早稲田大学歌舞伎学会 2024年夏季企画「演劇の証言~中村京蔵丈に聞く~」に行く (original) (raw)
国立劇場第6期歌舞伎俳優研修を修了(1982年)された中村京蔵さん。その後4世雀右衛門に入門して40年を超え、今や女方の要として歌舞伎界にとってなくてはならない存在です。
早稲田大学の歌舞伎学会のイベント「演劇の証言〜中村京蔵丈に聞く」があると聞き、行ってきました。
京蔵さんって、私にとっていつも見ていて安心な脇役という感じでした。ところが驚かされたのは昨年「フェードル」の舞台でした。卓越した演技力は知っていても、この難しい和洋折衷の芝居を自主公演でやり遂げた力というのは一体どこから来たのだろうと、感嘆の思いを禁じえず、それから特に舞台では注目してきました。「紀尾井町家話」に出演時は、ものすごく面白くて、一方では謙虚で、人間性にも惹かれてきました。
↓昨年のフェードル観劇レポ
今回は、京蔵丈が歌舞伎界に入ったきっかけから今までの長きに渡る活動の様子を、様々な歌舞伎や演劇界の重鎮との関わりを絡ませながら伺い、なるほどと腑に落ちたような気持ちでした。
四世中村雀右衛門、三島由紀夫、武智鉄二、蜷川幸雄、郡司正勝、といった人たちに教えられ、鍛えられ、育てられてきた京蔵さん。
今までに歌舞伎公演で行った海外都市は35か国、60都市!
2019年にアメリカ・メキシコ・キューバに日本文化交流使として訪問したときには、文化庁から現地文化とのコラボを依頼されたため、ラ・バンバンやアメフトの応援歌に合わせて獅子の毛振りをするなども行い、大いに盛り上がったそうです。そんな柔軟な対応力も、数々の修羅場を乗り越えてきたからでしょうか。
以前、私がご案内した海外のお客様は、歌舞伎座にきたきっかけが「30年ほど前にアメリカに来た歌舞伎を観て印象に残った。仕事も退職したので、日本に観光に来て歌舞伎を観たかった」とおっしゃっており、30年前に種まきをした歌舞伎役者さんすごいな、えらいなと思ったものでした(講演記録を見て、吉右衛門か3代目猿之助かと思います)
そういう交流を京蔵さんも行って、きっと海外の人たちにも強烈な印象を残したことでしょう。
↓30年前に観た歌舞伎が印象的だったので、本場の歌舞伎を観に来たお客様の話
また、歌舞伎にまつわる数々のエピソードも貴重でおもしろかったです。研修生のときに咲太夫さんから文楽の太夫に誘われたときに蜷川さんに言われた一言、
「あんた、歌舞伎やろうと思って研修生になったんでしょ。やっとかんと後悔するよ」と言われて咲太夫さんにお断りしたこと。さよかと咲太夫さんもあっさりと受け入れてくれたことなど。もし蜷川さんの一言がなければ、京蔵さんは文楽の太夫になっていたのかもしれない。人生は面白いものですね。
また、『金閣寺』や『本朝廿四孝』などに関する芸談、型の違いも面白く聴きました。『金閣寺』
上手の桜もあり!の話も面白かった。最近では、下手がやはりいいかなあと思っていたので。
京屋の矜持、また弟子の意地を時にチラリとのぞかせながら、歌舞伎界の将来を見守る京蔵さんのお話、とても素敵でした。
児玉竜一先生との対談という形で進んだ今回の企画。時間たっぷり、はみだしながらも貴重なお話の数々、ありがとうございました。
※『フェードル』にまつわるお話は、京蔵さんが「劇評」に連載で書いており、そちらで読むことができます。(木挽堂書店にて販売)