きのうのワイン+映画「ようこそ映画音響の世界へ」「離ればなれになっても」 (original) (raw)

チリの赤ワイン「エスクード・ロホ・レゼルヴァ・カベルネ・ソーヴィニヨン(ESCUDO ROJO RESERVA CABERNET SAUVIGNON)2022」

フランス・ボルドーメドック格付け第一級、シャトー・ムートンを手がけるバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドがチリでつくる「エスクード・ロホ・レゼルヴァ」シリーズの1本。

フランスで培われた技術をもとにチリで育まれたカベルネ・ソーヴィニヨン100%の赤ワイン。

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたアメリカ映画「ようこそ映画音響の世界へ」。

2019年の作品。

原題「MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND」

監督ミッジ・コスティン。

音響効果スタッフとして経験を積んだ監督が、ハリウッド業界人の協力を得て映画音響の歴史と魅力を伝えてくれるドキュメンタリー。

1927年に初めての本格トーキー映画「ジャズ・シンガー」が誕生。それ以降、映画音響は進化をたどる。ジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグソフィア・コッポラデヴィッド・リンチアン・リークリストファー・ノーランライアン・クーグラーなど、著名で独創的な映画監督たちが映画の“音”へのこだわりや芸術性を語るほか、映画の“音”において大きな影響をもたらした名作映画を振り返り、知られざる映画音響の歴史に迫る。

裏方として名作映画を手がけてきた音響技術者たちが明かす、実際の創作と発見。

たとえば、俳優たちのセリフを現場で録音しても、実際には風の音など余計な音が多いため、不要な音を除去したり、セリフをスタジオで再録するアフレコが必要になったりする。

ロバート・レッドフォードの初監督作「普通の人々」(1980年)では、撮影場所が空港近くの倉庫で騒音がひどく、10分のシーンを完成させるのに、ノイズや飛行機の音を除去するため数週間をかけたという。

効果音で使われるもののひとつが「特殊効果音」。

トップガン」(1986年)では、迫力あるジョット機のエンジン音を出したかったが、実物のエンジン音は意外と弱々しいものだった。そこで、ライオンやトラ、サルなど動物の鳴き声を重ねることで鋭く激しい音に加工していった。

映像に臨場感を与える「フォーリーサウンド」というのもある。

雪の上を歩いたり、水場で取っ組み合うといったシーンでは、フォーリーアーティストと呼ばれる人たちがスタジオ内で氷の上で足踏みをし、濡らした布を丸めたり引っ張ったりの動作を行う。俳優と同じように、場面に合った動作をすることで、さまざまな音をつくり出していく。

特殊効果音の好例が、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮をつとめた「ジュラシック・パーク」(1993年)。

姿だけでも迫力満点の恐竜だが、それをより恐ろしくするのが鳴き声。

しかし、恐竜の化石は存在していても、だれもその鳴き声を聞いた人はいない。そこで、試行錯誤のうえ映画で使われた声の正体は意外な動物の声だった。

いくつかの動物の鳴き声を混ぜてつくられていて、その動物とは、犬・ペンギン・トラ・ワニ・ゾウ。この5種類の動物の鳴き声を絶妙にミックスして恐竜の声がつくられたという。

本作では触れられていないが、この映画で音響デザインを担当したゲイリー・ライドストロームによれば、恐竜のうなり声は、カメが交尾する音を録音してつくったという。

映画では、やはり肉食のヴェロキラプトルがキッチンの窓から顔をのぞかせるシーンがあるが、ライドストロームによれば、「荒々しい息は馬の声。馬の声はほかにも3、4種類の恐竜に使用されている」と音の正体を明かしている。

さらに、恐竜の王者ティラノサウルスには、ライドストロームの愛犬で、ジャック・ラッセル・テリアのバスターの鳴き声が使われているという。バスターが、縄のおもちゃにくらいついて左右に振る様子が、まるで恐竜が獲物をかみ殺しているように見えたところからアイディアを得たのだとか。

本作で、映画の効果音のつくり方を見ていて思ったのは、今から50年も60年も前の日本のラジオ・テレビの効果音のつくり方と「まるで一緒じゃないか」ということだった。

NHK音響効果チーフディレクターの大和定次氏が書いた「音作り半世紀 ラジオ・テレビの音響効果」という本がある(2001年発行)。

同書は、「ナマオトの魔術師」と異名をとったNHKの元名物音響効果マンが、今まで秘伝とされてきた音づくりの至芸を一挙公開。ラジオのナマ放送しかなかった終戦直後からの音づくりの苦労を綴っている。

この本を読むと、意外な方法で、いかにもそれらしい、いや、ホンモノよりもホンモノらしい音をつくっていて、ナルホドとうなるばかり。

ラジオやテレビが生放送だった時代、効果音はどうやってつくられ、放送されたか。

たとえば波の音。長さ170㎝、深さ40㎝ぐらいの横長、竹製のザルに渋紙を貼り、その中に小砂利、小豆や米粒などを入れ、ゆっくりと前後左右に傾斜させ、ザルの中の小砂利などを「ザーア・ザーア」と移動させる。じつにしみじみとした波の音が出現する。

一瞬、上下、横に強く振ると「ザ・ザブーン」という、波打ち際に砕ける波の音に変化する。

「燃える音」はどうするか。スタジオではものを燃やすのは禁止。どうしたかというと、包み紙、セロハン、ポリ袋、アナログテープの屑などを上手に揉む。かなりいい感じの燃える音となる。焚き火の場合は、これに小枝や割り箸を折ったりして燃える音にプラスする。

料理の音をつくる最も有名で古典的なものに、電気アイロンがある。

濡れた厚手の布に電気アイロンを「ジュウ~」とあてる。あて方によって豚カツ、すき焼き、焼き飯などができあがる。

実際に鍋やコンロを使って焼いたりしたこともあったが、放送での効果はイマイチだったという。ホンモノがいいとは限らないのが音響効果のおもしろいところなのだという。

録音機がないラジオの生放送の時代、蒸気機関車(SL)の音はスタジオでどう再現したかというと、楽器のチューバと酸素ボンベが使われた。チューバに息を吹き込んで「シュッ・シュッ」の音を出し、酸素ボンベで蒸気の音を「シュー」と鳴らしたのだとか。

ほかにも、NHK大河ドラマで弁慶が薙刀を振り回す音は、ヘリコプターのプロペラが風を切る音。着陸して、エンジンを止めた状態のプロペラの回転音を加工すると、すごい迫力の薙刀の音となる。さらに重いものを持ち上げるので弁慶の高下駄が地面にめり込む音は、木綿の袋に片栗粉を入れて手で揉むと「ギュッギュッ」と雪の上を歩く音になるので、この袋を手で長めに「ギュー」と揉む。すると弁慶の高下駄が地面にめり込む音になるという。

カエルの鳴き声は赤貝の背中と背中をこすり合わせて出すし、クツワムシの鳴き声は、マッチ箱ぐらいの大きさの金属の箱の中にレコードの鉄針を20本ほど入れ、「ガチャガチャ」と振ると、ホンモノそっくりのクツワムシの鳴き声になるのだとか。

大和氏はテレビの連続ドラマの音響を担当したとき、香木「伽羅(きゃら)」の香りを効果音で表現したこともあったという。一体どんな効果音だったのだろう?

ハイテク時代の効果音づくりと、ラジオ創世記のころの音づくり。まったく変わってない。今も昔も、音づくりの苦労とそのおもしろさは同じということか。

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたイタリア映画「離ればなれになっても」。

2020年の作品。

原題「GLI ANNI PIU BELLI」

監督ガブリエレ・ムッチーノ、出演ミカエラ・ラマツォッティ、ピエルフランチェスコ・ファビーノ、キム・ロッシ=スチュアート、クラウディオ・サンタマリアほか。

1982年、ローマ。パオロ、ジュリオ、リッカルドの親友3人組は、16歳と青春真っ盛り。パオロは同級生の美しい女性ジェンマと恋に落ちるが、母親の急死を機にジェンマはナポリへ移住することになり、2人は泣く泣く別れる運命に。

7年後、折しもパオロ、ジュリオ、リッカルドの3人がそれぞれ教師、俳優、弁護士として社会への一歩を歩み出したところへ、ジェンマが再び姿を見せ、彼らの人生はまたもや交錯する・・・。

ジェンマに恋したパオロら仲良し3人組の男たち。そんな彼らが出会いと別れを繰り返しながら、40年もの長きにわたってくっついたり離れたりしながらの流転の人生を歩み、大晦日にみんなで集まって昔を懐かしむまでを描き、イタリアでは3週連続で興収第1位になるなど大ヒットを記録した。

原題の「GLI ANNI PIU BELLI」とは、「最良の年」とか「最も美しい年」といった意味か。

それは、熟年に達し分別のついた50代の今なのか、無鉄砲で多感な16歳の昔なのか?