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みたみわれ 皇室と国民(17) 美しい祈り (『解脱』令和2年5月) 上皇、上皇后両陛下の、戦後という時代との“戦い”の方法は「祈ること」の他に、もう一つあります。 それは、国民に「寄り添うこと」です。御在位中、両陛下は、思いもかけない天災で命を落とされた方々の御霊や、不幸にみまわれた方々の心を慰め、励ましつづけてこられました。多くの国民にとって、今も記憶に残っているのは、平成二十三年の東日本大震災の時の、被災地への御訪問でしょう。 私の手元の記録では、両陛下は、すでに三月十五日には皇居の自主停電をはじめられています。翌十六日、異例の「ビデオ・メッセージ」を発せられ、早くも三月三十日には、東京武道館の被災者のもとに出向かれています。以後、埼玉県、千葉県、茨木県、宮城県、岩手県と…、御訪問はつづき、五月十一日には福島県を訪問されます。 この間、七回、つまり…ほぼ週に一度というペースです。 両陛下は、あのお歳で・・・、あのお体で、本来、若く屈強な人々が乗るための自衛隊のヘリコプタ―で、東京と被災地を、「日帰り」で往復されています。 なぜ「日帰り」なのか…、それは、被災地の人々に余計な負担かけまい・・・・との、お考えからです。しかし、そのような過酷ともいえる御精励が、上皇陛下のお体にさわったのでしょう・・・、そのあと東大病院に御入院という事態にいたりました。 両陛下の御訪問は、まさに身を挺された“戦い”であったといえます。被災地を訪問されるたび、両陛下がガレキに向かい、深々と一礼されている写真や動画は、今も多くの国民が記憶しているはずです。そのような両陛下のお姿は、戦没者の慰霊のさいにも、しばしば見られたものですが、その一礼は、じつはすべて〝祈りのお姿〟ではなかったか・・・と、私は思っています。 両陛下の一礼は、いつも以下のように行われます。 まず天皇陛下が低頭されはじめられる…すると、一瞬おいて皇后陛下が低頭されはじめ、両陛下が深々と低頭されると、しばらく時間が止まり、次に天皇陛下が頭を上げはじめられる・・・すると、一瞬おいて皇后陛下も頭を上げはじめられる・・・。そういえば、平成十七年のサイパン島への慰霊のさいも、両陛下は、紺碧の南の海のかなたの崖に向かい、深々と一礼されていました。 私は、あの動画を見るたびに、まぶしい光の海に漂う〝民族の荘厳な悲しみ"とでもいうべき、何かを感じずにはいられません。東日本大震災のさいの両陛下の一礼も、もちろん、まずは被災して亡くなられた方々の御霊安かれ…との祈りであったでしょうが、その時は、天の神々 地の神々・・・海の神々に向かって、「お怒りを鎮めください」という祈りも、ささげられていたのではないでしょうか。人が祈る姿は、そもそも美しいものですが、あれほど美しく崇高な“祈りのお姿〟を、私は他に知りません。 両陛下のそのような祈りのお姿には、神武天皇以来の、祈りの経験の深みと高みが、疑縮されているような気がします。いわば“万世一系の祈り"の一つの極致が、あの〝祈りのお姿〟なのかもしれません。(つづく) by matsuura_mn
2023-06-02 06:02
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