フョードル・ドストエフスキー「悪霊 上」(新潮文庫)第2部2.3.4 スタヴローギンは殺人扇動をし、決闘でピストルで相手を狙わない。 (original) (raw)
2024/11/11 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 上」(新潮文庫)第2部1 スタヴローギンの得体のしれない友人たちは人神論・陰謀論・宗教国家論をわめきたてる 1871年の続き
スタヴローギンは深夜に歩き回る。4年前のペテルブルクのできごとを回収するために。
第2章 夜(つづき) ・・・ 雨の中あるいていると、丁重な癖になれなれなしい声で男が寄ってくる。懲役人のフュージカ(ヒョードル・フョードロヴィチ・フュージカ:なぜドスト氏はこの男に自分の名前を付ける?)。ピョートルの手引きで脱獄し彼の使い走りになっているが、こきつかわれるので、スタヴローギンにも近寄った。役に立てるという。
郊外にある小屋に行くとレビャートキンが待っていた。この男も「会」のメンバーだったが、ニセ札や扇動ビラで逮捕されている。それを救ったのがピョートル。でも互いに信用していないので、レビャートキンはマリヤとの秘密結婚をネタに金をせびっている。今回もそうするはずだが、スタヴローギンは結婚は公開する、もう金はやらないとすげもない。レビャートキンは秘密をリプーチンにも漏らしていた(すでに第1章でピョートルに自白させていたが裏が取れた)。
マリヤに5年ぶりに会うが(ワルワーヤ夫人の家のできごとはノーカウント)、マリヤはスタヴローギンと分からない。「公爵」と呼んで要領の得ないことをぶつぶつ。「夢見」、「あの人に対する大きな罪」。スタヴローギンはスイスに隠遁しようと持ち掛けるが、マリヤは承諾しない。興奮して、「ナイフを隠し持っているのを見た」「あの人を殺したのか」と問い詰め、「破門者」とののしる。
(マリヤは巫女のような憑依者。神がかりになったマリヤが口にしたことは、スタヴローギンの真実を言い当てているのだろう。マリヤの予言が実現するか気に留めておこう。)
レビャートキン(なにか企んでいる)の家を辞すと、橋のたもとで無宿物をたたきのめす。それは懲役人フュージカ。無宿物は「レビャートキンとマリヤを殺(や)りましょうか」と独り言つ。スタヴローギンは財布の金を撒いて高笑いして帰る。
(スタヴローギンが金を撒いたことで、フュージカはスタヴローギンが計画を承認したと考える。ということを次の章でスタヴローギンは言っていた。「罪と罰」にはレビャートキンやフュージカのような「死の家」に暮らしたものはいなかった。それがいる「悪霊」の町には社会のあらゆる階層(皇帝と大僧正を除く)が集まって、スタヴローギンの周りで主張している。)
第3章 決闘 ・・・ 翌日、スタヴローギンはガガーノフと決闘をする。介添人はキリーロフとマヴリーキー。興奮したガガーノフが弾を外すとスタヴローギンは狙わないで撃つ。それが三度になり、取り決めにより決闘は中止。スタヴローギンは馬鹿を侮辱してしまったと反省する。その一方で、自分は耐え忍び、重荷を負っていると愚痴も言う。
(スタヴローギンは人を殺したくないという。彼の過去は置いておくとして(一人決闘で殺しているのだ)、殺す気はないのに殺してしまったラスコーリニコフと、殺せるのに殺さなかったスタヴローギン。ラスコーリニコフの「踏み越え」論からすると、スタヴローギンは新しい人間にはなれないのに、ラスコーリニコフよりも危険で深い所に足を突っ込んでいるようなのだ。)
(「カラマーゾフの兄弟」でゾシマ長老が若いころに決闘をやっているはずなんだが(乱歩のエッセイからの情報)、どうだったっけ。相手にあたらないようにわざと外すのはとても気障な行為なのだが、仮面のような表情のスタヴローギンにはよく似合う。)
ワルワーラ夫人の家に行くと(第1部第5章以来)、ダーリヤが待っている。ダーリヤとスタヴローギンの仲を夫人が疑っていると困惑し、もう結婚することはない、看護婦になるか聖書を売って歩くという。退席するスタヴローギンに「神さまがあなたを悪魔からお救いくださいますように。はやく私を呼んでください」と懇願する。
(ダーリヤは「辱められた人」。ステパン氏との婚約を解消されたことで侮辱され、社会的な信用を失ったのだ。「罪と罰」のドゥーニャと同じ境遇。その辱められた人がスタヴローギンに「悪魔」がついているのを見る。あいにくダーリヤには悪魔払いの能力はない(彼に踏み込めない)。スタヴローギンに取り憑いた悪魔は自分一人で対処するしかない。でも、悪魔はスタヴローギンの感じている耐え忍んでいること、重荷と同じなのだろうか。)
(ダーリヤの選択は実現可能かどうかは別にして、罪人であるソーニャ(「罪と罰」)の別の選択肢であったのかもしれない。でも、当時の看護師は上級から中産階級の女性しかできないものであったし(学歴が必要で無給または薄給)、後者も後ろ盾になる組織が必要。それらが持たない/支援組織がない下層者にはできないことだったか。なお、「聖書を売って歩く」女(ダーリヤとは別人)が最終章に登場して、ステパン氏の最期を見ることになる。ダーリヤは他人を救うことはできなくとも、辱められ虐げられた人の横にいることができる人になるのだろう。)
第4章 一同の期待 ・・・ 決闘の顛末はすぐに町中のうわさになり、スタヴローギンは有名人になった(ガガーノフは町を逃げ出す)。でもピョートルは決闘したことに不満で、スタヴローギンと険悪になりかける。ピョートルの注進でワルワーラ夫人への注進で講演会を企画することになった。引きこもっているステパン氏にピョートルが知らせに行ったが、彼がチェルヌイシェフスキーの「何をなすべきか」を賞賛しているのを嘲笑する。激怒したステパン氏はピョートルを勘当する。ピョートルは県知事レンプフにも接近し、同地でまかれた(反政府運動の)檄文のコレクションを借りだした。これらはピョートルの策謀であり、ステパン氏と県知事レンプフを利用するための準備に他ならない。
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2024/11/07 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 上」(新潮文庫)第2部5.6 ピョートルは策謀の仕込みを進め、スタヴローギンは粛清を示唆する 1871年に続く