Jitsuゼミ記 (original) (raw)
実ゼミでは2024年の9月4日から6日にかけてワシントンでフィールドワークを行いました。ゼミとして米国研修を実施するのは昨年に続き3回目。ホワイトハウスや議会議事堂の見学のほか、新聞社や商社、国際機関で働いている日本人の方々や日米関係の強化を目的とする組織で働く米国人や米国務省の元外交官らにお話をうかがい、意見交換をしてきました。以下はその報告です。
9月4日
宿泊先があるバージニア州のロズリンへ。夜は近くのベトナム料理店でフォーを食べながら打ち合わせ。
9月5日
良い天気の中、まずはホワイトハウスに向かいました。大統領が執務するウエスト・ウィングの反対側にあるイースト・ウィングを見学。各国の首脳との会食に使われるステート・ダイニング・ルームをはじめ、きれいに飾られた様々な部屋や歴代大統領の写真や絵画に目を奪われました。
昼食を終えたあと、先生の元同僚が勤務している日本経済新聞ワシントン支局を訪問し、大越匡洋支局長と芦塚智子記者のお2人にお話を聞きました。いまアメリカでホットな話題になっているニュースや記者の職務について丁寧に説明していただきました。その中で印象に残ったのは、銃規制の問題です。銃保有の権利が憲法に明記されているので銃を無くすことはそもそも非常に難しいです。それだけでなく、アメリカ人にとって銃が小さい頃から身近にあるので、まったく無くしてしまうという考えが起きないことも一つの要因であるといいます。
もう一つは政治や社会の分断の問題です。話をうかがって、アメリカの政治問題の根底にあるのは、賛成派と反対派が歩み寄ることができないという点だと考えました。どちらかの党の政治家が相手の党に一歩でも歩み寄ってしまうと支持者に批判され、下手をすると自分の党の候補者を決める予備選挙で敗北してしまうからです。歩み寄って折衷案を出していくことがこれからのアメリカで大切だと考えました。 (東泰希)
そのあと、日経のオフィスに来ていただいたアメリカ国務省の元外交官であるRust Demingさんとお会いしました。
Rust Demingさんは東京大使館でナンバー2の地位についていたご経験もある方で、ところどころ日本語を挟みながらお話してくださる姿から、とても穏やかで優しい印象を受けました。
質疑応答の時間では、主にアメリカの大統領選挙についての質問をさせていただきました。Demingさんはトランプ氏もハリス氏もアメリカ国内の問題に注力しており、現代のアメリカは外交的な政策にあまりフォーカスしていないことを指摘されました。アメリカ国内の失業問題や格差の拡大によって、アメリカを最優先に考えるような政策が選挙で有利になるようになったことが背景にあるとおっしゃられていました。
アメリカは世界のリーダーとしての力が弱くなってきていることから、アメリカの今後の政策はさらに保守的で閉鎖的なものに変化していくと推測されていました。さらにDemingさんは、良好な日米関係を維持することの意義についても教えてくださいました。日本とアメリカが良好な関係性を維持することは、アジア全体が中国の影響下に置かれないように、つまりアジアをアメリカにとってオープンな存在にしておくために必要不可欠であるという旨の意見をうかがいました。
Demingさんとのセッションを通して、アメリカ国内の社会や世論が現在大きく変容していることや、今回の大統領選挙が世界から見てもいかに重要な役割を担っているかを知ることができ、アメリカは今まさに転換点にあるのだと思いました。また、日米関係について地政学的な観点からの意見も聞くことができて、良好な日米関係を維持することの重要性を再確認することができました。 (小倉唯花)
そのあと、日経のワシントン支局から10分ほど歩いたところにある経団連米国事務所を訪れ、谷川喜祥所長とお会いしました。その前に少しの時間ではありましたが、たまたま経団連を訪れていた米シンクタンクの外交問題評議会で日米関係なども担当しているシーラ・スミスさんにもお会いすることができました。
経団連は、大手企業を中心とした1500社以上の会員とそれぞれの産業を代表する110近くの業界団体、47都道府県の経営者団体が所属しています。そして、経営側を代表して労使の協議を行っています。また、企業の持っている活力やイノベーションの力を最大限生かす形で経済や国民の生活の発展に資する環境を整えるよう政策提言を行っています。同時に気候変動、女性の活躍のような課題に対して企業自らが行動を起こせるように、経済界を代表する形でイニシアティブを発揮しています。
このように経団連の組織の説明をしてくださった後、私たちの質問に一つずつ丁寧に答えていただきました。
例えば、これから行われる大統領選挙の結果が日本企業のアメリカでの活動にどのような影響を与えるかなどの質問に対しては、民主党、共和党それぞれの候補が掲げる政策の観点から良い面、悪い面を説明してくださいました。外交政策の面、気候変動対策、関税のことまで幅広い面で日本や日本企業に与える影響について、ここでしか聞けないような本音を交えながら話してくだり有意義な時間となりました。
自分にとってはあまり聞き見馴染みのない団体ではありましたが、今回の訪問を通して、経団連は、日本経済の発展に欠かせない組織であることを実感しました。日本には将来グローバルに活躍できる人材の不足などの懸念点もありますが、そうした中で今後経団連の重要性はますます高まっていくと思いました。(植田望未)
9月6日
地下鉄に乗って米議会議事堂へ。この建物は2021年にトランプ支持派によって襲撃された場でもあります。ガイド付きのツアーに参加し、米議会の役割を学びました。上映された紹介ビデオでは熟議を通じてcommon ground(共通点・妥協点)を見つけ、課題を解決するのがアメリカ議会の役割であることを強調していました。
次に我々は国際金融公社(IFC)を訪問し、そこでご活躍されている藤森景子さんに業務内容や経験、そして女性として国際機関で働くうえで感じていることなどをお話していただきました。
IFCは世界最大の国際開発金融機関である世界銀行を構成する5つの機関の一つです。IFCはIBRDやIDAなど国を通じた支援をする機関とは違って、投資先は資金を得にくい民間セクターに特定しており、それによって国からの支援だけでは補えない部分を補填し開発の援助をしていると教えていただきました。
実際のIFCの試みをルーマニアの事例をもとに説明していただきました。ルーマニアは現在石炭火力に依存しており、グリーンエネルギーへの転換を目標に掲げています。しかし、風力発電などの設置には巨額の資金が必要であり、国の援助金だけでは実現不可能であるのが現状です。ここでIFCが地域のデベロッパーなどに資金援助をすることなどによって、開発を実現することができ社会全体に効果を生み出すことができるようになるとのことです。民間企業などが資金にアクセスできるように支援することがIFCの重要な役割であるのだということを具体的に感じることができました。
また女性が国際機関で働くことに関して我々から質問をさせていただきました。実際に国際機関で働いている中で、藤森さんはIFCにおいて働きづらいと感じたことや女性の少なさを実感することはあまりなく、一人一人を尊重してくれる機関であるとおっしゃっていました。女性のキャリアに関しても、「人生において結婚や出産などによってキャリアが大きく左右されるかもしれないが、正解はないと思うので考えすぎないのも大事かもしれない」とおっしゃってくださり女性として大変勇気づけられました。(宗璃音)
IFC(国際金融公社)の福森さんのお話を伺ったあと、ワシントン日米協会のRyan Shaffer理事長さんとSami Marksさんにお会いしました。
日米協会は日米の友好促進のための活動を行っている団体です。ワシントンDCでは毎年桜祭りなどのイベントの開催や日米の文化交流活動を行って、日本の文化をアメリカの人々に伝える機会を積極的に作っています。
日米協会のオフィスには日本のキャラクターのぬいぐるみや和風なデザインのコースターなど、日本の文化を感じられるグッズがたくさん置かれていて、とても居心地の良い空間でした。
Shafferさんはアメリカの文化についての質問に対して、15年前まではアメリカの文化とは自由と民主主義であると断言できたが、現在はそうは言えない状況にあると答えられていました。国会議事堂の襲撃事件は、民主主義にとって必要不可欠である選挙の結果を暴力的に覆そうという行動だったこと、アメリカ国民の間で権力の監視という役割を担っているジャーナリズムに対して懐疑的に考える人が増えてきてしまったということを指摘されていて、国会議事堂の襲撃事件がいかに衝撃的な出来事であったかを改めて考えさせられました。
また、アメリカでは高等教育の時点から日本語の授業を設けるなど、国民が日本文化に触れられる機会を増やそうと努めていると同時に、日本語教師が不足しているという問題にも直面しているということを言われていました。また、経済的な問題を解消するために、日米協会は費用の援助などを行っているにもかかわらず、アメリカ国内が政治的に不安定になっていることなどから、アメリカに行きたいと考える日本人が減少しているという課題を指摘されていました。グローバル化が進むにつれてアメリカで働きたいと考える日本人は増加している印象があったので、そうした問題を今回初めて知って驚きを感じました。
他にも日本とアメリカのポップカルチャーの話や日本に興味を持ったきっかけの話、日本酒の話などで盛り上がり、話し足りないと感じるくらい楽しい時間を過ごすことができました。 (小倉唯花)
最後にお話を伺ったのは住友商事ワシントン事務所に務める文室慈子副所長と、渡辺亮司調査部長です。それぞれのお仕事の内容や大統領選挙や議会選挙の状況、これから大事になってくる問題について説明していただきました。重要な仕事としては、世界の情報が集まるワシントンでアンテナを張って次にどのようなことが起こるかを予測することがあると説明していただきました。そのために必要なのは、的確な情報をすぐに集められる情報ネットワークの構築であり、長年の経験の蓄積が役にたつということも知りました。
次に、大統領選挙戦の状況について説明していただきました。バイデン大統領が撤退を表明したあと20歳近く若いハリス副大統領がトランプに対抗する候補になりました。それにより、バイデンと同じようにトランプの高齢問題にも目が向けられるようになったとのことです。一方で、ハリスも政策面などで支持が得られるか不透明であるといいます。無党派層の支持を得て、激戦州で勝利を収められるかどうかが重要になってきます。これらの話を聞いて私の心に残ったのは、アメリカ人の選挙に対する熱量の大きさです。選挙への関心や候補者支持の度合いが強いことから、家族の間でもけんかを恐れて政治の話をしないようになっているほどだといいます。政治的分断の象徴的な表れでもありますが、政治や選挙に対する熱量を日本人の若者も持つことが必要だと感じました。(東泰希)
実ゼミでは、現在3つの班に分かれてそれぞれグループ研究を行なっていますが、私たちの班は、「企業の多様性推進」をテーマに研究を行っています。その一環として10月31日にパナソニックに企業訪問をさせていただきました。
「パナソニックはどのような会社で何をめざしているのか」「インクルーシブな職場環境づくりのためのDEI(Diversity Equity Inclusive)政策を具体的にどう行っているのか」など、幅広い内容について学ぶことができました。
特に印象に残ったお話はインクルーシブな職場環境づくりの一環としてアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を無くすための取り組みです。
複数の社員が研修を受け「アンコンシャス バイアス社内アンバサダー」として各職場で教える立場となり、社員に教育を行なっているそうです。担当の方から直接話をうかがうことで、パナソニックの社内環境を改善するための取り組みを深く理解することができました。(大谷准永)
実ゼミでは9月4日から8日にかけてワシントンでフィールドワークを行いました。ゼミとして米国研修を実施するのは4年ぶり。コロナ禍でしばらく断念していましたが、ようやく実現することができました。ホワイトハウスや議会議事堂の見学のほか、ワシントンで働く日本人ジャーナリストや商社マン、日米関係の強化を目的とする組織で働く人々、中絶の権利擁護のために研究調査や活動をしている団体のメンバーらに話を聞き、意見交換をしてきました。以下はその報告です。
9月4日
ワシントンのダレス国際空港に到着。空港までの延伸が実現してから間もない地下鉄に乗って宿泊先があるバージニア州のロズリンへ。夜は近くのメキシカンのファーストフード店で食事兼打ち合わせ。
9月5日
日本経済新聞ワシントン支局にまずお邪魔し、ワシントンを一望のもとに眺められる屋上に向かいました。すぐ目の前にはホワイトハウス、その先にはワシントン記念塔が見えました。
そのあと、現地のアメリカ人を通じて訪問予約していたホワイトハウスへ。ホワイトハウス周辺にはたくさんの警官が警備にあたっており、非常に厳重な態勢でした。
ところがホワイトハウスの検問所でいきなりの番狂わせに見舞われました。訪問ツアーの予約確認が取れないとして、門前払いされてしまったのです。何とか8日の午前に再予約を取りました。アメリカではこのような杜撰な管理が珍しくないようで、ドイツ人の団体の方たちも同じように帰宅を余儀なくされていました。 (角晃太郎)
昼食に映画で見るような大きなハンバーガーをみなで食べた後、米国笹川平和財団を訪問。、秋元諭宏理事長から、50年間にわたって「文化戦争」の下にあるアメリカの社会の現状を丁寧に説明していただきました。「多様性」を重視してアメリカを良い社会にしようとするリベラルな人々は、白人が有利になるようにつくられてきた仕組みを変える必要があると主張します。これに対して、従来のアメリカの伝統的な価値観やそれにもとづく仕組みを擁護しなければならないと感じる人々が出てきました。そうした人々の気持ちを代弁する形でトランプのような、これまでにないタイプの大統領が誕生したのだといいます。経済・社会・政治の権力を一部のエスタブリッシュメントの人々が握っていること、あるいはそういう認識が強まっていることもまた分断を広げることにつながっているとのことでした。
秋元さんのお話で非常に印象に残ったのは「アメリカは今解決できない問題に足を突っ込んでいる」という言葉です。アメリカといえば、自由、人権の先駆者というイメージを持っていましたが、実際にはそのあり方を巡って出口のない国内の分断が続いていること、違う背景と理想を持つ人々が同じ国で生きることが容易でないことを学びました。また、自由や平等を求めるあまり、一部では行き過ぎも起こり、そのことが新たな分断を煽る要素へとつながっているようにも感じました。
解決できない問題に足を踏み入れたアメリカではありますが、これからの動きにより注目していこうと思います。 (島田きらら)
米国笹川平和財団でお話を伺ったあと、日米協会のElece Smithさんらとお会いしました。
日米協会は日本とアメリカを繋ぐ国際交流団体であり、EleceさんはNational Japan Bowlという大会のディレクターを務められてきた方でした。National Japan Bowlはアメリカの高校生が日本の歴史や文化、日本語等の知識を競う大会で、毎年約200人が参加するとのことです。日本に関する大会が全米規模で行われているとは知らず、日本の影響力がそれなりに大きいことに驚きを受けるとともに、第二言語にもかかわらず日本語や日本について勉強するアメリカの高校生の姿勢に感銘を受けました。
セッションの後半はゼミメンバーのグループ研究テーマに関する質疑応答の時間を設けていただきました。人工妊娠中絶を研究するチームに対しては、「中絶は女性の権利として守られるべきだ」と説明され、また「男性も問題について認知する必要がある」と指摘していました。
銃規制を研究するチームに対しては、合衆国憲法ができてから長い年月が経っていることや、街中で銃を持つ人が増えることに対する恐怖などについてお話いただいたうえで「銃規制を推進させるべきだ」という旨の意見をお聞きしました。
英語での会話ということもあり最初はゼミメンバーにも緊張の表情が見られましたが、Eleceさんにところどころ日本語を使って説明いただく場面もあり、終始和やかな雰囲気で時間を過ごすことができました。 (安岐日暖)
この日の最後に、米州住友商事ワシントン事務所を訪問しました。所長の吉村亮太さん、調査部長の渡辺亮司さんらに米国住友商事の活動や米国の政治情勢についてお話していただきました。
吉村さんからは、ワシントン事務所の役割は調査と政府渉外の主に2つだと説明していただきました。とくに政府渉外の仕事の一つである議会などへのロビイングについて詳しく教えてもらいました。ビジネスは政府がつくる法律や規制に基づいて行う必要があります。ただ、法律や規制などを作る議会や政府は民間企業がどのような活動をしているかよく知らないため、おかしなルールがうまれてしまう恐れもあります。要望を伝えるロビイングはそうした事態を防ぎ、企業の事業リスクを最小化し、利益を最大化するためにも重要なことだといいます。
渡辺さんからは米国の政治情勢について話を聞きました。米国では民主党と共和党の二極化が進んでおり、その原因はメディアの動向やゲリマンダリングが目立つ選挙の区割りなど様々あり、その影響も多くのイシューでの両党や支持者の対立などに顕著にみられます。2024年の大統領選挙に向けては、民主党、共和党の指名候補がそれぞれバイデン氏、トランプ氏であった場合、現時点でそれぞれの支持率は47%と46%と誤差の範囲内であることから、トランプ氏が再選する可能性はあるとおっしゃっていました。
最後に私たちからロビイングや銃規制、中絶問題について質問させていただきました。銃規制にも中絶にも共通することとして、1つのトピックだけで投票行動を決めるシングルイッシュー・ボーターが存在することから「選挙に行く動機づけがされるようなイッシューかどうか」がこれらの問題がどうなるかを占うカギになるとの話をしていただき、とても勉強になりました。 (八田真衣)
9月6日
この日も朝早くから地下鉄に乗り、議会議事堂へと向かいました。ワシントンの中心部から少し離れており、また違った雰囲気が印象的でした。議事堂に到着すると、セキュリティ・チェックがあり、ここでもホワイトハウスと同じように警戒態勢が厳重でした。
議会議事堂の中には、偉人の銅像が沢山置かれていました。特に「自由の像」と言われるものは1番目立つところに展示されており、迫力がありました。初めにアメリカと議会の歴史について描かれた短い映像を見ました。熟議によって共通点や妥協点を見出すのがアメリカ議会の伝統であり役割であると強調していたのが印象的でした。
そこから、40年以上もここで仕事をしているという女性ガイドによる議事堂の案内が始まりました。その昔最高裁判所として使われていた場所や、独立13州の像などの場所を順番に巡りました。1番メインのRotunda(ロタンダ)と言われるホールの天井には神格化されたジョージ・ワシントンが描かれていました。とにかく大きくとても迫力がありました。
最後に入った部屋がNational Statuary Hall(国立彫刻ホール)と言われる場所で名前の通り、たくさんの彫刻が飾られていました。想像以上の迫力に圧倒された議事堂訪問でした。(入船涼太)
昼頃に訪問した日本経済新聞ワシントン支局では、芦塚智子記者、大越越匡洋支局長にお話しを伺いました。私たちは、アメリカの中絶問題、銃問題を研究しているので、今回そのふたつの問題を中心に質問しました。中絶や銃問題を含む社会問題を20年以上取材している芦塚記者には、実際にアメリカに住んで感じることなど、外側からはなかなか分からないアメリカの状況を聞くことができました。近年のアメリカの状況として、「シングルイッシュー・ボーター」という1つの問題だけで投票する政党を決めてしまうという現象を挙げられていました。現在、中絶問題も銃問題もひとつひとつの問題が政治化しています。これについて、芦塚さんは「人が動くか、世代が変化するかでないと、現在の政治対立は収まらない」とおっしゃっており、銃問題や中絶問題だけでなく、今のアメリカのひとつひとつの問題にも当てはまることだなと考えました。「世代変化」というのは、今後重要なキーポイントとなってくると思いました。芦塚さんと大越さんは私たちの質問や疑問に対して真剣に向き合って答えてくださり、今回の訪問はとても実りある機会となりました。
(松尾美羽)
午後には、中絶の権利推進派の研究調査団体「ガットマッカー研究所」を訪問し、Amy Friedrich-Kamikさん、Dora Maradiagaさん、Talia Curhanさんにお話を伺いました。
日本に全く縁のない人たちとの英語だけでのやりとりということもあって私たちはそれまで以上に緊張して会場に向かいましたが、ゼミで米国の中絶問題について研究しているので、直接この問題に取り組んでいる方々からお話を聞き、質問できたことは大変有意義でした。
初めに、Doraさんから米国の中絶問題の歴史や2022年の最高裁判決による影響を説明していただきました。中絶問題は文化的な問題でありながら政治的な問題にもなっており、選挙の候補者らは議席や権力を保持するためにこの問題を利用しているといいます。昨年の最高裁判決によって憲法上の中絶の権利が否定され、州によっては避妊薬さえも制限されています。しかし、世論の大部分が「リプロダクティブ・ヘルス」の権利擁護に賛成しており、判決によって政治的な関心はより大きくなっているとおっしゃっていました。
続いて、Taliaさんからガットマッカー研究所の活動について教えていただきました。主な活動は中絶に関する研究調査であり、米国内や世界で、政策策定者に向けて科学的根拠に基づく政策の効果などについて発信しています。米国内では州レベル、連邦レベルの双方の政府へアプローチしアドバイスしていますが、州政府の方が政策決定までのスピードが速く、連邦政府は多くのトピックやアクターが存在することから時間がかかり政策を動かすのがかなり難しいといいます。
また、中絶と同様に宗教的な対立があった同性婚について、長い論争を経て容認に至った理由について説明してくれました。容認論が増えた背景には、テレビ、映画などポップカルチャーでの扱いや世代交代による文化的なシフトと、有名人を中心にオープンに話されるトピックになったことがあると指摘されていました。それに比べ、中絶はしたくてする人はいないことから話されることが少なく、このことは2つの問題の重要な違いの一つだと感じました。
この後、今後の中絶の権利をめぐる州政府や連邦政府の政策展望や、対立が収束する条件などについて多くの質問をさせていただき、研究を進めるうえでヒントとなることをたくさん学ぶことができました。とくに「中絶の権利はいずれ連邦法で認められる」、「人の権利にかかわることだから、それを否定する法をつくるなら妥協はできない」といった言葉からガットマッカーの方々の強い信念を感じられたことが非常に印象的でした。この貴重な機会を今後の研究に十分活かしていきたいと思います。 (八田真衣)
9月7日
自由行動。
9月8日
5日には入れなかったホワイトハウスに今回はスムーズに入ることができました。ホワイトハウスは中に入るまでに厳重なセキュリティ・チェックがあり、持ち込み可能な物はパスポート(身分証明書)、スマートフォン、財布ぐらいに限定されており、カバンすら禁止されていました。
ホワイトハウスは真っ白に輝き、芝生や中庭の花々は丁寧な手入れが行き届いていました。中は大統領が居住するThe West Wing(西の棟)と来客入り口のThe East Wing(東の棟)に分かれており、私たちはThe East Wingを見学しました。中には映画館や歴代の大統領、ファーストレディの写真・銅像が飾られていました。面白いことに歴代の大統領の写真は複数見つけることができましたが、何故かトランプ大統領の写真だけは小さく一枚だけしか飾られていませんでした。ホワイトハウスは白い外壁が特徴的ですが、中の部屋は対照的にカラフルでブルールーム、グリーンルーム、レッドルームなど色がテーマになっている部屋があり、とても美しいです。18世紀から19世紀のシャンデリアや金色の紋章の家具があり、歴史を感じられました。また、テレビでよく見るような首脳会談や記者会見に使用される部屋もありました。
訪問後はホワイトハウス・ギフトショップにて、実際に見学できなかった大統領執務室(The Oval Office)を模したフォトスタジオで写真を撮りました。とても貴重な体験をすることができました。 (角晃太郎)
<番外編>
9月9日
一部ワシントンに残ったメンバーで全米ライフル協会(NRA)の本部に向かいました。2000丁以上の銃が展示されているミュージアムを訪問した後、室内の銃射撃練習場に入ることができました。待合室は週末とあって多くの人たちで混みあっていました。10ほどあるブースでは自分の銃を持ち込んで人々が自由に銃を撃っている光景が見られました。中には中学生ぐらいの息子と父親の親子連れの姿も。女性や黒人など性や人種の面でも多様な人々が集まっており、練習場の職員から指導を受けている人もいました。射撃練習が米国人にとってはごく日常的な活動の一つであるということが実感できました。
実ゼミの3回生は9月7日から9日にかけて東京でフィールドワークを実施しました。ゼミ内のグループ研究に役立てるため、国際機関の元トップや元外交官から現役の国会議員、ジャーナリスト、経済団体幹部、オーガニックの専門家まで幅広い分野で活躍する人々からお話をうかがい、意見交換をしました。以下はその報告です。
9月7日
東京・内幸町にある日本記者クラブの会議室で打ち合わせを兼ねて全員で夕食会。そのあと、日本記者クラブの方のご厚意で、日々記者会見が行われる記者会見場や招かれた内外の要人が待機する貴賓室に入ることができました。岸田文雄首相をはじめ、過去に会見に招かれた人たちによる揮毫を集めたアルバムも見せていただきました。
9月8日
まず、最初にお会いしたのは食品の認証機関「リーファース」の代表の水野葉子さん。アメリカで生活する中でオーガニックの重要性に目覚め、リーファースを設立するに至った経緯や、日本におけるオーガニックの現状に関するご意見を聞かせていただきました。日本と海外でのオーガニックに対する意識の違い、有機認証の目的や方法について学ぶことができました。我々のチームはオーガニックの普及に向けた課題について研究していますが、生産者の働く姿など現場を子供たちに見せることでオーガニックを知ってもらい、食に関して関心を持たせることが普及のためには重要だというお話が印象的でした。 (南健人)
水野さんが認証している表参道のオーガニック・レストランで昼食をとったあと、大手町にある日本経済新聞社を訪問しました。3月までワシントン支局長を勤めていた菅野幹雄・上級論説委員兼編集委員から「米国の変貌と世界の視線」というテーマで話を伺いました。アメリカの選挙戦において演説や支持率を高めるための方法が変化していることなど、トランプ大統領任期中に感じたアメリカの実像や、バイデン政権の誕生に至るまでの臨場感溢れる取材経験を1時間にわたってお話していただきました。選挙取材ではトランプ大統領がメディアの陣取る方角を指して「彼らは国民の敵だ」と叫ぶ現場にも立ち会ったとのことでした。菅野さんは私たちの質問にも親身に回答してくだり、とても心の優しい方であると感じました。(松田珠実)
9月9日
朝は関西学院大学の丸の内キャンパスに集合。まず、トランプ政権時代に経団連のワシントン事務所長を務めていた山越厚志さんから「リアルなアメリカ」というテーマで話を伺いました。私たちは普段、報道されるニュースからアメリカ国内の事情や内政を判断することが多いですが、それはごく一部の姿にすぎません。山越さんはワシントンというアメリカの中心地で仕事をしつつ、全米を回り、そこから見て感じたアメリカ像を語ってくださいました。本来助け合いの場であるコミュニティが衰退していることや、人々(とくに地方に住む人々)が希望を失っていることが二極化の原因だと話されていたことが印象的でした。解決策として一人一人にホープを持たせるような政策の重要性を強調されました。我々のチームは二極化とメディアの関係を研究していますが、山越さんは我々の質問に答えて、「主流メディアが地方の草の根の社会に入って人々の生活の実情をもっと積極的に取材することが重要」と指摘していました。(松田珠実)
昼食後は、元外務事務次官でトランプ政権時代に駐米大使を務めた杉山晋輔さんに話をしてもらいました。冒頭に学生へのメッセージとして「自分の価値判断を自分の基準でしっかりできる人になって欲しい」というとても強いお言葉をいただきました。
杉山さんからは、主にアメリカの政治や日米中の関係についての話をお聞きすることができました。ワシントン駐在中はトランプ大統領の言動に振り回され、「ジェットコースターに乗ったような毎日だった」といいます。未だにアメリカの政界において大きな影響力を持っているトランプ氏ですが、彼は間違いなく国民に選ばれた大統領であり、トランプ政権はアメリカの格差社会が生んだものだ、と話されていたのがとても印象的でした。
レクチャーの後は、我々のチームが研究している米中対立問題を中心に質問させていただきました。杉山氏は「日本経済は中国なしでは成り立たない」「米ソ冷戦と比較すると、今の中国はソ連と比べものにならないほどの力がある」と強調されました。だからこそ、日本は今後も中国との対話を深めるべきであり、アメリカと中国との間にあって適切な立ち位置をとっていかなければならないと感じました。一方で、台湾問題を巡り、日本も中国に対するアメリカの軍事戦略に組み入れられる可能性もあると知り、今後の日中関係は緊迫したものになっていくとも感じました。お忙しい中、貴重なお話をしていただいたことに感謝します。(加部晴香)
次にお話を聴いたのは駐米公使、財務官やアジア開発銀行総裁を歴任した中尾武彦氏(現在みずほリサーチ&テクノロジー理事長)です。とくに記憶に残ったのは「パクス・アメリカーナ」が崩壊し、中国が圧倒的な存在感を発揮し始めたという説明。アメリカに迫る経済大国となった中国は「失われた屈辱の歴史」から脱却し、過去の栄光を取り戻そうとしているというのが中尾氏の見方でした。 そして中尾氏は、現在の中国の状況を歴史に照らしてみると、ビスマルクによる統一後、海軍力を増強したドイツに該当すると語りました。すなわち陸軍国だったドイツが海軍力を増強すると、海軍国のイギリスが警戒し始め、結局両国は世界大戦を繰り広げたという話でした。この説明には私も深く同感しました。
米中対立を研究している我々のチームからは「世界は米中という二つの勢力に分断される可能性があるか」という質問を投げかけました。 それに対しては「グローバル化で世界が発展してきたので、分断は避けた方がいいが容易ではない。鍵の一つは中国が他国に穏やかな態度で臨むかだ。中国が(台湾問題などで)強硬な姿勢に出れば、世界は2つに分断される可能性もある」との答えでした。私からは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立当時、ご自身が総裁を務めていたアジア開発銀行(ADB)の動きはどうだったのかと質問しました。 中尾氏はAIIBの総裁になる人物は元ADBの副総裁であり、事前に話を聞いていたとしたうえで、当時の安倍首相には「いまはADB中心で行くべき。日本は無理に中国主導のAIIBに入る必要はない」と説明したといいます。 華麗な経歴をあまねく経験したことから出てくる深みのある知識と洞察力が際立つわかりやすいお話をしてくれました。 (キムヨンミン)
午後4時半からは国会議事堂の目の前にある衆議院議員会館を訪ね、なんと前・環境大臣の小泉進次郎さんにお話を伺うことができました! まず小泉さん自身がいま興味・感心を持たれている分野として、カーボン・ニュートラルとサイバー・セキュリティをあげ、それぞれについての考えを丁寧に説明していただきました。世界はカーボン・ニュートラルをめざして進んでおり、日本がそれに真剣に取り組むことは地球環境に良いだけでなく、日本経済の将来、つまり私たちの雇用や暮らしにとっても重要なことなのだと強調されていました。
その後、我々ゼミ生一人一人との質疑応答に時間をさいてもらいました。話題は今後の環境政策のあり方から、学生の人生相談、さらにはちょっと答えづらい話まで広がりましたが、どの質問にも親身になって、とても分かりやすい言葉で答えていただきました! 当初30分の予定だったのですが、身を乗り出すような熱心さでお話していただき、結果的には1時間以上も対話が続きました。将来有望な国会議員の方とお話しするという貴重な経験ができ、ゼミ生全員にとって得るものがあった、実りの多い会合となりました。(松田珠実)
実ゼミでは9月11日から13日にかけてワシントンでフィールドワークを実施しました。ホワイトハウスの見学のほか、国際機関やメディア、商社で働く日本人や日米関係強化を目的にした組織で活動する米国人に話を聞き、米国の政治状況や日米関係について議論してきました。以下はその報告です。
9 月11 日
ワシントン中心街にある中華料理屋で全員そろって夕食。安倍晋三首相も訪れたことがあるという老舗の店でした。参加者はニューヨーク、バージニア、アリゾナと様々な旅路を経て集まっており、久しぶりに落ち着いて食事をしたという声も。夕食会には実先生のかつての同僚の日本経済新聞ワシントン支局のSteve Keefe氏も同席し、家族の話や先生が駐在した2000年代半ばごろのアメリカ政治の話などで盛り上がりました。Keefe氏は彼の地元から選出された議員の事務所を通じて翌日のホワイトハウス見学の手続きをしてくれました。
(山崎市茅乃、神津弥里)
9 月12 日
朝早く日経ワシントン支局前に集まり、徒歩で6-7分ほどの所に位置するホワイトハウスを訪れました。日差しが強くとても蒸し暑い日でした。眩しい日光に当たる正面から見えるホワイトハウスは真っ白に輝き、真ん中には、アメリカ合衆国の旗が掲げられています。ホワイトハウスは、大統領が執務するThe West Wing(西の棟)とThe East Wing(東の棟)に分かれていますが、一般市民が入れるのはThe East Wingのみで、こちらの方を見学しました。
中に入るまでいくつかの厳重なセキュリティ・チェックがあり、たどりつくまでけっこう時間がかかりました。持って入れるのは本人確認の際に必要なパスポートと携帯電話、財布ぐらいで、警備がいかに厳密であるかを知りました。
中は、きらびやかというよりも、厳かで落ち着いた雰囲気。歴代の大統領が晩餐会で使ったそれぞれ独特のモチーフがあるお皿やティーポットのセットが飾られた部屋など、時代背景を感じ取ることができます。窓からは緑豊かな庭の向こうに、ジェファーソン・メモリアルが見えます。広々としてとても綺麗な光景でした。いちばん大きな部屋はジョージ・ワシントンの絵画が飾られているEast Room。パーティーや首脳会談後の記者会見に使われる場所です。その近くには要人との食事会に使われるState Dining Roomもありました。この日も後ほど食事会があるとのことでした。East Wingは行事がない日や時間帯だけ一般公開されるのです。
(山崎市茅乃、神津弥里)
日本経済新聞ワシントン支局
ホワイトハウスの次に向かったのは日本経済新聞のワシントン支局。支局長の菅野幹雄さんにインタビューを行いました。トランプ政権に翻弄されるメディアのことや、メディアのあり方などについてお話をしてくださいました。
菅野さんは、東京のほかベルリン、ロンドンの駐在経験があります。何でもtwitterで発信してしまう異例の大統領の登場で支局の記者たちも以前よりさらに忙しくなっているとのことでした。記者へのブリーフィングはせず、メディアを敵視するような政権だけれども、アメリカにはニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNなどトランプ氏を批判するメディアが多々あり、「権力の監視」という重要な役割を果たし続けているともおっしゃっていました。
取材でいちばん力を入れているのは当然ながら2020年の大統領選挙へ向けた動き。民主党の候補がトランプを打ち破れるのかどうか、様々な角度から取材しているといいます。「固定ファン」も多く共和党の8割から9割の人がトランプ氏を支持する中で、民主党の大統領候補がだれになるのか、勝てる候補を選べるのか、私たちゼミ生も注目していきたいと思います。
インタビュー終了後は、オフィスの屋上に案内していただきました。屋上からはホワイトハウスが一望することができ、最高の景色でした。天候にも恵まれ、みんなで記念撮影を行いました。 (上野 史央里)
昼食後に、IMF(International Monetary Fund)の副専務理事の古澤満宏さんを訪問しました。IMFは1944年のブレトン・ウッズ会議で創立が決定した機関で、主に加盟国の為替政策の監視や加盟国への融資を行い、国際貿易の促進や為替の安定に寄与しています。
古澤さんからは、IMFの主な活動と、副専務理事としての仕事内容をお話ししていただきました。まず、IMFの活動は大きく以下の3つに分けられるとのことでした。
1:経済状況が悪化した国に融資を行う
2:年に一度加盟国に対して経済政策に関するサーベイランスを行う
3:技術支援
最近だと、アルゼンチンの経済が大きく悪化しており、IMFは6兆円規模の融資を行うとのことでした。普段の私たちの生活からは考えられない金額だったので、驚きでした。
IMFは、加盟国の出資割当額であるクォータによって議決権を決めています。現在のクォータシェアの第1位はアメリカで、事実上の拒否権を持っています。アメリカはこれを手放さないだろうとのことでした。
副専務理事は加盟国に支援をするか否かなど様々な議題の会議で、議長をすることが大きな役割とのこと。会議の回数はきわめて多く、会議で結論が出ないこともあるといいます。加盟国や地域を代表する理事の間の調整も必要になるとおっしゃっていました。
「米国の意向が必ず通るということか」という質問には、「米国もあの国は気に入らないから融資しない、姿勢を絶対変えないということではない。ただ人身売買をしている国には貸さないなどの原則ははっきりしている」との回答をいただきました。
厳重なセキュリティ・チェックを受け、多少緊張しながらIMFの門をくぐった私たちでしたが、古澤さんの親しみやすいお人柄もあり、とても楽しくインタビューを行うことができました。 (大木裕太郎)
米日カウンシル(US-Japan Council)
午後4時から米日カウンシルのWeston Konishiさんにお話を伺いました。この方はパートナーシップ・開発担当のディレクターをしておられます。米国のアジア政策や日米関係の専門家でもあります。
Konishiさんは初めに、「ともだちイニシアチブ」について話して下さいました。これは東日本大震災をきっかけにうまれたプログラムで、教育や文化交流を通じて日米の次世代のリーダーの育成をめざすものです。学生だけでなく社会人の方も参加できます。それによって日米関係を強化することが目的です。
Konishiさんは、アメリカに留学に来る日本の学生が減り、一方で日本に学びに行くアメリカ人も減ってきていることが気がかりだと言います。日本人の海外留学が減っているのはなぜか。一つの理由として、日本の若者が「日本」という安全で豊かな環境で生活することに満足しているからではないかとKonishiさんはおっしゃっていました。
トランプ政権の政策についてもいろいろ話してくださいましたが、政権誕生の背景には、寛容や開放性を尊重する米国の価値観についての社会の考え方がやや変わったことがあるのかもしれないと言っていました。
お話の最後に私たちから、オバマ政権からトランプ政権になったことで日米間の問題は増えたと感じるかと質問してみました。この質問に対してWeston Konishiさんは、もちろんオバマ大統領の時とは明らかに違うとおっしゃっていました。皆さんもご存知の通り、トランプ大統領はこれまで日米が培ってきた関係に無頓着で、日本に対して決してフレンドリーではないと…。私たちも、そうだろうと感じていましたが、今回お話を聞いてやはりそうかと確信しました。
1年後に行われる大統領選挙の結果がどうなるのか楽しみです。1時間にわたり丁寧にたくさんお話をして頂いてとても勉強になりました。ありがとうございます!
(有本美咲)
9 月13日
米州住友商事ワシントン事務所
午前中はまず、米州住友商事会社ワシントン事務所でシニアアナリストを務めておられる足立正彦さんにインタビューを行いました。
足立さんは私たちのために特別に資料を作って、非常にわかりやすくトランプ氏の政権運営や2020年の大統領選の展望などについてお話してくださいました。
トランプ大統領は自らの支持基盤を意識した政策と専門家を用いない政権運営を進めていますが、統治が難しくなっているのが現状だそうです。その原因は中間選挙で共和党が下院で敗北し、下院は民主党、大統領と上院は共和党というねじれの状態になっていることがあるといいます。民主党と共和党は対決姿勢を強めており、メキシコとの「壁」建設などで激しくぶつかりあっています。
2020年の大統領選挙については、世論調査上は民主党が有利としたうえで選挙に影響する様々な要因について説明していただきました。お話を聞いて無党派層が誰に投票するのか、また投票に行くのか行かないかも大統領選ではとても重要になると感じました。
レクチャーの後は、北朝鮮の非核化、中東政策、対中政策について私たちから質問をしました。私たちが日々追っている米中摩擦問題では、米国はアイゼンハワー政権以来の厳しい対中戦略をとっていると指摘されました。さらに両国の課題についてもお話していただきました。中国は経済力や技術力を高める一方で、今後少子高齢化が進むことやセーフティネットが整っていないことなどの弱点もあるとのことです。アメリカはTPPから離脱するなど内向きの姿勢が強まっており、その結果、世界の中での指導力が低下しているといいます。「開かれた世界」を守っていくという点で、今後は日本の役割が重要になるとおっしゃっていたのは印象的でした。
日本のあり方が大切になる時代だからこそ、私たちが世の中の出来事に関心を持ち、どうすれば社会がよくなるのか考えていかなければいけないと思いました。貴重な機会を提供していただき本当にありがとうございました。(上野 史央里)
ワシントン日米協会(Japan America Society of Washington DC)
続いてJapan America Society of Washington DC(JASWC)の理事長、Ryan Shafferさんを訪問しました。JASWDCはあらゆる世代のアメリカ人と日本人が日米関係を大切にし、貢献する世界を目指しており、教育・ビジネス・文化・政策などの各分野にわたるプログラムを実施しています。
JASWDCの主な活動に、来年で60周年を迎えるThe Sakura Matsuriがあります。ワシントンの桜祭りの最終日に行われ、米国で日本文化を祝う祭りの中では最大級のものになっているといいます。
他にも、書道のクラスや日本語のクラスを開講しており、ワシントンDCで簡単に日本文化に触れられる取り組みを行っているとのことでした。
Shafferさんからは、JASWDCの活動内容だけでなく、私たちのゼミの研究内容であるアメリカの政治についてもお話していただきました。
Shafferさんによれば、本来の共和党は現在よりも国際主義的だが、トランプ政権が誕生したことで変わってきているといいます。内向きの傾向は共和党だけでなく、民主党にも見られるトレンドとのことでした。リーダーとして世界を牽引し、世界のことに関与してきたアメリカですが、その反動として自国第一主義に傾いてきているようです。
Shafferさんはまた、トランプを支持していなくても、共和党支持なのでトランプに投票した人も多いことを見落とさないでほしい、得票数で上回っても選挙に負けることもある現在の大統領選の選挙制度を見直す必要があるとも指摘されました。
日米同盟の重要性について理解していない人が大統領として統治しているという異常な時代だからこそ、日米協会のような組織の役割は意味を持つともおっしゃっていました。 前日の米日カウンシル訪問と同様に、日米関係を良好に保つ活動について学べただけでなく、アメリカの政治について直接アメリカ人の専門家から意見を聞く機会を得られたのは大きな収穫でした。(大木裕太郎)
地球環境ファシリティ(Global Environment Facility)
午後は、地球環境ファシリティという国際機関の最高経営責任者(CEO)である石井菜穂子さんにお話を伺いました。石井さんはこれまでのキャリアの半分以上を海外で過ごされており、GEFの仕事も今年で8年目になるそうです。ずっと日本で暮らしてきた私たちからすると、海外でトップの仕事をこなすことは想像できることではないので、話を聞けて感激しました。
気候変動問題、生物多様性の維持、砂漠化の防止などの環境問題に取り組む活動に資金支援をするのがGEFの役割です。職員は世界中から集まっており、GEFのミッションをよく理解してもらい、組織をまとめていくのがCEOとしては重要な仕事になるとのことでした。
石井さんのお話の後、私たちは疑問に思ったことを質問してみました。
地球環境の悪化には私たち人間の経済活動や住み方、食が関わっていることが多く、どうすればこれまでのやり方を変え、良い環境に変えていくことができるのかということです。
石井さんは、欠かせないものの1つはやはり教育だとおっしゃっていました。GEFでは教育プログラムは実施していないけれど、教育が大事だと考えている人は多く、これからプログラムに導入しようと考えておられるそうです。私たちのような若い人たちの声も大事にしていると話してくださいました。
アマゾン熱帯雨林の火災の問題やトランプのパリ協定離脱の問題についても質問をしました。石井さんからは「ブラジルの市民が声をあげたことが世界的な問題として認識される力になった」「政権は離脱を言っても米国の州や市は温暖化ガス削減に積極的だ」といったポジティブなお答えをいただきました。
お忙しい中、わかりやすく丁寧にお話していただきありがとうございました!
(有本美咲)