オーサカM⚪︎⚫︎Nと、90年代からの特撮サイバー事情 (original) (raw)

93年以降のサイバー特撮

リモートNOVA『さて、前回、トーキョーN◎VAのシステムや世界観の話をあれこれしてから、オーサカM⚪︎⚫︎Nの話に移ろうと思ったのですが、一つ大事な特撮作品を思い出しました』

NOVA『平成ライダー以前は、メタルヒーローの時代があったわけですが、サイバーパンクというテーマでは、このジャンパーソン(93年)が最もそれっぽい世界観を持っていたと思いますね』

ヒノキ「ああ。敵組織が3つの企業に分かれていたのじゃったな」

NOVA『ええ。それ以前のレスキューポリス3部作が、犯罪と戦い、人命を守る救助活動をテーマにした、メタルスーツ装備の特別警察チームを主人公にして、大人向けのリアルなヒーロー像を提示しましたが(この警察組織の描写が、後にクウガとか、アギトのG3などに継承される)、その後に登場したのが謎のロボットヒーローですね。ここでは、近未来のサイバーパンク的な未来像が提示されます』

ヒノキ「サイバーパンク的なヒーローだと、95年の『人造人間ハカイダー』も印象的じゃったが」

NOVA『まあ、ハカイダー井上敏樹脚本、雨宮慶太監督の傑作特撮映画ですね。ヒロインの名前がカオルとか、10年後の牙狼に通じるものもありますし、これがサイバーパンクの文脈にも通じる作品であることに異論はありません。しかし、それ以前にジャンパーソンですよ。と言っても、俺は93年当時には別にジャンパーソンを熱心に追いかけていなくて、この辺の番組の追っかけを再開したのは95年のビーファイターからなんです。ジャンパーソンは後から見て、その先進的な映像に驚かされたというか』

ヒノキ「敵がロボットマフィアのギルド→ネオギルドと、生体工学メインのスーパー・サイエンス・ネットワーク(SSN)と、巨大財閥の帯刀コンツェルンの3つの系統があったのじゃな」

NOVA『ロボ系の敵と、バイオ系の敵という二系統は、メタルヒーローでは86年のスピルバン以降、一つの定番でしたが、帯刀コンツェルンの設定が凄いですね。ここは怪人やロボットでなく、人間の殺し屋を雇ってジャンパーソンと戦わせたり、ギルド系やSSNといったテロ集団とは別路線で暗躍し、利潤追求のための犯罪を陰で取り仕切るわけで、ジャンパーソンにも終盤まで組織の実態をつかませなかったラスボス格だ』

ヒノキ「ロボや怪人でなく、戦闘訓練を受けた人間が敵というのは、87年のメタルダーや88年のジライヤでも描かれていたが、着ぐるみスーツの予算を減らすためと、より高度なアクションが可能という理由があったらしい」

NOVA『そりゃあ、ゴテゴテした怪人のスーツを着たまま、派手にトランポリンでジャンプしたり、アクロバティックな動きをするのは大変ですからね。それをやってのけるスーツアクターさんの身体能力も凄いわけですが』

ヒノキ「80年代の後半から90年代の前半は、JACのスタントマンが顔出しで悪の殺し屋を演じたりなんかもして、後にミスター平成ライダーとして有名になる高岩成二さんも、ジャンパーソンに倒されるマフィアの手下などで登場したそうじゃな」

NOVA『その時期は、ロボットでも人間に擬態したターミネーター的な敵が流行だったようで、パッと見では、メタルスーツのヒーローVS生身の人間という絵面も頻発しました。まあ、レスキューポリス以降の流れもありますね。生身の犯罪者と戦うヒーローは』

ヒノキ「レスキューポリスは、犯人退治が目的ではなく、犯人の仕掛けた火災や爆発、大規模事故などを防ぐためにハイテク装備を使うのがクライマックスじゃからのう。もちろん、敵が強力なメカロボやバイオボーグなどという場合もあるが、戦い一辺倒の物語ではなかったわけで」

NOVA『当時は大人向け特撮を模索していたわけで。そこからビーファイターで原点回帰し、さらにカブタック、ロボタック、ロボコンでヒーロー路線から外れたと思ったら、平成ライダーに切り替わる、と』

ヒノキ「で、サイバー方向に先鋭化して行ったのが、89年のジバン以降の5年間で、最頂点がジャンパーソンだと?」

NOVA『サイバーという意味では、そうなりますね。キカイダーロボット刑事K以降の東映ロボットヒーローの頂点が、ジャンパーソンと映画のハカイダーになるのかな。以降は、戦隊の追加メンバーやサポートロボは出たりもしますが、ロボットやアンドロイドが主人公のヒーロー新作は、東映では作られていないんじゃないかな。アギトのG4や、ファイズなんかもサイバー風味ではありますが』

ヒノキ「近年ではドライブやゼロワンもサイバーじゃろう」

NOVA『ああ、主人公ではなく、味方のサポーターやサブライダー、敵ライダーがロボってケースですね。ロボットのバディと主人公の絆がテーマになるのか。前作でも、造られた者と人間の交流劇がテーマだったし、錬金術というオカルト要素も擬似的にサイバー感覚と言えなくもないか。ホムンクルスとアンドロイドをつなげて考えられるかどうかですね』

ヒノキ「用語の問題じゃな。ホムンクルスと言えば、オカルトやファンタジーの方向性になるし、ヒューマギアとかロイミュードと言えば、ロボットSFの方向性になる」

NOVA『ともあれ、ライダーをやっているうちは、主人公がメカロボになることは、スピンオフを除けば、なさそうってことで』

サイバー寄り道を経て、オーサカM⚪︎⚫︎Nへ

NOVA『さて、93年にサイバーアクションRPGとしてツクダホビーから箱入りゲームとして誕生したトーキョーN◎VAですが、95年に早速、第2版がアスペクトから出版。アスペクトは、コンピューター雑誌などの出版を行なっていたアスキー社の子会社で、86年発刊開始の「ファミ通」やら、92〜95年まで出版されたTRPGおよび小説誌の「LOGOUT(ログアウト)」誌に絡んできます』

ヒノキ「ログアウト絡みのTRPGでは、N◎VAの他に『ウィザードリィRPG』『ゴーストハンターRPG』『真・女神転生RPG』なんかが挙げられるのう」

NOVA『母体がデジタル関連会社だから、コンピューターゲーム原作が多いですね。その中でN◎VAは変わり種と思いますが、そこからFEARさんのTRPGをよく出すようになりますな』

ヒノキ「アスペクトのゲーム関連の出版部門は、2000年にエンターブレインに業務委譲されたから、21世紀に入るとN◎VAシリーズはエンターブレイン発行になるんじゃな」

NOVA『でも、2013年以降は、エンターブレインKADOKAWAに吸収されてしまい、FEARさんはアークライト(2020年に新紀元社を吸収)にルールブックの発行元を移していたのですが、今年になってアークライトもKADOKAWAに吸収されてしまって、TRPGホビージャパンやD&Dを除けば、KADOKAWAだらけとなっているのが、現状かな、と』

ヒノキ「角川の分裂で、ソード・ワールド、ロードス、クリスタニアの3つの世界が展開されていたのが、出版社の統合の過程で、ゲームの展開も一元化されていくわけで、出版社が吸収統合されると、多様性が失われていく流れということか」

NOVA『出版社の都合で、売れないゲームが淘汰されていく流れは哀しいですけど、その中でどう生き残りをかけてブランド維持していくか、ですね。ゲームブックのFFコレクションは、KADOKAWA系とは関係ないソフトバンク・クリエイティブだから、今のKADOKAWAほどシビアに切っていくことはないと思いますが、好きな作品の出版社の背景事情がごちゃごちゃして来ると、突如の展開終了とか仕切り直しとかで流れが断ち切られるのがイヤですね』

ヒノキ「そういう理由で、突如の版上げというのもあるんじゃな」

NOVA『さておき。N◎VAもボックススタイルだと、本屋で買えなかったのが、書籍スタイルに変わったことで、値段的にも買いやすくなった事情が当時にはあります。だから、俺も2版から購入した口ですが、N◎VAってとにかく当時の俺にはテストプレイがしにくい作品でした。ルールも斬新だし、サイバーパンクの世界観も格好いい。面白そうなんだけど、ハードルが高いゲームだったなあ、と思います』

ヒノキ「それは、どうしてじゃ?」

NOVA『最大の理由は、サイコロゲームじゃないから。サイコロを振って、ランダムにキャラが生まれる面白さってのがあまりなくて、プレイヤーの意図した選択でキャラ構築するゲームは、分かれば楽しいんだけど、そのために22のスタイルを説明して、そこからさらに多くの技能や特技を選択習得するキャラメイクは、初心者には荷が重い。こういうキャラ作りの大変さを緩和するために、TORGの発明があったんですね』

ヒノキ「半完成品のアーキタイプ(サンプルキャラ)を実装して、そこから面白そうなのを一つ選んで、肉付けする手法じゃな」

NOVA『ええ。TORGの場合は、出身世界を選んで、自分で独自にアーキタイプを作る方法も搭載されているのですが、最初から定番のファンタジー世界の戦士や魔法使い、神官や盗賊もいますし、インディ・ジョーンズみたいな冒険家もいれば、忍者とか分かりやすいアーキタイプが用意されていて、入り口が非常に明快ですし、様々な世界から結集したストームナイトは、アベンジャーズみたいなスーパーヒーローチームで、打倒ハイロードという目的も共有していて、楽だった。ただし、一人、ウケ狙いでニッポンテックのサラリーマンを選んで、プレイ中に何をすればいいかに困っていましたが』

ヒノキ「マジで、サラリーマンには何ができるんじゃ?」

NOVA『サラリーマンが得意なのは、交渉能力で情報を収集することなんですよ。あるいは、コンピューターを扱ってもいいですし、バトルで活躍する以外の出番はあるわけですが、それでもパーティーのお荷物になりながら、楽しんではいたと思います。うん、TORGは良いゲームでしたね。ただ、サイバー教皇領は誰もプレイしたがらず、もっぱら敵キャラでサイボーグを登場させるためだけに使ってましたが』

ヒノキ「で、オーサカM⚪︎⚫︎Nの話をするのに、どうしてTORG?」

NOVA『TORGもまたカードが重要なゲームでしたからね。ゴーストハンターもそうですが、当時はダイスの他にカードも使うTRPGが結構ありました。日本最初のファンタジーRPGであるローズtoロードもカードで魔法を扱うシステムでしたしね。ダイスとカードの組み合わせは決して嫌いじゃない。しかし、N◎VAはカードのみだから、ソロでテストプレイは非常にしにくいし、さらに俺の当時のプレイ環境では致命的な欠点があった』

ヒノキ「何じゃ?」

NOVA『試しに、モンスターと戦う遊びができないんですよ。TRPGって、とりあえずキャラを作ってみるでしょう? 適当に何かの判定をするでしょう? そして、適当にゴブリン辺りと戦わせて、戦闘ルールを確かめてみるでしょう? それでキャラの戦闘力を確かめてみるのも事前演習の一環なんですが……N◎VAでは、それができないんです』

ヒノキ「どうしてじゃ?」

NOVA『N◎VAの街には、そういう練習相手になるザコ敵がいないんです。ゴブリンがいなくても、街のチンピラ辺りがデータとして実装されていれば、お試し戦闘ができます』

ヒノキ「敵のデータが用意されていないのか?」

NOVA『ないですし、そういうザコはエキストラやトループといって、主役たるキャストの手に掛かれば、判定なしに抹殺されたり、十把一絡げでまとめて処理されます。つまり、主役が強すぎて、ザコじゃ練習にもならない。一方で、ゲストと呼ばれるボス敵は基本的に神業で処理されます』

ヒノキ「すると、ボス戦をシミュレートすると?」

NOVA『カタナが《死の舞踏(ダンス・マカブル)》と言って、終了です。まあ、実際は、ボスの周りに盾になる護衛がいて、《難攻不落(インヴァルネラブル)》とか言って、瞬殺されないようにするんでしょうけど。そうなると、神業の撃ち合いとか、チーム戦になって、練習用のお試しプレイってレベルじゃない、ガチンコ・シミュレートになってしまう。N◎VAのシステムは、ザコとボスの両極端な敵描写で、中間層の敵がいない。そもそも、ドラマ志向が強すぎて、単純なモンスター退治とか、迷宮探検的な遊びがあまりできない。しかも、敵を倒す方法が武器で傷つける以外に、法の力やマスコミの力で社会的に抹殺という手段も取れるわけで、リプレイを読んでいても、大人の刑事ドラマや任侠映画ノワール映画の方向性を目指していたな、と』

ヒノキ「ヒーローチームが力を合わせて、悪党退治って展開ではない、と」

NOVA『そういうのもできなくはないですけど、それだと日本の当時のシャドウランの展開になりますね。まあ、仮面ライダーWなんかを見ると、探偵と、助手のネット検索者、応援役のヒロインと、タフな刑事の組み合わせなんか、結構N◎VAでも使えるチーム構成だと思いますし、平成ライダーのドラマを見ていると、サイバーパンクっぽいキャラ配置のテキストにはなるかと思いますが、90年代当時にはそういう発想にはならなかったな。まあ、後から必殺シリーズの裏稼業チームと、サイバーパンクの構造が似ていることにも気付かされるわけですが』

TRPGシャドウラン■リプレイ集■全4巻セット■江川晃■グループSNE■士貴智志■サイバーパンク■富士見ドラゴンブック■初版■富士見書房

TOKYO EYE-SHOT: シャドウランシティファイル (富士見ドラゴンブック 12-3 ファンタジーファイル)

ヒノキ「サイバーパンク風時代劇だと、こういうのか?」

天羅万象ビジュアルブック

NOVA『まあ、そこから進化すると、こうなるわけですが』

超時空時代劇RPG 天下繚乱 (Role&Roll RPG)

NOVA『で、結局、倒すべきモンスターもいなくて、ドラマチックな人間ドラマの志向性はあっても、都市から外には出にくい(設定されていない)のがN◎VAでした。しかし、もっとダイナミックに、ワイルドに、荒野で暴れまくろうぜって考えるヒャッハー世紀末で、勧善懲悪を目指したい人向きに作られた都市が、オーサカM⚪︎⚫︎Nなんですね』

ヒノキ「マジかよ」

NOVA『少なくとも、M⚪︎⚫︎Nのワールドガイドを読んでると、そう解釈できます。まず、この地域で一番力を持っているのが、広域暴力団連合の秋川会、要するにヤクザです。N◎VAでもヤクザは下町で力を持っていますが、それでも行政による規制が厳しいので、好き勝手にはできません。しかし、M⚪︎⚫︎Nは、日本のヤクザと、中華系の暴力団・三合会がしのぎを削っている自由都市ですな。N◎VA以上にヤクザが強いのが第一の特徴』

ヒノキ「しかし、ヤクザを取り締まるのは警察の仕事じゃろう? 警察は何をやっておるのじゃ?」

NOVA『ええと、N◎VAやM⚪︎⚫︎Nでの警察機構は大きく2種類ありまして、1つは企業が経営する民間警察で、代表的なのは大企業・千早が経営するSSS(シノハラ・セキュリティ・サービス)ですね。基本的に企業の利潤を守るために動きますが、都市の平和=企業の利益につながりますので、そこそこの信頼は寄せられているわけです。ただし、企業間の抗争が背景にあると、市民を守る動きが取りにくいというケースも』

ヒノキ「うむ。官憲が役に立たないときこそ、冒険者の出番ってことじゃな」

NOVA『ファンタジーRPGだと、それが定番ですが、トーキョーN◎VAの初期から主人公を務めていたのが、あぶない刑事コンビが所属するブラックハウンド。これは日本政府直属の公的警察機関で、民間警察を凌駕する調査権を持っています。時代劇で言うところの町奉行に対する火盗改め、現代劇では公安みたいな立ち位置ですな』

ヒノキ「町奉行所は町人相手の捜査権が与えられているが、より凶悪な放火事件や盗賊集団に対しては、鬼平のような強権組織が動く仕組みじゃな。一方、現代日本のいわゆる刑事ドラマは刑事部に所属して犯罪捜査を行うのに対し、公安部に所属する警察官はもっと大掛かりな外国の組織犯罪(テロ活動含む)や政治犯、暴力革命を目論む政党やカルトなどを監視対象にしていると聞く」

NOVA『まあ、善良な一般市民は公安に関わることはまずないでしょうな。警察について言えば、犯罪に巻き込まれた場合にお世話になる可能性もありますが、公安が動くとなると大事ですよ』

ヒノキ「で、ブラック・ハウンドは民間警察よりも強権を持っている、と」

NOVA『元々は、N◎VA市民が鎖国中の日本に侵入するのを防ぐために設置された組織ですが、暴力体質で有名で、悪徳警官や暴力警官と称されるコンビが初版や2版の主人公格でした。もちろん、他の真面目な刑事キャストもいたわけですが、トーキョーN◎VAの一つのプレイスタイルは、ブラックハウンド所属のイヌになって、N◎VAの平和を脅かす悪党を見つけ出して倒すか、人情派警察官として捜査活動に当たること。

『で、それに協力する民間の探偵とか、マスコミ関係、知人のヤクザや、一般市民を装う魔法使いなんかが組み合わされば、官警と一般市民の協力で事件を解決する物語が成立します』

ヒノキ「まあ、時代劇で言えば、町方役人と、それに協力する町人のドラマだと思えば、いいわけじゃな。鬼平だって、元盗賊に事件捜査の協力を依頼することだってあるだろうし」

NOVA『銭形刑事が、ルパンの一味と稀に協力する話がなくもない。ともあれ、N◎VAは最初からヤクザの親分や企業の社長を作ることもできるゲームなので、ルーラーとプレイヤーの話し合いでシナリオ方針をあらかじめ打ち合わせておかないと、上手く機能しないと思います。ぶっちゃけ、90年代当時は、エグゼクやクロマクはNPC専用スタイルだと思ってましたし』

ヒノキ「しかし、富豪刑事や、勇者特急マイトガインなど金持ちキャラが主人公の作品もあるし、プレイヤー次第でできなくはないじゃろう」

NOVA『そこまで意欲的にトーキョーN◎VAのことを考えるゲーマーは、俺の周りにはいませんでしたよ。さておき、オーサカM⚪︎⚫︎Nが2版のサプリメントで初めて紹介されたとき(96年)、そこはN◎VA以上に危険な都市とされていました。裏表紙の宣伝文句には、こんなことが書かれていたんです』

NOVA『こういう当時のN◎VAでは表現できなかった要素を、新たな舞台オーサカM⚪︎⚫︎Nで再現することで、世界観を広げようって話だったんですな』

ヒノキ「なるほど、ヤクザとマフィアの全面衝突はその一環に過ぎない、と」

NOVA『M⚪︎⚫︎Nでは、N◎VAと違って地元のヤクザが、地域の大企業と結託しているので、千早のSSSが大きな抑止力になっていない。そこで治安維持のためにN◎VAからブラックハウンドの若手隊員が出向して来たという設定で、「ブラックハウンドVSヤクザやマフィアの抗争劇」というような話で公式の世界紹介が為されたんだけど、3版でアップデートされた地域紹介では、ブラックハウンドが崩壊したという結末に』

ヒノキ「警察がヤクザに負けた!?」

NOVA『いや、ヤクザに負けたわけじゃないんですけど、さておき。3版に話が移る際に、N◎VAの方でもブラックハウンド本部がテロで崩壊して、日本本土から軍隊が治安維持のために出動したという流れがあるんですよ。で、ブラックハウンドは通称N◎VA軍の支配下に置かれて、法的秩序が高まった一方、周辺諸国の密かな干渉も激しくなったという』

ヒノキ「どういうことじゃ?」

NOVA『2版のときは、公式推奨ストーリーは刑事ドラマの方向性だったと思うんですね。ブラックハウンド隊員として、民間の協力者とともに事件を解決しようというのが一つの定番。しかし、3版からは、フリーの傭兵や裏稼業の視点で物語を構築することを公式が模索し、民間の調査を強権で邪魔するN◎VA軍やブラックハウンド、外国のマフィアや諸勢力など、敵対しそうな勢力が増えた。

『それぞれのシナリオでは、どの勢力が自分たちと利害がぶつかり合っているのか、味方は誰で、敵は誰なのかをしっかり情報収集したうえで(リサーチシーン)、事件の真相を暴いて最後のクライマックスバトルに持ち込むという定番の流れが構築されたわけですな。この〈コネ〉と〈社会〉技能の判定を駆使して中盤に情報収集するというゲームスタイルが3版で確立したことで、多彩な設定のキャラが〈コネ〉でつながった関係で、運命の縁に導かれて協力する物語を紡げるようになった、と』

ヒノキ「中盤は、各キャラのシーンを主軸にした情報収集。その後で、シナリオボスが誰か、事件の真相がどうなのかがおおよそ判明した段階でのクライマックス・バトルというのが、アルシャードも含むFEARゲームの定番ストーリー構築じゃが、そういったシーン制のシナリオ運営手法を確立させたのがトーキョーN◎VA3版なんじゃな」

バイオテクノロジーの脅威

NOVA『話をオーサカM⚪︎⚫︎Nに戻します。M⚪︎⚫︎Nのサプリメントの目的は、先鋭的でありながら難解だったN◎VAのルールや世界観をもう少し遊びやすくするという背景がありました。簡略化されたクルテクM⚪︎⚫︎Nのルールは今さらって感じなので、世界観に話を絞ると、遺伝子改造されたり、ウィルスなどで突然変異したミュータント的な怪物が実装されたわけですね。また、M⚪︎⚫︎Nの一般市民やチンピラ、荒野に棲息する突然変異のモンスターのデータも搭載。これで従来のファンタジーRPGっぽい遊びも可能になります』

ヒノキ「従来のファンタジーRPGだと、地下のダンジョンに潜っての怪物退治か?」

NOVA『地下の隔離施設に巣食う危険生物を突破して、機密データを回収してくれ、というミッションも遊べそうな設定ですね。要するにバイオハザードみたいなゲームもできたわけです』

NOVA『ちょうど最初のバイオハザードが出たのが1996年3月で、オーサカM⚪︎⚫︎Nのサプリが出たのも同じ年の8月。N◎VAの世界が大きく変貌した災厄(ハザード)の直後ぐらいに、関西の地を中心に謎の疫病が蔓延しました。それが小災厄(マイクロハザード)と呼ばれる事件で、このマイクロというのは、原因が未知のウィルスと後から判明したため』

ヒノキ「コロナか?」

NOVA『90年代のゲームの設定が、20年以上後の未来を予見したと言わないで下さいね。謎のウィルスや微生物で人間が突然変異するってネタは、その後、ダブルクロスデモンパラサイトといったゲームでもよくある定番になってますし。とにかく、このウィルスの原因は、関西にある合成食料製造会社CFC(キャンディス・フーズ・コーポレーション)の秘密研究所から漏れ広がったものだと後から発表されたわけですな』

ヒノキ「それでゾンビが大量発生した、と」

NOVA『ラクーン・シティやアンブレラは似て非なる物語です。オーサカM⚪︎⚫︎Nでは、ヒルコと呼ばれるミュータントのスタイルデータが実装されて、日本の妖怪に準えられたツチグモ、カッパ、テングといった変異生物や変異人のデータもサンプルとして挙げられています。これを参考に、ルーラーがヒルコのキャラクターを独自に作成し、M⚪︎⚫︎Nの敵対相手にすることも可能ですし、話の分かるミュータントとして交流する話も作れるかもしれない。何ならプレイヤー自身が、どこかの研究施設から逃げたヒルコのキャラを使うこともできるわけですから』

ヒノキ「つまり、ミュータントと敵対するか、味方になるかはシナリオ次第で、設定上は絶対悪ではない、と」

NOVA『さすがに、普通の人間と意思疎通困難な化け物は敵としか言えないでしょうが、見方によっては被害者とも考えられますし、キャストの立場によっても、敵味方の関係は変わって来ますので、それを見極めて真の倒すべき敵が何なのかを突き止めるのも、中盤のリサーチシーンになるか、と』

ヒノキ「で、小災厄の原因となったCFCはどうなった?」

NOVA『事件のほとぼりが冷めるまで隠蔽工作が図られましたので、企業本社は無事です。何せ、災厄後のゴタゴタからのサバイバルも必要ですし、食料問題を解消するにもCFCの力は日本国にとっても重要だ。ニューロエイジにおいて、日本が強大な影響力を持つのもCFCの作る合成食料の輸出が大きいですからね。国を挙げて、CFCを守ろうとしたわけです』

ヒノキ「悪いのは、本社の意向とは関係なく、独断で危険な実験を行った秘密研究所のせいにしたわけじゃな」

NOVA『関係者は全員死亡という形に処理されたのですが、その後、事故を予見した研究者たちのクローンが培養装置から目覚め、自分たちの知識やバイオ技術を伝えることを条件に、地元のヤクザと連携をとったんですね。ヤクザは日本政府と裏取引することで、国際問題になり兼ねない秘密や技術を外に漏らさない代わりに、大阪での利権を獲得した。だから、この地ではヤクザの勢力がトーキョーよりも強大なんです』

ヒノキ「ヤクザが日本政府や企業の大きな弱みを握っていた、と」

NOVA『そして、CFC研究施設の近くに、ヤクザや研究者たちのクローン、そして日本政府の共同運営という形で、学術研究都市BIOS(バイオテクノロジーソサエティ)が設けられ、それが発展したのがオーサカM⚪︎⚫︎Nです。M⚪︎⚫︎Nは元・大阪湾の上に構築された人工島の独立都市ですね。公営の都市企業となったBIOSを中心に、生命工学の分野では日本トップを誇り、そこに後から千早などの大企業も参入し、複雑な競争と協力関係を見せています。一方で、BIOSと地元ヤクザの癒着も大きいわけですが、そこに中華系の三合会(トライアド)も進出して来て、犯罪結社の抗争劇も活性化したり』

ヒノキ「ええと、2版のN◎VAでは、あくまでN◎VA内部のゴタゴタだけで話が片付いていたのを、M⚪︎⚫︎Nに至って、国際的な話に広がって行ったということか?」

NOVA『そうですね。そして、次のカムイST⭐︎Rで、ロシアや北米との関係まで話が広がって、2版から3版に移る、と。3版はM⚪︎⚫︎NやST⭐︎Rで広がった世界観をもう一度、N◎VAに帰結させ、さらにサプリメントで世界中の大都市の現状を紹介し、4版では宇宙まで紹介した。5版では異世界まで話が広がったようですが、そこは未チェックです。サプリメントはこれですがね』

トーキョーN◎VA THE AXLERATION サプリメント オルタナティヴサイト

ヒノキ「2022年発売のサプリか」

NOVA『それは電子書籍版ですね。元々は2017年に発売されたようです。5版は追いかけていなかったので、俺も今回の記事書きで初めて現状を知ったわけですが、話を戻しましょう。M⚪︎⚫︎Nの最初のサプリは、N◎VAの外の世界に目を向けるとともに、都市の外の荒野の一例を示しました。M⚪︎⚫︎Nの地図には、災厄で干上がった瀬戸内海改めセトロードが紹介され、そこはヤマタイと呼ばれる荒野、都市とは異なるワイルドな狩猟民や難民、山賊らがはびこる無法地帯に近い世界となっております』

ヒノキ「都市の住人と、荒野の住人の対立や交流なども描けるようになったわけじゃな」

NOVA『まあ、2版の段階では、ヤマタイの住人となって遊ぶデータは提供されていないので、ルーラーが自作しないといけないようですが、世界観として、そういう連中がいるということが判明したのも大きかったわけですな。ヤマタイ人はNPC専用でも別に構わない。サイバーパンクのメインは、あくまで都市の住人を主人公にするという方向でスタートしても問題ない、と』

ヒノキ「それでも、ゲームのサポート展開が長く続けば、基本と異なるキャラを使えるように進化するものじゃな。ソード・ワールドのプレイヤー・キャラが基本的に『人族の冒険者』であるのに対して、人族ではない蛮族をプレイしたりするサプリや、冒険者と異なる流儀のヴァグランツをプレイするサプリが登場して、世界を広げたように」

NOVA『選択肢を多くしつつ、その中で扱いやすいものと、扱いにくいものがあって、何を好んでプレイするかはGMやプレイヤー次第ですからね。プレイヤーも扱い慣れたものをプレイしたいのが基本で、たまに変わったものにチャレンジしたくなったり、最新版のデータに興味を持ったり、いろいろあるわけですな』

ヒノキ「中には、古いものを引っ張り出して来て、今の視点から振り返って再検討したがる懐古な物好きもいるしのう」

四国は死国

NOVA『さて、瀬戸内海が干上がって、荒野のセトロードになって、一部の暴走族がヒャッハーとバイクで走り回るならず者になったり、武装ロボット(ウォーカー)を駆るワイルドな山賊(バンディット)になったりするのがM⚪︎⚫︎Nの周辺地域なんですが、一番の難所が死国と呼ばれるようになった四国です』

ヒノキ「そりゃまた物騒な呼称じゃのう」

NOVA『ニューロエイジの四国は、生物実験で漏れ出したウィルスや、ミュータント化した動植物が覆い尽くす生物汚染地域となってしまいました。「風の谷のナウシカ」の腐海みたいなものと理解していますが、豊かな自然が残されていて、命知らずのハンターが侵入して、稀少な動植物を入手することができる一方、ウィルスが濃厚な地域に踏み込んでしまい、感染病死したり、変異に見舞われたりする危険が大きいです』

ヒノキ「そんなところにどうやって踏み込むのじゃ?」

NOVA『サイバーパンクですからね。防疫用の保護服を装着するか、対ウィルス用のワクチンを用意するか、無線で遠隔操作できるドローンやドロイドを送り込むか、それとも全身義体化したフルボーグになるか、いろいろ手は打てるかもしれません。死国に逃げ込んだ犯罪者を追って、さあ、どうしようかってプレイも面白いと思いますが』

ヒノキ「そういうシナリオを用意したルーラーに対して、プレイヤーがブーイングする光景が想像つくわ」

NOVA『で、3版になると、この汚染地域が広がって、オーサカM⚪︎⚫︎Nの一部区画まで侵食されてしまい、ブラックハウンドの本部が壊滅的な被害を受けたり、地元ヤクザと三合会が抗争なんてしている場合じゃないと、協力して事態の収拾に乗り出したり、いろいろと状況の変化が見られるわけですな。しかし、それとは別に3版の設定で楽しいのは、違法ドラッグの流通です』

ヒノキ「いや、それも楽しくないじゃろう」

NOVA『ドラッグの製造元は、ヤクザと結託したBIOSの裏部門らしいんですが、特に大成功を収めたドラッグの名前が「マジック」と呼ばれて、当時のN◎VAでも大流行しています。それを吸引した者は気分が高揚して、周囲に決闘(デュエル)を挑みたくなるとか、マジック中毒になった者同士のケンカ騒ぎが相次いだとか』

ヒノキ「それって、カードゲームの話ではないか?」

NOVA『まあ、3版が始まったのが1998年ですからね。その前に流行したドラッグがDと呼ばれ、竜の幻覚を見たり、地下に引き篭もりがちになる性質だったらしいですが、続くMの伝播力がD以上で、たちまち裏市場を塗り替えたという』

ヒノキ「思いきり、時流ネタではないか」

NOVA『分かる人には分かるネタですが、当時のN◎VAプレイヤーには分からない人はいなかったと思いますよ。ともあれ、2版から3版のオーサカM⚪︎⚫︎Nネタは以上ですが、4版以降の街がどうなったかは、サプリその他を買っていないので、俺には分かりません。サプリとしては、これらを買えば分かると思うのですが』

トーキョーN◎VA THE AXLERATIONサプリメント クロス・ザ・ライン (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

ヒノキ「これも10年前のサプリか」

NOVA『まあ、俺の持ってる資料が20年前のルールとサプリまでですからね。ただの歴史懐古でしかないし』

ヒノキ「ところで、四国は死国になったという話は聞いたが、九州はどうなっておる?」

NOVA『さあ。地図を見ると、九州は韓国や中国の大陸と地続きになっていて、一番近い大都市がホンコンHEAVENみたいなんですね。一応、九州は日本領だから鎖国状態が続いていて、謎が多そうです。まだ、リューキューの方が独立していて、開放的だから資料がある。実のところ、N◎VAシリーズで一番謎なのが、鎖国日本の本土だという。だから、九州の阿蘇山とか、日本本土の富士山みたいな地形が、災厄後にどうなったかも明かされていないという。もしも、N◎VAシリーズで鎖国日本の内部設定が発表されたら、ファンは驚くんじゃないかなあ。まあ、最近は日本軍の背景を持つキャラも作れるようになったそうで、それはそれで久々に見て驚きなんですが』

トーキョーN◎VA THE AXLERATION サプリメント ニューロエイジ・ナウ (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

ヒノキ「九州が舞台にできない以上は、N◎VAは駄作じゃ。興味を失った」

NOVA『そんなことを言ったら、名古屋とか東海地方、それに北陸や東北なども描写されていないですからね。公式にあるのは、東京、大阪、北海道と琉球沖縄のみですし、一番キツいのがやはり四国ではないでしょうかね。ニューロエイジでは、四国民はみんな死に絶えたか、難民になったか、ミュータント化したかのどれかです。俺が四国民だったら、ヤマタイ人になってヒャッハーとワイルドに暴れ回っていますね。こんな感じで』

ヒノキ「どうしてザブングル?」

NOVA『いやあ、ヤマタイの「荒野で人型マシンに乗って、山賊してる連中」を想像すると、ザブングルのウォーカーマシン持ってるシビリアンのブレーカーなんかを連想するんですよ。都市の住人がイノセントで、イノセントの仕掛人のティンプがM⚪︎⚫︎Nのプレイヤーキャラに相当する立ち位置に思えて来て。どちらかと言えば、ヤマタイ人の方をプレイしたいわけですが、たぶん、N◎VA以外の別のゲームをやれって言われそうだ。

『で、ネットで公開されている何かがないかな、と思って探してみたら、こんなシナリオを発見した次第』

NOVA『後は、俺の寄り道懐古だらけの分かりにくい記事よりも、もっとニューロエイジのことをまともに知りたい読者は、こちらの記事もお勧めする』

ヒノキ「しょせん、お主は実プレイをしたことのない、中途半端な懐古ルールコレクターに過ぎんからのう」

NOVA『それでも、ハンドルがNOVAって言うだけで、ずっと気にしてたゲームなんですよ。これで、いろいろ昇華できた気分です』

(当記事 完)