真・主人公論 (original) (raw)

雑談から切り替えるつもりで

NOVA「一向に論らしい話にならない主人公雑談だが、問題提起としては『主人公とは何か?』だな」

翔花「だから、問題解決で一番活躍するキャラでしょう?」

NOVA「すると、『ドラえもん』の主人公が、のび太ではなくて、ドラえもんということになる」

翔花「違うの?」

NOVA「俺は、『ドラえもん』の主人公はのび太だと認識してるぞ」

翔花「どうして?」

NOVA「主人公の定義だが、事件との関わりだけでなく、登場人物同士の関わりを中心に考えることもできる。人物相関図を作ったときに、のび太の周りにはいろいろな関係性がリンクするんだよ」

NOVA「のび太を中心に、これらの登場人物が周りにいる構図だな。一方、ドラえもんを中心にすると、ドラえもんジャイアンドラえもんスネ夫ドラえもんとしずか、ドラえもん出来杉って、上手く関係性が紡げないというか、あくまでドラえもんのび太を通じて、間接的に彼らと関わっているわけだ」

晶華「ドラちゃんが直接、関係を持っているのって、のび太くん以外にセワシ君と、妹のドラミちゃんぐらいね」

NOVA「ドラえもんは確かに、ひみつ道具の力でのび太を助けてくれるサンダーバード2号みたいな役回りだ」

翔花「例えが古くて、分かる人にしか分からないわよ」

NOVA「サンダーバードは、1号に乗る長男スコットが主人公か、2号に乗る次男バージルが主人公なのか*1、疑問だったんだが、現場リーダーの司令塔スコットと、現場でじっさいに救出作業に当たることの多いチームエースとも言うべきバージルのどっちが人気かと言えば、子供心にはバージルなんだよね」

晶華「サンダーバードはよく分からないけど、ロケット型の1号の方が、寸胴の2号よりもスマートで格好いいと思うけど?」

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NOVA「1号はスピードが最も速く、いち早く事件現場に駆けつけて、救出のためのプランを策定するのが大きな仕事だな。先行偵察および現場指揮および外部との交渉まで行う。大人視点で見ると、非常に重要なポジションだが、子ども視点だと何をやってるのかよく分からなかった。現場に駆けつけたんだったら、さっさと救助活動を始めろよ、と具体的な行動を求めるばかりで、円滑な救助活動のための段取り作りという大切な業務を執り行っているのが分かったのは後年だった」

翔花「2号は緑色ってカラーリングや、このデザインが他にあまりない独自性よね。救出メカの輸送機が一番人気だなんて、ガンダムさんで言えばガンペリーみたいなものじゃない?」

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NOVA「ガンペリーか。デザイン的には、確かにサンダーバード2号の後継者だな。このコンテナの中に、ガンダムのオプション武装をいっぱい詰め込んで、戦況に応じて射出して、鋼鉄ジーグのビッグシューターみたいな活躍をしたら、もっと人気が高まっていたかもしれん」

晶華「確か、コアファイターで先行出撃したアムロさんに、後からガンダムのパーツを輸送して、空中で合体換装するシーンが何度かあったわね」

NOVA「TV版では、サブタイトル前のナレーションシーンで毎回のように披露していて、ガンダムは合体ロボですってのをアピールしていたよな。言わば、これも裏方と言うべき輸送機が主役級の働きをしていた稀有な作品がサンダーバードということになる」

翔花「輸送機の仕事は、日本のSF物だと、基地と組み合わさった母艦が直接担当するようになるわね。でも、人が乗り込む人型ロボットって、サンダーバードの作られた時代(60年代半ば)にはなかったみたい」

NOVA「日本では、1972年のマジンガーZが元祖だからな。それまでのロボットは、自律型か遠隔操作型で、パイロットが中に乗り込んで操縦する形のものはなかったと思う。まあ、ロボット史を語りたいわけじゃなくて、主人公論だから、『偵察機や輸送機が主人公メカというサンダーバードの特異性』はまだ後のSF作品の王道定番というものが確立されていないゆえの先駆性ってことだろうな」

晶華「日本だと、1号と2号が合体して、超レスキュー合体サンダーバードロボなんて作りそう」

NOVA「そのうち誰か作りそうだな。1号から5号まで合体する玩具とか。まあ、パーツ構成とか見当もつかないが」

翔花「動画を漁ったら、こんなのがあったわよ」

NOVA「2号が下半身のゲッター3方式か。砲撃戦仕様で、国際救助隊の理念に反するような兵器メカだが、まあサンダーバードのデザインを流用したロボットバトルゲームだからな。細かいツッコミはさておき、サンダーバードを合体ロボにするアイデアは悪くない。

「で、サンダーバードとゲームという組み合わせで何かないかなあ、と検索したら、こんなのも見つかった」

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晶華「プレイヤーが協力して、悪人フッドの妨害を切り抜けて、救助活動を成功させようというゲーム? なかなか面白そうな協力ゲームね」

NOVA「気になって、ゲームのレビュー記事もいくつか確認してみた」

改めて、主人公論

NOVA「と言うか、今回は雑談から切り替えて、真面目に主人公について考えるつもりだったのに、何をサンダーバード話にハマってるんだ、俺? 別に旬のネタってわけでもないのに」

晶華「来年だったら、サンダーバード60周年って言えたのにね」

翔花「とりあえず、主人公がスコットさんなのか、バージルさんなのか、が問題ね」

NOVA「でも、作品の象徴メカなのが2号およびジェットモグラなんだよな。そして、それらを操るバージルが主人公でいいのではないだろうか。ガイキングで言えば、バージルツワブキ・サンシローで、スコットがピート・リチャードソン」

晶華「例えが、いちいちマニアックすぎるわよ。バージルアムロさんで、スコットがブライトさんってわけにはいかないの?」

NOVA「それは違う。ピートは大空魔竜の操縦士で巨大メカのパイロットに相当するが、ブライトさんはホワイトベースラー・カイラムの操縦はしない。大空魔竜でブライトさんに相当する役回りは大文字博士だが、その役回りはサンダーバードではお父さんのジェフ・トレーシーに当たると言えよう」

翔花「とにかく、ガイキングさんにまで話を広げるのはやめて、最初の話題に戻りましょうよ」

NOVA「最初? ああ、『ドラえもん』の主人公がのび太ドラえもんか、の問題だな。これは、サンダーバードよりも簡単で、のび太であることは決定している」

翔花「ドラちゃんは、のび太くんとの関わりがないと物語の中での立ち位置を失うけど、のび太くんはドラちゃんがいなくても、ジャイアンさんやしずかちゃんたちとの人間関係が続いているってことね」

NOVA「のび太がイジメられての引きこもりだったら、また話が変わって来るけどな。物語を紡ぐうえで、人間どうしの関係性というのが主軸になると考える。登場人物が完全に主人公ただ一人の物語が成立するか、というと、疑問だな。もちろん、主人公一人で未開の荒野に置き去りにされて、たった一人のサバイバルって物語は成立するかもしれない」

晶華「『ロビンソン漂流記』とか?」

NOVA「18世紀のイギリス小説だな。無人島での漂流生活を描いた日記風味の自伝小説という形式だが、一応、未開の食人族という敵キャラや、それから助けた奴隷のフライデーというキャラが登場して、完全に一人ということはない。まあ、食人族はコミュニケーションがとれないモンスターみたいなものだから、ロビンソンと従僕フライデーのバディ物と考えることも可能だな。ちなみに、彼を主人公としたソロプレイのボードゲームもある」

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NOVA「プレイヤーがロビンソンではなく、神視点でロビンソンを助けて鍛えようとするフライデーというのが面白い設定だな」

翔花「ソロプレイのゲームなら、主人公キャラと、それを邪魔する敵キャラや障害という構図だけでも成立するわね」

NOVA「大体、初期のアーケードゲームだって、ソロプレイの主人公キャラ1人ってスタイルが当たり前だろう? 名作と名高い『ドルアーガの塔』だって、主人公ギルと、敵ボスのドルアーガと、囚われのヒロインのカイだけで物語が成立する」

晶華「まあ、敵役とヒロイン役を無個性にしてしまうと、物語性が失われてしまうものね」

NOVA「無数のインベーダーが攻めて来たから、左右にしか動けない砲台1門で延々と迎撃するだけのゲームも原初ではあるが、そこに物語としてのドラマがあるかと言われたら、ないもんな。インベーダーの砲門1号機のパイロットが戦死したから、2号機に後輩が乗って応戦するも、やがて力尽き、後輩の恋人のヒロインが3号機に志願して……という展開を思いついたが、この話ってゴールがないんだよな」

翔花「ついにインベーダーを送り込んだ敵ボスのスーパーインベーダーが出現した。こいつを倒せば、地球は救われる……ってゲームじゃないのよね」

NOVA「物語として成立させるには、一応のゴールが必要だな。面クリア形式で死ぬまで敵の迎撃を繰り返すのは、ゲームとしては成立しても、物語としては結末がないので、何を以てエンディングと見なすかが大事」

晶華「シューティングゲームだと、プレイヤーは砲台とか戦闘機を操作するから、人格を持たない兵器みたいなものね。中のパイロットとかの設定は考えられていなかった」

NOVA「その辺のプレイヤーが操作するキャラクターの個性を考えるようになったのは、80年のパックマンとか、81年のドンキーコング辺りからだと思うな。78年のインベーダーブーム以降、どんな物語をゲームの背景に付けるか、そして、どのようなアクション操作やビジュアル演出で進化させるかが、多彩なアイデアを生み出して行ったのが80年代の初期のゲーム文化になる。その中で、キャラクターの成長というRPG要素を付与されていくわけだが」

翔花「アイテムゲットして、キャラが強くなるのは、パックマンのパワー餌とか、マリオのハンマーとかいろいろね」

NOVA「強くなると、アクションの性質が変わるとかは、平成・令和ライダーのフォームチェンジにも通じて行くよな。インベーダーの砲台はパワーアップしないが、シューティングゲームは83年の『ゼビウス』で、背景世界とともに対地対空それぞれの武装の使い分けを可能にし、85年の『グラディウス』でオプションパーツによる機体のパワーアップを実装した。この辺で、ゲームの主人公キャラや機体は、成長パワーアップして当然という常識ができあがるわけだ」

晶華「主人公の成長ってのが、物語の必要要素になったのはゲームの影響ってこと?」

NOVA「いや、そんなのは60年代後半のスポ根ブームの時からあったんだが、機体に新武装を付けて改造強化させるのは、72年のマジンガーZの功績の一つだな。つまり、メカニック的な成長だ。80年代のコンピューターゲームの発展は、SFアニメや特撮の発展に追従する形で展開して、相互に影響を与えている。そして、それらを反映した少年マンガが主人公の成長要素を強調して行ったのもブームを後押しした。新しい技や新しい能力を会得することが物語を飽きさせないとともに、主人公の成長物語としての少年層の感情移入を促進させる」

翔花「当時の少年マンガは大人の読者を想定していないものね」

子どものなりきり主人公(ロボ)の話

NOVA「必殺技名を叫ぶのは、子どもにとって分かりやすいごっこ遊びのネタだからな。決めポーズと技名の叫びは、それだけでマネ芸にしやすい。腕を頭上に掲げて『天空剣!』と叫ぶだけで、ボルテスVと分かるのは、なりきり願望を満たしてくれる」

晶華「スーパーロボットは、成りきりやすいよね」

NOVA「この場合のポイントは、パイロットではなくて、ロボに成りきっていることだな。だから、人型じゃないガッチャマンのゴッドフェニックスの『科学忍法・火の鳥』はごっこ遊びでマネできないし、『宇宙戦艦ヤマト』の波動砲もマネできない。イデオンの波動ガンやイデオンソードは真似して遊んだこともあるんだが」

翔花「イデオンごっこなんてしたの?」

NOVA「放送が80年だからな。俺は9歳だから、別にイデオンになりきって『カミューラ・ランバンの仇!』と叫んで、全ミサイル発射のアクションをしても不思議ではない」

晶華「どんなアクションよ!?」

NOVA「両腕を体の前で重ね合わせるように組む→叫ぶ→全身(主に肩や腕)からミサイルが発射される様子を、手を振り回して再現するとともに、プシュプシュプシューンと効果音を口で発声してから、相手の体に着弾するフリをしてドカドカドカーーンと吠える→ネタが分かって、ノリのいい相手は『うわー』と叫んで、やられたフリをしてくれる」

翔花「それって関西人っぽいアクションね。刀で斬ったフリをすると、やられアクションで応じてくれる」

NOVA「まあ、その後、相手が立ち上がって来て、『よくもやったな。今度はこちらの番だ』と言って、別の持ち芸を披露してくれるので、今度はこっちがやられるマネをする。イデオンに対抗するために、ゴッドマーズを持ち出して来る相手がいて、ゴッドファイヤーとファイナルゴッドマーズをくらった覚えもあるなあ」

晶華「『伝説巨神VS六神合体』ってどういうバトルよ」

NOVA「で、最後のオチは両者相討ちで、反陽子爆弾が爆発するとともにイデが発動して、宇宙が滅びて、ごっこ遊びが終わるというオチだ。いやあ、当時はごっこ遊びのオチで、宇宙が滅びるなんてことが何度かあったものだ。日本中の小学生の頭の中では、宇宙が何回滅びたか知れたものじゃない」

翔花「70年代半ば以降は、宇宙が滅びるSFっていっぱいあるって聞いたけど、子どものごっこ遊びにも取り入れられるほどだったのね」

NOVA「そういう背景があるから、リンかけで拳の力で星が砕けたと言っても、普通の受け入れられたのが当時の子供時空ってものだ。果たして、今の子どものごっこ遊びで宇宙が滅びるネタは流行るのかね?」

晶華「つまり、大人が見ると苦笑ものの『ゲームセンターあらし』の映像演出も、当時は信じてたりする?」

NOVA「このOP映像で一番ありえんでしょう、と思ったのは、あらしの出っ歯にヒビが入って割れる演出だな。この出っ歯は劇中最強なので、他のどんなスペクタクル映像よりも、毎回OPで割れる出っ歯の方に嘘っぽさを感じたものだ」

翔花「小学生はどんな荒唐無稽なものでも信じてしまうってことね」

NOVA「本気で訓練すれば必殺技が出せると信じたり、ロボットの真似でなりきったりだな。さすがにガンダムになりきった記憶はないが」

晶華「どうして?」

NOVA「アムロさんが必殺技名を叫んでくれないからだよ。『このっ』とか『そこだッ』だけじゃ、ごっこ遊びには使えない。Gガンダムならごっこ遊び向きだろうが、初代ガンダムになりきったのはロボじゃなくて、キャラだな。それも敵役のシャアとかラルさんとか。アムロのセリフは『アムロ行きまーす』ぐらいしか、子どものときはマネしていないと思う。あのカタパルト発進は、滑り台で再現していたが、ロボとしてはガンダムよりガンキャノンの方が好きだったな。肩のキャノン砲を撃つマネとか、そういうギミックがある方がいい。ガンダムは手持ち武器が多いけど、ロボとしての必殺技アピールになるような武装に乏しいんだな」

翔花「ビームライフルやサーベルは必殺武器じゃないの?」

NOVA「大事なのは、ケレン味とかマネのしやすさだよ。それに必殺技を撃つ際の定番叫び。『ギャバンダイナミック』とか『レーザーZビーム』はマネできても、ビームサーベルビームライフルじゃ何のマネをしているのか相手に伝わらないだろう? ごっこ遊びは相手との芸の応酬なんだから、相手に自分が何をしているのか伝わらないと、遊びにならない。ガンダムはキャラのセリフでは遊べても、ロボットのなりきりごっこには非常に向かない素材なんだな」

晶華「今はなりきり遊びも、ゲームで代用できるようになったわね」

NOVA「さすがに中学生になると、ごっこ遊びという年でもなくなるので(それでも仕事人のかんざし回しとか三味線の糸のマネはしていたが)、なりきり衝動はボードゲームに注ぎ込んでいたな。そこからロールプレイとか創作の道に踏み込んでいったのはいいとして、ここまでの話で重要なのは、登場人物への感情移入の道筋だ」

翔花「主人公として感情移入してもらうためには、マネしたくなる要素が大事ってこと?」

NOVA「まあ、対象年齢にもよるが、小学生向きだと、決めゼリフと定番の必殺技とかを持っていると、キャラとして愛してもらえるな。とりあえず『ペガサス流星拳!』と叫ぶだけで、何のマネをしているか分かるのがポイントだ」

晶華「メジャーな技ね」

マイナー技の話

NOVA「俺の中学時代の友人で、『岩山両斬波』にやたらと惚れ込んだ男がいてな」

翔花「何それ?」

NOVA「北斗神拳の技名。北斗ネタで話を盛り上げようと思えば、まずはジャブとして『北斗百裂拳』とか定番ネタで場を温めてから、マニアックなネタの引き出しを広げながら……というのがオタク作法だと思うが(当時はそういう言葉もない時代だったが)、いきなり『岩山両斬波』だと言われても、何のネタかは分からない。中高時代に北斗ネタを語る機会は多かったが、他の技ではない『岩山両斬波』だけにこだわった男は奴一人だな」

晶華「そのマイナー技の記憶がしっかり根付いている辺り、NOVAちゃんも相当の影響を受けているってことね」

NOVA「どうして『岩山両斬波』だけにこだわるのかって話になって、奴曰く、『北斗神拳は相手の経絡秘孔を突く邪道技だから許せない。しかし、岩山両斬波だけは北斗なのに、南斗みたいな相手の外部から破壊する技だから素晴らしい』とのこと」

晶華「経絡秘孔を突くから許せない……なんて言ってたら、北斗神拳を全面否定しているに近いわね」

NOVA「そっちにこだわるなら、南斗水鳥拳とか南斗ネタを持ち芸にすればいいのに、『岩山両斬波』だけしか芸がなくて、他の北斗の技は全否定し始めるから、そいつの話はつまらないという結論になったんだな。こだわりを持つのはいいが、メジャーな物を否定しまくっていれば、マニアになれるってものでもないんだな、と感じた次第」

翔花「マニアってのは、こだわりの強さも大事だけど、引き出しの広さも大事ってことよね」

NOVA「自分の知識のレベルを客観的に見られることが、人とオタク話をするうえで重要ってことだな。一般層向けの小話と、通の人とじっくり語りたい用のネタと、通レベルでも脱帽するほどの深淵の奥義と。とりあえず、ウルトラマン話で『スペシウム光線』とか『アイスラッガー』で盛り上がってるところに、いきなり『シネラマショット』とか言い出す奴は空気が読めてない」

晶華「ジャックさんの技ね」

NOVA「ああ。新マンがたった1回だけ使った光線技だが、キングザウルス三世のバリアに防がれて、それっきりだ。ウルトラマンの必殺技本には載っているが、メジャーな技の話からいきなり深みにハマるような技を出して来ると、それで通じる相手ならいいが、まずは空気を読むためにメジャーどころを固めてから……という段取りが欲しいところだな」

翔花「NOVAちゃん辺りも要注意ね。段取りなく、いきなり話をとんでもないところに飛ばしたりするし」

晶華「うん。この話について来れている読者さんは稀少よ」

NOVA「とりあえず、大事なのは、話について来てもらうためには、メジャーどころの引き出しも用意して、そこを否定して会話をいきなり終わらせないことだな」

翔花「確かに、北斗神拳の話をしていて、岩山両斬波以外を全否定してちゃ、話が盛り上がらないわね」

NOVA「雑談が苦手な人は、いきなり自分が究極の大ネタと考えるものをバーンと出して、話を終わらせてしまう傾向があるんだな。話を全部持って行こうとして、外してしまう。温まった空気をいきなり外から断ち切るような感じだな」

晶華「まさに岩山両斬波」

NOVA「いや、持って行くのは芸の披露として構わないんだが、そこから発展する何かを提示して、次の人に上手くバトンが回りやすいようにして……とか考えるようになるといいんだが、中学生ではそこまでの考えは持てないか」

晶華「とりあえず、思いついた面白いと考えるネタを振ってみる」

翔花「それが岩山両斬波」

NOVA「そのネタを受けて、俺がもっと話を展開できれば、彼にも救いが得られたのかもしれないが、やはり北斗の技を最初から否定されると、話の膨らませようもないわけで。そして、主人公論に戻すわけだが」

晶華「岩山両斬波から、どうして?」

NOVA「主人公を他にない個性的なキャラとして定義する。すなわち、岩山両斬波タイプだな」

翔花「あるいは、シネラマショットタイプね」

NOVA「いや、シネラマショットさんはデビューでいきなり負けたからダメなんだ。まだ、岩山両斬波さんの方が見せ場がある分、マシな扱いだろう」

晶華「キャラ名にするといいかもね。岩山(いわやま)両斬(りょうき)とか」

NOVA「波はどこに消えたんだ」

翔花「妹がいるの。岩山波(ナミ)ちゃん。3年前に亡くなったけど、お兄ちゃんの手刀にはナミちゃんの魂が宿って、2つの力が合わさって、必殺の両斬波が発動する」

NOVA「この両斬波があれば、邪道の北斗の奴らなど目じゃないぜ、と考える少年拳士・岩山くんだな。まさか、中学時代の会話がこんな形で、ネタとして発展するとは思わなかったぜ。40年近い歳月を経て、熟成されたネタってことだ」

晶華「面白いかどうかは別にして。で、他にない個性的なキャラがどうしたの?」

NOVA「他にない個性的な主人公を読者に受け入れさせるのは、実は難しい。例えば、前回も語ったデュークフリードだが、彼は宇宙の亡国の王子という『当時の物語では非常に珍しい立ち位置の異物』だったんだ」

晶華「75年ね。74年のウルトラマンレオさんが少し早いと思うけど」

NOVA「主人公が異星人ハーフとか子孫だっていう設定は、77年のロボ物で結構流行ったけどな。とにかく、デュークの設定を受け入れさせるために、いくつもの仕掛けを用意したんだな。その1.地球名・宇門大介として研究所所長の息子として、じゅうぶん地球に馴染んでいる。その2.地球の自然を愛していて、普段は牧場で働いている。その3.相棒の兜甲児が宇宙人と友達になりたいという夢を持って、宇宙科学研究所にやって来た」

翔花「ええと、それは旧版設定よね。つまり、大介さんは物語が始まる前から、地球人として生活していた?」

NOVA「そう。正体は宇宙人であっても、2年間は地球人として生活していたんだ。そこにベガ星連合軍の侵略と、兜甲児の関わりがあったことで、自分の捨てた過去に向き合う形になるわけで、デュークが地球を第2の故郷と決めたのも、本気で地球の緑を愛していたからだが、Uではそういう仕込みの期間が足りないので、デュークが本当に地球のために戦ってくれるのか、弓博士さえ疑うことになる。甲児がデュークを信じる理由も、Uでは『旧作がそうだったから』という理由以上にはなくて、曖昧だったわけで」

晶華「宇宙人と友だちになりたいから自分でUFOまで作って来たのが旧作の甲児さんね。ベガ星との初コンタクトで、攻撃を受けて危うく撃墜されそうになるけど」

NOVA「甲児は、大介さんが宇宙人だと知る前から、宇宙の平和を求める人々と交流したい夢と情熱を語るんだな。だけど、大介さんは宇宙人がいい奴ばかりとは限らない。もしかすると侵略するような連中だっているかもしれない。甘い考えはやめるんだ……と警告して、甲児くんとケンカになってしまう。この2人の考えの違いから、差異を乗り越えた友情が成立するまでの過程で、結構、序盤の尺を費やしているから、旧作は固い絆も説得力があるんだな。基本的には無鉄砲な甲児を、ヒーローのデュークが助けるんだが、やがて甲児がデュークを助ける話も成立したりして、お互いさまと呼べる関係に至る」

翔花「甲児くんにとって、大介さんは本当に信頼できる良い宇宙人として、彼と仲良くなることが当初からの夢だという目的に適っているわけね」

(未完)

*1:21世紀に入ってからの設定では、5号のジョンが次男で、バージルが三男になっている。NOVAの愛着あった旧世紀のサンダーバードとは入れ替わる形。