いろは (original) (raw)

いろは

大学の坂道を昼休みに、刑事法専攻のしゃれ者Oと登っていた。

O「うぅぅ~ひるめし食ったあとの、この坂道はいつもながらつらいよなぁ・・・」

私「ははは、いいかげんに慣れろよ。もう何年も通ってんだから」

O「そんな無理いうなよ。年々、歳を重ねるんだから、反対にからだにこたえるんだぜ」

私「まだ、そんなことをいう歳じゃないだろ?」

O「弘法大師が作ったっていう、ひらがな和歌だな」

私「なんだよそれ?

O「『色はにほへど 散りぬるを わが世たれそ常ならむ』ってな。

いつまでも、思っているほど若くはないってことさ」

私「まったく・・・まわりくどいなぁ・・・それなら、ウチの大学じゃあ、この坂道を歩くのに慣れることが、学生の『いろは』じゃないか」

O「おぉ・・・そっちでいくかぁ。それなら、『昼めし今日の日付』なら、苦労もいとわないけどさ」

私「え?」

O「今日は6月8日のロハだよ。縦にならべて書いてみな」

私「・・・(只・・・か・・・まったく)・・・・」

六月や柿の青葉のばら~に(寺田寅彦