七つの世界の旅人 (original) (raw)

争いに疲れた、歩き疲れた、私はどこに行くのだろう…どこまで行けば私は楽園にたどり着けるのだろう…。そう考えながら、物語の主人公である17歳の少女、フィニステール・シグルミリアは荒野をひたすら歩いていた。背中まで伸びる長い白髪、非常に整った綺麗な顔、宝石の様にキラキラした緑色の瞳が特徴の剣士であり、服装は白一色、武器は左右に携えたズィルバーとアルジェントと言う名の銀の剣であった。フィニスは1年前まで神聖ドラグニア王国ドラグニア騎士団に所属する若きエースであり、そこで多くの戦を経験し、多くの敵の命を奪っていた。若きエースともてはやされ、将来の期待されるフィニスであったが、彼女は長く続いた争いで心身共に疲れ果て、ある日の夜、荷物を纏めてドラグニア王国を抜け出し、一人流浪の旅に出た。それから1年、フィニスは様々な場所を旅し、この世界の現実を見て来た。貧困に苦しむ国、疫病の蔓延した国、そして争いの続く国…。

「この世界に…楽園なんてないのかしら…」

もしかしたらこの世界に楽園などないのかもしれない。それでも、フィニスはこの世界にきっと楽園があるはずだと希望を持って旅を続けていた。そんなある日、フィニスは謎の洞窟にたどり着き、中を探索した。洞窟の中は思ったよりも広く、その洞窟の中には一つの神殿があった。

「こんな所に神殿…? 一体何の神殿かしら…?」

いつ頃作られたか分からない神殿、フィニスがその神殿を眺めていると、後ろから若い少女の声がした。

「あなたは…旅人さんですか…?」

フィニスが後ろを振り向くと、そこには自分より少し年上ぐらいの少女が立っていた。長い金髪に、赤い瞳の可愛らしい少女。服装は黒のロングスカートに黒の服の上からクリーム色のカーディガンと言う服装であり、とても旅人には思えなかった。彼女が何者なのか気になったフィニスは、とりあえず自己紹介をした。

「えっと…私はフィニステール・シグルミリア、フィニスでいいわ、あなたは?」
「私はメモリア・アニバニウム、この七世界神殿の25代目の巫女です、メモリアと呼んでください」

七世界神殿…メモリアはこの神殿の巫女を代々務めている家系なのだろう。それよりも、フィニスは七世界神殿に興味があった。この七世界が別の世界を意味するのなら、きっとここに自分にとっての楽園があるはずである。そう思ったフィニスは、七世界神殿について聞く事にした。

「ねえ、この神殿って、一体何の神殿なの?」
「ここは他の世界に行く事の出来る石板が7枚収められた神殿です、300年ほど前にはもっとあったらしいんですけど、地震で何枚か割れてしまったようで、現在残ったこの7枚の石板を収めているんです」
「他の世界って…私も行けるかな?」
「どうでしょう…ここ10年、何人かこの神殿にたどり着いた方がいたのですが、行けた方は1人もいませんでした、多分あなたも無理でしょう」
「でもそれってさ、やってみないと分かんないじゃない?」

そう言ってフィニスは1枚の石板に触れた。すると、石板は眩く輝き、神殿を光で照らした。まさかこんな事になるとは思わず、フィニスもメモリアも驚きを隠せずにいた。

「フィニスさん…あなたは旅人としての素質があったのですね…! ありがとうございます! これでやっと巫女としての仕事を…」
「ねえ、これってこの光の中に飛び込めばいいの?」
「ええ、そのまま飛び込んでください」

フィニスはメモリアに言われた通り、光の中に飛び込み、メモリアも後を追うように光の中に飛び込んだ。光の中に飛び込んだ直後、意識はふっと途絶えたが、次に目が覚めた時、フィニスは見た事もない場所にいた。そこは街とも村とも違う場所であり、四角く大きな建物が並び、地面は石で覆われ、土のある場所はなく、金属でできた乗り物がその辺を走っていると言う、自分の居た世界ではありえない状況であった。

「何…ここ…?」
「ここは銃と剣の世界ですね」
「銃…? 剣は分かるけど…銃って何…?」
「そんな事、私にも分かりませんよ」
「てか、あなた付いてきたのね…」
「ええ、巫女の仕事は、旅人さんのサポートをする事ですから! 私はもう19歳で、20歳になったら次の代に交代させられるので、フィニスさんが来なかったら仕事をする事なく交代だったのですよ、本当にありがとうございます!」
「お礼なんていいわよ、私、こんな貴重な体験ができるだけで嬉しいもの!」

しかし、街の人々はフィニスの服装が珍しかったのか、じろじろと見ていた。メモリアは一般人の服装ではあるが、フィニスの服装は腰や腕、肩に金属のアーマーを纏っており、額には額当てを装備しているなど、明らかに周りからは浮いている。フィニスはあまりにじろじろと見られるので恥ずかしくなったが、市民の一人がフィニスに話しかけてきた。

「ねえねえ、それって何のアニメのコスプレ? 可愛いね」
「えっ? コスプレ…? これはドラグニア騎士団の制服だが…」
「ドラグニア騎士団…? それって何かのアニメ?」
「アニメ…? え…えっと…」

この市民はフィニスの知らない言葉を次々と言う為、フィニスからすれば外国語に聞こえ、混乱した。それと同時に、他の世界には自分の知らない物が沢山ある事に気付いた。その時、フィニスと会話していた市民の後ろに怪物が現れた。半魚人の様な見た目のその怪物は鋭い爪を振り上げており、危険を察知したフィニスは市民を突き飛ばし、左右に携えたズィルバーとアルジェントを抜き、怪物の攻撃を受け止めた。

「痛いなぁ…いきなり何を…って…エイリアン!? うわぁぁぁっ!!!」

市民は一斉に逃げ出し、あっという間に街中にはフィニスとメモリア、そしてエイリアンと呼ばれたこの怪物だけになった。この半魚人の様なエイリアンは力が強く、何度も死線をくぐり抜けたフィニスを苦戦させていた。

「こいつ…! 何て力だ…!!」
「フィニスさん! 援護します!!」

フィニスは中級氷魔法、アイシクルアローの魔法を詠唱して氷柱を生成し、その氷柱で半魚人エイリアンを攻撃した。氷柱は半魚人エイリアンの左腕を吹き飛ばし、半魚人エイリアンはあまりの痛みに苦しんでいた。

「ありがとう、メモリア! これなら行ける!!」

フィニスは右手に装備したズィルバーで半魚人エイリアンの右腕を切り落とすと、続けて左手に装備したアルジェントで半魚人エイリアンの首を刎ねた。頭を失った半魚人エイリアンは地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

「予想外の事態でしたが、何とかなりましたね、フィニスさん」
「ああ、メモリアのおかげだ、ありがとう」

その直後、1人の女性がフィニスに近づいてきた。その女性は長く黒い髪と赤い瞳が特徴で、無表情ではあるが、可愛らしい顔付きをしていた。服装は白のブラウスと黒のロングスカートであり、腰には射撃武器と剣が一体になった武器を携えていた。

「そこの白髪、お前はエージェントなのか?」
「え? エージェント…? 何それ?」
「知らないのか…変わった奴だな…エージェントって言うのはエイリアンを倒す役目を背負った人間の事だ、このプラムシティは日夜エイリアンのせいで事件が起きていて、エージェントがエイリアンを倒しているんだ」
「なるほど…そんな危険な世界なんだな、ここは」
「ん? 世界? お前はこの世界の人間ではないのか?」
「ああ、言っても信じてもらえないだろうが、一応私は別の世界の出身だ」
「ふ~ん、変わった人間もいるんだな、で、お前は何故この世界に来たんだ?」
「それは…」

フィニスは見ず知らずの女性に自身がこの世界に来た理由を伝えた。元の世界が争い続きで心身共に疲れ果て、楽園を探して旅をしている事を。そして、七つの世界の内のどれかに楽園があるのではないかと思っている事を。すると、その女性は静かに語った。

「お前が居た世界がどんな世界か、私には分からない…だが、少なくともこの世界はお前にとって楽園ではないだろう」
「それは何故だ?」
「お前のその服装、相当文明レベルが遅れている世界から来たらしいな、文明レベルが遅れている人間がこの世界に来たら、覚える事が多すぎて苦労する、今の社会は生活するだけで地獄だからな、それに、この世界にはエイリアンがいる」
「エイリアン…さっきの化け物か…」
「ああ、このプラムシティでも数ヶ月前、レディスと言うエイリアンが暗躍して、プラムシティを混乱に陥れた事があってな、それに、今も定期的にエイリアンが出没している、少なくともこの世界はお前の嫌いな争いや人死にで溢れている世界だ、お前の言う楽園とは程遠いだろう」
「そうか…残念だな…」

すると、フィニスとメモリアの体が半透明になっており、少しずつ消えかかっていた。どうやら、この世界はフィニスにとって楽園ではなかった為、元の世界に帰りかかっているのだろう。

「フィニスさん、そろそろ元の世界に帰るみたいですね」
「名残惜しいな…そうだ、名前を聞くのを忘れていたな、私はフィニステール・シグルミリア、こっちはメモリア・アニバニウム、君は?」
「私か? 私はツチハ、少しだけしか会えなかったが、お前、面白い奴だな、またいつか会いに来い」
「ああ、必ず、必ず会いに来る」

そう言ってフィニスとメモリアは元の世界に帰って行った。一人残されたツチハは、空を見上げてかつて自分を生み出した人物の事を思い出していた。

「楽園…か…レディス、お前にとっての楽園は、故郷のアプリコット星だったんだろうな…だが、あのフィニスと言う女、故郷が楽園ではないと言った…なら、あいつにとっての楽園とは一体何なんだ…?」

楽園の定義が分からないツチハは、まだ知らぬ楽園の存在に思いを馳せ、そのままどこかへと歩いて行った。

フィニスとメモリアは銃と剣の世界から帰還し、再び七世界神殿に戻ってきた。不思議な体験をした事で、何とも言えない感覚になっていたが、彼女たちは今、他の世界に興味津々で会った。残りの六つの世界は一体どんな世界なのか? そう考えるだけで早く次の世界に旅立ちたい、その好奇心が彼女たちを衝き動かした。

「凄い体験だったわね、メモリア」
「ええ、私も19年生きてきてこんな体験をするとは思いもしませんでしたよ」
「私もよ、じゃあ、このまま次の世界に行ってみましょう」
「そうですね、では、次は隣のこの石板にしましょうか」

そう言ってメモリアとフィニスは隣の石板の前に立ち、フィニスが石板に触れた。すると、先ほどと同じ様に石板は眩く輝き、二人はその光の中に飛び込んだ。光の中に飛び込むと、やはり意識は途切れたが、再び意識を取り戻した時、二人はまた未知の世界にやって来ていた。

「この世界は…?」
「ここは闇夜と白昼の世界です」
「闇夜と白昼の世界…?」
「ええ、この世界では闇夜の流浪者と白昼の救世主と呼ばれる親子が活躍し、世界を平和に導いたと言う伝説がある…ようです…」
「詳しくは知らないのね」
「はい、代々そう言い伝えられてきただけですので、詳しくは…」

二人は辺りを見回した。銃と剣の世界に比べ、文明は発達していなかったが、それでも二人の居た世界に比べると遥かに発達しており、見た事のない乗り物や施設が沢山あった。

「ここも私達の知らない物が多いわね…」
「ええ、そう考えると、私達の世界の文明レベルって低いんですね…」

すると、フィニス達の下に一人の少女が近寄ってきた。その少女は赤髪ツインテールの可愛らしい少女だったが、気の強そうな少女であった。

「そこのあんた、その服装って…アインベルグ大陸のエスプランドル騎士団のコスプレでもしてるの?」
「アインベルグ大陸…? エスプランドル騎士団…? これはドラグニア騎士団の制服だが…」
「ドラグニア騎士団…? 聞いた事がないわね…って、あんた! そんな設定を自己紹介でするなんて、相当な中二病なのね!」
中二病…? 私は健康だが…」
「あの~、フィニスさんとそこの女の子、ちょっといいですか?」
「私はルージュ、ルージュ・ラフレーズよ」
「ではルージュさん、話が長くなりそうなので私から説明させていただきますね」

メモリアは自身が別の世界から来た事をルージュに説明した、当然、ルージュからは信じられず、中二病を拗らせすぎた二人組扱いされ、困り果てていたが、その時、近くを通りかかった薄紫ツーサイドアップの女性がフィニス達の下に近寄ってきた。

「ルージュちゃん、この二人は知ってる人?」
「あ、トルトゥーガさん! ねえ、聞いて、この二人ったら変なの! 何でも他の世界から来たって…」
「他の世界…? お二人さん、それって本当ですか?」
「ああ、本当だってさっきから何度も言ってるんだけど…中々信じてもらえないんだ…」
「トルトゥーガさん…でしたっけ? 信じてくださいよぉぉぉ!」

フィニスとメモリアはトルトゥーガに対し、泣きつくように頼み込んだ、結果、何とか信じてもらう事に成功し、二人はまず自己紹介をした。

「私はフィニステール・シグルミリア、元の世界ではドラグニア騎士団の所属だ」
「私はメモリア・アニバニウムです、七世界神殿の巫女でして、この世界には神殿の石板を通じてやってきました」
「そんな石板があるなんて不思議ですね…天上界の人達はそれの存在を知ってたんでしょうか…おっと、申し遅れました、私はトルトゥーガ・ネリン、こう見えて、光精霊です」
「光精霊…他の世界には変わった生物もいるんだな…」

すると、フィニス達のいる位置に突然バズーカの弾頭が撃ち込まれた為、それを察知したトルトゥーガが魔導障壁と言う魔力のバリアを張り、防いだ。その爆音を聞いた一般人は慌てて逃走し、ふと弾頭が撃ち込まれた場所を見ると、そこには黒いスーツを着た女性が一人、バズーカを持って立っていた。その女性は赤い瞳が特徴の無表情な女性であり、どこか幼い顔付きの可愛らしい女性であった。髪型は背中まで伸びたポニーテールであり、左目は髪の毛で隠れていた。その女性はバズーカを構えると、トルトゥーガに対し、ある事を伝えた。

「私はエフォート・カントール! 旧シュヴァルツゼーレのリーダー、デロリア・ルーゼンナイトの側近、ノレッジ・カントールの娘だ! ナハト一派に殺された母の仇を討つ為、私はここに来た!」
「その見た目…ああ、あの時ナハトが討った…世界が平和になっても、未だに戦いを望む人がいるなんてね…」
「黙れ! 私はこの時の為に生きてきた! 私の母を殺した相手に復讐をする為にな! もはやシュヴァルツゼーレもネオシュヴァルツゼーレも存在しない…だが、貴様らに復讐できるなら、この命、惜しくはない!」

そう言ってエフォートはバズーカを一発、二発と撃った。だが、ルージュは剣に風の魔力を纏って振り、発生させた竜巻に弾頭を巻き込んで二発をぶつけ、爆破させた。再びエフォートはバズーカを撃とうとしたが、トルトゥーガは背中に翼を生やして急接近し、バズーカを槍で弾いてエフォートを無力化させた。

「これであなたは戦えないわね!」
「くっ…ここまでか…殺せ…」
「いや、殺しはしないけど…私、殺生事は嫌いだし…」
「殺してくれ…今まで復讐の為に生きてきた私に、今更他の生き方など…復讐も果たせなかった以上、死んだ方がマシだ…」

すると、フィニスはエフォートに近づき、頭に軽くチョップをした。いきなりチョップされた事で、エフォートはきょとんとした顔をしていた。

「お前…いきなり何を…!?」
「あなた、一体何があったか知らないけどさ…そう簡単に死ぬとか言わないでよ…」
「今まで復讐しか考えてこなくて、復讐もできなかった以上、私に生きる意味などない!」
「だからって…そう簡単に命を捨てるなんてやめてよ! 私はあなたに何があったか知らない…けどね、私の居た場所はもっと簡単に、理不尽に人が死んで行く世の中だったの…今日生きれるだけで幸せそのものだったんだよ…なのに…簡単に死にたいって言うなんて…! もっと命を大事にしてよ!!」
「………」

フィニスのその言葉に、エフォートは黙り込んだ、今まで復讐の事しか考えてこなかった自分にここまで生きて欲しいと言ってくれる人間はいなかったからである。心の底から生きて欲しいと願うフィニスの言葉に、エフォートは心を動かされていたのである。すると、ずっと黙っていたルージュはメモリアにある提案をした。

「ねえ、あんた達、他の世界から来たのよね?」
「ええ、そうですけど…それが何か…? …まさか…」
「そう、そのまさかよ! あのエフォートって子に他の世界を見せてあげてくれない? そうすれば、少しは考え方を変えてくれるかも!」

その言葉に、エフォートは驚いていた、メモリアやフィニスが他の世界の人間だと言う事にも当然驚いたが、何より自分を他の世界に連れて行くと言う滅茶苦茶な発想に、エフォートは驚くしかなかった。

「お前…何を考えている…!? あ、分かったぞ! 厄介な復讐鬼である私を他の世界に永久追放するって言う魂胆だろ!?」
「そんなんじゃないわよ、他の世界を巡って考え方を変えなければ、いつでもこの世界に戻って来なさい、あたし達が決着を付けてあげる!」
「私は決して考え方を変えない! 必ず貴様らに復讐を…!」
「はいはい、分かったから、フィニス! こいつ連れて行って!」
「え? でもまだこの世界の観光途中…」
「いーいーかーらー! 連れて行けったら連れて行けーっ!!」

そう言ってルージュはエフォートの首根っこを掴んでフィニスの方に投げ飛ばした。フィニスは慌ててエフォートを受け止めたが、そのまま後ろに倒れ込み、エフォートはフィニスの胸に顔を埋めていた。

「あんたら何やってんのよ、じゃ、フィニス、メモリア、後は頼んだわね」
「滅茶苦茶よ…! って、いつまで顔を埋めているの!」
「す…すまない…トルトゥーガ! 必ずナハトの首は貰いに来るからな!」
「いつ来てもいいけど、まずは他の世界を巡ってからね~」
「で…では、エフォートさんは私とフィニスさんが預からせていただきますね~では!」

そう言ってメモリアは強制的に巫女の帰還能力を使い、元の世界へ帰還した。その後、フィニス達を見送ったトルトゥーガとルージュは話をしていた。

「ねえ、ルージュちゃん、あのエフォートって子、変われると思う?」
「さあ? 無理じゃないかな? あの様子だと、相当ナハトさんの事恨んでるっぽいし…」
「そうね…でも、私はエフォートちゃんが変わってくれると信じてるわ…」
「まあ、変われたらいいわよね…ところで、最近リヒトとナハトさんの姿が見えないけど、どこ行ったか分かります?」
「あぁ…あの二人なら急に姿が消えたのよね…どっかに召喚されたんじゃないかしら?」
「そんないい加減な…」

トルトゥーガとルージュはそんな他愛のない話をしながら、エフォートが人として変われる事を願った。

七世界神殿へと再び帰還したフィニスとメモリア、そして旅に同行する事になったエフォートは、次の世界に行く事を決めた。

「とりあえず、復讐の前に他の世界へ行くしかないのか、後石板は何枚あるんだ?」
「残り5枚だ、メモリア、次はどれにする?」
「そうですね、これとかどうでしょう? 自由の世界の石板」
「自由の世界? これはどんな世界なんだ?」
「何度も戦火に包まれながらも、自由の為に多くの戦士達が戦い抜いた世界…らしいです」
「御託はいい、私は復讐をしなくてはならないんだ、さっさと行け、フィニス」
「分かったから、そんなに急かさないで…」

そう言ってエフォートは石板に触れた。すると、いつも通り辺りは光に包まれ、フィニス達を別の世界へと誘った。

「着きましたよ、エフォートさん、ここが自由の世界です」
「成程、確かに私の居た世界とは雰囲気が違うな…何と言うか…危険そうな…」

すると、フィニス達は複数の兵士に囲まれた。

「動くな! 我々は宇宙帝国イフィニアドの残党、貴様ら、クロストライアルだな?」
「いえ、違います…私は別の世界から来た…」
「別の世界だと…!? まさか、異世界からの来訪者!! だが、異世界からの来訪者は全員元の世界へ帰ったはず…」
「えっ? 私達以外にも別の世界から来た旅人がいたの!?」
「ああ、だが、そいつらは強大な力を持っている、お前達もそいつらと同じなら、ここで殺してやる!!」

そう言ってイフィニアド兵は一斉に剣で攻撃を仕掛けた。

「戦うしかないようね!!」

フィニスはズィルバーとアルジェントを構え、イフィニアド兵と交戦、1人、また1人と斬り捨てて行った。一方、メモリアはバリアを張って自身を守り、エフォートは懐に携えていたナイフでイフィニアド兵と交戦し、倒していた。だが、イフィニアド兵の数は多く、フィニス達は防戦一方であった。

「敵の数が多すぎるわ…!!」
「メモリア! お前も何とかしろ!!」
「そうは言ったって、私、戦闘は苦手なんですよぉぉぉ!!」

その時、目にも止まらぬ一瞬の攻撃でイフィニアド兵が次々と倒されて行った。その攻撃は素早く、イフィニアド兵は混乱しながら倒されて行き、遂に全滅した。その攻撃を行ったのは、まだ未成年の金髪ツインテールの少女であった。その少女はフィニス達に近づき、話しかけてきた。

「えっと…大丈夫ですか?」
「え、えぇ、助かったわ、ありがとう」
「ちょっと散歩に出かけてたらあなた達を発見したのですが、まさかイフィニアドの残党がまだ活動してたなんて…あ、私の名前はアイラと言います、よろしくお願いいたしますね」
フィニステール・シグルミリアよ、よろしく」
「メモリア・アニバリウムです、よろしくお願いします」
「エフォート・カントールだ、よろしく」

すると、エフォートがアイラにちょっとした質問をした。

「なあ、イフィニアドとは何だ? 異世界からの来訪者と言うものも」
「あ、イフィニアドはかつて宇宙帝国イフィニアドとしてこの地球に侵略戦争を仕掛けた組織でして、我々国際平和維持組織クロストライアルの活躍によって戦争は終結し、何とか和平まで持ち越せたのですが…それを良く思ってない一部の兵士がこうしてたまにテロを起こしているんです、後、異世界からの来訪者とは文字通り異世界から来た者達の事でして、かつてはイフィニアドやフィーニス率いる混成軍との戦争等でクロストライアルの協力者として共に戦いましたが、全ての戦いが終わった後、全員元の世界に帰還しました」

アイラの話を聞いた後、何か面倒な事になりそうだが、一応フィニスは自分達も別の世界から来たと言う事を説明した。

「えっと、私達、実は異世界から来たんですけど…」
「え? じゃあ、久々の異世界からの来訪者なんですね! 後でドラゴニュートさんに教えてあげようかな」

案の定面倒な事になったなと思いつつ、フィニスはある質問をした。

「ねえ、アイラ、この世界は幾度も争いが続いていると聞いたわ、それって本当なの?」
「はい、それも150年以上前から絶えず続いています、ようやく大きな戦争を終えたと思っても、再び戦争が…それでも、私達は真の平和を掴み取る為に戦っているんですよ!」
「大変…なのね…」

フィニスは思った、ただでさえ争いを避けたいと思っている自分にとって、この世界は楽園ではないと、そう思ったフィニス達は、体が半透明になって消えかかっていた。

「えぇぇ!? フィニスさん達!? どうしたんですか!?」
「アイラ、私達ね、楽園を探しているの、誰もが平和に暮らせる楽園を」
「誰もが平和に暮らせる楽園…ですか…分かりました! 私達、頑張ってその楽園を作ります!! 誰も悲しまない平和な楽園を! それが実現した時、またこの世界に来てくださいね!」
「約束…するわ、アイラ」

その後、フィニス達は元の世界へと帰還した。一人残されたアイラは、この世界に真の平和が訪れるその時まで戦い抜くと決めた。

「真の平和…それが訪れるのはいつになるか分からない…100年後…300年後…例え1000年後になるとしても、私達は必ず本当の平和を手に入れてみせます!!」

そして、フィニス達は再び七世界神殿に帰還した。

「とんだ目に遭ったわね…」
「トルトゥーガめ…やはり私を完全に抹殺する為に…」
「それはないと思いますよ…多分…」
「さて、気分転換に次の世界行きましょ」

そう言って、フィニスは次の石板に触れた。その瞬間、辺りは光に包まれ、フィニス達を次の世界へと誘った。

「メモリア、この世界は?」
「はい、この世界は二大国の世界ですね、エスプランドル聖王国軍とオスクリタ大帝国軍の戦争や、邪神との戦いがあった世界だと、先々代から聞かされました」
エスプランドル聖王国軍にオスクリタ大帝国軍!? それって、二大国戦記や邪神討伐戦記の出来事じゃないか!」
「知ってるの? エフォート」
「知ってるも何も、私が居た世界の遥か過去の物語だ、私が居たのが聖暦2067年で、二大国戦記は聖暦777年、邪神討伐戦記は聖暦778年の出来事だな」
「つまり、それだけこの世界では争いが…」
「もう平和になったわよ」

そう言って、フィニスに一人の女性が近づいてきた。その女性は弓使いらしく、矢筒や弓を装備していた。長く美しい金髪と、サファイアの様に輝く瞳が特徴的な美人であった。

「おっと、自己紹介が遅れたわね、私はソフィア・アーネル、ソフィアでいいわよ」

ソフィアと名乗ったその女性に対し、フィニス達も自己紹介を返した。すると、ソフィアは別世界から来たフィニス達に興味津々であった。

「ふ~ん、楽園を探してる…ねぇ…」
「そうなの、だから、この世界について色々と教えてくれないかしら?」
「悪いけど、この世界ではずっと争いが続くと思うわ、邪神ネクロスが言ってたらしいの、100年後に再び脅威が訪れるって」
「100年後って…そんな未来の事…エフォートは何か知ってる?」
「悪いが、聖暦は争いの歴史だ、過去も、恐らく未来も争いが続くだろう…」
「このエスプランドル聖王国も、オスクリタ大帝国との戦後処理は上手く行ったけど、まだ小さな所で憎み合いは続いているからね…」
「そう…なのか…楽園って中々見つからないんだな…」

すると、ソフィアは悩むフィニスに対し、ある事を伝えた。

「ねえ、あなたの言う楽園って、争いのない平和な場所って所?」
「そうね、私は争いに疲れたの、だから…」
「それって、相当難しいかもしれないわよ? 人間社会に争いはあって当たり前だし、それがない世界があったら、誰しも行きたいでしょうね…」
「そう…よね…でも、私は必ず見つけてみせるわ!」
「頑張ってね、あ、後、そこのあなた」
「わ…私か…?」
「あなた、これから起こる出来事を知っているのね、良かったら、色々と教えてくれないかしら?」
「え…えっと…」

エフォートはメモリアに教えていいかどうかを聞いた。その結果、ざっくりとなら教えてもいいと言う事になり、エフォートはソフィアに教えてあげた。

「あまり詳しくは教えられないが、一言で言うなら、争いの歴史が続く」
「あら…私達が必死に戦っても、争いは続くのね…なら、私達は真の平和を目指して戦うわ!」
「まあ、頑張れ」

その後、エフォートはフィニスの元に戻り、ソフィアに別れを告げてこの世界から去って行った。そして、一人残されたソフィアは、ある事を考えていた。

「やっぱり、邪神ネクロスの言った事は本当みたいね…争いは続く…それも数えきれないほど…大変ね…」

その後、元の世界に帰還したフィニス達は、次の世界はどれにするか悩んでいた。

「後3枚…どんな世界なのかしら…?」
「何でもいい、さっさと行くぞ、フィニス、メモリア」
「じゃあ、この世界はどうでしょう? 大乱闘の世界です」
「大乱闘? 明らかに名前からして物騒じゃない!」
「あくまで大乱闘と言う競技であり、戦争とかじゃないですから安心してください」
「じゃあ…分かったわ…」

そう言ってフィニスは大乱闘の世界へと向かった。すると、フィニス達は花畑へとやって来た。そこには、オッドアイの一人の少女がいた。

「何!? いきなり現れるなんて、まさか、闇の眷属!? だったら、漆黒なる永劫の翼(ダークネス・エターナル・フリューゲル)の称号を持つこの私が、殲滅しちゃうんだから!!」
「ま…待って! 私達はその闇の眷属とかじゃないから!!」
「問答無用! 闇の銃弾(ダークネス・ショット)!!」

そう言ってその少女は黒い拳銃から闇の弾丸を放った。フィニスは攻撃を回避し、そのまま説得を続けた。

「落ち着いて! 私はただの人間だから!!」
「…本当に? 実はオオカミさんみたいな闇の眷属が変身してて、油断した隙に私に薄い本みたいな事しようと企んでるんじゃ…」
「しないしない! てか、薄い本って何?」
「…分かった、信用するよ、私は黒乃月(くろの るな)、あなた達は?」

フィニス達は、ルナと名乗ったその少女に自己紹介をした、すると、急にテンションが高くなった。

「え!? じゃあ、あなた達、色んな世界を旅してるの!? まるで私みたい! で、あなた達は通りすがりで私に出会ったんだね! これも何かの運命! 一緒に付いて行ってあげるね!」

あまりのテンションの高さに、フィニス達は困惑した。

(ねえ、この娘、大丈夫なの?)
(少なくとも、大丈夫ではないだろう)
(でも、悪い人じゃなさそうですよ…)

「ねえねえっ! 3人は今までどんな世界に行ったの? 教えてくれないっ?」

フィニスはルナに今まで行った世界の話をした。すると、ルナはフィニスが今まで行った世界の事を知っているではないか。ルナはその事について色々と教えてくれた。

「みんな私が知ってる世界だね」
「えっ? 知ってるの?」
「うん、私が別の世界に呼ばれて戦った時なんだけど、そこでその世界の人と知り合って、後で門(ゲート)の能力でその世界に行った事があるよ、いい経験だったな~、後、アイラちゃんとは昔から面識があってね、私が自由の世界? そこに召喚された時、クロストライアルの一員として、悪い奴らと戦ったんだ」
「まさか、私達より旅をしている娘がいるなんて…」

ルナは照れながら、次の話を始めた。

「で、私は久々にこの世界に遊びに来たんだけど、この世界は平和そのものだよ~昔はアルスマって大乱闘が行われてたんだけど、色々あって終わっちゃってね、今はこのアルスマ界、平和な世界だよ、昔はこのアルスマ界も悪者に狙われてたんだけどね」
「今は、平和なの?」
「うん、平和だよ、たまに他の世界の事件に巻き込まれる程度だね」
「それって、平和なのかしら? エフォートとメモリアはどう思う?」
「私に聞くな、まあ、少なくとも今まで行った世界よりはダントツで平和じゃないか?」
「大して争いが起きてないなら、平和なんでしょうね、でも、残り2つの世界も行ってみませんか?」
「それもそうね」
「じゃあ、私も付いて行くね!」

フィニス達は、ルナが付いてくる事に対し、ちょっとだけ引いたが、悪い人じゃなさそうだからとそのまま共に七世界神殿へ帰還した。ルナは初めて見る七世界神殿に興味津々だったが、フィニスは慣れた手つきで次の石板に触れた。そして、フィニス達は次の世界へとやって来た。

「うわ~凄いね~石板で別の世界に移動するなんて、私、初めて見たよ…」
「凄いでしょう? ねえ、メモリア、この世界は?」
「はい、この世界は太陽と月と希望の世界です」
「ああ、私が居た世界から100年程前の世界か」
「いつ頃の出来事なの?」
「聖暦1967年だ、この頃はクライム・ゼノロスト率いるヴェンジェンスが堕落に満ちた世界を変える為に各地を襲撃する等していた時期だ」
「明らかにロクでもない時代ね…」

その時、1人の男性と1人の女性がフィニス達に近づいてきた。

「お前ら、変わった奴らだな」
「ねえ、タクト、ちょっと変わった人達ね」
「タクト…タクト・レイノス! そして、そちらが、リリシェ・ルーン!」
「何だ、俺達の事を知ってるのか?」
「何? まさか私達のファン!?」
「ねえ、エフォート、この人達って…」
「ああ、僅か8人でシュヴァルツゼーレに立ち向かい、滅ぼしたと言う伝説が残されている伝説の旅人だ」

すると、ルナが興味津々にタクトに近寄った。

「へ~、この人達凄い人なんだ!」

タクトとリリシェはルナが辺りをキョロキョロする為、若干対応に困っていたが、とりあえず放置して話を進めた。

「で、お前達は俺とリリシェに何の用だ?」

フィニス達はタクトとリリシェに自己紹介を済ませた。すると、タクトは返事に困っていた。

「いきなり別の世界から来て楽園を探していると言われてもな…俺も旅人、お前達も旅人なら、答えは簡単だ、旅をして探すしかない、それが旅人の醍醐味だろ?」
「そうね…じゃあ、私達、もっと旅をして探してみるわ」

すると、今度はリリシェが会話に参加した。

「私とタクトは今、タクトの故郷であるカプリス村を復興させているの、それが終わったら、また旅に出るの、そして、色んな世界を見て回るんだけど、今まで見てなかった世界にきっと、楽園はあるはずだよ、フィニスさん達も、色んな世界を見て回って、探してみて、楽園は必ず、どこかにあるはずだから!」
「リリシェさん…ありがとう、その言葉、覚えておくわね」

すると、今度はタクトが会話に参加した。

「一人の旅人として言わせてもらうが、旅はただ巡るだけでは面白くない、ちゃんとそこに住む人達とも触れ合わないとな、俺も、ヴェンジェンス討伐の旅ではあまり人々と触れ合えなかったから、いつか旅を再開させる際はちゃんと触れ合うつもりだ」
「一人の旅人としてのアドバイス、きちんと受け取りました」

その後、フィニス達はまだ遊び足りない様子のルナを連れてこの世界を去った。残されたタクトとリリシェは、二人で会話をしていた。

「ねえ、タクト、フィニスさん達は楽園、見つけられるかな?」
「どうだろうな、まあ、俺から言える事は、誰にも必ず楽園と呼べる場所があると言う事だけだ」

その後、フィニス達は元の世界に帰還した。残す石板は後一枚、フィニスは最期の石板に手を差し伸べた。

「これが最後の石板ね…」
「最後の石板は、神聖の世界の石板です」
「何だか知らないけど、これで私は復讐ができるのね」
「もう終わっちゃうのか…まあ、いいや、楽しかったし」

フィニスが石板に触れると、辺りは眩い光に包まれ、フィニス達を神聖の世界へと誘った。
神聖の世界は最初に旅した銃と剣の世界の様に文明の発達した世界だったが、銃と剣の世界ほど文明は発達していなかった。フィニス達が辺りを探索していると、住民たちはフィニス達をじろじろと見ていた。

「あの…フィニスさん…? 私達、凄くじろじろ見られてますよね…?」
「銃と剣の世界みたいにコスプレだと思われているのでしょうね」

フィニス達が歩いて街中を探索していると、前から男女二人組が興味深そうにフィニス達に近寄ってきた。そして、女性の方がフィニスに質問した

「あの…もしかして、コスプレイヤーの方々ですか?」
「ほらね」
「やっぱり私達…コスプレイヤーだと思われてるんですね…」

すると、今度は男性の方がフィニス達に話しかけた。

「突然理乃がすみません、俺、日野鋼(ひの はがね)って言います、で、こっちが友達の…」
「月村理乃(つきむら りの)です、よろしくお願いします」
「私はフィニステール・シグルミリアよ、よろしくね」
「私はメモリア・アニバリウムです、よろしくお願いいたします」
「私はエフォート・カントール、よろしく頼む」
「そして私は黒乃月、漆黒なる永劫の翼の称号を持つ闇よりの使者だよ!」
「はは…何か、変わった人達ですね…」

フィニスはハガネ達に自分達の事を話した。自分達が異世界からの旅人である事、そして、楽園を探していると言う事を。すると、当然と言うべきかハガネ達は驚いた。

異世界からの旅人…まさかそんな事が実際に起きるなんて…」
「でもさ、ハガネくん、怪人の存在だって…」
「ああ、怪人の存在もかつては非現実だと思われていた…でも、それは実在した…だったら、異世界からの旅人が存在したっておかしくはないよな…」
「ねえねえ、その怪人って何? もしかして、闇の眷属の一種だったりする? だったら、この私がやっつけちゃうよ!」
「ああ、怪人って言うのは、かつてこの世界に現れた人間が変化する怪物だよ、でも、ノヴァティスって言うヒーローと人々の心の正義の光によって滅んだんだ」
「へ~、人間が変化する怪物か~、強かったんだろうな~」

すると、ハガネは話題を変え、今度はフィニス達の探している楽園について聞いた。

「フィニスさん達は楽園を探しているって言いましたよね? それって、どんな場所なんですか?」
「争いのない、平和な世界よ、私達の居た世界は争いが続いてて、私達はそれに疲れて平和な世界…楽園を探して様々な世界を旅をしているの」
「で、私達の住むこの世界に来たんですね」
「そうよ、でも、今までのどの世界でも争いは起きていた…平和そうな世界を見つけたけど…結局争いは続くみたいだし…」
「う~ん、俺達みたいな学生にはよく分かりませんけど、俺から言える事は、きっとこれからも争いは起きると言う事だけです」

ハガネのその言葉に一同は動揺したが、ハガネは自身の住む世界の現状を伝えた。

「この世界では過去に怪人との戦いや、様々な戦争が起きてました、現在はどれも落ち着いたのですが、未だに戦争や紛争は耐えません、それに、様々な事件や災害も起きています、つまり、どうあがいても、争いはこれからも続くんです」
「じゃあ一体…私達はこれからどうすればいいのよ…」
「それは俺達には分かりません、でも、少しでも争いを減らす為に行動を起こす、または争いから逃げて生活する事はできると思います」

どうするか悩むフィニスに対し、今度はメモリアが口を開いた。

「フィニスさん、この旅が終わったら、今度は私と一緒に世界を巡りませんか? 私達の居る世界を!」
「それも…いいわね…考えとくわ」

そして、フィニス達は元の世界へと帰還し、それを見送ったハガネと理乃は、過去の事について話していた。

「楽園…かぁ…ねえハガネくん、ハガネくんは楽園ってどんなところだと思う?」
「そうだな…誰もが安心して平和に暮らせるところ、なんだろうけど、俺にとっては、みんなと仲良くしていられるこの環境、それが楽園だと思ってるよ、だって、例え平和だったとしても、親しい人間がいないと辛いだろ?」
「ふふ、ハガネくんらしい考えだね、やっぱり、元ヒーローだからかな?」
「ノヴァティスとして戦った日々、辛かったけど、改めてこう言う事に気付かされたのかもしれないな…」

元の世界へ帰還したフィニス達、全ての世界を旅したフィニス達だったが、旅先で出会った人達との会話を聞いた事で、楽園と言うものが分からなくなっていた。

「ねえ、メモリア、エフォート、ルナ、楽園って、何なのかしらね…?」
「私も…分からないです…」
「そうだな…私も分からなくなってきたよ…楽園って…何なんだろう…」
「楽園ね…みんなが平和に暮らせる環境かな?」

その時、七世界神殿の石板が突然崩れ去った。

「あっ! 石板が…!!」
「おい! これじゃ元の世界に帰れないじゃないか!!」
「安心して、帰りたかったら私が送り返してあげるから」
「………」
「フィニスさん…?」

フィニスは楽園を探す為に旅を続けていた、だが、旅先で出会った人達の話を聞き、自分の居場所は別の世界に無いのだと、薄々は気づいていた。そして、石板が崩れ去ったと言う事、これは、七世界神殿が別の世界に楽園はないのだと言っているように捉えられた。

「…分かったわ、私の言う楽園はきっと、他の世界じゃない、私にとっての楽園は、生まれ育ったこの世界なんだ、どんなに辛くても、どんなに苦しくても、私の言う楽園は、この世界で見つけないといけないんだ、他の世界で見つけるなんて、そんなのただの甘えなんだ! だから! 私はまた旅に出るわ」
「フィニスさん…!」
「フィニス、あんたのその考え、嫌いじゃないわ、それに、あんたのそのキラキラ輝く目を見ていたら、ずっと復讐に捕らわれていた私が馬鹿みたいじゃない…どうしてくれるのよ…」
「エフォート、あなたもこれから別の生き方を探してみたら、いいんじゃないかしら、その為の道先案内人は、ルナ、頼めるかしら?」
「はいはーい、まっかせてー!」
「フィニス、私も色んな世界を回ってみるわ、だから、あんたも頑張るのよ」
「じゃ、短い間だったけど、楽しかったよ、またね!」

エフォートとルナはフィニスとメモリアに別れの挨拶を言い残し、ルナの能力でエフォートは別の世界へと旅立っていった。エフォートがこれからどんな道を歩むのかは分からない、だが、きっとエフォートは復讐とは違う別の生き方を見つけるはずだと、二人は信じていた。

「で、メモリアはこれからどうするの? 石板は全部崩れちゃったけど…」
「石板が無くなった以上、七世界神殿の巫女は必要なくなるはずです、正規の手続きが済み次第ですが…フィニスさん、あなたと一緒に旅がしたいです、一緒に、色んな世界を見て回りましょう、ねっ?」
「ええ、そうね、必ず見つけましょう、本当の楽園を」

七世界神殿の七枚の石板に導かれた不思議な短い旅は終わった。だが、この不思議な旅は、悩める人間の心を救ったのである。彼女たちがこれからどのような道を歩んでいくのかは分からない。だが、きっと彼女たちは自分の思う本当の楽園を見つけるはずである。それが何年、何十年かかろうともきっと、見つけるはずである。