わが心のBlog (original) (raw)

久しぶりに映画批評・感想を。
IMAXレーザー鑑賞「**シビルウォー**」を語りたいと想います。なお一度もサイズ変更なく全編IMAXサイズだった。なので初めからIMAX狙いの制作体制だったのかもしれない。その狙いにまずは「いいぞー」と想った。

◉映画全体の感想

言いたいこともあるが
素晴らしい!

はじめに総評を言うなれば上記である。素晴らしい。言いたいことはこのあとに徒然と、ですが。
まず映画には一つでも瞠目ポイントがあれば素晴らしいわけだが、この映画にはそれがある。それは

ジェシー・プレモンス・・


観た人は同意してくれるだろうが、いきなり現れて掻っさらった。彼が現れるだけで最近は映画がリッチになるが、まあ、今回はより一層すごい存在感、いや実存感! 居る感ハンパなし!
フィリップ・S・ホフマンの後継者ついに!であり、今もっともオスカーに近い俳優だろうプレモンス!
しかもキルステン・ダンストとの夫婦共演というおまけ付きだ。この映画はとにかく彼!

詳しくは述べないが、この映画の完全なヘソである
彼を見るためだけでも映画館に足を運ぶ価値は十二分にある。なんでも彼の役は本来の役者が降板し、主演ダンストさんの頼みで出演が急遽実現したらしく、これは映画の幸福という以外ないだろう。
(なお「憐れみの三章」でもジェシー・プレモンスが素晴らしいんだ。3役やってるだけ余計に演技の良さが際立っている)

◉作劇について考える
情報を入れず観に行ったので「案外アートなんだ」とは思った。キャプテンアメリカみたいなマーベル or DC・・と言わずとも割とそっちなのかと思ったら全然ちがい(笑)、アートかつストレートだった。

シビルウォー
自国の内戦もの・・
それも近未来・・

アレックス・ガーランド本人はイギリス人である。しかし「28日後」の脚本家でもあり、**映画作家ならば一度は実現を夢見るだろう**テーマであり、みなが憧れる(?)シチュエーションだ(だって世の「ゾンビ」ものなんてまさにそうなんだし、このテーマみんな好きでしょう)。
監督アレックスガーランドも夢見た一人に違いなくまさに本作で挑んだわけだが、その運びは実にスマートだったので感心した。

まず「誰」を主人公にするか?

という点で「内戦」をテーマとするとどうしても戦士側、そして戦士側の思想を乗せてしまいがちだが、「記者・ジャーナリスト」を中心においた処が慧眼に想う。中立、という立場が観客を自然に誘うし、中立の有り得なさもちゃんと匂わせる。
物語の運びは大変クラシックで「ロードムービー」という箱を使い記者がワシントンへ向かう旅だ。

●箱1. ガソリンスタンド
自警団の存在と「カナダドル」。米ドルのハイパーインフレを匂わせ警察の不能を表す。象徴としてのリバタリアニズムをまず示す
●箱2. 最初の戦いと野宿 夜の「花火」をみせる
●箱3. 難民キャンプのスタジアム 楽しそう。笑
●箱4. 狙撃兵同士の対決に遭遇
ここは「ハートロッカー」さらに言えば「プライベートライアン」の影響がモロで個人的には恥ずかしかったかな。しかも「誰が誰を狙ってるのか」はぐらかすのでちと冷めるポイントだ。結局明かされない
●箱5. アジア人記者仲間との合流
●箱6. ジェシープレモンス劇場!
●箱7. 基地経由のホワイトハウス攻略
ここでもドアーズばりのサントラかかるのでちと恥ずかしくなるの巻。地獄の黙示録かい!

他細かくはあるが(ショッピングシーンとか)大体こんな感じで旅してゆく(はず)。作りとしてはクラシックに徹したのがこの作品の大変見易い点だったし、ヘリや戦車など実写撮影の手腕も素晴らしい。
正直前作「MEN」を個人的に余り良く評価していないのでガーランド監督を私は見直したのだった。

◉作劇について考える2
同時にどこまでも「中心がない」点がこの映画にはある。19州が独立しテキサスとカリフォルニアが結託した「西部勢力」と政府の内戦状態と報される。FBIは解体され大統領は1年以上表にでていないーーそんなシチュエーションは知らされるが、厳密なロジックは語られない。

これは「ずるい」っちゃずるい。
だって先に書いたようにそのあとの「内戦」ディテールは誰もが描きたいはずであり(!)、そのロジックを積むことこそが難しいからだが、同時にこれは

寓話

なのだと理解した。ロジックを積めば描けない、そう判断したとも言えるわけでこれは「お伽噺」なのである。それを裏付けるのが「テキサスとカリフォルニアの連合」という設定だろう。
最右翼州と最左翼州の連合。本来はありえないことを点いた設定であり、つまりこの映画の主眼は

ホワイトハウス

がしたかったのだとわかる。ここがやはり面白い。
10年前の「**エンド・オブ・ホワイトハウス」「ホワイトハウスダウン」(ともに2013年産)がホワイトハウス守る物語であったのに対し、2024年現在では全く逆が描かれる、ということ。
それに今までホワイトハウスを言わば「
」として描くことのタブーを解除した、とも言え、これがまさにA24というレーベルだからこそ可能だった、とも言えるし、A24**的な「くせ」なのだ。

そしてむろん今のムード
政権側への不信と、アメリカを蔽う「分断」・・それらのムードがこの映画を特別なものにしている。

◉ガーランドとA24の悪意
しかしアレックスガーランドっぽく悪意あんなーと思えるのはこの映画が「白人至上主義」な点だ。
これ、ガーランド監督自身があえて仕掛けているわけだが、道中遭遇する兵士ジェシープレモンスのことだけを言いたい訳ではない。オレが注目したのは初老の太っちょジャーナリスト、サミーですよ

彼は映画中、どうなるだろう?ということ。

つまりこの映画では「老人は退場」を意味する上、サミー役**スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン**は黒人の血筋も感じる人物である、という事が重要だ。

即ち「黒人も退場」なのか?、ということーー。

この点にオレなどはいやなガーランドらしさ、もっと邪推すればA24らしさを感じるんだよな。
もっと言おう。もし、彼サミーを純粋な白人とカウントするならば、それこそ車にはホワイトしか乗っていないことにもなる訳ですよ。ここにいやらしさ、もろに黒人としては描かない、ステルスなキャスティングに悪意(よく言えば考え抜かれた狙い)を感じるんですよ、個人的にはね。


絶妙に配置されるスティーヴン・ヘンダーソン

で、本国?
そりゃもちろんヒットするでしょ、と思ったなあ。

ホワイトハウスを襲う、というタブー。
人種間、国籍間のタブーも突く。

そんな「タブーの解除」にそりゃヒットするでしょうに。人間の無意識の潜在意識をつかった、ある意味でゲスくプッシュする映画であり、考えられた戦略を感じる。
それと結局のところ内戦に至ったロジックが有耶無耶なのも前述の通り残念ではあるが、まあこうなるともはや「愛嬌」とも言え、そういう点もガーランドでありA24的な作品なのだった。

◉追伸トピック
最後に蛇足ながら、**ナイコンNikon)FM2
戦場カメラとしてフィルムカメラの名器が登場するのはいいんだが、あのさ、「
夜、映らねえから**」!

映ったとしてもブレッブレだから! 手ぶれ補正も超高感度フィルムもましてやオートフォーカスもないのですよ、最新のデジタルカメラと同列で撮ってんのどうなのよ!とは思いました、とさ。

冒頭に書いたように素晴らしく、今年を代表する衝撃作の一本でしょう。
IMAXのサイズで最後までいく映画ですし、大画面大音量での鑑賞をオススメします。