恩師の逝去~今週は聖金曜日~復活祭~ポリーニ死去 (original) (raw)

キリスト教徒にとって今週末は聖金曜日~復活祭の重要な記念日になります。

日本では年度末、春の訪れを実感する季節であると共に別れと出会いのある時期です。

先週、中学校の恩師のご逝去がありました―2年生からの担任で音楽の先生であり、私をクラシック音楽の世界に導いて下さり、政治をはじめ社会をどのように見るかなどを教えていただいた人生において大きな影響を与えてくれた方であります。

恩師が亡くなるという事は自分も年を重ね、いつかくるその時に近づいている事を思いました。

その晩にはマウリッツィオ・ポリーニ死去のニュースにも驚きました。

翌日にあった恩師の葬儀の弔問への行き帰り、帰宅してからきいた音楽は恩師からモーツァルトヴェルディベルリオーズ以外のレクイエムとして教えていただいたブラームスドイツ・レクイエムです。

この作品は以前から自分の親しい方が亡くなった時にきくことが多く、恩師、ポリーニを偲びながらききました。

ラテン語による典礼に沿わず、ドイツ語の歌詞によるもので典礼文でなく「マタイ伝」などの聖書の言葉に基づく全7つの部分から成り、神の力から審判の恐怖、慰めや悲しみ、儚さ、無常さが歌われていきます。

全体から感じるのは「生の世界」と「死の世界」がはっきりと分けられていて、生きる者が彼岸にいる死者へ呼びかけているようです。それはモーツァルトヴェルディのようなあの世に引き込まれるような音楽ではなく、とても肯定的な音楽にきこえます。

歌詞には「しあわせである」(幸いである)などの前向きな言葉が並んでいるのもこの作品の方向性がよく表現されていると思います。それを一番感じるのが第7曲の最後「しあわせである」をリフレインして平穏のうちにききての心を穏やかに包み込みながら静かに終止していくところです。死者への弔いだけでなく、今を生きている自分も含めた人間への「慈愛」・「自愛」を作品に込めているようにも感じます。

ブラームスの作品といえばもっぱら交響曲を中心とした管弦楽曲が演奏されますが、このドイツ・レクイエムも傑作ではありますが、演奏時間約75分の内、第3曲のバリトン、第5曲のソプラノと各1曲のためだけに2人の歌手を用意しなければならないという費用対効果の面からもあってでしょうか?実演にめぐり逢えるのは稀です。ディスクはそれなりに揃ってはいますが。

この作品が同時代から後世へ影響も与えていると思われる部分もあります。第3曲や第6曲ではブルックナーの宗教音楽と同種の響きを感じます。作品中いちばん音楽が圧倒的になる第6曲はヴェルディへ、第5曲のソプラノ・ソロはオペラ的な要素、R.シュトラウスサウンドが遠くで鳴っているような気がします。そしてもちろん作品全体からはベートーヴェンのミサ・ソレムニスのような古典的な格調の高い響き、第1曲からグレゴリオ聖歌やシュッツなど古いドイツ音楽の響きがベースになっていると思います。

今まできいてきたディスクですが、やはり恩師に作品を教えてもらい最初に購入したカラヤン指揮ベルリン・フィル盤に愛着があります。

ソプラノはグンドゥラ・ヤノヴィッツバリトンがエーベハルト・ヴェヒター、合唱はもちろんカラヤンの宗教作品と言えばのウィーン楽友協会合唱団。録音は1964年、面白いことに録音場所がウィーン・フィルの総本山、ムジークフェラインザール。響きの豊かさと慈しみに包まれる演奏です。

後年にも再録音を残しているそうですが未聴です。

そしてもう一枚カラヤン盤を―こちらは1947年の古いモノラル盤。オーケストラはウィーン・フィル

ソプラノはエリーザベト。シュワルツコップバリトンハンス・ホッター、合唱はやっぱりウィーン楽友協会合唱団。

カラヤンの戦犯容疑が解けるか解けないかの頃の録音でしょうか。年代の関係もあり弱音部の歪などもきかれますが、伝統的なドイツ系オーケストラの特徴ともいえる低音部の重厚さを保ちながらも音楽の流れが自然です。フルトヴェングラーワルタートスカニーニが存命中の時代とは思えない、新しいスタイルの演奏です。

最後はずっと後になってきく様になった異色盤をご紹介しておきます―セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団&合唱団、ミュンヘン・バッハ合唱団員。

ソプラノはアーリーン・オジェーバリトンはフランツ・ゲリーセン(録音:1981年ライヴ)

彼の演奏の代名詞「遅いテンポ」―声楽作品でもあるせいか、そこまで極端ではありませんが仰け反りそうなテンポで、一枚一枚皮を剥すかのように作品の構造やフレーズを晒していく演奏です。そのため第3曲や第4曲におけるフーガ的展開はききものになります。

今週は恩師の逝去、ポリーニ死去、聖金曜日~復活祭と生と死について考える機会となったことを投稿させていただきました。ポリーニ追悼については改めて投稿したいと思います。