完全に猫なのさ (original) (raw)

ピアニスト・大貫祐一郎さんのコンサート「オオヌキ秋のバンドまつり」。5月に開催された「春のショパンまつり」に続いてお邪魔しました。だって大貫さんが、シールを集めたらいいことあるっていうから〜!🍞

仕事を早めに抜けて、チケットとシール台紙を握りしめ、モノレールで夜景を眺めながら天王洲までやって参りました。

大貫コンは演奏が楽しみで通っていますが、終演後にセトリの紙を配布してくださることなども地味に大好きです。そんなわけで落ち着いて思い出しながら書いていきたいと思います。

メンバー

grand-arts.com

セットリスト

*終演後に配布されたものをベースに少し補足しています

本編

  1. KAKUMEI
  2. Pra Voce
  3. Someone Like You(ミュージカル「ジキル&ハイド」より)
  4. 最後のダンス(ミュージカル「エリザベート」より)
  5. Donna Lee
  6. Chorinho
  7. If I Ain't Got You(with Harumi)
  8. I Have Nothing(with Harumi/ミュージカル「ボディーガード」より)
  9. I Hear A Voice(with Harumi)
  10. From Within

EC

レポ

感想を一言で表すなら、最高のグルーヴの中に身を置いてきた…!っていう感じです。あらかじめ予告されていた*1公演時間も75分とちょうどよく(押したけどねw)、ワンドリンクオーダーなので生ビールをいただいて、極上の音楽を思いっきり浴びる。金曜の夜にぴったりのご褒美時間でした。

革命からのKAKUMEI

ステージが明るくなると、グランドピアノが赤茶色の木目が入ったおしゃれなものだと気づきました。ススッと現れて腰を下ろした大貫さんが、やおら弾き始めたのは、ショパンエチュード、「革命」。いやこれ春に聴いたやつ!!やっぱりショパンか〜い!相変わらず上手いやないか〜い!!とこっそりウケていたら、ドラムの則武さん、ベースの寺尾さんも登場して、始まったのが「革命」のジャズアレンジver、その名も「𝑲𝑨𝑲𝑼𝑴𝑬𝑰」…!

一夜明けた今でも大貫さんが弾いてたテーマをくっきりと思い出せるのですが、それくらい「革命」のアイコニックな主題がはまっていてかっこよかったです。そして全パート、元ネタの高速パッセージを思わせる手数の多さ…!

上手寄りの席だったためドラムの則武さんの全身がよく見えて、夢中で見入ってしまいました。ドラムって手足で演奏してるんじゃなくて、実は身体の芯にあるリズムを手足から出力してるってことなんですね。今後、いろんなライブに足を運ぶことがあっても、一般的なセッティングを考えると、伝説級のドラマーの演奏を間近で見る機会はそうそう巡ってこないはず。逆に大貫さんの手元は見えない角度だったけれど、得難い体験でした。

続く1曲はポルトガルのピアニスト・Michel Camiloの「Pra Voce。「みんな聴いたことないと思うけど、絶対好きだと思いますよ」というような曲紹介だったのですが、その言葉通り、ラテンの明るいムードがあふれる軽快な1曲でした*2。3人の演奏も「KAKUMEI」よりさらに噛み合っていい感じに。

ミュージカルコーナー〜巨匠もびっくりの神アレンジ

続いてはミュージカルから2曲。ミュージカル経由の聴衆には嬉しい選曲です。大貫さんは好きなミュージカルの作曲家としてワイルドホーンとリーヴァイを挙げ、客席も「わかるわ〜」となる中、選ばれたのは「ジキル&ハイド」から「Someone Like You(あんな人が)」と「エリザベート」から「最後のダンス」でした…!

「Someone Like You」は北欧ジャズに落とし込む試み、ということで、賑やかだったオープニングから一転、しっとりと。最初にメロディを取った寺尾さんのベースがとっても詩的で女性の歌そのもので、則武さんのブラシにも夢中になりました。

そして、振り返ってもこの夜一番の驚きだったのが「最後のダンス」のファンクアレンジ。最初はすごく抑制的に始まり、休符の思わせぶりな使い方などはトートがするりと忍びよってくる感じだったのですが、これが原曲と同じようにどんどん熱を帯びていきます。もともとファンク寄りの曲だと大貫さんが説明していて、なるほど!?と思ったのですが、違和感がないどころかハマりすぎ。うう、エリザ好きな人みんなに聴いてほしい、音源化してほしい〜〜!!

拍手喝采を受けた大貫さんが「ほとんど決まり事がなくてコードとメロディがちょっと書いてあるだけなんですけどね」とか言うからそれにも度肝を抜かれました。こういうジャンルは即興でセッションするらしいと何となく知ってはいても、やっぱりびっくりしますよね…。

慣れてなくても、「ジャズライブのお客さん」になれる

これ、何かというと次の「Donna Lee」「Chorinho」のくだりなのですが。スタンダード・ナンバーである「Donna Lee」を演奏する前に、大貫さんがいつもの柔和な笑顔で「こういう曲は最初にテーマを弾いて、そのあと、それぞれがソロを取るんです。そのときに、我々は拍手がほしいです!」って言ってくれたのです。「ミュージカルでもソロのあと拍手するでしょ、あれと同じです。我々も喜びます」。確かにライブ盤を聴いていると拍手が出てくるから、あれですね?とわかったものの、この「お約束」に慣れているわけじゃないから、拍手のタイミングを間違えたらどうしようとかちょっと考えてしまいました(※行儀のよさを求められるミュージカルの客のメンタリティ)。でもすぐに「春のショパンまつり」の太田胃散のくだりを思い直したのです、大貫さん、たぶん顔で教えてくれるわ(行った人は思い出してください笑)。

そんなわけで、表情や身振りで合図をもらえたので、「ジャズライブのこなれたお客さん」っぽさも味わうことができました。もちろん聴いていたら自然と拍手したくなったのですが、参加の楽しさというか、“それっぽいことができた喜び”って、ありますよね。

ゲストコーナー〜人に歌を届けるために生まれてきたのね

静かなイントロが始まり、遥海ちゃんがステージに現れ、胸に手を置いて深く一礼。黒のジャンプスーツにエナメルのヒールをあわせ、ロングヘアをさらっとおろした大人っぽいスタイリングでした。アリシア・キーズの名曲「If I Ain't Got You」を切なく歌い上げ、ステージがあっという間に遥海ワールドに染まります。私は昨秋の「ラグタイム」のサラ役で遥海ちゃんを知ったのですが、今回ライブという場で初めて歌を聴いて、遥海ちゃんは生粋のシンガーなのだなということを知ることになりました。本格的で圧倒的で、完全にこっち側なんだ…!だから逆に、ラグタイムでの繊細な演技と歌はすごいことだったんだなぁと再認識したのです。

ラグタイム、バイマイを経由して今回の出演の運びとなったそうですが、大貫さんと芳雄さんの話をしているときの遥海ちゃんがとっても嬉しそうで、可愛かったなぁ。

続いては、ミュージカル「ボディーガード」から、ホイットニー・ヒューストン「I Have Nothing」を選曲。すごくいい曲だけど難しいよね、と話している中で「しかも原キーで歌いますからね」と大貫さんに水を向けられて、できるかなぁというように「神様、お願いします…」とつぶやいた姿にハッとされられました。最近とある人の同じような言葉を、雑誌で読んだばかりだったから*3

でも始まってみれば不安なんてどこにもなかったかのように、確信に満ちたパワフルな歌声が響き渡り、ハイトーンで客席を圧倒します。すぐそばを流れる天王洲運河の水も、ビリビリと震えていたことでしょう。

最後はオリジナル曲「I Hear A Voice」をエモーショナルに歌い上げて、いったんお別れ。遥海ちゃんって、歌を届けるために生まれてきた人なんだなぁ、と心の深いところで納得しました。

グルーヴは最高潮へ〜エンディング&EC

最後の1曲は大貫さんが繰り返しコンサートで演奏してきたというMichel Camiloの「From Within」。春にもショパンづくしの後に披露されたのですが、今回は「やっとバンドスタイルでできます!」と嬉しそう。バンドならではの分厚いユニゾンがとても気持ちよかったです。

アンコールでは遥海ちゃんも再び呼び込まれ、またも超絶技巧曲、映画「SING」より「Don't You Worry 'Bout A Thing」でした。大好きな曲だけど難しいから誰か歌える人いないかなぁと温めていたところ、いたわ!ということらしいです。

遥海ちゃんもこの難しさを「カクカクしてる」と表現していたのですが、これはテーマの最後の、シンコペーションで半音階を降りてくる「♪Ah〜」のところかな?と推察。でも遥海ちゃんは難なくグルーヴィーに歌いこなしてて、まさにこの「♪Ah〜」のところにきゅっと心をつかまれたのでした。みんなで手拍子しながら、身体を揺らして楽しみました。まさにOne Groove…!*4

メンバーを1人ずつ紹介し、最後に「ピアノはジョニー・デップでした」。冒頭の「革命」と同じくらい、「なんでやねん」と思ったのでした。笑

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お見送りでいそいそとシール台紙を差し出して「次も楽しみにしてます」とお伝えすると、「ぜひ集めてください」と応じてくださいました。目を合わせると、その見上げる角度に改めてびっくりしますね。

この日思ったのはシンプルに「いい音楽って人生に必要だよね」ということ。あと、私自身はコンサートに行ったら「やっぱりあっと言わされたいんだな」ということも再認識しました。演奏が素晴らしいだけでなく、驚きをともなう感動がたくさんあったから、こんなにも満足して帰れるのだなぁと思います。

順調にいけば、次でシールが3枚たまってお皿がもらえるはず(※お皿じゃないよ動画だよ)。次はいつになるのかなぁ、楽しみにしています🎹

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長すぎた残暑から一転、急にぐっと気温が下がった日比谷の夜。

先月、ふいに届けられた「レジェンド・オブ・ミュージカル in クリエ」開催の告知。すでに書籍にもなったトークショーの続きがあるのは嬉しい驚きでした!(過去の回には全然間に合っていないので…)

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ちょっと個人的にしおしおしているタイミングだったのですが。予定を超えて1時間40分に及んだ公演が終わってふたたび日比谷の夜風に当たるころ、私はすっかり元気になっていたのでした。

心にみっちみちの栄養をくれた素敵なトークショーについて、レポ(雰囲気だけ)と感想を残しておきます。

※発言は意訳/ニュアンスです。調べながら書いたところもありますが事実関係に誤りがあったら教えてください!

オープニング

ステージ上には上演中のミュージカル「tick, tick...BOOM!」のセットがあり(この日はマチネ1公演)、その手前に上品なロココ風のソファセットが据えられていました。スタッフさんがティーポットとカップ、ケーキを運んできて、ますます優雅な雰囲気に。世界観のぶつかり合いがすでにワクワクをかき立てます。下手側には、何やらサテンの布で覆われたイーゼルが2つ。上手側にはさりげなくキーボードと譜面台が用意されていて、ついニンマリしてしまいます。

期待通り、ピアニストの大貫さんがすっと現れてキーボードの前に。軽快なリズムで始まったのは、ミュージカル「コーラスライン」の誰もが知る名曲、「One」でした。休符の使い方がおしゃれで大人っぽい演奏*1に、それだけでグッときます。

その軽快なリズムに乗せて、下手から芳雄さんの登場です。秋らしいモスグリーンのタイトなスーツに、黒いシャツと細めのネクタイ*2そして、脚が長い。なるほどと思ったのは、いずれも布地の光沢が抑えられていること。レジェンドをもてなすホスト役だからですね!そんな中、黒の靴だけはピカピカのエナメルで、素敵なアクセントになっていました。

「(Oneを)踊ろうとしたら終わっちゃったよ」とおどけてみせますが、これ、ちょっとしたフラグになりました…!

このトークショーの概要と、今回は久しぶりの開催になることを説明して「前回に比べて周囲の劇場でやってる作品の…出演者が若くなりました」で最初のひと笑い。

「ここクリエでは『tick, tick...BOOM!』、日生劇場では『ニュージーズ』、宝塚では…宝塚をやっています。すみません、演目まではすぐでできませんでした(笑)」

出演者が若くなった話から、距離の近い客席を見渡して、若い人もそうでない人も…みたいな感じで微妙に客席をくすぐって、マイクの調子が悪いのかときどき\\ボン!//とノイズが入るのを「これ大丈夫ですか?」と面白がり、ものの1〜2分でアイスブレイク完了です。後述しますが、客席の空気がすごくあったかい夜でした。

黒いバインダー片手に、ゲストの前田美波里さんの華やかな経歴を紹介*3

呼び込まれて登場した美波里さんは、黒のノースリーブのトップスにモードな黒ジャケットを肩掛けして、スパンコールが輝くフレアパンツの装い。耳元には鎖骨に届きそうなほどのピアスが揺れて、とにかく物理的にキラッキラだったのもあるけれど、ご本人が放つふわっと多幸感のあるオーラに早くも圧倒されました。

トークのこと

大貫さんはいったん退場し、美波里さんはソファに、芳雄さんは1人がけのソファに。芳雄さん、脚が長すぎて全く収納できていませんでした。

それはさておき。バレエ少女だった美波里さんが鎌倉から東京に出てからの物語を、芳雄さんが興味津々で引き出していきます。話の流れでイーゼルに用意されていた秘蔵写真が公開され、そのたびにオペラグラスを覗き込むお客さん*4。美波里さんの言葉遣いは「〜おやりになる」「〜ございますでしょう」といった表現を多用する上品なもので(いわゆる山の手言葉というのかな?*5)、アルトの声も耳心地がよかったです。

だいたいの逸話の類(資生堂のポスター出演や、劇団四季のオーディションなど)はすでにたくさんインタビューなどで語られており、ネット上の記事や著書でわかる話もあるので省きます。ここからはかいつまんで、心に残ったポイントを紹介します(順番やや入れ替えあり)。

菊田一夫の教え

最初に自分のマネージャーを買って出た女性が菊田先生に手紙を書いて…というところからキャリア初期のお話に*6

面白かったのは、菊田一夫の教え_「舞台人は、テレビに出るものじゃない」が紹介されたとき。芳雄さんは思わず“やばい!”という顔で「…ハッ!」と客席のほうを向いて、観客は大爆笑。美波里さんが語ったところでは、菊田先生曰く「舞台のお客様はチケットを1枚1枚買ってくれているのに、家でお煎餅を食べながらテレビを見るなんて。そんなもののために出ることはありません」_というようなことでした。物価高騰のなか高額なチケットを買い続ける観客としては、半世紀以上前の演劇界から届いた言葉がすごく刺さってしまいます*7

初舞台の頃に菊田一夫が美波里さんを評した言葉がある、と芳雄さんが代読するときに、「あら、そんなのいただけるんですか?」と思わず芳雄さんのほうににじりよった美波里さんがとてもチャーミングでした。

演劇人たちの息遣い〜ピーナッツと豆大福

すごく心に響いたのは、ミュージカル草創期の演劇人の横顔が、美波里さんの語りによって生き生きと映し出されたことです。

例えばデビュー当時、(顔を覚えてもらうために)菊田先生にお茶を運んでいきなさいと周囲から勧められて、そのとき、紅茶に添えられていたピーナッツをかじっていたという菊田一夫。また少し後の時期、とても美味しい豆大福を差し入れてくれたという越路吹雪「なんでピーナッツなんでしょうね」「あの豆大福が忘れられない」といった言葉とともに、懐かしむ眼差しが優しくて、ああ、人は誰かに語られることによって生き続けるのだなぁとも思ったのでした。

舞台に立つ喜びを求めて

美波里さんが劇団四季の客演を始めたきっかけは、結婚して家庭に入ったものの、舞台に立ち、拍手を受ける喜びが忘れられなかったからでした。「劇場にくればお客様に会えるでしょう」。舞台にしかない“魔力”について美波里さんは、「立った人しかわからないと思いますよ」といたずらっぽく観客を見渡し、芳雄さんは「みなさんも立ってみますか〜?」と立ち上がって最前列あたりを覗き込もうとする悪ノリ。いや引っこ抜こうとしないで!😂

浅利慶太の最終オーディションで「コーラスライン」のシーラ役をつかんだ美波里さんが、その後に演じたのが「アプローズ」のマーゴ役でした。憧れの越路吹雪さんの後をついで大女優を演じるということで、初演では越路さんの靴を借りて挑んだそうです。「少し(革を)伸ばしてもらって、お守りのように履いていました」

「アプローズ」については、このあとにもう少し。

「ノー・ストリングス」から60年後に

話は少し戻りますが、美波里さんの初舞台は、菊田一夫が手掛けた1964年のミュージカル「ノー・ストリングス」でした。当時としては黒人と白人が恋に落ちる筋書きが先進的だったそうなのですが、その頃は黒人の役は「黒塗り」で行われていたそうです(今では差別表現にあたるけれど、そういう時代だったというニュアンス)。聞き手の芳雄さんは「今なら違った表現もできるかもしれませんね」と真剣に応じていて、私は昨年「ラグタイム」で芳雄さんが演じた黒人のピアニスト、コールハウスを思い出さずにはいられませんでした。この作品には日本人が3つの人種を演じ分けるうえで、稽古でのディスカッションを経てウィッグをやめた、というエピソードがあるのですが、これを芳雄さんが披露したのが、今年6月の菊田一夫演劇大賞の授賞スピーチだったんですよね…!すごい、60年後につながった…!*8

“記号はいらない”「ラグタイム」菊田一夫演劇大賞に石丸幹二・井上芳雄・安蘭けいが喜び(イベントレポート) - ステージナタリー

歌のこと

私、書籍を読んで半年くらいしか経ってないのに、このイベントで歌も聴けることがすっぽり頭から抜け落ちておりました。なので「1曲歌わせていただきます」と芳雄さんが立ち上がったときは嬉しすぎる驚きでした…!**丸腰で、受け身を取れないまま、井上芳雄の歌を浴びたよ!!**

「アプローズ」〜by 井上芳雄

大貫さんがさりげなく再登場しており、曲の前に芳雄さんが大貫さんに話を振る場面がありました。「僕たち仲良いんですけど、最初の頃、目が合わないって言われてた」。私、ツンデレの芳雄さんがサラッとこういうこと言うのが大好きです。自分で話しかけておきながら「マイクないのに話そうとしてる」とイジる芳雄さんに、大貫さんがスネたように「僕のこと全然見てくれない!」と声を張るのが面白い一幕だったのですが…これがまた伏線みたいな感じだったんですよね。

芳雄さんの選曲は「アプローズ」より、主題曲「アプローズ」。キャパ600のコンパクトな空間で浴びる芳雄さんが最高だったのですが*9、私がすごくびっくりしたのは、下手寄りセンターに立つ芳雄さんと、上手端でキーボードに向かう大貫さん、2人の距離はそこそこ離れていたのに、ぜんぜんお互いのほうを見ないこと。なのに、信じられないくらい息がピッタリなのです。そりゃ長年一緒にやってるから当然なのかもしれませんが、具体的にいうと、ブレスのタイミング*10やリットのかけ具合がすごく合っているんです。

よく考えたら私、大貫さんと芳雄さんの組み合わせを生でみるのは4回目?なのですが、今までは大編成だったり芳雄さんが会場を練り歩いていたりで、コンビネーションの様子をまじまじと見たのはこれが初めてでした。目を合わせなくても音楽の息はこんなにも合う、なんという伏線回収だろうと思いました。

最後は「♪アプローズ」という歌詞でロングトーンを畳み掛け、高揚のままにシアタークリエの空間を制圧します。熱い拍手を送り、なかば呆然としたまま、「アプローズとは拍手(喝采)という意味」だと聞かされて、そこでたまらなくなって涙が出ました。なんだかここにいることを肯定してもらえたようでした。芳雄さんは美波里さんに「こんなに(舞台に立つ)僕たちの気持ちを歌った歌ってあるのかなぁ、と思いますね」とニコニコ語りかけていました。

「日曜はダメよ!」〜by 前田美波里

美波里さんの選曲は劇団四季で出演した「日曜はダメよ!」より、こちらも主題曲「日曜はダメよ!」。ギリシャの港町・ピレウスが舞台の作品です。美波里さんは陽気な娼婦・イリヤとして、ステップを踏みながら表情豊かに歌います。耳元のピアスもいっしょにゆらゆら、キラキラ。地中海のきらめきを思わせます。

特に忘れられないのは、実は「間奏」でした。気持ちの高まるままに、笑顔で両手を挙げて踊る美波里さん。その素敵なダンスにつられて自然と手拍子が始まったのですが、これが、あるがままの手拍子なんだと思いました。歌と踊りにウズウズして思わず手を叩いてしまうあの感じ。私はその逆の、いわゆる“統率”がとれた手拍子の現場にもよくいるし、つい先月までMR!で難易度の高い変則クラップ(ウンパパウンパ)を本気で叩いていた人間なのですが、そうではない、品種改良される前の手拍子に出会い直したような気持ちでした。

エンディング〜没入ではなく共有という幸せ

トークの終盤には、お稽古中の「SHOCK」のお話*11や、最近の作品「ピピン」で挑戦した空中ブランコのアクロバットのお話などが紹介されました。「ピピン」は来日公演を見に行ったすぐあとに出演の話があったそうで「あれをやるんですか!?私が!?」となったそうですが、水泳を日課にした成果で、再演ではラクにできるようになったそう。

この「できるようになった」という表現も素敵だったし、アルトの声も魅力的なのですがご自身では高音の発声について「あれができるようになりたい」と前向きに取り組んでいて、その姿勢にも感銘を受けました。その向上心は「先輩後輩は関係ない、今は若い人にも教えていただいて」という謙虚さにつながっているのだなと思います。

お辞儀する2人に拍手喝采が送られ、大貫さんが再び「One」を奏で始めます。美波里さんはエスコートしようとした芳雄さんの腕をとって、「One」を口ずさみながらあのステップを踏み始めます。芳雄さんもいっしょに長い脚を蹴り出しながら、2人仲良く袖のほうへ。そう、オープニングの発言がちょっとしたフラグになってたんですね。

最後はシルクハットを掲げるように黒いバインダーをちょっとかかげて、笑顔で袖に吸い込まれてゆきました。

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終わったのは21:10頃。

舞台でしか味わえないものってたくさんあると思うけれど、この夜に堪能したのは、「没入」ではなく「共有」という幸せでした。作品の上映時に比べてほんのり明るいままの客席で起こる、多彩なリアクションや笑い声、そして手拍子。あたたかい雰囲気の中、生の感情をみんなで共有しながら、この喜びは確かに劇場にしかないものだと思いました。

このところ、決して安くないチケットやすごく先のスケジュールを追いかけること、独特の商習慣に従順でいなければならないこと等にちょっと疲れており*12、正直あまり舞台に向けて気分が高まっていないタイミングだったのですが、まさにそんな心情に効く公演でした。素直になれて、心がほぐれて、そのことがとても嬉しかったのです。疲れている原因がなくなるわけではないのだけど、今は美波里さんが「これからもミュージカルをこよなく愛してください」って言ってくださったことを胸に抱いていようと思います。

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このミュージカルについて熱心に考えていると、結局サティーンのことを突き詰めて考えたくなってしまいます。それは本作が文字通り「サティーンという女性の物語」だからなのでしょう。まんまとクリスチャンにそう仕向けられている気がします。

私は昨年、原作映画とミュージカルの比較を通して、サティーン像の明確な違いをとても興味深いと感じました。いくつかあるけれどその1つは、原作映画のサティーン(演:ニコール・キッドマン)が舞台女優になりたいという夢をもっていたことです。

purplekuina246.hatenablog.com

一方、個人としての夢を叶えたがっていた映画のサティーンに対して、ミュージカルのサティーンが「こんな素敵な自分になりたい」というような夢を語ることはありませんでした。すでにトップスターに上り詰めていたから? でも、「嫉妬」するほどその座を欲しているニニと比べると、サティーンは淡々と役割を引き受けているだけのようにも見えます。

では、サティーンが欲していたものはなんだったのでしょうか。

以下、具体的に(そして実験的に)考えていきたいと思います!

◆セリフと歌詞から読み解く

観劇を重ねる中で、ふと気になったのは、サティーンが発する歌詞やセリフの中に“家”にまつわるキーワードが散りばめられていることでした。

これが、結構たくさんあるんです。1つひとつ見ていきましょう。

①安全のための“家”

「素敵なキスも家賃にさえならないし子猫さえ買えない (The Sparkling Diamond)

Sparkling Diamondで登場し、のちにOnly Girl In A Material Worldで繰り返されるこのフレーズは、素敵なキス(=愛)なんて貰っても一文にもならない、私はダイヤモンド(=お金)だけが欲しいの、という、サティーンの“表向きの価値観”をわかりやすく表現しています。サティーンに言い寄った同じパトロン*1が二度フラれてしまいますが、ここで拒絶されて吹っ飛んでいく赤いバラは、もちろん「愛」の象徴です。

私はこの歌詞が最初に聞き取れたときに、ちょっと唐突に感じました。こんなキラキラしたナンバーの中に、なんで「家賃」が出てくるんだろう?と。

そこで、いったんここでは文字通り、ティーンは実際に家賃を払っている、と考えてみることにします。つまり〈部屋を借りていて、家を所有できるほど裕福ではない〉という解釈です。

「私はもう、路上には戻れない」

上記でサティーンが家賃を払っていると仮定したものの、作中では、サティーンの住む家そのものは描かれませんでした。あの華やかなエレファントルームは、クラブ内の楽屋であって家ではありません。でも、彼女の過去の暮らしぶりについては、ある言葉によって作中で繰り返しほのめかされています。それは、「路上」です。

「路上」「ストリート」という言葉は、もちろん当時のパリに実在していた「街娼」を暗示しているはずです。一方で、Nature Boy前のロートレックの述懐によれば13歳頃のサティーンの境遇はかなり厳しそうで、〈そもそも住むところにも困っていた〉ことも連想させます。サティーンは1幕ラストのElephant Love Medleyで「私はもう、路上には戻れない」とクリスチャンの愛を拒絶しますが、背景には、街娼への転落だけでなく、住処を失いかねない恐怖があるのかもしれません。

「すぐ崩れるトランプのおうち(Firework)」「安全な場所」

そう考えてみると、内省に満ちたFireworkの最後に、「すぐ崩れるトランプのおうち」というフレーズが出てくるのも示唆的です。この「トランプのおうち」は、「まるで私、紙切れみたい」に続くもので、自分自身の寄る辺なさを指したものですが、〈サティーンにとっては「おうち」が“すぐ崩れる”不安定なもの〉であるという見方もできます。

また、2幕のCome What Mayの前にクリスチャンの腕の中で幸せな想像に誘われたサティーンは、「どこか、静かな場所で」に対してはっきりと「安全な場所」と続けます。ハッピーエンドだからどんな明るい夢想だっていいはずで、事実、クリスチャンは「ロートレックおじさんが2人の子供達と遊ぶ」という能天気な想像を披露するのですが*2、そこでもサティーンは「安全」を真っ先に求めているのです。この時点では公爵に関係はバレていないからまだ脅されていないにもかかわらずです。

「素敵なキスは家賃にならない」(Only Girl In A Material World)

ここまで見てきた通り、ティーンが家や安全を欲する気持ちは、かなり切実なものでした。それを踏まえて2幕の展開をみると、_シャンゼリゼ通りの邸宅_を与えようという公爵の申し出が、どれだけクリティカルなものだったかわかります。

前掲の記事でもちょっと触れているのですが、19世紀末のシャンゼリゼ通りには、実在した高級娼婦、 ラ・パイーヴァの邸宅が立っていました(1865年から10年がかりで完成、土地代は2億円)*3。彼女はシャンゼリゼの豪邸に住むという夢を持っており、財を築いてそれを叶えたわけです。ラ・パイーヴァはスーパー高級娼婦だったそうですが、その前例を踏まえると、サティーンがそのようにステップアップすることもあり得なくはない話でした。

上記で見てきたようなサティーンの考え方に照らせば、立派な家をもらえて身分も保証されるなんて、本来ならば嬉しくないはずがなかったのです。ティーンが年齢的な限界も意識していたことからなおさらです。

しかし実際は、公爵のソロの間にサティーンは、邸宅を見つめながらとても複雑な表情*4を見せており、クチュリエたちに着せ替えされる中、公爵に従い続けることへの悲痛な覚悟を歌い上げます。サティーンにとって、“家”はものすごくプライオリティが高いにもかかわらず、それと引き換えに自分の心を殺すことは、やはり辛く苦しいことでした。

②居場所としての“家”

「私たちのホームは誰にも取り上げさせない。ここは安全、約束する」

一方、サティーンにとっての“家”は、自分の身の安全だけを守るものではありませんでした。上述のセリフは、クラブの経営危機について不安を吐露するベイビードールを励ますものですが、サティーンははっきり「私たちのホーム」と言っています。 トップスターでありリーダーであった彼女は、仲間を守ることも同じくらい重要視していたと言えます。サティーンが「公爵を魅了する」という役割を引き受けるのは、それができるのが彼女だけであり、そうしなければ「私たちのホーム」が危機に瀕するとわかっていたからです。

「あの家はいらない。命尽きるまで、私の居場所はここよ」

しかし死期を悟ったサティーンは、公爵の援助を退け、クラブこそが「居場所」であると宣言します。原作映画では仲間の連帯感は希薄であり、上昇志向の強かった映画のサティーンは「こんなところは出るのよ」と言い放っていました。それと比較すると、この「居場所」という言葉は、ミュージカルのサティーンの人物像をはっきり表すセリフのひとつだと言えます。ティーンを中心とするシスターフッド描き込まれていることは、ミュージカル版の特徴であり、魅力でもありました。

以上をざっくりまとめると、サティーンが発するセリフ/歌詞の“家”には、「安全のための家」「仲間と過ごす居場所」の、大きく2つの方向性があると言えそうです。

マズローの欲求階層論から読み解く

①サティーンについて

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日本初演の望海サティーンとあーやサティーン💎

安全な家へのこだわり〜「安全の欲求」

さて、どうして私がこんなに”家”のキーワードが気になったかというと、観劇を重ねたあるタイミングで「これ、“安全の欲求”じゃん」と思ったからです。

これは、よく知られたマズローの欲求階層論」に登場する概念です。人間のもつ基本的な欲求について、「優先順に並んだ欲求において、低次の欲求が満たされると、より高次の欲求が現れる」*5という考え方で、「安全の欲求」は、下から2番目にあたる欲求です。人間として最優先の「生理的欲求」を満たした上で現れるものとされ、マズローは、この論を著した『改訂新版 人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』(小口忠彦訳,産業能率大学出版部,1987*6)の中で、「安全、安定、依存、保護、恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・法・制限を求める欲求、保護の強固さなど」*7と例示しています。

ちなみに、下図の有名なピラミッドはマズロー本人が描いたものではないらしいのですが(知らなかった!*8)、やっぱりわかりやすくて便利だから本記事でも活用します。

出典:イラストAC(ID 1924416

ようやく得た家族愛と、諦めていた恋愛〜「所属と愛の欲求」

ティーンの「安全のための家」への切実な思いを、ここではいったん「安全の欲求」に当てはまると考えてみましょう。欲求階層論において、「安全の欲求」の次に現れるのは「所属と愛の欲求」です。マズローはここで欲するものを「人々との愛情に満ちた関係」「所属する集団や家族においての位置」*9といった言葉で説明しています。

前パートでは、サティーンのセリフのうち「私たちのホーム」「私の居場所はここよ」という表現をピックアップしましたが、他には「彼らは唯一の家族なの!」というセリフも出てきます。父親からひどい扱いを受けていた彼女は、ムーラン・ルージュの仲間こそ家族だと思い、その集団に属していることを大切にしていました。まさに「所属と愛の欲求」だと言えます。サティーンが「安全のための家」にこだわっていることを踏まえると、ティーンは、「安全の欲求」がギリギリ満たされた上で、「所属と愛の欲求」に手を伸ばしている、と仮定することができそうです。

マズローの自著(前掲書)ではこの項目の記述はちょっとわかりにくいのですが、一読してみた感じでは、家族や集団における愛と、いわゆる恋愛については区別をしていないように読み取れました(違ったらすみません)。「愛とは、性と同義語ではない」*10とも述べています。家族愛と恋愛が同じ箱に入っていると考えると、サティーンは、現時点で得られている家族愛を大切にしつつ、ビジネスではない本物の男女の愛も、心の底では欲していたはずです。ELMの前に「愛はいらない」と切なげに歌い上げるのは、本当は愛し愛されたいという本心の現れです。マズロー「所属と愛の欲求」の説明を、「また愛の欲求は、与える愛と受ける愛の両方を含むという事実も見落としてはならない」*11と結んでいますが、ELMでクリスチャンが繰り返し「愛し合おう」と訴えるのは、そこにぴったりと当てはまるように思います。

ティーンの欲求は、せいぜい“ここまで”だった?

以上を整理すると、サティーンは、「所属と愛の欲求」がある程度満たされているものの、ともすれば「安全の欲求」が脅かされる状況に瀕しているといえます。そして、これを守るためにはお金が必要だと理解しており、だから「素敵なキスも家賃にならない」という歌詞は、ある意味、本質を突くものでした。

ちなみに、欲求階層説ではこれらの上に「承認の欲求」「自己実現の欲求」が現れます。「承認の欲求」は「安定したしっかりした根拠をもつ自己に対する高い評価、自己尊敬、あるいは自尊心、他者からの承認などに対する欲求・願望」*12であり、自己実現の欲求」は「自分がなりうるものにならなければならない」*13という欲求です。

冒頭で述べたように、サティーンはナンバーワンの地位を淡々と受け入れていて、映画のサティーンのように「舞台女優になる」という夢も持ちあわせていませんでした。性格的なものもあるはずですが、「承認の欲求」「自己実現の欲求」にあたるものは、作中にはほとんど描かれていないように見えます マズローの説、つまり欲求は下から順に満たされていくという原則に照らすと、ティーンは「所属と愛の欲求」で手一杯で、これらに到達する位置にはいなかったのかもしれません*14。それはもちろん、彼女の悲しい生い立ちに由来するのです。

②クリスチャンについて

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日本初演の芳雄クリスチャンと甲斐クリスチャン(しょまスチャン!)🎼

衣食住に困ったことは多分ない〜「自己実現の欲求」

ここで、サティーンと愛し合うことになるクリスチャンにもちょっとだけ焦点を当ててみます。これまで見てきた「マズローの欲求階層論」を念頭にセリフや歌詞を思い出してみると、クリスチャンは最も高次の自己実現の欲求」を持っていることがわかります。モンマルトルを目指した理由がまさにそれで、サティーンには「立派な作曲家になる」という夢を語ります。個人的に大好きなBurning Down The House(Welcome to the Moulin Rougeのラスト)の歌い出しは「♪いま何者でもない 僕らが立ち上がるとき」です。“いまは何者でもないけれど、何かを成し遂げてやろう”というボヘミアンズの若い躍動が歌われます。

そもそもアメリカでの息詰まる生活から抜け出したかった」という動機は、安全な家に住めるかどうかの瀬戸際を通ってきたサティーンを思うと、_ずいぶん恵まれた人だなぁ…_という気がします。サティーンが「私はただのファンタジー」「パリの売春婦のことは忘れて」と拒絶するのも頷けます。クリスチャンはサティーンの舞台に圧倒され「僕とは格が違いすぎるよ」と言いますが、サティーンから見ても、クリスチャンは「見てきた世界があまりにも違う」存在だったのかもしれません(あまり適切な表現じゃないかもしれないけれど、言ってしまえばクリスチャンは、実家が太い)。

クリスチャンの歌詞にも登場する“家”

ちなみに、サティーンの歌詞にたくさん出てきた“家”は、クリスチャンの歌詞にも出てきます。もうおわかりだと思いますが、Your Songの「♪稼ぎもないのに夢見てる 君と住む家が欲しいんだ」です。これはもちろん、公爵がサティーンにあてがおうとした、シャンゼリゼ通りの邸宅と対になるものです。本作では対比構造がたくさん登場しますが、ここでは、「お金はないけど、一緒に住む家が欲しい」vs「お金はあるので家を与えるが、一緒には住まない」というクリスチャンと公爵の完璧な対比を見ることができます。2人の違いを、サティーンにとって重要な“家”を使って際立たせているのもポイントです。

なお、クリスチャンが「金がない」のは、自分探しのためにパリに来て自らボヘミアンズになり「最高に輝かしい貧乏生活」を選び取ったからです。サティーンの生まれついての貧困とはまったく性質が異なることに注意しなければなりません。

以上、サティーンの望みについて、一部はクリスチャンと比較しながらマズローの欲求階層論」に当てはめるという試みをしてみました。改めて浮き彫りになるのは、ティーンとクリスチャンの境遇の違いです。生まれた国、年齢、育った環境…全く異なるバックグラウンドをもつ2人だからこそ、そこに通い合う愛は尊いのだと思います。

まとめ:サティーンが最期に望んだものとは

物語の終盤では、サティーンの病が進行する中、みんなで作り上げたショーも初日の夜を迎えます。サティーンが最期に欲したのは、仲間といっしょに舞台に立って、クリスチャンの曲を観客に届けることでした。「クリスチャンの音楽を世界に聞かせなくちゃ」。このとき彼女はクリスチャンに嘘をついて突き放した後で、「愛し愛された日々」は、もう過去のものになっていました。それでも命を削って舞台に立ったのはなぜなのか。

それは、サティーン自身がクリスチャンを愛する以上に、「クリスチャンの音楽」を心から素晴らしいと思っていたからではないでしょうか。ロートレックを筆頭にボヘミアンズと長い間を過ごしてきた彼女は、芸術の真の理解者でもありました。

先に引用した通り、マズロー自己実現の欲求」について「自分がなりうるものにならなければならない」とシンプルに表現していました。だとするなら、人生の最期に芸術の“よりしろ”となることは、究極の自己実現の形なのかもしれません。

「でも、あなたの音楽をみんなに届けられた」「クリスチャン、あなたはやりとげた」。泣き崩れるクリスチャンに語りかけるサティーンがどこか満足気なのも、彼女自身が命を使い切って音楽を届けて、まさに「やりとげた」からだと思います。

リーダーシップ、優しさ、利他の心、そして芸術への愛。逆境を乗り越えて輝くダイヤモンドになったサティーンのことを考えると、いくらでも美点を見出すことができます。

ブランコで舞台に降り立ち、仲間のリフトによって天に召された彼女は、やはり完璧なスターで、ファンタジーで、偶像でした。その輝きは、クリスチャンの心に、そして私たち観客の心に、いつまでも残り続けるのです。

――そう、_「これは、サティーンという女性の物語」_。

参考文献

  1. 鹿島茂『パリ、娼婦の街 シャン=ゼリゼ』(KADOKAWA,2013)※kindle
  2. 中野明『マズロー心理学入門:人間性心理学の源流を求めて』(FLOW EPUBLICATION,2016)※kindle
  3. A.H.マズロー著、小口忠彦訳『改訂新版 人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』(産業能率大学出版部,1987)

(いいわけ&おまけ)

▼考察&自由研究シリーズ(ミュージカル作品にハマると、錬成しがち)

ラグタイム

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ベートーヴェン

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ロビーにはお祝いのお花がいっぱいで、いい香りが漂っていました。

島田歌穂さんのシンフォニックコンサートにお邪魔しました!

3時間超の大ボリュームで内容も盛りだくさん。ゲストコーナーを中心に、簡単に書き残しておきます🙏

※基本的にトーク内容はうろ覚え/ニュアンスですが作品名など事実関係に間違いがあったら教えてください!(未見の作品も多いので…)

井上芳雄さん歌唱曲まとめ

長丁場のコンサートでセトリ全体を記憶できず、今回はゲスト歌唱曲だけリストアップしておきます。他の曲名はレポの中にちょこちょこ出てきます。

🎵「トゥナイト」(ウエスト・サイド・ストーリーより/デュエット)

🎵「君へのLove Song(Your Song)」(訳詞:島田歌穂/ソロ)

🎵「牢番の娘の嘆き」(ナイツ・テイルより/デュエット)

🎵「輝く未来」塔の上のラプンツェルより/デュエット)

レポ(ゲストコーナー中心)

第1部ダイジェスト〜めくるめくキャリア

第1部のテーマは「女優・島田歌穂」でした。幕開けはサウンド・オブ・ミュージック」メドレー。金色のふわっと輝くドレスをまとい、「サウンド・オブ・ミュージック」「ひとりぼっちの羊飼い」「私のお気に入り」を華やかに生き生きと歌い継ぎます。ドレスのふわふわ部分は続けて披露された「アニーよ銃をとれ」「スウィート・チャリティー」のナンバーでさっと外して、スタイリッシュなマーメイドスタイルに。

長いキャリアの中で参加してきた演目から「シンデレラのワルツ(シンデレラ)」「黙阿弥オペラ」「Shine(ビリー・エリオット)」「2ペンスを鳩に(メリー・ポピンズ)」などが披露され、年齢を重ねて表現の幅が広がる様子が伝わってきましたが、「やっぱり娘役の歌も…」と笑いを誘った歌穂さんは、名曲「トゥナイト(ウエスト・サイド・ストーリー)」を選曲。みずみずしいマリアの声でしっとりと歌い始めます。

あれ、「トゥナイト」ってデュエットじゃなかったっけ…?

ということは。

情感豊かに魅せる、大人のWSS

上手袖からゆったりと歌いながら、芳雄トニーの登場です!

ローズがかったブラウンのタキシードに光沢を抑えた黒のシャツ、共布のネクタイ!!かっこいいです。そして足が長い(←何度びっくりしたら気が済むんだ)

このしっとり輝くブラウンの色味が本当に素敵だったのですが、肉眼では、GAさんが上げてくれたお写真よりも青みがかっていたように思います*1。こっくり秋色というより大人っぽく都会的。ブラウンのアイパレに例えるとイエベよりブルベな感じです!(限界すぎる説明)

この日のPAはややボーカルが大きめだなと感じていたのですが(※個人の意見です)、芳雄さんの登場でやはりそうだなと確信。音量、半分でいいくらいでした。迷いのない張りのある歌声で歌穂さんのマリアと高め合い、_**文京シビックセンターのてっぺんに乗っかってる展望台がちょっと吹っ飛んだな**_と思いました(細かい)。

ゲストトーク〜“節目の男”、参上

歌穂さんの周年コンサートに出演を重ねていることから、「節目の男です!よろしくお願いします!」と元気よく挨拶。歌穂さんは「スケジュールを_ガッ_と押さえさせていただいて。かなり前からね!」と嬉しそう。このスケジュールを押さえるくだりがマジのトーンでした。

「トゥナイト」のデュエットを振り返りつつのトークでは「あれ?でも(当時も)かなりアダルティなマリアじゃなかったですか?」と芳雄さん。歌穂さんは当時アラフォーくらいだったそうで、歳を重ねてのマリア役は、芳雄さん的には「希望になりました」とのことでした。この言葉を聞いて、クリスチャン役のことが脳裏をよぎったのはいうまでもありません。

半世紀のキャリアを誇る歌穂さんに対し、芳雄さんは「僕なんかまだ半分ですよ」と謙遜しつつ、歌穂さんのことを「いつも緊張されてますよね。なんか不安そうに稽古場にいるんですよ、芸歴3年目みたいな顔して」と評します。歌穂さんは逆に芳雄さんのオーラや存在感について「私より倍くらいやってるんじゃないかっていうくらい」と褒めてくれますが「ただ偉そうに見えるだけじゃないですか!本当は半分なのに😂」

トークの場所は歌唱と前後しますが)今後の出演予定の話になり、次がストプレということで「歌わなくていいから楽だなぁって」と芳雄さん流のジョーク(※文字通りに受け取らないでね)。でもお芝居と歌、どっちかだけやっていると恋しくなるよね、甘いものとしょっぱいものを交互に食べたくなるみたいに…と盛り上がり、歌穂さんが「みかん、お煎餅、チョコレート…」と挙げるので芳雄さんは「1つ増えてんじゃん!」と突っ込んでいました。

芳雄さんはトークの中で「ミュージカル俳優としてのロールモデル」「生きる教科書」といった表現でリスペクトを伝えていましたが、たまにこういうラフな面が出るのも好きだなぁと思います。

もうひとつのYour Song〜クリスチャンは、そこにはいない

ソロコーナーでは、歌穂さんが訳詞を手がけた「Your Song」として、「君へのLove Song」が披露されました。実は芳雄さんが日本語で歌った経験としては、この歌穂さんバージョンが先だったそう。MR!のお稽古でも、最初は歌詞が混ざりそうになって、途中で「あれっ、これ歌穂さんの歌詞だ」となったりしたこともあったそうです。

そうして始まった、あの耳慣れたメロディ。オケの演奏は、MR!で聴いていたよりも少しテンポが早く軽快な印象です。どんな訳詞なんだろうと耳を傾けると、たぶん翻訳というよりは翻案に近い印象で、歌穂さん流の詩情がこもった爽やかな歌詞でした。そんな1曲を、ほんの少しキザな微笑みをうかべて、でも瑞々しく、スマートに歌い上げる芳雄さん。2番にはMR!で聞き慣れたアレンジが取り入れられつつも、**あの、朴訥とした芳雄クリスチャンはどこにもいませんでした。**愛情あふれる歌声に聴き惚れながら、やっぱりムーラン・ルージュ!って、終わってしまったんだな…。ということを改めて実感することになったのでした。

伝説の作品から、“内緒”のデュエット

真っ赤なサテンのドレスにお召し替えして、歌穂さんが再登場。芳雄さんがムーラン・ルージュの曲を歌ったらドレスも真っ赤になっちゃった!?」と応じて話がはずみ、その後、2018年、2021年に上演された「ナイツ・テイル-騎士物語-」の思い出話に。新参者の私にとっては一番間に合いたかった作品のひとつです…(血涙)。お2人は「これまでなかなか共演がなくて、やっと叶った作品だけど蓋を開けたら絡みがなかったよね」と振り返りますが、芳雄さんが演じたパラモンが牢屋に捉えられている場面について、2人の間で「なんで牢屋に入ってたんだっけ?」と多分本気のうろ覚えが炸裂してました。わーん、ストーリーを知らないから突っ込めない!🥲

そこで選曲されたのは、上白石萌音さんが演じた「牢番の娘」と芳雄パラモンとのデュエット曲「牢番の娘の嘆き」…!やっぱり娘役の歌も歌いたいという歌穂さんが「萌音ちゃんには言ってないんです😣」。芳雄さんも客席に向かって「萌音ちゃんと道で会っても『歌穂さんが歌ってましたよ』って言わないでくださいね!」と、歌穂さんのほうを指差しながら悪ノリしていました*2とりあえず萌音ちゃんと道端で出会える世界線を探しに旅に出ます。

向かい合って叙情的な旋律を歌い上げるお2人。**「♪ちょっとだけ」**の部分の休符の表現にぐっと来ました。芳雄さんの凛々しい立ち姿と陰影のある語りパートにも引き込まれて、パラモンって、ただならぬ色気をもつ役なのだろうなと、ひたすら想像を膨らませました。いつか絶対生で見たい!と改めて…。

ゲストコーナーを終えて退場する芳雄さん、コレでした▼

第1部の出番が終わり、歌穂さんに見送られて上手袖にハケながら「フゥ〜〜!!!✊」って拳を上げる芳雄さん、なんなら袖に消える前にもう1回「フゥ〜〜!!!✊」ってリプライズする芳雄さん、マジ芳雄さん🙂‍↕️🙂‍↕️🙂‍↕️(語彙)

— くいな(亜種) (@purplekuina076) 2024年10月9日

第2部ダイジェスト〜サイリウムの光でお祝い

第2部の冒頭は「島田歌穂前史」と称して、白のノースリーブとパンツのセットアップにメガネをかけた島ッ田(しまった)教授が講義(←話の節目節目に、「島ッ田です(キリッ)👓️」が入る)。子役時代のお写真や貴重なアイドル時代のジャケ写が紹介されたのですが、その後、パートナーの島健さん(コンサートの音楽監督/ピアノ)との出会いから現在について、ピアノの前に座る島さんを見やりながら「真珠婚っていうんですってね、結婚30周年って」と語る歌穂さん、可愛らしかったな。島さんとの出会いによって広がったジャズの世界について、島健トリオの演奏で披露された小粋な「Tea for Two」は、個人的にこの夜の収穫でした✨️

きらびやかなスパンコールのドレスで再登場して始まった2部本編では、「歌手・島田歌穂」をテーマにさらに多彩な曲が登場。終盤には、この日に情報解禁されたディズニー公式カバーアルバム「島田歌穂・シングス・ディズニー」の紹介がありました。ディズニーファンからも長く愛される「ウェルカム・トゥ・クリスマス」が、島健さんアレンジで新たに生まれ変わるとのことで、記念すべき初披露となりました。入場時に配られたサイリウムを歌穂さんの合図でポキッ!とやると、客席には赤と緑、そしてちょっぴり白の配色で美しいクリスマスカラー🎄が輝いたのでした。2階後方からの眺め、すごくキレイだった!

アンコール〜55周年でまた会いましょう

拍手に応えてのアンコールでは、前述のカバーアルバムに1曲だけ入れたというデュエット曲のお話。ということで芳雄さん、再登場!「輝く未来(塔の上のラプンツェル)」が、のびやかに明るく歌われました。

最後は互いに見つめ合いながら歩み寄り、また正面に向き直ってから、芳雄さんが右手をそっと歌穂さんの腰に回して控えめに抱き寄せる感じで終了。この一連の流れが、とても慎重でジェントルで*3、これぞプリンスでした…!(…と思ったら、フリンって王子様じゃなくて大泥棒なんですね、しらなかった!*4

芳雄さんは「55周年でまた会いましょう!」と挨拶しながら元気に上手袖に退場し、歌穂さんは「公言していただきましたっ!」とやっぱり嬉しそう。完全なる伏線回収の流れも見事でした。

本当のラストナンバーは、日本語での「On My Own(レ・ミゼラブル)」。実はOn My Ownは第1部のラストにも英語で披露されたので、2回目。このタイミングでオーケストラの後ろの幕が取り払われ、星空を思わせるドラマチックな照明の下、日本語で歌われたこの曲はやはり圧巻の一言でした。見ているのはコンサートなのに、グッと手を引いて物語の中に強く誘い込むような強さがありました。

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そういえば大貫さんは「アレンジ」でさりげなくクレジットされていました。メインは島さんだろうけど、どの曲を担当されたのかしら?

私が歌穂さんの歌を初めて聴いたのはちょうど1年ほど前の日比谷のミューでしたが、ミュージカルを見始めて間もない私にも、素晴らしい50年間の歩みが感じ取れる素敵なコンサートでした☺️チャーミングなお人柄にもたくさん触れられたのもよかった〜!

改めまして、50周年おめでとうございました💐

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ここにきて改めて帝劇の写真。帝劇では天井から下がるドレープが綺麗だったなぁ。

2023-2024MR!、まだまだ元気に引きずっていきます💪

この記事では、**日本初演を彩った女性アンサンブルチームの魅力**について書き残しておきたいと思います。

Lady Msを除くと女性アンサンブルの枠は6名。本作の象徴の1つと言ってもいい、あの色とりどりのスカートが花開くCAN CANのメンバーですね。キャストさんたちのSNSで、女性アンサンブルのことをSkirtsと呼ぶことを知りました。この6枠を3名のスウィングが支えており、帝劇公演ではオンステージスウィングとして時々スイッチで入られていました。つまりSkirtsは9人でひとつ。

ここでは、じっくり何回も見ることができた6名について、個人的に好きなポイントを綴っていきます。

なお、お名前の順番は文章構成の都合によるもので、順不同&見出しでは敬称略です!

*クリスチャンを観ている間の見逃しは確実にあるのですみません、あと事実誤認があったらアブサン一気飲みしてお詫びします

▼昨年の作品公式Xの投稿より。4枚目がSkirts6名+楓ニニ💓

— Moulin Rouge The Musical Japan/ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル (@MoulinMusicalJP) 2023年6月30日

加島茜:上手ボックス席の爆美女💛

昨年、プレショーの上手ボックス席にいるあの美女は誰!?となり、真っ先にお顔とお名前が一致しました。艶然と微笑み、「今夜のお客様はどんなものかしら」とぐるーーっと見渡しているのですが、これにより、オペラグラス越しでも目が合います。嘘じゃないもん、2階席にいたって、目が合うもん!!

CAN CANでは黄色系のスカートにタイトなお団子。プレショーの余韻からか、ついつい目で追ってしまうのが茜さんでした。ウィッグにあしらわれた前髪のカールが可愛かったですね。華奢な肩とスカート捌きのキレのギャップがたまりません。公爵を待ち構える時の前傾姿勢もかっこいい。下手前方席から見上げた足さばきと笑顔、忘れられません。

Burning down the houseの冒頭では恵那さんと一緒にクリスチャンを挟んで肩に手を置くシンメの振付が好きなのですが、(観劇日記にも書いたけど)6/29夜公演でしょまスチャンのスカーフが左肩にひっかかっていたのを、「♪火をつけろ!」のところで茜さんが振付にあわせてパッとさりげなく直したのを目撃しています。しごできッ!

このナンバーでは上手ボックス席にいるクリスチャンをスカートで威嚇するのも好き(←威嚇じゃないよ)。芳雄クリスチャンの「うわぁぁぁ///」っておぼこいリアクションたまらなかったよね🫶

セレブリティも気品があってすごく似合っていたのですが、「私自身は?上流階級にふさわしいって、言える?」と問うサティーンに一瞥をくれるシーンでは、笑顔がひっこんで怖かったです(見下すというより感情が無になる)。こういうセレブリティ、いそう。という説得力がありました。

田口恵那:姉御肌でヘビースモーカーな釣り師🚬

憧れてやまない_ダンスキャプテン!_

プレショーでは茜さんと一緒に上手ボックス席に登場。ちょっと気だるそうにタバコをふかしながら客席を品定めしています。プレショーの恵那さんといえばもちろんあれですよね、ネオンサインの下にしゃがみ込んで盛大に開脚するやつです。前列の特定の席が餌食になってたと思うんですが、あれ本当にどの列あたりを見ながらやってたんだろう!ロックオンされたことがあるお客さんにどんな気持ちだったか聴いてみたい🥹

CAN CANでは青×オレンジのスカートにツインのお団子。公爵の登場前にスカート大サービスシーンがあるのですが、私、前列にいた時にそれを見てニタァァァって笑顔になってしまい、それが本人にバレたのがわかって恥ずかしかった😂(「あら〜見てたわね〜」ってニッコリされた)。以降、2階席とかから見る時も恵那さんが誰かを一本釣りしている様子をニヤニヤ眺めています。

Shut Up And Raise Your Glassなどでもタバコを片手にしていて、ヘビースモーカーという設定が見てとれます。あと姉御肌っぽい雰囲気からも、たぶん同一人物だなってわかる。この辺が一貫してるのもMR!の好きなところ。

2幕のBackstage Romanceはまさにアンサンブルが主役のナンバーですが、それを象徴する「♪キスしたら元には戻れな〜い」のブレイクをセンターでキメています。あのでっかいリボンも含めて、このナンバー、そして本作を象徴する重要なシーンです。

前述のセレブリティのシーンでは、ひときわ冷たくサティーンをまなざします。ロクサーヌでは全員が蓮っ葉な女を演じていますが、クリスチャンに絡んで無視された後の「はぁ?」みたいな顔が怖くて好き。

だけどフィナーレではうってかわって、♪傷ーつくーとー🫶→わかってーてなーぜー😩💔のマイムがめちゃくちゃキュートで!去年から大好きで、毎回固定で見ているポイントです。

平井琴望:ブロンドが似合いすぎるCAN CANセンター👱‍♀️

プレショーで上手奥から真っ先に登場し、ゆっくり歩みを進めて、作品世界の始まりを教えてくれる存在。衣装には長い裾がついていて目を惹きます。

CAN CANでは金髪のカールのウィッグにグリーン系のスカートで、センターを担当しています。さらに見せ場は何と言っても、公爵の足元にすがりつき、施されるチップを鮮やかにくわえて見せるあのシーンです。あれをかっこよく見せるにはうまいこと口で受け取るだけじゃだめで、顔をセンターに戻す時の首の動きがめちゃくちゃ重要ではないかと思うのだけど、梅芸に来てからさらにキレが増したのではという気がします。あのちょっとお下品な所作と美貌のドヤ顔の組み合わせが背徳的なのよね…🫣センターに寝そべってお客さんを誘惑するのもチャーミングです。最前ドセンに座りたかったなぁ!

6名のうち3名がTruth Beauty Freedom Loveにボヘミアンズとして登場しますが(改めてこの早替え、やばくない!?)、琴望さんはバスケットを抱えた花売り娘。白いお花をクリスチャンのポケットにさしてあげています。

Sparkling Diamondではお顔立ちにブロンドヘアが似合いすぎていて、逆にしばらく誰だかわかりませんでした。でもロクサーヌの栗色の三つ編みも見合うんだよな…あれ?何でも似合うってこと!?

加藤さや香:キュートで快活なキューピッド💘

2023と2024年の公演の間にメルボルン🇦🇺のカンパニーでスウィング&アンダーとして活躍されたキャストさん。アラビアとしてデビューもされていて、かっこいい!

プレショーでは後半になってから下手のボックス席に現れます。おみあしを伸ばして手すりをまたぐのがエロティック。梅芸で前方下手の端っこ(注釈付S席)に座ったときは、さや香さんがほとんど見切れてしまったのですが、その分、手すりをまたぐところで突然ブーツが宙に現れて、それはそれでフェティッシュな眺めでした。それをねっとり見上げるパトロンのICHIさんもよかったな〜。

CAN CANではピンク×紫のスカートが可愛くて似合っていて、見せ場はやっぱり、「♪みんなでCAN CAN!」のキメで床に寝そべったところから脚を持ち上げて大胆にV字開脚するところ(ジドラーが「よいしょ」って感じで閉じる)。Burning down the houseの最後もセンター奥でめちゃくちゃ高くリフトされてフォーメーションの頂点を担当しています。

あと私が好きなのはELMでの活躍です!エッフェル塔の前で銀の紙吹雪をぱあっと振りまいて、その後、宮河愛一郎さんと一緒にサティクリの手を繋がせるキューピッドを担います(私は心の中で「“お幸せに”係」と呼んでました!)。さや香さんのキュートさ、ハッピーオーラが光る素敵なワンシーンです。その後、愛一郎さんにリフトされて去っていくのもエレガントで、目で追ってしまいます。

富田亜希:クールかつ俊敏に魅せる⚔️

プレショーの締めくくりにネオンサインの前に現れて、圧巻の剣呑みパフォーマンスで観客の度肝を抜く亜希さんと由梨乃さん。このお役目、Swords⚔️っていうのですね*1。ツンと澄ました表情で、長〜い剣を丸呑み。観客が改めて「すごいところに来てしまった」と腹を決める瞬間です。

亜希さんの好きなところは俊敏さ。カンカンではオレンジ系のスカートに黒髪のお団子で、公爵の登場前、ジドラーの「宝石ジャラジャラーッ!」に合わせてセンター方向に爆速スライディングを決め、続くBurning Down The Houseでは振り返ったクリスチャンの後ろで\びよーん!/とリフトされます。Shut Up And Raise Your Glassでは「♪愛ーをくれーたならー」で高橋伊久磨さんのリフトに乗っかって、ステージすれすれの低さでギュイーンとぶん回されるのが痛快。伊久磨さんがお立ち台から飛び降りて、そこにバキュン!って乗っかるところから一連の気持ちいい動きで魅せてくれます。

Truth Beauty Freedom Loveでは上手からボヘミアンズとして登場しますが、サンティアゴに絡まれて気絶しそうになるリアクションが可愛い*2

終盤には、立ち上がれないクリスチャンの肩にそっと触れて去っていく大事な役目も。心のこもった手の置き方が余韻を残します。

杉原由梨乃:ボヘミアンズのでっかい愛🐍

プレショーでは亜希さんとともにSwords⚔️を担います。高身長な由梨乃さんがネオンサインをくぐり抜けて、客席をねめつける迫力がたまらなかったよね。最前ドセンに座りたかったなぁ!(2回目)(てか一生言うわ)

由梨乃さんの出番で大好きなのは、CAN CANでの公爵との絡みです(オレンジ✕黄色のスカート)。公爵を妖艶に見つめながらうなずき、スカートで豪快にアピールするのにソデにされてしまう…!あんなにカッコいいのに!本当に公爵もさぁ、1回くらい、由梨乃さんになびいてよぉ!!

ボヘミアンズとして登場するシーンでは、ビッグスマイルで両手を広げ、クリスチャンをハグします。由梨乃さんは高身長とはいえ、芳雄スチャンにしてもしょまスチャンにしても、当然ながらクリスチャンのほうが背が高いです。でもここでは由梨乃さんの笑顔とハグの“大きさ”が印象的で、多様性を受け入れるボヘミアンズの包容力や愛情を象徴している気がするのです。

ロクサーヌつよつよ厚めバングも凄みがあるし、Your Songリプライズでは、蛇がぐるりと巻き付いたワンピースをかっこよく着こなして上手側に佇んでいます(ちょっと怖いけど!)。出番のたびに「とにかくこの枠に似合ってる!」と感じさせるのが由梨乃さんでした。

篠本りの&米島史子&和田真依:「9人でひとつ」を叶えるスーパーSwings💚❤️💙

運良く3人とも出演に立ち会うことができました!それぞれにカバーする枠が決まっていても、1人ひとり違うデザインの衣装があるのがさすがMR!。スウィングさんが入る日に、ステージ上の色合いが変わるのも醍醐味だよね。

私は和田真依さんが富田亜希さんの枠で出ていた日に(7/4夜)、「うっそ!!剣呑みもやるの!!??」とびっくりして、そりゃあ「枠をカバーする」とはそういうことなので当たり前といえばそうなのだけど、こんな特殊なパフォーマンスも練習して身につけるって、やっぱり当たり前じゃなくない!?と驚きを新たにしました。場数も踏めないから緊張するのは当然で、でも成功させたあとに表情の奥にホッとしたような雰囲気を感じて、私もグッと手を握りたくなりました。

キャストのSNSでの発信やステージでの振る舞いからはスウィングへのリスペクトが強く感じられて、それは自然と観客にいる私たちにも伝播しました(8/3昼カテコ、芳雄さんに呼び込まれてびっくりしながら真依さんが青いスカートで現れたときには泣いてしまった)。梅芸ではオフステで支え続けた3人に、改めて拍手を送りたいです。

以上、誇り高きSkirtsへのラブレター(のようなもの)でした。2年間、ワクワクを届けてくださってありがとうございました。大好きです!

最後に、これよりもっと確実に魅力が伝わる名文of名文を置いておきます!男女アンサンブル15名+スウィング6名全員について五十音順かつほぼ一定の文字数で紹介している、神回です。*3

xtrend.nikkei.com

*4

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2023年、2024年と続いた真っ赤な夏が、ついに終わってしまいました。

この日のカーテンコール挨拶で、芳雄さんはクリスチャン役からの卒業を改めて名言しました。改めて公演を振り返ると、最後に楽しみながら演じていたことが伝わってきます。キャストごとの感想は改めて書く予定なので、ここでは、芳雄クリスチャンを中心とした感想と、カテコ挨拶で思ったことを綴りたいと思います。

▼帝劇初日

purplekuina246.hatenablog.com

▼帝劇楽

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*そのほか、3〜4公演ずつまとめた観劇日記なども更新中です。サムネがだいたい赤い。

本編

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開けたことのない引き出しを開けまくる芳雄クリスチャン

大千秋楽の芳雄クリスチャンは、見たことのない身体の動き*1や初めて聞く台詞回し*2など、やったことのないことをガンガンやっていたような気がします(あくまでも観客としての私が見たことがあるかどうか、基準なのですが)。セリフの前後に、自然なリアクションとして「えっ?」などの声が足されていたりして、クリスチャンとしてそこに存在することを楽しみながら、新しい引き出しを発見してどんどん開けていくようでした。

「Truth Beauty Freedom Love」の終盤で身体全体を使ってハンドクラップをしていたのも、これは先週末の公演で目撃してびっくりしたのだけど、決して「演者として客席を煽る手拍子」ではなくて、クリスチャンの感情の高ぶりがそうさせたのかなというものでした。

そうした「新しさ」の中で私が一番感動したのは、「Shut Up And Raise Your Glass」の後半です*3。私はもともと、芳雄クリスチャンが「ボヘミアーンズ!」と後ろを振り返るところで、ムーラン・ルージュの仲間たちをぐるっと指さすのが大好きなのですが(毎回ではないけど)、大楽ではさらに、下手側で踊りながら客席に手を伸ばして誘いかけるような動きをしていました。そうだ、私たちもボヘミアンズなんだ、と思いがけないところで涙があふれました。

互いの幸せを祈って〜ハッピーあやよし劇場、最終章

チーム・エレファントの芳雄クリスチャンの相棒は、あーやサティーン。Your Song前のシーンは初日に比べるとぐっとテンポよく進むようになっていますが、「勘違い」で笑わせるお芝居が改めて新鮮で、あーやサティーンに気圧されて小走りで後ろずさるところなど、やっぱり笑ってしまいます。可愛いんだもの。

2年間、何度も心を震わせてきたELMも、この日が見納め。昨年の終盤のあやよしELMは「次はどうする?なにする?」みたいな、互いの目を覗き込んでのセッションにワクワクさせられたものでしたが、最後のELMは、遊びも入れつつ全体的には落ち着きも感じられる、おおらかな愛が広がっていました。

まぁ、遊びってのが、ミラーリングに端を発するこの投げキッス合戦なんですけどね!↓

♪愛は〜信じないの\\ンマ😘//
♪出会ってなけ\\ンマ😘//れ〜ば〜
♪きーこーえなーい笑笑笑
♪歌えないさこんなラブ\\ンマ😘//ソング
♪その歌〜が〜\\ンマ😘//

先攻・あーやサティーンに対し、後攻・芳雄クリスチャンは、困り眉の表情をキープしたまま譜割りの中に投げキッスをねじ込んでいて、もはや悟りの境地でした。

2人のELMの集大成。サティーンとクリスチャンの関係を超えて、健闘を称え合い、互いの幸せを祈るような、そんな大きな愛を見た気がします。最後のキスの直前にあーやサティーンを見つめる充実感にあふれた表情を、ずっと覚えていたいです。

“いつものようにぜんぜん違う”Crazy Rolling

2幕のCrazy Rollingや最後の劇中劇は、そもそも毎回違ったのだけど、やはり大楽も、いつものように全然違うものを見せてもらいました(←日本語が変)。Crazy Rollingは「♪ついに君は暴かれた」の“ば”にキツめのアクセントをつけていて、爆発させるように大きく両手を上げて威嚇されて*4、まんまと座席でビクッとなりました。「♪どうやって君を…」で嘲笑しながら、手のひらを前に向けて両手をこめかみに添えていたのも怖かったな…。「♪君はその手で」は透き通っていてほとんど涙声なのに「♪運命を」で地獄の泥を啜ったみたいな声に切り替わるのも改めて意味がわからないです。

“偶然”とのセッション〜芳雄クリスチャンと紙吹雪

Your Songリプライズからの別れのシーン。あーやサティーンの「隠しててごめんなさい」抑揚を抑えた静かなトーンで、その分Your Songを歌うために力を振り絞ったことが伝わりました。

帝劇楽での“事件”以来、梅芸ではもしかしたら紙吹雪の量は少し控えめになっていたのかもしれないけれど、この日はたった1枚の紙吹雪があーやサティーンの顔に舞い降りて、芳雄クリスチャンは、その1枚をセリフに合わせてゆっくり取りのけていました。やっぱりほんの少しだけ身ををもたげようとしてから、息絶えるあーやサティーン。抱きかかえる角度によるものなのか、顔がいつもよりほんの少し客席に傾けられていて、その優しい微笑みがいっそう神々しく見えました。

最後はゆっくりと自分のおでこを近づけて、苦しそうに抱き寄せる芳雄クリスチャン。カンパニーのみんなに囲まれながら、2階席の奥でもはっきり聞こえるくらい激しい嗚咽を漏らし、最後にひとり座り込むところは、まさかの「あぐら」…!これも、私は見たことがないポーズでした。

私は芳雄さんがが紙吹雪を取り除くのは“クリスチャンとしての愛情表現”だと思っているのですが、これは演者がコントロールできるものではなく、“偶然”とのセッションでしかありません。紙吹雪がくっつかなければそれはそれで、頬をやさしく撫でたりしていて好きだったけれど、最後の1回に目撃できて、思い出になりました。

今までのCWMの記憶をすべて失ってもいいからこの日のCWMを覚えていたい

「そういうわけで!」…あぐらからサッと立ち上がり、手のひらに張り付いた紙吹雪を2枚はがして落としながら、照れくさそうに客席に語り始め、「真実」「美しさ」「自由」のあと、満足気にうなずいて、「愛」。そこからのCome What May リプライズは圧巻でした。

いつもは「♪ただ君を愛したい」で“泣き”が入るけれど、この日は1フレーズ前の「♪口づけに溶けたい」で泣き始めて、「♪今君にささげよう」は後半で少しリズムを揺らして…。最後の「♪愛してる 何があろうと」では、客席を見上げて、大きく両手を広げたあと、愛情をかき集めるように両手を真ん中で合わせて、納得するようにうなずいていました。「♪愛してる」と振り返りながらのカンパニーとのアイコンタクトも感動的で、「Shut Up〜」でみんなを指さしたワンシーンが蘇ります。そこには確かに、舞台上とも、客席とも、愛情を交わし合うひとつの会話が生まれていました。私は肩を震わせて涙しながら、本当に「今までのCWMの記憶をすべて失ってもいいからこの日のCWMを覚えていたい」と強く願っていました。

CWMリプライズでは、サティーンを喪ったクリスチャンが受け取った愛情を胸に立ち直ってゆく過程が描かれますが、この劇場ごと抱きしめるような大きな愛を舞台上で発露できるところが、芳雄クリスチャンの特徴であり大きな魅力なのだと改めて思います。

カーテンコールと挨拶

桑原まこさんの指揮で終わる旅路

最後のウンパパウンパ👏のハンドクラップを打ちながら、本当に時間が止まればいいのにと思っていたけれど、K公爵と中井サンティアゴがまさかの握手!をしていたり、その後のサンニニのカテコでは蓮華ニニと中井サンティアゴのシンクロ足上げが見れたりして、千秋楽スペシャルを感じました。

そしてコンダクターとして姿を現したのは、桑原まこさん!

私はジェーン・エアで知って以降、まこさんの指揮が大好きで、カテコでまこさんが現れると嬉しくてつい手を振ってしまいます(←どういう立ち位置なの)。

Sparkling Diamondの疾走感*5やFire workの寄り添い*6から、なんとなく今日はまこさんかなと思っていたのだけど(23日にも聴いたので)、今年の初日に「こってり感」強めで始まったチーム・エレファントの旅が、演者のブレスやテンポに繊細に寄り添うまこさんの指揮で、優しく抱きとめられたようでした。

「終わるっていいことなんだよ」

— Moulin Rouge The Musical Japan/ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル (@MoulinMusicalJP) 2024年9月29日

ごく短く編集されたものですが、カーテンコールの映像が上がりました。以下は、編集されて残った部分より。

芳雄「今日は楽しかったなぁって。最後5回くらいは寂しくて(中略)、みんなそれぞれ思ってたと思うけど」

あーや「本当に寂しいと思ってる?(真顔)」

芳雄「どうぇぇぇ!!」

ここであーやが「本当に寂しいと思ってる?」と訝しんだのは、芳雄さんが袖で「いったん終わるっていいことなんだよ(意訳)」と話していたから、ということらしいです。舞台は終わって、後に残らないからこそいいんだ、みたいなニュアンスで、芳雄さんが「星の王子さま」から「大切なものは目に見えない」を引用して説明しようとしてうまく伝わらなかったり(ちょっと違うか!ってなった)、「断捨離?」「花火?」みたいなガヤが入りつつ、結局うまくまとまらないシーンではあったけれど、でもチーム・エレファントのみんなで**舞台芸術の本質を言い表そうとしていたようで、すごく愛おしかったです。形あるものは永遠ではなく、命はいつか消える。でもその輝きは記憶に残すことができる**。それはまさに、MR!という作品が私たちに教えてくれたことでした。

草を刈り、道をつけて、軽やかに去っていく人

レミゼラブルやエリザベートは、みんなにチケット取ってってすごく頼まれるけど」…と東宝の人気演目を挙げて、さとっさんに_レミゼ出てたっけ?」_と突っ込まれたりしつつ、2年間かけて醸成された盛り上がりについてムーラン・ルージュが、そういう“みんなが観たいミュージカル”に加わったことを嬉しく思います」とまとめる芳雄さん。この後に「これでクリスチャンを演じることはないと思う」とはっきり言葉にしていました。客席から\えぇ〜!/という声が上がるも、「世界最高齢クリスチャンなんで」と、照れくさそうに、でもきっぱり。帝劇初日の挨拶「クリスチャンとして迎える最後の初日」から全くブレないスタンスでした。

いち観客の想像だけれど、東宝は、社運をかけて買い付けたであろうこの大作を絶対に成功させなければならなかったはず。エリザに加えて自分が出ていないレミゼへの言及があったのも、もしかしたらそういう文脈があったからかもしれません。2年間たくさん宣伝して、ときにはチケット代の高さについても言葉を尽くし、何より板の上で私たちを魅了し続けてくれた芳雄さん。作品のパワーによって人気演目に育ったけれど、こうやって草を刈り、道をつけて、軽やかに去っていくのは、寂しいけれどやっぱりカッコいいとしか言えません。

先週末、初日から1週間遅れて梅芸にたどり着いた私は、「1か月半、たまたま自分が行っていなかっただけで、ムーランルージュという場所はずっと『そこ』にあったんだ」という気持ちになりました(帝劇/梅芸でワープはしているけれど)。そういう気持ちを抱かせてくれたのは、やはり日本初演カンパニーが盤石のパフォーマンスを続けていたからだと思うのです。芳雄クリスチャンはそこを去るけれど、不動のレジェンドとして、いつか何かの役で帰ってきてくれると信じています。

いつかは思い出になる

両手を振りながら後ろに下がっていくサティーンとクリスチャン。センターで大きく抱き合ったとき、足を持ち上げて芳雄さんに絡みついてみせるあーや、マジあーや。最後は2人ででっかいハートを作り、これが本当の見納めとなりました。

クリスチャンが語るサティーンの物語でありながら、**舞台芸術への壮大な讃歌でもあった「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」。芳雄さんの清々しい挨拶のおかげで、「そうだった、舞台ってそうだよね。」**という気持ちも生まれて、自分なりに区切りをつけて劇場を後にすることができました。

思えば、財布を引きちぎりながら悔いを残さず追いかけることができたのも*7、初日の時点で「最後」だと名言してくれていたからでもあります。

二度と帰れない、でもいつか私もボヘミアンズとして帰って来るであろう真っ赤な世界。芳雄さん、日本初演のクリスチャンになってくれてありがとう👏

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𝙔𝙊𝙎𝙃𝙄𝙊 𝙄𝙉𝙊𝙐𝙀 𝙄𝙎 𝘾𝙃𝙍𝙄𝙎𝙏𝙄𝘼𝙉

帝劇公演プレイバック、2本目です。ほとんど書けていたのにだいぶ寝かせてしまいました。半分は8月に書いていたから、今と思っていることが違ったりしつつ、梅芸ではこうだよね!も書き足したりしてるから、カオス。

ともあれ観劇も感想も一期一会。個人的な日記も含まれますが7月の3公演を振り返って参ります🫡

プレイバック記事、1本目はこちら。

purplekuina246.hatenablog.com

⑤2024/7/6夜(平芳:芳雄さんお誕生日公演)

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キャスト:平原・井上・松村・上野・伊礼・中河内・藤森

自席:1階真ん中

この日も休日出勤でしたが、ゲリラ豪雨を察知して早めに切り上げて日比谷に向かいました。シャンテで時間を潰したあと、雨を避けて地下ルートで帝劇へ。階段を上っていくと、両手に色とりどりの紙袋を持った係の男性が、せわしなく階段を降りてきました。今日はプレゼントの量、すごいんだろうなぁ。
キャスボ撮影列から窓の外を見やると、お堀の上に雨雲が垂れ込めていて、降りしきる雨でどんより。

キャスボといえばさ…スケジュールを精査しておらず、まさかこの日を最後に帝劇でがうちティアゴに会えなくなるとは思いませんでした…

ところでこの日、のちにラジオでも話してたと思うから書くけど、私の席の近くにピアニストのOさんがいらっしゃいました*2お誕生日に来られたなんて愛が深い…!春のショパンまつり🍞🌸の感想、遅くなっても書きたいな…(遅すぎ!)

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アフターにて。生まれてきてくれてありがとう(重)

⑥2024/7/20夜(平芳:おけぴ&ローチケ貸切)

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平原・井上・橋本・上野・伊礼・中井・加賀

自席:1階前方

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手持ち最後の前方席(ちょっと広角で撮影)

前回のお誕生日公演から、まる2週間の空白がありました(その前の週末はミッチーさんのツアーのファイナルで仙台に行っていたため)。お誕生日公演の翌日は人見記念講堂にいたのですが、そこに忘れてしまったペンライトを取りに行った後、ラーメン屋さんに入ったらラジオからShut Up And Raise Your Glass🥂が流れて、ちょっとした人生のご褒美のようでした。

⑦2024/7/21昼(望芳)

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望海・井上・松村・上野・K・中井・藤森

自席:1階後方

前日ソワレから24時間たたずに赤い世界に舞い戻ります。圧倒的に望芳が不足していた私に友達が声をかけてくれて、ありがたくA席に連番でお邪魔。バランスよく観ることができてありがたいお席でした。

2か月前を思い出しつつこの文章を書き終わった今、梅芸での大千穐楽が近づいていて、やっぱり終わるなんて信じられないという気持ち。_時は経つのね。_

他の記事と前後するかもしれませんが、帝劇プレイバック記事はあと1本、ボヘミアンズ貸切〜千秋楽までをまとめる予定です。

大楽まで、みんなでCAN CAN!!❤️‍🔥