2024.10.12 お能「源氏供養」狂言「樋の酒」 (original) (raw)

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記念すべき(?)1回目のブログは、 今日、豊田市能楽堂にてお能「源氏供養」と、狂言「樋の酒」を観てきたので、その感想を書きたいと思います。

【樋の酒】

狂言「樋の酒」は、お酒大好きの太郎冠者と次郎冠者が留守番のたび酒蔵の酒を飲んでしまうので、お留守の間次郎冠者は酒蔵の中で、太郎冠者は別の蔵の中で、それぞれ見張りをするように命令されるところから始まるお話。

「1人で寂しいから〜」なんて言って結局酒蔵の酒を飲んでしまう次郎冠者が気持ちよく酔って歌い出してしまうところからもう笑えます(笑)

それを聞きつけ自分も、と飲みたがる太郎冠者に、窓から「樋」という竹を半分に割ったような管を使って飲ませてあげるのが物語の見せ所です。

窓に掛けた樋に次郎冠者がお酒を流し込み、それを頑張って飲む太郎冠者。

言葉は狂言の、現代日本語とは違う言い回しですが、「いくよー!」「あー!きた!!やばいやばい!!」とか言いながらキャッキャお酒を飲んでる様子が表現されてて、思わずクスッとなってしまいました(笑)

その後は、酔っ払った2人の舞やら歌やら盛りだくさんで、挙げ句の果てには「ここ出て、一緒に飲もう!」なんて言って出てきちゃうんですから、本当に笑っちゃいます(笑)

(ていうかあんなに嘆いてたのにそんなに簡単に出れるんかーいって感じです(笑)最早、樋を使って苦労して飲まずとも届ければ良かったのでは…?(笑))

最後には一緒にドンチャン飲んでるところにご主人が帰ってきてしまい、バレたところで、「逃げろー!」って感じで終わっていきます。

最後まで怒られてもなお、隙を見てお酒を飲んじゃう太郎冠者がかわいい…!

狂言は、「うまいこと言ったな〜」っていう笑いを誘うものもあると思うのですが、今回は、どちらかというと、ドンチャン騒ぎの演技そのものが笑える感じでした!

お酒を飲んで愉快になっちゃう感じとか、いたずらっ子みたいな2人の様子をかわいいな、面白いな、と感覚的に楽しめる狂言でした。

でもやっぱりただ面白いだけでなく、一つ一つの動作は本当に美しく、酔っ払いの舞(笑)なんかも、2人の動きの組み合わせが美しく見えるようになっていて、芸術的要素もしっかりあるんだなと改めて感動しました。

道具の例えとしてよく使われる扇の動きもいつも本当に綺麗なんですよね!華があって素敵です。

話の流れと演者の動きの美しさと、2度美味しい狂言はすごく素敵で改めて大好きだなあと思いました!

今回このラインナップだったのは、舞が結構メインの源氏供養にも合わせてたのかも…?とか思いつつ…。

【源氏供養】

こちらは、まあ、打って変わって個人的には結構難しめのお話しでした。

ちなみに、江戸時代に遡っても宝生流で上演されるのは今回が10回目だそうで、かなりレアな演目だそうです。

ストーリーとしては、仏教的に「物語=虚言」と考えられていた時代で、源氏物語の作者、紫式部は嘘をついて人の心を惑わした罪で成仏できなかったため、源氏物語を供養し自分も成仏したい、と僧侶にお願いするというような流れです。実際に、紫式部が仏教的には罪人と言われている中、ファン達により救済を、という動きが活発に起こっている中で生まれた作品だとのこと。

この物語は「源氏物語表白(ひょうびゃく)」という「唱導(しょうどう)」が元になっています。

言葉の力は人を惑わすと言われる一方で、上手く使えば導くことができる、という考えのもと美しく技巧的な文章により、仏教の道を分かりやすく述べたり、本堂に願いを述べたりする文学として発達したのが「唱導」です。

その中の作品に、安居院(あぐい)の法印(ほういん)、聖覚(せいかく)による「源氏物語表白」があり、今回の「源氏供養」の元となりました。

この「源氏物語表白」には、「雲隠れ」以外の源氏物語53巻分の巻名が織り込まれているそうで、これをモデルとしている「源氏供養」のメイン曲(「クセ」)にも、同じように源氏物語の巻名が歌い込まれています。

内容としては、仏教の教えを源氏物語の巻名を言葉として使いながら説くようなもので、源氏物語の内容を交えているわけではなさそうです。

さて、最初に今回で10回目というレアな演目というお話を書きましたが、宝生流以外の流派は、この源氏物語表白を途中で切ってしまい、源氏物語全54巻の名前全てが出てくることは無いとのこと。

それは全部謡いこむと、地謡やシテの負担が大きくなるかららしいのですが、なんと、宝生流の「源氏供養」には、序の舞に「雲隠れ」も加えて54巻の名前全てが登場します。名人でなければ舞いきれない、謡いきれないとのことで今まで今回を含めたったの10回だけしか演じられてこなかったとのことでした。

(やーーーっと解説書き終わったあああ!難しかったあああーっっ!!)

そして、最初に紫式部が成仏のために供養をお願いしに来たと書きましたが、本当は、石山観音の仮の姿で、源氏物語の巻名が織り込まれた歌を通して自らこの世の儚さを伝えに来たんだよ〜というお話のオチです。

現代人兼(多分)エセ仏教徒の私の感覚で言うとかなり「???」となり、なかなか難しかったのですが、舞台や言葉選びとしてはとても美しく、観た後はとても穏やかな気持ちになりました。

ここからは、かなり個人的な感想ですが、今回は仏教における教養的要素が強い分、若女のお面もあまり人間らしい表情を見せなかったように思います。

終始、現代文で言うなら、物語文ではなくて説明文を読んでいるような、そんな感覚でした。

なので、感情を持って登場人物が訴えかけて来るような場面があまりなく(お能って本当に不思議で、お面が動くことはないし人も直面だけど、物語によっては本当に表情豊かに見えるんです。多分声の微妙なトーンの違いとかもあるんだろうなぁ)、どちらかというと完全に悟った「人を超越した神々しいもの」を見てるような感覚でした。結構怨みてんこ盛りの幽霊系のシテだと、「やっべえ!!これは見ちゃいけないタイプの人ならざるものだ!!!」って感じでかなり強く感情を感じるし客席と舞台の間の結界に安心感すら感じるのですが(笑)またそれとは違うタイプの「人ならざるもの」を見た気分でした。(かつて「砧」で聞いた「怨めしや」はまじで完全に幽霊のそれでした(笑)見えたことないけど…。)

私は結構個人的感情が全面的に出てる怨みとかもりもり系なお能の方が好きなのですが、正直私の教養不足でストーリーとしてはあまり楽しめなかったものの、舞や舞台上の色彩や、音楽の美しさで結構楽しめました!

季節的なものなのか、舞台的な話なのかシテの紫式部が紫の薄い透け感のある着物を着ていたのは役柄的なお話として、ワキツレの方も透け感のある着物を来ていたのが綺麗で素敵だなあと思いました。着物の柄とか生地とかについての教養も身につけたいなぁ。

全体的に淡めな色合いで統一されていて、意図されているかは分かりませんがなんだか秋らしさみたいな物も感じたり…。

前シテ(変身(?)する前の紫式部)の衣装はお花がたくさん散らされているすごく華やかなデザインでオレンジの裏地がパッと目を引く色合いですごく綺麗でした。

後シテ(紫式部の霊)の藤の模様が入った薄い紫の衣は、幽霊感とか人じゃ無い感みたいなものも(多分)演習されていてこちらもすごく綺麗でした。金色の模様が散らされてるのもまた、華やかでキラキラしててすごく素敵なんですよね〜!

振りの1つに袖を顔の辺りに持ってきて動く動作があったのですが、衣が薄いため袖の奥のお面が透けて見えて本当に美しくで幻想的でした。

(型についての知識もあればきっとこの舞ももっと楽しめるはず…!頑張ります…!!)

あと個人的激推しポイントは笛の音と音楽でした!!! 小野寺竜一さんの笛の音は、すごく澄んだ音で、結構西洋音楽に馴染みきった耳でも抵抗なく聴ける気がしました!めっちゃ良い音だったなああっ!!

音楽もなんというか、ふわっとサラッと薄い雲が漂うような音楽で、舞台演出があるわけでは無いのに、霧や雲の中にうっすら消えていく様子が見えるような、そんな空気があって、テーマの仏教的儚さみたいなものも感じ取れてすごく好きでした!

てか、今さらだけど太鼓なかったな!?と。

これも意味があるのでしょうか?もっと勉強しないとですね。

小太鼓の飯冨孔明さんの声もめっちゃ良かったです。西洋声楽とかやってるの見たい笑

本当に音楽はかなり好みでした!

よく考えたら、音の雑味みたいなものも演目によって調節してるのかな…?

今回は結構雑味少なめな薄くて儚めな音作りを感じましたが、それぞれの個性としての音色とは別に意図して変えてるとしたらそれはそれですごく面白いな、と思います。

また、色々見て研究したいなぁ。

長々と書いてしまいました笑

まだまだお能初心者ですが、今まで見た演目から少し外れた雰囲気のものを観ることができてまた少し世界が広がりました!

次のお能が楽しみです…!

来週は打って変わって、アカペラのコンサートを聴きに行きます♫

楽しみ✨✨

※追伸

初心者の方が観るなら、狂言「樋の酒」は良いと思います!特に「古文苦手で何言ってるか分からん!」っていう人も意味が分からずとも観てるだけで面白いので良いです。

能「源氏供養」はあんまり初心者向けではなさそうです。舞自体も長いしそんなに動きがあるものでは無いので、慣れてない人からすると結構辛いかも…?(まあ、宝生流の「源氏供養」はしばらくお目にかかることはなさそうですが…笑)

ちなみにリスニング(?)に自信がなくても、お能の謡は、別紙で配られるのである程度高校までの古文を理解してれば全然いけます!

狂言の言葉もプログラムに注釈がつくので、そこまでハードルは高く無いです。

また、スタートする前に大体解説の方があらすじの説明や見どころを教えてくれるので初めてでも楽しみやすいと思います!