「文豪ストレイドッグス」イケメン文豪の誕生秘話を語る朝霧カフカ、春河35インタビュー (3/3) - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

芥川は悪い人を書くのが上手い

──対する敵は芥川龍之介です。では先ほどの話からすると、太宰VS芥川という図式ではなく、敦VS芥川なんですね。

敵役の芥川。主人公の敦は白、対する芥川は黒をイメージカラーにしている。

朝霧 そうです。白の敦に対する、黒の芥川というイメージ。敵キャラをどうしようと思ったときに、まず有名な人じゃないと、というのが条件でした。また元の芥川は、悪い人を書くのが上手い人なんです。悪人に対する造詣がすごく深くて。例えば「羅生門」は、普通の人が悪人になるまでの話で、もう悪役の入門書というか、教科書のような話なんです。この「羅生門」の主人公の気持ちが分からない人は悪役には欲しくありません、という感じ。しかも芥川はビッグネームで強そうですし、ここは芥川にお願いした、と。

──お願いした。

朝霧 そういう感覚ですね(笑)。あと「地獄変」や「藪の中」も悪についてのお話ですし、かつ物語もすごく論理的でテクニカルなんです。僕、論理的でテクニカルな話を書く人は、戦ったら強いという先入観がなぜかあって。こいつめっちゃ強い奴にしてやろう、と。

芥川は能力「羅生門」でマントを怪物化させる。

春河 私、芥川の能力が最初よく分からなかったんです。そしたら朝霧さんが絵を描いて説明してくれて。

朝霧 芥川の能力は「羅生門」という、平たく説明すると黒獣を操るというものです。マントを怪物化させて、あらゆるものを切り裂くという能力。

春河 これって、あのマントを着てないと使えないんですか?

朝霧 使えないです。

春河 あ、そうなんだ。能力を着てるのかと思ってたら、これ自体はただのマントなんですね。……じゃあ水玉模様の服を着てたら、水玉模様の怪物が襲ってくるんですか!?

朝霧 いやいやいや(笑)。芥川にはこだわりがあるので、それはないです。マントにも秘密があるんですが、それは作中で語らせてください。

“スタイリッシュ中二”をアップデート

──失礼を承知で言うと、読んでて作品全体から強烈に中二病っぽさを感じたのですが、そういった部分は意識していますか?

朝霧が中二力を振り絞って考えた芥川の一人称は「僕(やつがれ)」。

朝霧 うーん……ぶっちゃけ、してました。なぜかと言うと、僕、中二病ものを描くのがすごく苦手なんです。やっぱり、恥ずかしいんですよ。昔の自分を見ているようで……。でもそういうのは自分の弱点だと思っていて克服したいなと。だから芥川なんかは、かなり僕の中二力を絞り出したところがあります。

春河 私、芥川の「僕(やつがれ)」っていう一人称、初めて見ました。

朝霧 そう、喋り方なんかもかなり意識してます。芥川の一人称は「僕(やつがれ)」か「我(われ)」だな、と(笑)。まあせっかく僕が中二ものを書くので、普通の感じとはちょっと違う、ひねったところを出していければと。中二ものってすごく消費のスピードが激しくて、どんどん進歩してるんです。最近だと例えば「中二病でも恋がしたい!」とか、ネタとしての中二に着地していってる。それに対して、僕は最新の“スタイリッシュ中二”をどんどんアップデートしていきたいなと思っていて。

──最新の中二がここに。ほか、中二ものを書く上で気をつけていることはありますか。

左から春河35、朝霧カフカ

朝霧 中二っぽいものを書く前は、アニメ・マンガ系を見て実写系は見ないようにしています。逆に推理要素や主人公の悩みみたいな部分を書くときは、海外ドラマなんかを見たりして、そっち側の世界に自分を持っていく。いろんなところから取り入れてますね。……あのですね、「中二とは何か」というのは、口で説明するより奈須きのこさんの作品を読むのがいちばん早いんです。

春河 ああー、なるほど。

朝霧 あの人は天才的な中二世界を持っているので。中二世界って、そのままぽんっと出すと痛いしサムいんですけど、奈須さんの作品は日常世界があって、気がつくと中二世界にいるという話を書くのがものすごくうまいんです。中二世界と日常世界の境界線があまりなく、勾配がなだらかというか。日常の延長線に吸血鬼や聖杯戦争というものが、当たり前にあるんですよ。あれは本当にすごいです。参考にしてますね。

中二世界と日常世界をなめらかに接続する

──ほかに影響を受けている作品はありますか?

朝霧 もちろんいっぱいいます。あえて挙げるとしたら「ジョジョ」ですかね。

──まさに能力バトルもの。スタンドですね。

朝霧 「ジョジョ」ってスタンドたちは強いけど、人間たち自体はめちゃくちゃ脆いじゃないですか。あのキャラたちは、もちろんスタンドが強いからというのもあるけど、彼ら自身が勇気と知恵と決意で困難な壁を乗り越えていって勝つわけですよね。特殊な能力を使いながらも、日常世界となめらかに接続されているところが勉強になります。もちろんパンチ一発で地球を壊しちゃうような話も面白いんですけど。

事務所を守ろうとする敦の命をかけた行動が、読者をハラハラさせる。

──奈須きのこさんのお話でもそうでしたが、そういう「なめらかさ」を重視しているんですね。

朝霧 あまりに断絶が大きすぎるとまるっきりファンタジーになってしまう。それはそれで面白いんですけど、できれば僕はそういうなめらかな話を書きたいと思っています。「文豪ストレイドッグス」では、例えば敦くんが命を張って決意するシーンが2話と4話にあるんですが、この2つのエピソードで彼は異能の力に頼っていないんですね。読者が他人ごとのように感じるのではなくて、できるだけ「こいつ勇気あるな」と自分たちの中にもある感情を発見してもらいたいんです。

春河 確かに敦くんが勇気出してるシーンって、能力使ってないところばっかりですね。自分でもやってしまいそう。

──今後はまだまだ文豪が登場するんでしょうか。

朝霧 そうですね。確定ではないですが、梶井基次郎とか、石川啄木、森鴎外、もちろん夏目漱石もいつか出してやろうと思っていて。次はどの文豪が出てくるか、予想して楽しんでほしいですね。

春河 私、いつか夢野久作を出してほしいです。能力「ドグラ・マグラ」を使ってほしい!

朝霧 たぶんそれ、めちゃくちゃ頭のおかしいキャラになるな。僕も中二力を振り絞らないと(笑)。

朝霧カフカ(あさぎりかふか)

シナリオライター。テーブルトークRPGのリプレイ風動画をWEBで発表したことで人気を博し、「文豪ストレイドッグス」で商業デビュー。

春河35(はるかわさんご)

ヤングエース2013年1月号(角川書店)にてスタートした「文豪ストレイドッグス」の作画担当としてマンガ家デビュー。イラストレーターとしても活動しており、代表作に「ソラの星」(アスキー・メディアワークス)など。