「今宵も悪夢を」第47夜 南波志帆 (original) (raw)

「今宵も悪夢を」第47回ビジュアル

ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第47夜[バックナンバー]

選者 / 南波志帆「ウォーム・ボディーズ」

まさかの壁ドン、人間に惚れたゾンビのラブロマンス

2023年7月28日 21:00 5

ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第47回は、南波志帆がゾンビ+ラブロマンス作品「ウォーム・ボディーズ」を紹介。ゾンビと人間が織りなす“くすぐったくて素敵”な物語を語ってくれた。

文 / 南波志帆(コラム)、田尻和花(作品紹介)

きっと、全力で恋がしたくなるはず

みなさん、こんばんは。「今宵も悪夢を」案内人のすいか生肉ゾンビが大好きな南波志帆です。
私はどこかほっこりする、遊び心のあるゾンビ作品を好んでよく観るのですが、そんな私が一番ときめいたゾンビ作品、そして、見た目も中身もイケメンな推しのゾンビが出てくる、ジョナサン・レヴィン監督の「ウォーム・ボディーズ」を今回はご紹介したいと思います。

この作品の面白いところはまず、主人公が人間ではなくゾンビであり、始まりからゾンビ視点なところ。
「俺どうしたんだろ? 顔色も悪いし、不健康な感じだし、こうも姿勢が悪くちゃ人にバカにされる。それに人とつながりたい。なぜつながれない? そっか俺死んだんだ。みんなも死んだんだよな。この子もあの男もそっちの角の人もみんなヨレヨレ。自己紹介したいけど名前が… 最初は“R” あとは忘れた」と、哀愁漂う主人公Rの独白からスタートします。
今はみんなゾンビになってしまっているけれど、それぞれ人間だった頃は職業があり、役割があり、イキイキと楽しく生きていた頃のインサート映像が流れます。そう、ゾンビの切ないところは、元はみんな誰かに愛されていた人間だったということ。絶対的な悪ではないからこそ、やるせないのです。

この作品の特徴はゾンビの他に、ガイコツと呼ばれるものの存在がいること。葛藤を抱えている間はまだゾンビでいられるけれど、すべてに絶望してしまったら、心臓の脈打つものならなんでも食べてしまう化け物になってしまうのです。

そんなゾンビやガイコツが集まっているのは、空港。Rは、飛行機の中で生活しています。
どこから拾ってきたのか、可愛い動物の置物を飾ったり、レコードに針を落として音楽を聴いたり、ゾンビの親友とうめき合い、見つめ合うことでコミュニケーションを取ったり、健気に暮らしています。
そして、お腹がすくと集団で街に繰り出します。これは銃で頭を撃ってくる人間から自衛するため。

一方街では、生き残った人間たちが壁に囲まれて生活しており、物資の調達のために度々ボランティアの何人かが壁の外に行かなくてはなりません。ゾンビは人間ではないし、冷酷で感情がなく、良心も持ち得ないから注意しろと警告されており、ゾンビ対策の訓練も受けています。

そんな双方が街で出会ってしまいます。当然、お互い怖いし、各々の正義がぶつかり合うため激しい戦いになります。
そんな最中Rは、一際逞しく銃をぶっ放す人間の美女ジュリーに一目惚れします。Rは人間の脳を食べるとその記憶や感情を体験でき、その人間の持つ思い出、同時に生きている気分を味わうことができるのですが、たまたまジュリーの恋人の脳を食べたRは、淡くて甘酸っぱいジュリーとの思い出にしばし浸ります。

その間に、ジュリーはゾンビに囲まれ大ピンチに…!ジュリーに完全に恋してしまったRは、ジュリーを助けるため、自分の血液をジュリーの顔に優しくつけます。自分の匂いをつけて、他のゾンビたちに人間だとばれないようにする作戦です。
なぜか壁ドンしながら、顔を近づけてくんくん匂いを嗅いだ後、「安全」と言ってくれたRに思わず全力でときめいてしまう私がいました。お伝えしたいのは、とにかくRのビジュが良すぎる…!(笑)

そして、他のゾンビたちにばれることなく、Rは自分の住処である飛行機にジュリーを連れて帰ることに成功します。怯え続けるジュリーに、「君は食わない、君は安全」だと伝えるR。それから二人は丁寧に、着実に、距離を縮めていきます。くすぐったくて素敵で、こんな角度のラブロマンス、みたことない…!(笑)

ゾンビ作品は、発生の仕方と終結の仕方、その二つの大喜利みたいなところがあるのですが、この作品は今までになかった終結の仕方でとってもファンタジー。とんでも理論であることは重々承知ですが、泣けるほどにドラマチックで、素晴らしいエンディングなのです。
観るときっと、全力で恋がしたくなるはずです。ゾンビ作品を観て、こんな形のときめきをもらったのは初めての経験でした。Rよ、干からびそうだった心にときめきをありがとう(涙)。

南波志帆(ナンバシホ)

1993年6月14日生まれ、福岡県出身のシンガー。2008年11月にミニアルバム「はじめまして、私。」でデビューを果たし、デビュー10周年を迎えた2018年には初のベストアルバム「無色透明」をリリースした。2014年からNHK-FM「ミュージックライン」のDJを務めている。

「ウォーム・ボディーズ」(2013年製作)

舞台は、ゾンビと人間が敵対している近未来。まだわずかに人間らしい意識を残しているゾンビの“R”は、ある日人間のジュリーに一目惚れしてしまう。Rはジュリーを助け、ジュリーはRの優しさを知って徐々に心を開くように。そしてジュリーとの交流を重ねる中で、Rにはある変化が生じていくのだった。
「50/50 フィフティ・フィフティ」「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」のジョナサン・レヴィンが脚本・監督を担当。キャストには「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルトのほか、テリーサ・パーマージョン・マルコヴィッチロブ・コードリーデイヴ・フランコアナリー・ティプトンが名を連ねる。

「ウォーム・ボディーズ」Blu-ray / DVD販売中

税込価格:Blu-ray 廉価版 2750円 / DVD 廉価版 1650円
発売元:アスミック・エース

(c)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

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