ブラームス ピアノ四重奏曲第2番 (original) (raw)

音楽を聴く際、私は自分で選んだものをCDで聴くことを好み、家人は、特にこれと選ぶことなく、ラジオから流れてくるものを聴くことを好む。体系的に聴くには前者が良いだろうが、後者にも、思いもかけず知らなかった曲と出会う喜びがある。

少し前の日の午前中のこと、外出から戻るとラジオから魅力的なピアノと弦楽器の合奏が聴こえてくる。「なにやらフォーレのようだな」とも思ったが、知らない曲だ(フォーレのピアノの入っている室内楽曲は一応すべて知っている)。誰の曲かしら、と思って聴き入るがどうしても作曲家がわからず、焦燥感にも駆られてインターネットの番組表で調べると、ブラームスのピアノ四重奏曲第2番であった。確かに、このジャンルの第1番は聴いたことがあるが、第2番と第3番は聴いたことがなかった。「ブラームスが好きと言うくせに、不勉強だな」と自省しつつ聴き入っているうちに始まった次の楽章は、なるほど、ブラームスらしい諧謔に満ちている。「素晴らしい曲だな」と耳を傾けるうちに、見事なフィナーレを迎えた。

この曲自体が気に入ったことと、そもそも聴いたことがなかったことを少々反省する気持ちから、終わるとすぐにYouTubeに向かい、検索をかけて、とりあえず見つけた演奏で冒頭から聴いてみた。ラジオでは聴けなかった第1楽章、第2楽章も実に素晴らしい。囁くような動機で始まり、それに応える美しいチェロのメロディーで始まる冒頭からして、心が捉えられてしまう。かなり長大な曲だが、動機や旋律に加えられる変化も好ましく、飽きることがない。第2楽章は、ブラームスらしい穏やかな旋律に満ちており、心が慰められる。「フォーレかしら」と思った第3楽章は、穏やかでありながら溌溂とした若さに満ちている。第4楽章は、ウィーンの酒場はこんな感じかしら、と思うような諧謔とエネルギーをたたえて、聴くものの心を惹きつける(彼のヴァイオリン協奏曲の第3楽章を、少しだけ思い出させる)。

Wikipediaによれば、ブラームスの生前には最も人気があった室内楽曲とのことだが、そうだろうな、と思う。

実際の演奏は、とりあえずこちらから。

https://www.youtube.com/watch?v=xPlp-UAW1wY

以下、この、作曲者の若さと情熱をそのまま反映するかのごとき名曲を聴いていて心に思い浮かんだことをいくつか。

まず、ブラームスは動機を歌のように扱うことが本当にうまいと思う。もちろん彼は見事なメロディーメーカーなのだが、その心が、動機の扱いにもそのまま現われている。彼の動機を聴いていると、ごく近しい人の細やかな内心の吐露の囁きを聞いているかの思いに誘われ、まだ動機に加えられる様々な変化は、そうした人の心の揺らぎを映しているかのようだ。

また、この曲は、その長大さ(50分ほどかかる)や、動機が先行する印象を与える点、そして最終楽章の諧謔性などから、シューベルト室内楽曲を思わせなくもない(彼の弦楽五重奏曲など)。ブラームス、多少はシューベルトを意識していたのかしら、とも思う。

ところで、「フォーレかしら?」と思ったのは、国からして違うのだから外れも外れのわけだが、それでも、自分の勘をどこか信じたいところもある。和声的な知識などがあれば、そうした自分の直観を吟味できるのだが、それができない点が口惜しい。

上ではYouTubeのものを挙げたが、可能であれば、リヒテルボロディン弦楽四重奏曲のものを聴いてみてください。余計な装飾を排して曲の本質に迫るもので、室内楽の名演とはこういうものを指すのではないか、と言いたくなります。

M&M's

※ 遅れに遅れて5月11日執筆。充実した毎日ではあります。あと、「家ではお酒を呑まない」というルールはやめて、多少の晩酌はOKとしているのですが、少しお酒が弱くなったのか、少量で気分が良くなるので、うまく酒量を減らしたいところではあります。