スクリプターは現場と編集のパイプライン、「ウルトラマンコスモス」の現場経験が大きなターニングポイントに (original) (raw)
映画と働く 第18回[バックナンバー]
スクリプター:田口良子 / 映画監督の秘書って大変だけど楽しい!「来る者拒まず」育成にも尽力
尺出し、撮影時の細かな記録、カットのつながり…スクリプターの役割とは
2023年9月8日 18:15 5
1本の映画が作られ、観客のもとに届けられる過程には、監督やキャストだけでなくさまざまな業種のプロフェッショナルが関わっている。連載コラム「映画と働く」では、映画業界で働く人に話を聞き、その仕事に懸ける思いやこだわりを紐解いていく。
第18回となる今回は、スクリプターとしてフリーランスで働く田口良子にインタビューを実施した。“映画監督の秘書”と称されるスクリプターは、制作前の準備から撮影、記録、編集と全体の作業を効率よく進行するために欠かせない存在だ。これまで「キングダム」「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」といった映画の制作に携わり、第一線で活躍する田口に、制作の裏側やスクリプターとして働くやりがいについて話を聞いた。
取材・文 / 小宮駿貴 題字イラスト / 徳永明子
カットとカットの“つながり”を意識する
──まず、スクリプターとはどのようなお仕事なのか教えてください。
すごく簡単に言うと、監督の秘書的な役割。一番最初にやることは、台本を読んでどのくらいの尺になるかを計算する“尺出し”という作業。初めてご一緒する監督の場合は、過去の作品を観てテンポ感をつかんでからイメージ、計算します。あまりにも尺が長い場合は台本を練り直していただくことも。それから様々な打ち合わせに参加します。監督の具体的なイメージをスタッフと共有することで、撮影の準備ができてくる。
──なるほど。
撮影に入ると“つながり”を見ていきます。お芝居を引きのサイズで撮って今度は寄りで撮ってと、複数のカットをつなげて映画やドラマが完成します。引きでは右手でコップを持っていたのに、寄りでは左手でコップを持っていたら編集するときにつながらなくなる。それを避けるために「この台詞の時は右手でコップを持っていたので、右手で持ってください」と伝えます。動きだけではなく感情の“つながり”も意識してお芝居を見ています。監督に「こういうカットも撮っておいたほうがいいのでは」と提案することもあります。撮影が終わると、その日は何のカットをどういう順番で撮ったのか、そしてこのカットはこういうふうに使ってほしいという情報を編集部さんに渡す、現場と編集のパイプラインも担っています。
──隅々まで全体を把握しておかないといけない大変なお仕事ですね。
大変です(笑)。出演者が多いときもそうですが、食事のシーンは特にです。このセリフを言ったときは、このおかずを取ったとか。本当に“つながり”って難しいんです。細かく言いすぎると、役者さんのお芝居が固くなっちゃったりする。そのあんばいが難しいですね。やっぱり気持ちよくお芝居していただきたいので、本当に重要なことだけを伝えています。それでも、今は撮ったものを見返すことができますから。昔はフィルムだったのでそれができない。フィルムのときは演出部さんに「あの人を見ておいて」と手伝っていただいてました。
スクリプターは“言える”ポジション
──履歴書を拝見しました。石井輝男監督作「地獄(1999年版)」の現場でボランティアをされて、以降はフリーランスのスクリプターとして活動されています。このお仕事を始めたきっかけについてお聞かせいただけますか。
映画学校のニューシネマワークショップ(NCW)を出てから、自分が何の部署で働きたいかはわからないけれど映画に関わる仕事がしたいと思っていました。学校にボランティアスタッフ募集の張り紙があったので、まずは飛び込むしかないなと。演出部として参加したのですが、石井監督から記録(スクリプター)の業務を頼まれたのが最初です。当時スクリプターという職業があるのは知っていましたが、何をやるのかまったくわかっていなかった。同じ現場に、ピンク映画で有名な小林悟監督がいらっしゃって、彼もあまりわかっていないのに記録の書き方を教えてくださった。かなり探り探りな状態でやっていましたね(笑)。
──師と仰ぐような方はいらっしゃるのでしょうか。
宮腰千代さんです。2002年に「ウルトラマンコスモス」のテレビシリーズに入れていただいたときに、やっとスクリプターとしていろいろなことを吸収することができたんです! 私のスクリプターとしての入り口はかなり変わっていると思います。
──ドラマの現場も担当されることがある?
あります。ドラマの現場はとにかく速い! 役者さんがお芝居をしている間にカメラがガンガン動いて、引きと寄りを同時に撮ったりとか。それに「ウルトラマンコスモス」をやったおかげですごく勉強になりました。特撮と本編という両方を経験したので、合成ものというか、VFXを使った映画の現場に呼ばれることが多くなりましたね。
──「ウルトラマンコスモス」は大きなターニングポイントになったんですね。現場で心がけていることはありますか?
どうすればよりよい作品になるかを常に考えています。先輩のスクリプターさんから「私たちは“言える”ポジションだから」と教わりました。「こうしたらどうですか」「ああしたらどうですか」といくらでも言える。最終的に決めるのは監督なので、たくさん提案したほうがいいなと思うようになりました。監督を悩ませてしまっているところもあるかと思いますが(笑)、演出の選択肢が1つでも増えたらいいなといつも考えています。
──監督から感謝されることも多いのでは?
現場が終わったあと、「桐島、部活やめるってよ」や「紙の月」の吉田大八監督から「田口さんとの仕事はクリエイティブで楽しいです」とメールをいただいたのはとてもうれしかったですね。まさかそんなふうに思ってくださっていたとは。