『日本列島はすごい』by 伊藤孝 (original) (raw)
『日本列島はすごい』
伊藤孝 著
中公新書
2024年4月25日 発行
日経新聞、2024年5月18日 朝刊の書評 で紹介されていた本。
記事では、
”**松尾芭蕉**が「岩にしみ入る」と詠んだのは、東北中央部にみられる多孔質の火山性岩石に囲まれ、音がくぐもったからだ。地学教育の専門家が、1500万年前にほぼ現在の位置に収まった島国の成り立ちを解説する。「すごい」は恐れをも含む。大地震の恐怖を知る我々も、旧石器人が経験した巨大噴火は想像しがたい。「日本列島という『じゃじゃ馬』をまったく乗りこなせていない」との自覚は忘れずにいたい。(中公新書・1012円)”とあった。
マニアックそう。
でも、何を隠そう、、、、私は大学時代に農学部農芸化学の土壌学研究室に属していたことがあり、実は地層とか、土とか、、、ものすごく詳しくはないけど興味がある。土の三相分布や微生物の分布、NPKといった栄養、微量金属類の分析等々、、、結構、マニアックなことをしていた時代もあるのだ。
と、土壌と日本列島とでは、規模感が違い過ぎる、、、けれど、、、地球という惑星の陸地と言われる部分の一部が日本列島であり、その表層に土壌があるということで、、、無関係ではない、、、かな?!
表紙をめくると、
”14000の 島々が連なる 日本列島は、 ユーラシア大陸の東縁で その土台ができ、 やがて分離。3万8000年前に人類が上陸し、歴史を紡いできた。 変化に富んだ気候が豊かな資源を生み、 国土を潤す。 本書は時空を超えて、島国の成り立ちと形を一望し、水、火、塩、森、鉄、黄金が織りなした 日本列島史を読み直す。 天災から命を守り、 資源を活かす暮らしとは。地学教育の第一人者が、列島で生きる醍醐味を優しく解説する。”と。
著者の伊藤孝さんは、 1964年、宮城県生まれ。茨城大学教育学部教授。茨城県地域 気候変動適応 センター運営委員。山形大学理学部地球科学科卒業。 筑波大学大学院 地球科学研究科博士課程修了。 博士(理学)。 専門は 地質学、 鉱床学、 地学教育。
目次
まえがき
序章 日本列島の見方
第1章 かたち 14000の島々の連なり
第2章 成り立ち
第3章 火山の列島 お国柄を決めるもう一つの水
第4章 大陸の東、大洋の西 湿った列島
第5章 塩の道 列島の調味料
第6章 森林・石炭・石油 列島の燃料
第7章 元祖 「産業のコメ」 列島の鉄
第8章 黄金の日々 列島の「錬金術」
終章 暮らしの場としての日本列島
あとがき
感想。
おもしろ~~~~い!
マニアック!!!!
でも、日本列島ってすごい!っておもっちゃう。楽しい。
なんでも、いまでも金がとれるらしい!!佐渡金山でおしまいかと思っていたら、ちがうじゃないか!いまでも、唯一残っている日本列島の金山は、鹿児島県伊佐市にある菱刈(ひしかり)鉱山だそうだ。調べてみたら、**住友金属鉱山株式会社の鉱山**だった。へぇぇ。。。
まえがきでいきなり ポルトガルのアヴェイロ という町の話が出てくる。著者が数か月滞在し得た街で、通りの住宅の3階、4階の窓枠に、植木鉢が並んでいて、いまにも落ちてきそうで怖かった、という話。
わかる!!!
地震のない国では、日本人がこわい!と感じるような場所にものを置く。スーパーの棚だって、ガラス製のびんだろうと、なにかの箱だろうと、これでもかという位高いところまで積み重ねてある。日本では、「落下防止、転倒防止」は震災対策の基本であって、絶対に高いところに地震で落ちてきて危険なものはおかないだろう。でも、、地震のない国は、そういう感覚がゼロ。
そう、私たちは、日本列島という場所に住んでいて、四季があったり、雨がふったり、地震があったり、はたまた火山があって温泉があるなど、当たり前と思っていることも、実は、世界では当たり前ではないのだ。
本書を読むと、そうだった! 私が、日本列島という陸地に住んでいるんだった!ということを思い出させてくれる。
様々なデータ、地図がふんだんに掲載されていて、新書ながらなかなかの充実感。そして、一般の人にもわかりやすく、楽しく説明してくれている。
松尾芭蕉が「おくのほそ道」をあるいて、詠った場所の多くは、山、川、海・・・・の形式。もともと三重県出身の芭蕉は東北の景色に魅了された。それは、1500万年前には海で、それ以降陸になった「若い」景観だった、と分析している。
面白い。。。
松尾芭蕉のたどった道、魅了された景色を地球スケールで分析している!
専門用語として印象に残ったのは「**コリオリの力**」。えーーっと、どこかで聞いたことある。
重力と自転から生じる。回転体の上を異動する物体に働く力。
地上付近の風は、コリオリの力の影響をうけているので、ウサイン・ボルトの世界陸上9秒58秒という記録をだしたときのコリオリの力は、、、、と、マニアックな話が、面白い。コリオリの力は極で最大、赤道でゼロになる。船が太平洋を渡る時、目的地へまっすぐの線を引かずに、ちょっとずらして航路をとるのも、コリオリの影響かな?
海の塩はどこから???という話では、「海底の臼が回り続けて、、、」という昔話があるけれど、、、そういうわけではない、と。Naというのは、さまざまな鉱石に含まれていて、それが、しみ出す。。であれば、どんどんしょっぱくなるのかというと、そうでもない。塩は塩析して、陸に露出するので、海の塩分濃度はほぼ一定、、、なのだそうだ。
ちなみに、約600~500万年前、ジブラルタル海峡が閉された時には、地中海が干上がったそうだ。。
天然資源に乏しいと思われている日本だけれど、もともとは石炭が取れていた。夕張鉱山だって、、、かつては石炭で栄えていたわけだ。日本では塩といえば海水をにつめて取り出すということが古くからおこなわれていた。日本の塩生産の9割は瀬戸内海で、地元の花崗岩製の石窯がつかわれ、燃料は薪だった。しかし、1770年代ころから石炭焚きが一般的になり、あちこちで石炭が取られた。薪から石炭に変わったのは、森林資源が枯渇したわけではなく、石炭の方が値段がやすかったのだそうだ。
石炭に恵まれ、米もつくれた日本は、江戸時代の人口は約3000万人。世界人口は約6億人の時代。なんと、世界の20人に1人が、日本人だった時代があったのだ!びっくり!ちなみに、現在は、約2%。50人に1人が日本人だそうだ。
日本列島は、すごかったんだなぁ。。。。
他の土地でも人が増えて、日本人の率が減ったのは、化学肥料などの農業革新の影響があるのかもしれない。
日本列島というのは、新しい変動帯にある陸地。安定大陸は、岩石が風化され土壌が形成されたあと、なかなか更新されない。それに比べて、新しい変動帯は、岩石がかきまぜられ、風化していない岩石が地表に現れるチャンスが大きい。火山噴火、断層運動、地すべりは、そういったチャンスとなる。そして、露出した岩石が風化すると新たにミネラルが供給される。
日本列島は、地球の歴史から見ると、まだまだ若いのだ!
最初に述べた、「菱刈金山」は、金の品位では世界でもトップクラスなのだという。1989年にとうとう閉山した佐渡金山は400年の歴史で、総計83トンの金が得られたらしい。菱刈金山は、1985年に出鉱が始ま、わずか12年で佐渡の400年の歴史を抜き、さらに2020年で250トンに迫り、今も採鉱が続けれている。菱刈金山は、様々な天然の条件が重なり、浅熱水性金鉱床として生成された。まさに、天と地と水の共同作業のたまものなのだ。
いやぁ、マニアックだけれど、面白かった。
改めて、日本で思っているあたりまえも、地球の中ではできたての陸だからこその特徴なのだということを知った。
海に囲まれた日本列島。
自然の宝庫だよ。
そして、まだまだ、若いのだよ!!
だから、人間もまだまだ、若い世代に住んでもらいたいものだ。
地球時間で考えると、人類の歴史はほんのちょっぴりだけれど、大陸という時間軸で考えると、日本列島も出来立ての赤ちゃんみたいなもの。だから、これからも変化が起こりえる。今も、活火山は活動している。地球は生き物なのだ。日本列島は、生き物なのだ。
日本列島という素晴らしい地球の資源を、私たちは当たり前に思っているけれど、これからも変化し続けるということを忘れてはいけない。この変化し続けている日本を、もっと楽しもう!