このままでは国民皆保険が壊れていく…金子勝「マイナ保険証は政治献金企業が儲かる究極の寄生システム」(2024年11月10日『プレジデントオンライン』) (original) (raw)

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

12月2日からマイナンバーカードと健康保険証が一体化され、「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行する。『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新書)を上梓した経済学者の金子勝さんは「政府は、技術的にとんでもなく遅れた4桁の暗証番号で顔認証も不安定なプラスチックカードを全国民に強制しようとしている。通常の健康保険証廃止を止め、一からやり直すべきだ」という――。

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【図表】デジタル赤字膨張の実態

■政府のDXは決定的に間違っている

「裏金国家」に支配された政府の産業政策が日本の産業衰退をもたらしている。

政府の産業政策の看板とされているのはGX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)であるが、政府のGXとDXはともに決定的に間違っている。

本書でこれまで述べた政府のGXが、大手電力会社の地域独占を維持し、安全性もコスト面も著しく劣る原発推進を続けるかぎり、日本のエネルギー転換はどんどん遅れていくだろう。

本当の問題は、原発の安全性と雇用を確保しつつ、いかに高コストの原発をソフトランディングさせるかにある。ところが、大手電力会社の地域独占天下りが結びついた日本型オリガルヒ経済に猛進して、時代遅れで危険で高コストのガラパゴス・エネルギー体制を維持しようとする完全に間違った産業政策を実行している。経済産業省を早急に解体しないかぎり、日本経済の衰退は止まらないだろう。

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■マイナ関連事業3000億円を大企業8社が独占契約

実はマイナンバーカード、とくにマイナ保険証を強制する政府のDXもまったく同じ構造に陥っている。このままでは、日本のITを救いきれないほど衰退させていくだろう。

この分野での裏金の実態は不明だが、政治献金と技術的に遅れた日本の情報産業のための救済事業との結びつきは非常に強い。

ほぼ10年間でマイナンバー関連事業を少なくとも3000億円近く発注していると見られるが、大企業8社が共同受注などで独占的に契約している。

■技術的にとんでもなく遅れたプラスチックカード

世界的にみれば、いまや生成AI、クラウド、先端的半導体GPU(映像処理できるNVIDIA製)が席巻しており、日本でもマイクロソフトやグーグルの大規模データセンターが建設されている。日本のIT企業はまったく歯が立たないくらい後れを取っている。

こうした事態を根本的に解決するつもりはなく、最初からスマートフォンクラウドで対応する能力がなく、むしろ技術的にとんでもなく遅れた4桁の暗証番号で顔認証も不安定なプラスチックカードを全国民に強制しようとしているのである。

これまで日本のIT企業は、企業ごと、病院ごと、銀行ごとに閉じたシステムを作る自社が運営するオンプレミスの方式でやってきた。外部に閉じているので安全だと主張しながら、サーバーなどハードを売り、維持管理費用で稼ぐ方式である。施設内の情報システムは下請けに発注して作らせるので、プログラマーの地位が著しく低くソフトの開発力で格段に劣っていた。それゆえITゼネコンと揶揄されていた。

クラウドノウハウが欠けている日本のIT企業

ところが、いまやアメリカや中国の巨大IT企業はクラウドを運営し、そこからアプリを提供するプラットフォーム企業へと変貌した。そこは基本的にセキュリティが強化されたオープンなシステムで、利用者のコストは大きく削減されている。

これまで銀行が合併したり、病院ごとにオンプレミスで作ってきたシステムを外部につなげたりすると、しばしばシステムトラブルを起こすようになっている。これまで別々の会社がそれぞれシステムを構築し、つなぎ合わせたらバグが出てしまうのである。

今回のマイナ保険証では、日本のIT企業はクラウドを運営するノウハウに欠けており、時代遅れになっている欠点が露呈してしまったのである。

この間のマイナ保険証のひどい醜態を見れば、日本のIT企業の国際競争力の欠如は明らかだ。図表1を見れば明らかなように、日本の貿易収支上のデジタル赤字はいまや約5.5兆円にまで増加している。GAFAMには遠く及ばず、IT失敗企業群がJ-LISに集まり、自民党に政治献金を出して、国の数兆円もの税金に巣食って生き延びていこうとしているのである。

■健康保険証廃止を止めて一からやり直すべき

必要な施策は明らかである。

まずJLISの利益共同体を解体し、台湾のオードリー・タンのようにITの知識を持つ者をデジタル大臣につけ、公正なルールの下で新しいIT企業の参加を促すことである。

マイナ保険証については、通常の健康保険証廃止を止め、一からやり直して、クラウド上でスマホのアプリにする。多数の紐付けを止め、一つひとつ独自のOS(オペレーティング・システム)で丁寧にプログラムを組んでいくことが必要である。

同時に、大学予算を復活させ、情報科学と人材養成の体制を組み直していかなければならない。

そもそも政府の医療IT化の方向性が完全に間違っている。個人情報のプライバシー保護(自分の医療・薬情報に誰がアクセスしたかを知る権利)を考慮しつつ、中核病院、診療所、高齢者施設、訪問看護・介護、薬局などを結びつける地域の医療介護ネットワークを作り、かかりつけ医や訪問看護を軸に、在宅医療・介護をサポートする。

そのうえで、慢性病などを持つ在宅患者にはブロードバンドを使って、独自のデバイスを用いて自身の健康データを自己管理できるようにするのである。

真の医療DXとは、利便性があり、安心かつ医療費の効率化を促す地域医療システムの構築である。

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金子 勝(かねこ・まさる)

経済学者

1952年東京都生まれ。経済学者。慶應義塾大学名誉教授、淑徳大学大学院客員教授東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、立教大学経済学研究科特任教授を歴任。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『人を救えない国 安倍・菅政権で失われた経済を取り戻す』(朝日新書)、『日本病 長期衰退のダイナミクス』『現代カタストロフ論 経済と生命の周期を解き明かす』(ともに共著、岩波新書)など多数。

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裏金国家 (朝日新書) 新書 – 2024/9/13

金子 勝 (著)

総裁の「顔」を変えたところで、自民党の根っこは何も変わらない――。

腐敗・衰退著しい日本の根本要因を徹底検証した、渾身の作。

長年にわたって「裏金」をばらまき、都合の悪い言論を封殺し、

縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。

民主主義を破壊し、国際競争力を低下させた背景にある「2015年体制」の正体とは。

さらに、情報通信やエネルギー転換など、先端産業分野から取り残され、国民生活をどんどん貧しくしていく日本経済の構造的問題、そして迫りくる“カタストロフ”とは。

世襲支配、円安バブル、脱税と隠蔽、軍事費の増額……負のらせん状階段を下り続ける、この国の悪弊を断つ。

■目次

第1節 日本政治の腐った根っこ

第2節 「2015年体制」とは何か

第3節 世襲という病

第2章 自浄能力なき隠蔽国家――腐敗が止まらない仕組み

第1節 検 察の権力チェック機能も自民党の自浄能力も期待できない

第2節 国会審議で明らかになったことは何か

第3節 自民党内のアリバイ的処分と法改正

第3章 裏金国家――国が腐るとはどういうことか

第1節 「惨事」便乗型資本主義

第2節 「国家的」な裏金作り

第3節 円安インフレと防衛費膨張の悪循環

第4節 投機マネーに狙われる国

第5節 ずるずるとした滅び

第4章 裏金国家の経済政策――仲間内資本主義日本

第2節 リフレ派とMMTが日本経済を滅ぼす

第3節 政府の産業政策が衰退を加速させる

第5章 ディストピアから脱する道――裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ

第2節 円安インフレと格差拡大を防ぐ

第3節 防衛費膨張を止めてイノベーティブ福祉国家

第4節 地方衰退を食い止める

第5節 いかにして少子化を食い止めるか