隠居日録 (original) (raw)

ピーター・パーソンズパピルスが語る古代都市: ローマ支配下エジプトのギリシア人 (原題 CITY OF THE SHARP-NOSED FISH)を読んだ。

以前西洋美術とレイシズム - 隠居日録を読んだときに「おなじみのエジプトの女王クレオパトラがその代表で、(略)、殆どの場合脱色された白い肌で登場しているのである」と書かれていた。その時には、「確かにエジプトの女王なので、肌は褐色か黒の方が正しいのかもしれない」と思った。その後何かで、クレオパトラギリシャ人(あるいはギリシャ系)であるというのを見聞きした記憶もある。そして、ヒエログリフを解け: ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース - 隠居日録を読んで、碑にはギリシャ語も書かれたということは当時のエジプトではギリシャ語が重要だったということだろうと想像した。しかし、なぜ重要だったのだろうか?その頃のエジプトの王は一対どういう人たちなのだろうと、疑問を抱くようになった。そしてこの本を発見した。

紀元前334年、マケドニアの若き王アレキサンドロスはペルシア討伐に出発した。そして、前332年エジプトに入り、ペルシアの総督は戦わずして降伏し、アレキサンドロスは古都メンフィスに進み、ファラオの称号を得た。前331年4月アレキサンドロスはエジプトからバビロニア、ペルシア、アフガニスタンと進み、インドのインダス川にまで到達した。そこからバビロンに戻り、アレキサンドロスは前323年33年の生涯を終えた。

この間エジプトにはマケドニアの守備隊がとどまっており、ギリシャ人の総督がいたが、基本的に行政はエジプト人の役人が担っていた。アレクサンドロスの死後、将軍たちは支配領域を分割し、ラゴスの息子プトレマイオスは、正当なアレキサンドロスの後継者フィリッポス3世の総督という名目でエジプトを手に入れた。フィリッポス3世は前337年に殺され、アレクサンドロス4世も前310年に殺され、権力の真空状態が生じた。こうして、アレキサンドロスのギリシャ帝国は3分割され、プトレマイオスプトレマイオス朝創始者となった。

本書はエジプトのオクシリンコスという古代の都市で見つかったパピルスについて書かれている。1896年ロンドンのエジプト基金パピルス獲得のために資金を割くことを決め、B.P.グレンフェルとA.S.ハントが発掘者となった。1897年1月11日に彼らが低い小山を彫っていた時に未知の「ロギア」即ちイエスの語録が姿を現した。これは後に聖書外典の「トマスの福音書」であると判明した。続いて「マタイの福音書」の1ページも見つかった。彼らが掘ったのはゴミ捨て場で、3カ月の発掘期間に280の箱を満たすに足るパピルス文書が見つかった。

最初のクレオパトラの肌の色に戻るが、彼女がギリシャ人あるいはギリシャ系であるならば、肌を白く描いてもあながち間違っていないと思う。

ミステリー小説集 脱出を読んだ。「ミステリー」とついているが、これは広義の意味でのことで、最初の「屋上からの脱出」は日常のミステリーだが、それ以外はミステリアスな展開で物語が進み、最後に謎が明かされるという感じのミステリーだった。

これは脱出に関するストーリーのアンソロジーの短編集で、収録作は「屋上からの脱出」(阿津川辰海)、「名とりの森」(織守きょうや)、「鳥の密室」(斜線堂有紀)、「罪喰の巫女」(空木春宵)、「サマリア人の血潮」(井上真偽)の5編。

面白かったのは「屋上からの脱出」と「サマリア人の血潮」。

「屋上からの脱出」は中学の天文部で夜に校舎の屋上で天体観測をしていた日のことだった。屋上に通じる扉に何かが引っかかって、開けることができなくなり、屋上から出られなくなってしまった。一体何があってそんなことになったのかを10年後に当時のことを思い出しながら推理するのだが、その時にはわからなかったことが見えてくるというストーリになっている。

サマリア人の血潮」は気が付くとベットで輸血をされていたトオル。何があってこうなったのかは全然思い出せない。病室のようなところから外に様子を調べるために出てみると、女が男の血を吸っていると思われるところに出くわしてしまう。「吸血鬼?」その時スピーカーから声がしてきた。その声はカズトのように思えた。カズトは緊急事態で、すぐに地上に逃げないといけないと言い、詳しい説明をしてくれない。彼を信じてもいいのだろうか?

この本に収録されている作品は全編書下ろしのようで、どこかで発表した作品をまとめたわけではないようだ。

ミステリー小説集 脱出 (単行本)
阿津川辰海
井上真偽
空木春宵
織守きょうや
斜線堂有紀
320ページ
2024/5/22