【デューン/砂の惑星】僕にとって唯一無二のカルトSF (original) (raw)
人が何と言おうと、好きで好きでたまらない映画ってありますよね?
僕にとってデビット・リンチ監督の「デューン/砂の惑星」(1984)はまさにそんな一本。
何が好きかと問われたら、全部が好き。
特に**デビット・リンチワールド全開のグロさと、宮廷的豪華さが同居する視覚イメージには痺れます。**
昨今リメイクされた「DUNE/砂の惑星 PART1&2」(2021&2024)も、視覚イメージはこの映画に影響されてるんじゃないでしょうか。
「デューン/砂の惑星」は最初にレンタルビデオで観て、次にDVDを買って、数年前にリマスター版のBlu-ray(米国版)を買ってしまいました。
同じ映画で2本も買ってしまうなんて、どうかしてますが、「2001年宇宙の旅」(1968)はレーザーディスクとBlu-rayの2種類、「オネアミスの翼」(1987)はレーザーディスク、DVD、Blu-rayの3種類、「ブレードランナー」(1982)はレーザーディスク、DVD X 2、Blu-ray X2ですから、まだまだです。
そんな大好きな映画が4Kリマスターに合わせて劇場公開されると聞き、これは行かねば、と川崎のチネチッタまで足を運びました。
残念ながらチネチッタは2K上映だったんですが、やはり劇場初体験は良かったです!
(8月に劇場で見て、すぐに下書きは書いたんですが、推敲がグダグダとやっとアップしました。すみません)
(あらすじ)
皇帝が君臨する宇宙帝国。光速を超えるワープ航法が不可欠であり、それを行えるのはナビゲーターと呼ばれるミュータントたちに不可欠なのがメランジというスパイスだった。宇宙で唯一メランジを産出出来るのは砂の惑星デューンのみ。皇帝はデューンの統治を邪悪なハルコネン男爵から、皇帝に迫る人望を集め始めアトレイデ公爵へと変更する。これは採掘権を奪われたハルコネン男爵を煽り、政敵となる可能性のあるアトレイデ公爵を討たせるための皇帝の謀略だった。彼の計画通り、皇帝の軍隊の援助を受けたハルコネン男爵はアトレイデ公爵を殺害。デューンの支配権を取り返す。アトレイデ公爵の一人息子ポウルと、その母ジェシカは寸でのところで脱出。デューンに住む砂漠の民フレーメンに救われる・・・
原作は名作と誉れの高いフランク・ハーバードの「砂の惑星」シリーズ。
トールキンの「指輪物語」と並び称されるカリスマ的な小説です。
僕は読んだことがないのですが、宗教的な側面もあり、一種の思想書のような扱いもされるようです。
とにかくスケールの大きな大河ドラマで、映像化は不可能と言われてました。
1975年頃に「エル・トポ」(1969)や「ホーリー・マウンテン」(1973)を撮ったカルト監督のアレハンドロ・ホドロフスキーが映像化に取り組みます。(きっと原作の宗教的粗面に惹かれたんじゃないでしょうか)
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キャスティングにはサルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、オーソン・ウェルズを配し、音楽はピンク・フロイドとマグマ。美術はメビウスとH・R・ギーガー、特撮はダン・オバノンという超豪華な布陣でした。
しかし残念ながら挫折。
その顛末は「ホドロフスキーのDUNE」(2013)というドキュメンタリーになってます。(かなり面白いドキュメンタリーです。この映画やリメイクの「DUNE/砂の惑星 PART1&2」を見た上で、見ると更に面白いです)
ちなみにこの時の人脈(ダン・オバノン、メビウス、H・R・ギーガー)が、そのまま「エイリアン」(1979)に流れたんじゃないでしょうか。
さて「デューン/砂の惑星」の映画化権は紆余曲折を経て、イタリア人大物プロデューサー、ディノ・ディ・ラウレンティスが獲得。「エレファント・マン」(1980)で一躍注目を浴びていたデビッド・リンチを招聘し、難産の末に生まれたのがこの映画です。
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当時は映画評論家と原作ファンからも、ケチョンケチョンにけなされました。
当時は大失敗作の烙印を押されてたんですよね。
でも僕には刺さりましたね。
SFなのに19世紀的貴族趣味全開の美術や服装。
グロテスクささえ感じる個性的なキャラクター。
長寿と超能力を実現する謎の香辛料メランジ。
メランジを吸引し、帝国に影響を及ぼすほどの力を得たギルドナビゲーターやベネ・ゲセリットの魔女たち。
そのメランジが採れる唯一の場所は、水が全くなく、人間を拒む砂と巨大な砂虫サンドワームが支配する惑星デューン。
確かに一つ一つの設定や精神性が深く掘り下げられてはいません。
原作の魅力は、表面的なSFイズムではなく、そこに練り込まれた宗教観だったり、精神論だったりするそうです。
それらの「深い」設定を、単なるSF的なガジェットのように軽く扱ってるところに、原作ファンの不満がありそうです。
でも、僕としては、その各設定の説明し過ぎないのが好きだったりします。
例えば主人公の母親が「ベネ・ゲセリットの魔女」の一員なんですが、この「ベネ・ゲセリットの魔女」については、詳しい説明がないんですよ。
ただセリフの端々から、彼女たちがテレパシーや読心術、特殊な声を使って相手を意のまま操る能力を持つこと、厳しい修行と規律を持つ集団であること、裏から銀河帝国に影響を及ぼし、秩序を保とうとしているらしいんです。
そういう裏設定的なものを想像させるヒントがたくさんあるところが楽しい。
まぁ、普通に映画を見る人からすれば、「不親切な映画」って言われるのは分からでもないですけど。
デューン/砂の惑星_ポスター
話は結構シンプルで、大河ドラマ風。
正義の貴族の息子が、裏切りにあって殺された父の復讐をすべく、敵の貴族に復讐する、ってそれだけの話。
寧ろ、かなり通俗的に分かりやすい話なんじゃないでしょうか。
(長編原作からすれば、かなりいろいろなものを削ぎ落としてるっぽいので、原作ファンが顔をしかめるんでしょうね)
筋はシンプルですが、映画の展開はしっかり起伏は作られていて、飽きることはありません。
ただ、絶え間なく不可思議な用語が飛び交い、不気味キャラが登場し、最後には「救世主伝説」まで出てきますから、日ごろからSFに慣れていない人にとってはシンドいかも。
そういう意味で、この映画はSFマニアといった、見る人を選んでしまいう映画です。
このSF的なものを消化できさえすれば、映画は豪華絢爛な絵巻物のように大河ドラマを、手際よく見せてくれます。
その絵巻物としてこの映画を支えてるのが美術。
デビット・リンチが、かなり拘りを持って作ってるように見えます、ってかそれぐらい個性的で、この映画の見どころです。
この手のデザイン好きな僕には堪りません。
今でも美術・デザインでは、この映画より好きな映画はないかも。
どこかに設定資料集、売ってないでしょうか?
あの80年代にヒット曲を連発していたTOTOです。
「ロザーナ」(1982/全米2位)が有名ですね。
ロック/ポップスバンドですが、メンバーは実力派のセッションミュージシャンの集まりという職人集団。
19世紀貴族的な絵作りなのに、ちょっと不思議な組み合わせですが、見ている間は割と気になりませんでした。
特に「メインタイトル」(ブライアン・イーノの作曲だと思われます)は、大河ドラマっぽくて好きです。
反対にエンディングの「Take My Hnad」は、これぞTOTOって感じの曲でした。いい曲だと思いますが、映画の中でここだけ妙に今っぽくなっちゃうので違和感はありました。
この当時の先進のミュージシャンを登用するのは、アレハンドロ・ホドロフスキーの企画(ピンク・フロイドとマグマの予定だった)の影響でしょうか?
さて主人公のカイル・マクラクレンはこの映画がデビュー。
端正な顔立ちで、貴族の息子を演じるのはぴったりです。
リメイクの「DUNE/砂の惑星」(2021/2024)のティモシー・シャラメより、古典的なハンサムなので、この物語の趣旨的には彼の方がDUNE世界には合ってるんじゃないんでしょうか。
ヒロインのチャニを演じるのはショーン・ヤング。
「ブレードランナー」(1982)のレイチェルを演じた彼女です。
可憐だけど、気の強いキャラをこの映画でも演じてます。
でも、この映画で何よりも個性的なのは、政敵ハルコネン男爵やギルド・ナビゲーター。
とにかくグロいのオンパレード。
ちょっと悪夢レベルかも。
そのハルコネン家で、唯一グロくないのが、ハルコネン男爵の甥フェイド。
美形ですが、中身は残忍/残酷。
演じるのはあのミュージシャンのスティング。サイコパスっぽい雰囲気が出ていてナイスです。
製作総指揮のディノ・ディ・ラウレンティスは、僕の世代では印象深いプロデューサーです。
初期は名匠フェデリコ・フェリーニの「道」(1956)などの名作を生みだし、60年代から娯楽作を手掛けるようになりました。
70年代にリメイクの「キングコング」(1976)や「オルカ」(1977)、80年代に入るとカルト的迷作「フラッシュ・ゴードン」(1980)、アーノルド・シュワルツェネッガーを世に送り出した「コナン・ザ・グレート」(1982)、人気絶頂期のミッキー・ロークとジョン・ローン主演の「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」(1985)と良くも悪くも映画少年の記憶に残る映画を作ってくれました。
(正直、金はかかってるんだけど、中身がなぁ、っていう映画も多いのですが)
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この映画の製作であるラファエラ・デ・ラウレンティスは、ディノ・ディ・ラウレンティスの娘。この後もプロデューサー業をしてますが、ちょっとB級香りのする、ビミョーな映画が多いです。
ちなみにラウレンティス一族はイタリアでは有力者らしく、ディノ・ディ・ラウレンティスの姪アウレリオ・デ・ラウレンティスはサッカー・セリエAのSSCナポリの会長をしています。
とにかく好き過ぎて長々と語ってしまいました。
自分でも万人向けの映画ではないことは分かってます。
素材は良いのに、あまりにも万人向けではないので、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が「万人向け」するようにリメイクした気持ちも分かります。
この映画、デヴィッド・リンチのオリジナル版(ラフカット版)は4時間を超えていたそうです。
商業的理由で2時間半に縮められて公開し、惨敗。
その後、**デヴィッド・リンチと無関係なところで、元の4時間に近い形に再編集されたアメリカでTV放送されてます。**
(そのため監督のクレジットがデヴィッド・リンチではなく、監督名を出せない時に使う「アラン・スミッシー」になってます。)
デヴィッド・リンチのオリジナル版、どこかで出ないでしょうか・・・
そう言えばドゥニ・ヴィルヌーヴ監督版もPART1とPART2合せて5時間半でしたね。やっぱり「デューン/砂の惑星」を2時間半にするなんて、そもそも無謀だったってことでしょう。
国内のDVDとBlu-rayは、ちょっとお高めの特別記念盤(Blu-ray)のみが入手可能みたいです。
特典映像や、劇場未公開シーンをたくさん入れたTV放映版(189分。劇場版は137分。ただしTV版はデビッド・リンチは関わってない)が収録されてるので、マニアにはお得なのかもしれません・・・(僕は次買うなら4K版と決めてるので我慢)
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