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神国日本の甦り(10) (『解脱』 平成21年11月)“科学の知”と“神話の知” 平成十六年の「建国記念の日」のことです。私は橿原神宮で、ある有名な神社の権宮司さんと、はじめてお会いしました。 その時、その方は、私に、こうおっしゃいました。「先生がお書きになった『やまと心のシンフォニー』(注・現在は、改題して『神々の日本史』経営科学出版)…、若い神職たちに読ませているんですよ。なにしろ・・・、ああいう本が、なかなかないものですから・・・」。 私にとっては、まことにうれしいお言葉でしたが、しばらくすると、「はて…、喜んでばかりいていいのかな?」と思うようになりました。それは裏をかえせば、“目には見えない肝心なことを「心」で見ようとしている人が書いた本”は、今は、それだけ少ない…ということを、意味しているかもしれないからです。 今の日本の大学や研究所で、歴史や文学の研究をしている人々のなかで、日本の「神代の物語」を〝心〟で見ようとする人は、残念ながら、多いとはいえません。どちらかというと、それを「文献」という〝物〟としてしか、見ていない人が多いようです。 それは、つまり読む者の「心」と「神代の物語」が…、また「今」と「神代の物語」が、ばらばらに切り離されている…ということを意味しています。それでは、「神代の物語」が、〝死んだもの〟になってしまいます。 「それではいけない・…」という思いで、私は、『やまと心のシンフォニー』とか、『夜の神々』などという本を書いたのですが、私のような者が、一・二冊の本を書いたところで、世の中が、そう簡単に変わるものではありません。 「どうしたものか…」と思っていたところ、近年になって、ようやく民族学、神話学、心理学などの学問分野から、「神代の物語」を〝生きているもの〟としてとらえようとする本が(少しずつではありますが…)、あらわれはじめました。 たとえば、かつて文化庁長官をつとめられていた河合隼雄さんの『神話と日本人の心』もその一つです。 河合さんは、日本にはじめて本格的なユング心理学を紹介した学者として知られていますが、平成十五年にその本を出版されました。残念ながら、それから四年ののち、河合さんは七十九歳で死去されていますが、その学問は、今も多くの人々に影響を与えています。 「神話」というと、すぐに「軍国主義につながる」などという人が多い戦後の風潮を考慮されたのか、、河合さんは、それまでは、「物語」や「昔話」や「ファンタジー」などを対象にして、それらを心理学的な視点から語っていたそうです。 けれども八十歳をまえにして、ようやく長く課題として暖めてきた「日本神話」を正面からとりあげようと考え、ようやく、その本の出版にいたったと、おっしゃっています。 この河合さんの本のポイントを、池田雅之という早稲田大学の先生が、こんなふうにまとめています。「本書(『神話と日本人の心』」は、古代の曰本神話の中に現代人の心の深層を探り、神話から私たちがこの現代社会を生き抜いてゆくためのヒントを得ようと意図されている。私たちが『いま』を生き抜いてゆくには、ものを分析し、分離する『科学のの知』だけではだめなのだ。ものや人をつなぎ、はぐくむ『物語の力』や『神話の知』が必要なのである」(『産経新聞』平成十五年十月 十二日) 「科学の知」は、近代文明の基礎です。「科学の知」は、分析し、比較し、数値化し、法則化し、やがてそれを応用します。 そのおかげで、今の日本は、これほど「便利」になったわけですから、私は、けっしてそれを否定しようなどとは思っていません。「料学の知」は「科学の知」としてこれからも、変わらずに尊重されていかなけれぱならないものです。 けれども、世の中にはそれはちがう、もう一つのタイプの〝知〟があります。 それが「神話の知」とか「物語の知」と呼ばれるタイプの〝知〟です。(つづく) by matsuura_mn
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