにはパパなりの生き方があって」
伸介「おれもああなっちゃうのかな」
カミタマン「だろうな」
伸介はカミタマンに手を合わせる。
伸介「どうか神さま。この根本伸介をばしっとした生き方ができる男にしてください」
カミタマン「まあ、話によっちゃあだな」
伸介「お話とは?」
カミタマン「そうねえ、アイスクリームなんかごちそうしてくれちゃったりすれば」
伸介は「別にいいよ、ばしっと生きなくても」とそっぽを向く。
カミタマン「伸ちゃん、安いキャンディーにまけとくから」
伸介「結構です! パパとそっっっくりな人生でも」
カミタマン「そそっそっそ、そんな。伸ちゃん、ねえ」
カミタマンの声が妖しくなったところで、横山(末松芳隆)がスキップしながら現れる。手にはプレゼントが。
伸介「あいつ、まさかマリのところへ」
カミタマン「こら、横山!」
「やあ、カミタマンくんに根本くん」とにこやかな横山。
カミタマン「どこ行くの?」
横山「ちょっと」
カミタマン「ちょっとどこ?」
横山は「親戚の叔母さんの家。じゃ」とスキップして行ってしまう。
伸介「親戚の叔母さんち行くのにスキップして行くか?」
カミタマン「ああ、きっとマリのところへ」
伸介「あのプレゼント渡しに」
カミタマン「 “マリさん、これ、ぼくの気持ちです” なんて興奮して言うぞあいつ」
伸介「そう、きっと興奮して。カミタマン!」
カミタマン「あ、どうかしたか?」
伸介「いまうちマリひとりで。パパとママは買い物に」
伸介は「横山が興奮して」と思い浮かべる。
根本家で横山が、マリの視点で「誰もいないの?」と迫ってくる。「何よ、その笑いは…?」と不安げなマリの声。
横山「マリさん!」
マリの悲鳴が上がる。
伸介とカミタマンが帰宅すると、がしゃーんと音がして、横山が庭へ突き飛ばされる。
横山「いってー」
にらみつけるマリ。そしてプレゼントを投げつける。
横山「マリちゃーん」
公園で泣く横山。伸介は赤ちゃんのためのラトルで、がらがらとあやす。「いないいないばあ」もする。
カミタマン「なあ、横山。マリのことは綺麗さっぱりとあきらめて」
横山は号泣。
伸介「おれもそのほうが」
横山「お兄さん」
「え?」と驚く伸介。
伸介「あきらめろだなんて、そんな殺生な」
横山は伸介に迫る。
横山「お兄さん。聞かしてください、マリちゃんの理想の男性を。ぼく努力して、近づいてみせますから」
伸介「そりゃまあ、マリの理想は…ネモトマンじゃないの! ま、なんてったって、かっこはいいし、頭は切れるし、男らしいし」
ラトルががらがらと音を立てる。
カミタマン「伸介までその気になっちゃって」
「お兄さん、どうもありがとう」と横山。
カミタマンは飲食店にひとり入っていく。
カミタマン「いったいいまどきの小学生は何を考えとるんだ、まったく。横山も横山なら、伸介も伸介だよ」
そこへ「お客さん、ご注文は?」と、とらばる聖子(小出綾女)が現れる。
聖子「きょうはあんみつ屋さんにとらばっちゃったんだ。何にする?」
カミタマン「クリーム蜜豆」
聖子「クリーム蜜豆ふたつ」
カミタマン「だ、誰がふたつなんて」
聖子「私がひとつごちそうになんの」
カミタマンはズコー。
「きょうはまったくついてないよ」と公園に戻ってきてぼやくカミタマン。工作物の中から「カミタマン!」と横山が顔を出す。
横山「ネモトマンの正体って誰? 教えて」
誰にも教えられないとカミタマンは突っぱねる。
横山「本当だな?」
カミタマン「ああ」
横山「誰にも教えられないってことは、誰も知らないってことか」
カミタマン「ま、そういうことだ」
横山「そう。じゃ、ぼくがネモトマン」
カミタマン「横山、お前いったい何企んでんの」
横山「いや、こっちのこと」
伸介が「はいはいはい」と自宅の電話に出る。電話は横山からだった。
伸介「え、話?」
聖子のいる店に来ているふたり。
聖子ちゃん、伸介にお冷ひとつ
「はあい」と不機嫌な聖子の声。
横山「ここのお冷、とてもおいしいんだ」
伸介「けち!」
「実は…」と、横山はおもむろに話を切り出す。
横山「お前、言っちゃいそうだな」
伸介「何を?」
横山は「絶対人に言わないって約束できる?」と念を押す。
横山「おれがネモトマンだってこと」
伸介「は?」
横山「困るんだ、特にマリちゃんなんかに言われると」
伸介「何を?」
横山「おれがネモトマンだってこと」
伸介はあきれ顔。
横山「お前は親友だから打ち明けたんだからな。だから誰にも言わないでくれよな」
言ったそばから横山は「ネモトマンは横山だ!」と叫び、他の客たちは注目。伸介は慌てて横山の口を押さえる。
居間で笑うカミタマン。「誰がそんなこと言えるかっていうの」と、何故かテーブルの下から伸介が出てくる。
伸介「横山がマリに伝えてほしいってみえみえなんだもん」
「何がそんなにおかしいの?」と庭からマリが来る。
伸介「横山が、横山の奴が。アハハ、ばかばかしくって言えない」
マリ「変なの」
公園でたたずむ横山。マリが来るが、横山を避けるように行ってしまう。
横山「あれ、伸介の奴」
花壇の前のベンチにすわっているマリ。横山は隣で口笛を吹きながら近づき「マリちゃん!」と迫るが「何すんのよ」と顔をつねられてしまう。
ゲームをしているカミタマンと伸介。電話がかかってきて伸介が出る。
伸介「はい、根…横山。またかよ!」
あんみつ屋で、横山が伸介を締め上げる。
横山「お前どうしておれがネモトマンだってこと、マリちゃんに言わないんだ!?」
伸介「ちょっと待てよ。お前が言っちゃいけないって言うから」
横山「お前いつからそうやって約束を守る人間になったんだ? 見損なったぞ、根本」
ふたりをほうきで叩く聖子。
聖子「あんたたち、いい加減にして」
居間でカミタマンに、ことの次第を聞かされたマリ。
マリ「え、横山さんがネモトマン?」
カミタマン「伸介がマリの理想の男性像はネモトマンだなんて言っちゃったから、横山の奴ついその気になっちゃってさあ」
マリ「横山さんがネモトマン…」
カミタマン「マリ?」
「ああまいったまいった」と伸介が帰宅するが、変な雰囲気に「どうしたの」と尋ねる。
マリ「私信じる」
伸介「あ?」
カミタマン「あ、な、何を?」
マリ「横山さんがネモトマンだってこと」
困惑する伸介とカミタマン。
マリ「私、思い当たる節があるの。あれは先月の終わりごろ」
マリは公園で、男子中学生(吉田竜也)にローラースケートを教わっていた。中学生はマリを見つめる。
中学生「いいじゃないか。ね、いいだろ」
通りかかる横山。「あっ」と駆け寄るが、中学生ににらみつけられて退散。
マリの声「それからしばらくして」
中学生がまた「いいじゃないか」などと言っていると、ネモトマンが登場。
ネモトマン「このすけべ中学生め。神に代わって退治してやる」
ネモトマンは中学生を叩きのめす。
マリ「ネモトマン」
マリ「そうよ。横山さんがネモトマンだったのよ」
伸介「違うの違うの」
マリ「どうして?」
伸介「どうしてって。カミタマン、何とか言ってやれよ」
カミタマン「横山はネモトマンじゃない。このカミタマンが断言する」
マリ「じゃあネモトマンは誰なの?」
伸介は「ああ、言いたい。ここまで、ここまで出かかってる」と喉に触れるが、カミタマンは「伸介!」。伸介は、横山なんかにネモトマンが務まるわけがないとマリを諭す。
マリ「お兄ちゃん、さもお兄ちゃんがネモトマンみたいなこと言うじゃないの」
伸介「そう、実は」
カミタマンは急いで伸介の口を押さえる
伸介「ああ、言っちゃいたい。ああ、言っちゃいたい」
マリ「だから何を?」
カミタマンはステッキを伸介の口に突っ込む。
マリ「あんたたち、何してるの?」
カミタマンは「だから、そのあの」ともごもご。
マリ「じゃあ、あのときのネモトマンは誰だって言うの?」
カミタマンは伸介を無理につれ出す。
自室に戻った伸介とカミタマン。カミタマンは「わっせわっせ」と壺を持ってきて「この中に思い切って叫んじゃえ」。
伸介「マリーあのときマリを助けたのは」
中学生の前から退散する横山。木陰で伸介とカミタマンがくつろいでいた。動転して走ってくる横山は、伸介にぶつかる。
伸介「どうした横山?」
横山「マリちゃんが中学生に」
カミタマンは、杖で横山を殴って気絶させる。
カミタマン「すまん横山。行くぞ、伸介」
伸介はネモトマンに変身。「こら」と中学生の前に現れる。
伸介「お兄ちゃんだったんだ」
カミタマン「気が済んだか」
うなずく伸介。
「ネモトマンはお兄ちゃんじゃないぞ」と言いながら階下におりてくる伸介とカミタマン。だがじっとすわっていたマリは「横山さんがネモトマンかどうか」実験してみるという。
ざるを使ったべたな罠を仕掛けるマリ。横山が通りかかり、蹴って行ってしまう。
マリ「どうしてこの罠が見破られちゃったの。やっぱり横山さんはネモトマン…」
見ている伸介とカミタマン。
カミタマン「何考えてんだ、マリは」
伸介「さあ」
かなり深い穴を掘るマリ。シートを張った落とし穴だった。
マリ「横山さん、私信じる。あなたがネモトマンであることを…」
通りかかった横山は、落とし穴の上を平然と歩いていく。
マリ「あ、落ちない。やっぱり」
実は落とし穴の下で、伸介とカミタマンが支えていたのだった。ふたりはうんざり顔。
カミタマン「冗談じゃないよ。横山が怪我したらどうするつもりなんだ」
伸介「女ってやることが過激なんだよ」
だがマリは、さらに過激な罠を準備していた。横山が通りかかると、マリは「行くわよ、ネモトマン」と石をつないだロープを切る。
隠れているカミタマンがブーメランを飛ばすと、石は横山を直撃する寸前に砕け散る。
カミタマン「マリ、ネモトマンになんか恨みでもあるんじゃないの」
今度は材木の上でスタンバイするマリ。
マリ「これが最後よ、ネモトマン」
やはり離れて見ている伸介とネモトマン。
カミタマン「理想の男性にあんなことするか?」
マリは棒を使って、歩いてきた横山めがけて、てこの原理でドラム缶を落とそうとしていた。伸介はネモトマンに変身して、横山を突き飛ばす。
マリ「これで決定的ね」
ドラム缶につぶされるネモトマン。吹っ飛んだ横山はのびていた。カミタマンは「こら、横山。起きろ」
買い物から帰ったパパとママは、買ってきた服を出していた。
マリ「嘘じゃないって、本当に横山さんがネモトマンなんだから」
ママ「あの子が?」
パパ「なんかの間違いじゃないのか」
マリ「私見たんだから。横山さんがネモトマンになるところ」
伸介の部屋で、カミタマンが伸介に湿布を貼っていた。
伸介「このままじゃマリ、横山のこと、本当にネモトマンと信じて…」
教会で式を挙げるマリと横山。
横山「お兄さん」
伸介は「やだやだやだ!!」と自分の妄想を振り払う。
カミタマン「判った伸介。この際、マリだけには本当のことを言おう」
伸介「えっ」
カミタマン「ネモトマンは伸介だってこと」
伸介「いいのか?」
食卓に来るとマリは不在。
パパ「横山くんに話があるって」
カミタマン「え、伸介こりゃたいへんなことに」
伸介「お兄さんと呼ばれたくないよ」
カミタマン「マリはどこ?」
ママ「公園って言ってたけど」
急いで公園に来た伸介とカミタマン。マリと横山がジャングルジムの前で、見つめ合っていた。
横山「マリちゃん、ぼくがいったい何したって言うの?」
マリ「ネモトマン、よくもあのとき助けてくれたわね」
中学生とローラースケートをしていた、あのとき。
中学生「マリちゃん、カツ丼食べに行こうよ」
現れたネモトマンは中学生を叩きのめす。
マリ「あのとき私、ものすごくカツ丼食べたかったのに、よくも」
横山につかみかかるマリ。
横山「違うーぼくはネモトマンじゃない。ぼくはネモトマンじゃない」
マリ「嘘言わないでよ。見たんだから」
唖然としているカミタマンと伸介。
カミタマン「伸介、女って奴は」
伸介「判らない。いったい何考えてんだ」
立ち去るふたり。マリの横山への暴行はつづくのだった。
【感想】
横山がネモトマンの正体は自分だと偽ってマリに迫るが、実は…という意外な展開を見せる快篇。第28話などを見ていればマリはネモトマンのことが好きなのではと早合点してしまうけれども、マリの頭にあるのはカツ丼のことだったという落ちで、推理物というわけでもないのに見る者を翻弄する展開には驚かされる。
「女って奴は」と劇中で言われているが、浦沢義雄脚本では『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第20話「モンローの純愛物語」や『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第16話「川崎大三郎の秘密」などで、男性に迫られているときは辟易していても去られると怒るという女性像が描かれ、ある種のパターンであった。だが今回のように、食い物の恨みを抱えていたというのはなかなかに異色かもしれない。第26話のような看板落ちもすごいけれども、今回のラストも投げやりでありつつ独創性を感じさせる。
正体を妄想するという趣向は『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第49話「ミステリーサークルの謎」でもあった。
概ねいつもやられていたネモトマンだが今回は中学生をあっさり倒しており、やはり経験を積むにつれて強くなっているのだろうか。
今回は、第28話などと同様に子どもたちを中心に展開する児童劇のスタイルという点でも稀少で面白い。今回のような子どもメインのコメディというジャンルは、90年代までは同じ東映制作の『ビーロボカブタック』(1997)や『テツワン探偵ロボタック』(1998)、円谷プロ制作の『電光超人グリッドマン』(1993)といった例があるが21世紀のテレビカルチャーからは姿を消してしまった(不思議コメディーシリーズにおいても『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』〈1989〉以降は、ある程度の年齢の俳優たちによってドラマが回るようになる)。
無生物が活躍する第19話でも優れた成果を遺した冨田義治監督は、今回は子役たちの演出にも手腕を発揮している。公園や居間のシーンが多くややもすれば単調になりかねない中で、移動撮影を多用したりポーズをとらせたりして巧みに変化をつけているのにも感嘆させられる。
マリが男子中学生に誘われるけれども、偶然なのか冨田演出による『ペットントン』(1983)の第37話「ガン太は根本のお兄様」でもヒロインが中学生に恋していた。
ラストでつかみ合うマリ × 横山と呆れて去っていく伸介とをさりげなくワンカットに収めるあたりも上手い。
男子中学生役は吉田竜也氏。本作以外の出演作が確認できていない。
あんみつ屋のロケ地は東大泉にあった鶴喜で『ネムリン』の第13話「男はつらいよ!玉三郎」や『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の第9話などでも使われている。