『ジャージの二人』(中村義洋(監督))★★☆☆☆ (original) (raw)

ジャージの二人
中村 義洋(監督)
堺 雅人(主演)
鮎川 誠 主演)
2008年
★★☆☆☆

サイドカーに犬』『猛スピードで母は』で知られる直木賞作家・長嶋有による同名小説(2003年 集英社)を映像化した作品。文庫版(2007年 集英社)には表題作『ジャージの二人』の続編『ジャージの三人』が収録されており、映画は「二人」と「三人」を合わせて映像化したようだ(ひょっとすると、『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(「ブルボン小林」名義、2004年 太田出版)、『祝福』(2010年 河出書房新社)に収録されている『ジャージの一人』も合わせて映像化されているのかもしれない)。主演は、当時まだ30代半ばだった若き堺雅人とシーナ&ザ・ロケッツのギタリスト鮎川誠。

妻に浮気され、会社もやめてしまった30代の「僕」は、母とは離婚し既に別の家庭を築いている父と落ち合い、北軽井沢の避暑地に向かう。携帯電話の電波も届かない山の中で、2人は何をするともなく無為に日々を過ごすのだが…。

「暑さから逃れる」と言う名目の下、現実から逃れようとする親子2人のお話。50代半ばの父は(フリーの?)グラビアカメラマン、30代前半の息子は現在離職中。2人ともそれぞれの奥さんとの関係で悩み事を抱えている。親子とは言っても、普段はあまり連絡を取り合っていないようだ。

もの凄~く久し振りに映画を観た(と言っても、映画館にまで脚を運んだワケではなく、「レンタルDVD・ブルーレイ1点無料!」のクーポン券を手に入れたので近所のレンタル屋で借りてきただけだが…)。数年前に雑誌の新作映画紹介のコーナーでこの作品について知った…、と思っていたのだが、「数年前」どころか2008年の映画で、なるほど僕の時間はその辺りで止まっているのかもしれない、と妙に納得した。

映画で描かれているのは2006年と2007年の夏。「スマホ」時代の到来前の「ガラケー」時代だ(iPhoneが日本国内で最初に発売されたのは2008年)。「携帯電話」自体が、本作品において象徴的なアイテムとして扱われている。

90分程度の短い映画。レンタル屋では「コメディー」のコーナーに置かれており、そういうツモリで観始めたのだが…、これコメディーじゃないよね(笑)。「脱力」「マッタリ」「ゆるゆる」「癒し」等のキーワードと伴に紹介されることの多い映画なのだが、正直僕には何を描いた映画なのかサッパリわからなかった(涙)。

映画では、これといった「事件」は何も起きない。エピソードで物語を展開していく、という映画ではないようだ。「あらすじ」を書きようのない映画かもしれない。

慌ただしい日常から離れて、群馬(嬬恋村が舞台のようだ)の大自然の中で癒されました、という話でもない。広大なレタス畑や雄大な山々(浅間山?)を背景にしたカットは多いが、「大自然に抱かれて、人としての根源的な生命力が回復してくる」といったイメージではないように思う。むしろ、「他者とコミュニケーションを取りたくなくて人のいない避暑地に逃げ込んできたのに、イザ携帯電話もつながらない!となると、電波の届くスポットを探してしまう…」といった矛盾や葛藤を描くために用いられているカットのように思う。人が嫌で都会から逃れてきたのに、結局毎日コンビニに通ってしまう、というような…。

数少ない登場人物たちはそれぞれ日常生活に問題を抱えており、通常このテの映画であれば、最後には「ま、明日からまた頑張ろう!」といった希望を感じさせて終わるものだと思うが、この映画の趣旨は全く異なるようだ。主人公たちは事態の打開に向けて何か具体的な行動を取るワケではないし、実際のところ何も改善しない(笑)。明るい将来の兆しも見えない。昭和のファミコンのマージャンゲームに興じたり、スーパーの雑誌コーナーでただ立ち読みしてるだけ(笑)。むしろ、「コミュニケーション量を減らすことで生まれた余裕を、もうダメだとわかり切っていた現実を時間をかけてユックリ認めることに振り分ける」、そういう日常生活を描こうとした作品なのかもしれない。そういう意味では、主人公たちをもっとダメ人間として描いた方が良かったのかも。

原作者である長嶋氏のことは正直全く知らなかった(ただ、『猛スピードで母は』(2001年 文藝春秋)と言われれば、その作品名には聴き覚えがあった)。原作小説やこの映画のAmazonレビュー等を読んでみると、映画は原作をかなり忠実に再現しているのだそうだ。ところが、僕にはそのテーマがサッパリわからなかったワケで…。「母」の次に「父」と続いたのであれば、家族の間に見られる微妙な人間関係を描こうとした作品なのかもしれない。原作が何を描こうとしていたのか、また本作はそれを映像作品として表現することに成功していたのかどうか、原作小説を読んでみなければわからないかもしれない…。

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ジャージの二人 (集英社文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)