絵画等のこと㉓ 大地に耳をすます 気配と手ざわり@東京都美術館 (original) (raw)

■ 絵画等のこと㉓



2024年10月9日まで上野の東京都美術館にて開催中の「大地に耳をすます 気配と手ざわり」を拝見したので、感想を記します。

大地にすます 気配とざわり

● 大地に耳をすます 気配と手ざわり のこと

本展は自然に深く関わりを持ちながら制作にとりくむ、榎本裕一、川村喜一、倉科光子、ふるさかはるか、ミロコマチコの、五人の現代作家を取り上げたもので、絵画、版画、写真、インスタレーション作品を観ることができる。2023年夏に練馬区立美術館にて拝見した「練馬区立美術館コレクション+植物と歩く」にて、東日本大震災の被災地の植物を描く倉科光子のことを知り、もっと作品がみたいと伺った次第である。

入場料を支払い、ロビー階から展示のある地下へとエスカレータで下ると、出迎えてくれるのは海辺に佇む犬の写真を、透け感のある布に印刷し、木枠に収めた作品だ。川村喜一による「We were here.」というインスタレーションの一部。犬の裏には同様の体裁で、鹿の写真が背中合わせで展示されているので、両者がうっすらと透けて見えるのである。
作品リストによると、川村の作品はこのインスタレーション一つのみ。ただし、こういった写真を中心に立体や川村の手紙や随筆のような文章がたくさん散りばめられているため、見ごたえは充分。川村は知床在住の写真家であり、狩猟家とのこと。多数の写真に登場する犬はアイヌ犬のウパシ(雪の意)だそうで、愛犬であり猟の相棒でもあるよう。
キャプションを読んでいくと、写真を布に印刷することや、フレームの選択など、見せ方にこだわり、そうした見せ方も含めた作品世界を作り出しているようで、大変興味を持った。狩られた蝦夷鹿や羆、北狐の写真を通して、自然や動物を愛でると同時に、恐ろしいものでもあるとして表現されている印象を受けた。今後、注目してみたいと思った。

そしてお目当ての倉科光子の作品は、さらに地下へと進んだフロア。先述の通り、被災地に生きる植物を、リアルに丁寧に描写している。タイトルを植物のある緯度経度としている作品があり、面白い。
津波により内陸の植物(の種子?)が海岸まで運ばれて根付いているものもあるとか。なれない海岸に生えてしまった植物とは、ずいぶん素頓狂なものだろうなあ、と思う。そのことを思うに、私自身のことを考える。私は生きていて、どうにも居場所がない思いをすることしばしなのだけれど、ひょっとしたら私も、本来生えるべき場所から流されて生えてしまっているのではないか、と考える。
そうであれば、どんなにいいか。この生きづらさに説明がつくのであれば、どれほど素晴らしいだろう。そんなことを考えるのである。

他、ふるさかはるかは土や藍を用いた版画を、榎本裕一は雪や氷をモチーフとした絵画作品を展示。ミロコマチコは定期的に千葉市美術館で開催されるブラチスラバ世界絵本原画展等で何度か作品を拝見したことがあるのだけれど、今回は絵本作品以外にも、ライブペインティングによる大判作品や、インスタレーションが出ており、改めて魅力を感じた。

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