ここにきて習近平が「もっとも警戒する」自民党総裁《候補者の名前》…石破茂、高市早苗、小泉進次郎から選んだ(2024年9月26日『現代ビジネス』) (original) (raw)

中国がもっとも警戒する首相候補は誰か

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写真:gettyimages

9月27日に投開票日を迎える自民党総裁選挙。これまで様々な論点で候補者討論会などが実施されてきたが、筆者は、突き詰めて言えば、次期首相となる人物を選ぶうえで不可欠な基準は、「日本国民の生活を守る」ことができるか否かだと考えている。

各メディアでも報じられているとおり、選挙戦は、石破茂元幹事長(67)、小泉進次郎環境相(43)、そして高市早苗経済安保相(63)の「3強」が、つばぜり合いをする形で進んでいる。そのため、この「3強」に絞って、「外交・安保」を軸に、誰がベストなのかを見ていくことにする。

中国政府の通信社「新華社」や中国共産党機関紙「人民日報」(姉妹版「環球時報」含む)、それに中国国務院直属のテレビ局、CCTV(中国中央電視台)は、折に触れ、総裁選挙について報道している。

たとえば、9月12日、「新華社」の記事をもとに伝えたCCTVの有力候補に対する寸評は、日本国内での報道と差異はない。要約してみよう。

石破茂氏=今回が5回目の党首選である。NHKの調査では、国民の28%が石破茂氏を支持している。これまでの党首選で、石破氏は自民党議員からあまり支持を受けていない。

小泉進次郎氏=政治家一家の出身で、父は小泉純一郎元首相。若者や女性に人気があり、当選すれば、日本最年少の首相になる。ただ、日本のメディアは、政治の経験が相対的に不足していると指摘している。

高市早苗氏=日本の保守派を代表する政治家。日本初の女性首相を目指す。安倍晋三元首相の弟子。日本の平和憲法改正を唱え、靖国神社を何度も訪れている。

個々の候補者に対する論評は、内政干渉になるため控えているものの、石破氏と高市氏の写真だけ紹介した。

なかでも石破氏については、今年8月、台湾を訪問し頼清徳総統らと会談したときの写真で、先にまとめた寸評と合わせて考えれば、石破氏と高市氏に一定の警戒感を持っていることがわかる。

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写真:gettyimages

その石破氏は、まさに「日本を守る」を前面に打ち出し、対中国、対北朝鮮を念頭に「東アジア版NATO」の創設、防衛力の整備、自衛官の待遇改善、在日アメリカ軍基地の日米共同管理などを唱えている。

これらのうち、「東アジア版NATO」は、台湾統一を目指す習近平総書記(以降、習近平と記述)からすれば、もっとも好ましくない構想だ。東アジア地域に集団安全保障体制が構築されれば、台湾統一が遠のく。そのため、先にNATOが東京事務所の設置へ動いた際も、いち早く反発したのが中国だ。

また、アメリカが在日米軍司令部を再編し、新たに作戦指揮権をもつ司令部を設ける方向で動き、石破政権下で日米による防衛網が強化されるとなると、さらに都合が悪くなる。習近平からすれば「石破首相は困る」のだ。

高市首相も困る。高市氏は、宇宙やサイバー、あるいは電磁波領域や極超音速兵器など新たな戦争の様態に対応できる防衛力の強化を唱えている。

加えて、対空防衛能力の進化や反撃能力ミサイルの保有だけでなく、「非核三原則の見直し」にまで踏み込み、中国が日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置したブイの撤去まで明言している。そんな首相が誕生してしまったら、習近平には不都合でしかない。

その点、小泉氏なら御しやすい。小泉氏は、9月14日、筆者も参加した日本記者クラブ主催の討論会で、対中政策を聞かれ、「台湾には行ったことがあります。中国には行ったことがありません」と述べるにとどまった。これはあくまで想像だが、習近平は、「この程度の認識なら」とほくそ笑んだのではないだろうか。

では、北朝鮮金正恩総書記にとってはどうだろうか。

やはり、中国と同様、外交・安保に詳しく、防衛力強化をうたう石破氏と高市氏は、北朝鮮にとって好ましくない。他方、「金総書記とは同世代。トップが動く外交で新たな展開を切り開きたい」と発言した小泉氏なら揺さぶりやすいと判断するはずだ。

ただ、高市氏の場合、韓国内にアレルギーが残る安倍氏の後継的存在だけに、首相になって以降、バイデンー岸田文雄―尹錫悦体制で構築した日米韓の連携に亀裂が生じるようだと、中朝両国にとっては歓迎すべき状況になる恐れもある。

台湾統一の“Xイヤー”は2027年だが…

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写真:空母「遼寧」(creativecommonsより)

筆者は、台湾有事が生じるとすれば2027年が“Xイヤー”になると思っている。中国経済の回復状況にもよるが、この年は中国軍(人民解放軍)創設100年の節目にあたり、習近平の総書記として4選がかかる共産党大会が開かれる年でもあるからだ。

さらに、2028年1月には台湾総統選挙が実施されるため、その前年は、台湾世論を揺さぶりやすくなるという背景もある。

その一方で、中国国内では、習近平離れとも言える動きが生じているのも気になる。8月26日、Y9情報収集機(スパイ機)が長崎県沖で初めて日本の領空を侵犯し、同31日には、中国の測量艦が鹿児島県周辺で日本の領海に侵入した。そして9月18日には中国海軍の空母「遼寧」が、沖縄県の海域で接続水域内を初めて航行する事態が生じている。

これらが習指導部の指示によるもので、日本の次期首相候補に、「台湾に肩入れするなよ」と牽制球を投げているのであれば、警戒を強化すれば済む。しかし、昨今、習指導部は、従来の戦狼外交(非友好国に圧力をかける外交)から、ほほえみ外交へと衣替えしている。

その背景には、敵を増やすよりも、理解者を増やす外交に転換したほうが得策と判断したことと、国内経済が振るわず、若者は難関大学を出ても就職先がない状況が続き、一般国民も、星巴克(スターバックス)で、1杯500円のコーヒーすら、おいそれとは飲めないような事態が続いているという実情がある。

そんな状況下で、「領空を侵犯してでも自衛隊アメリカ軍の機密情報を取ってこい」と指示するだろうか。

筆者は、空母「遼寧」の動きはともかく、このところの領海・領空侵犯は、習近平のほほえみ外交に不満を抱く軍部の単独行動の可能性もあると考えている。むしろ、そちらのほうが怖い。中国国内で路線対立が生じているとすれば厄介だ。

「今、党内政治生活が正常さを失い、個人は党組織の上に凌駕し、家長制的なやり方で、鶴の一声で物事を決めるようなことが起きている」

これは、今年7月、中国軍の機関紙「解放軍報」に掲載された論評だ。ここで言う「個人」とは習近平である。この一文は明らかに習近平の政治手法に異議を唱えるものだ。

もう1つ言えば、李強首相の動きである。就任当初から影が薄く、習近平から疎んじられてきた李氏が、8月16日に主宰した国務院会議で、以下のように発表したのだ。

「会議は党の三中総会の精神と中央政治局会議・政治局常務委員会議の精神を深く学び、党中央の精神を持って思想の統一・意思の統一・行動の統一を図るべきことを強調する」

この中に、習近平というワードは1つも出てこない。このフレーズを解釈すれば、学ぶべきは「党の精神」であり、「習近平思想」ではないと語っているようなものだ。

日本の次期首相は、そんな中国と向き合うことになる。中国とどう向き合うのか、そのビジョンの有無が問われるが、これまでの演説会や討論会で、外交・安保面を見る限り、どうしても石破氏=高市氏>>>小泉氏という順序に落ち着いてしまう。

ハリスやトランプは誰を望むのか?

在ワシントンDCの保守系シンクタンクの研究者は、筆者の問いに、次のような言葉をメールで返してきた。

「ハリス氏が勝った場合、彼女はバイデン大統領の名代として数々の国際会議に出席していますから、安全保障面では、バイデン政権の路線を継承すると思います。これまでどおり多国間の協調を重視するでしょう。

通商面で言えば、IPEF(インド太平洋経済枠組み)を中心に、中国に対しては輸入規制を継続する一方で、対話も続ける形。ただ、ハリス氏は、AIを活用した産業の革新に前向きなので、日本の首相がその分野に詳しい人が理想です」

「トランプ氏が勝った場合、1期目よりも自信をつけるでしょうね。安倍氏と良好な関係を築いたようにうまくはいかないかもしれません。石破さんは防衛面で日米対等を打ち出していますが、トランプ氏はアメリカの防衛負担が不平等だと言っています。

どこに接点が見出せるか難しいです。高市さんと小泉さんは、トランプ氏が求める高関税化や基地負担にどんなボールを返して取引ができるかですね」

こうしてみると、ハリス氏が勝った場合は、若い小泉氏であっても、外相、経済産業相、防衛相がしっかりしていれば対応でき、トランプ氏が勝った場合、「3強」のうち誰であっても安倍氏のようにはいかないと考えておくべきだろう。

いずれの場合も、政権を安定させ、アメリカと腰を落ち着けて交渉できる環境を作ることが、日本の国益を守るためには必須条件になる。

最後に、誤解を恐れずに言えば、総裁選挙の争点のうち、「政治とカネ」の問題は徹底追及しなければならない反面、それによって私たちの暮らしが脅かされたり、血が流れたりするわけではない。

本稿で取り上げた外交・安保は、ともすると本土が脅かされ日本有事にもつながりかねない分野だ。惨事となるリスクもゼロではない。他に、「物価高対策」や「南海トラフ地震や首都直下地震に対する備え」なども、安心して生活するうえで最重要分野になる。

これらに関する認識が浅ければ、米中のトップと対峙する以前に、国会屈指の論客、立憲民主党野田佳彦代表(67)に太刀打ちできまい。

迫る総裁選挙は、これらを含め、「日本国民の生活を守る」ことができる人物が選ばれることを切に願っている。