次世代(NEX GEN)ライブ体験記録Ⅰ――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その4 (original) (raw)

すっかり日が傾いたMARINE STAGEには秋の風が吹いてきていた。厳かで密やかな祭りのようなクリスティーナ・アギレラのアクトが終わり、音響設備のテントのすぐ真ん前を陣取る。いよいよお待ちかね、Bring Me The Horizon(以下、BMTH)の時間である。今年からはポカリスエット等のスポーツドリンクのアリーナ内への持ち込みがようやく許されたため、心おきなく飲む。足の疲れは若干あるものの、まだまだ大丈夫だ。今年はBMTHに照準を合わせて過ごしてきた。これまでのアクトはすべて余興、あるいは前座である、と言ってしまえば失礼であるが、それくらいの心持ちでここまでやってきた。

BMTHを筆者が最初に観たのは2019年のこと。今は無き新木場のSTUDIO COASTでのライブである。当時はアルバム『amo』のツアーということもあって、その楽曲が中心に据えられたセットリストであった。いわゆるライブハウスのキャパシティの会場であるにもかかわらず、ここまでやるのかというくらいの演出は凝りに凝っており、度肝を抜かされた記憶がある。そして何よりも演奏技術の高さと、音響のレベルの高さに感動した。当時の筆者はこのように供述していた――Bring Me The Horizonは間違いなくビッグなアーティストになるよ。今日のSTUDIO COASTのショウを観て確信した。彼らのクリエイティビティはこれまでのどのメタルバンドにもなかった革新的なものだし、自分のような若いリスナーにも響いている。BMTHからはメタルの未来を感じるんだ。メタルはとっくのとうに死んだって?冗談じゃない。彼らがいる限り、このジャンルはクレイジーであり続けるさ。

それから5年が経ち、BMTHは海外の名だたるビッグフェスでヘッドライナー務めるほどすっかりスタジアムバンドになった。そして近年はさらにコンセプチュアルになってきている印象がある。一言でいえば1990年代後半から2000年代のノスタルジアだ。ゲームだとメタルギア、バイオハザード、アニメーションだと攻殻機動隊*1やエヴァンゲリオンといったところだろうか。メタルの文脈というのはこれまでは中世の悪魔信仰、近代における戦争あるいは凶悪事件だったりと、人間の陰や暴力的で狂気的な部分がフィーチャーされてきたが、彼らの世界はそれがそっくりそのままこの時代のSFサスペンスやホラー色の強いサブカルチャーに置き換わる。まさに次世代(NEX GEN)のメタルだ。実体的ではなく仮想的。実際に心霊スポットに行くのではなく、ホラーゲームするようないわゆる"安全圏"の軽さは、死やグロテスクといった要素もポップに仕立て上げていく。そして、デジタルのいわば走りの頃のザラつきとノイズサウンドがシームレスに解脱していく妙。彼らの音楽の面白さというのはそこにあるように思える*2

開演時間が過ぎ暗転すると、プレイステーション1の起動音と共に浮かび上がったのは、"SONY COMPUTER ENTERTAINMENT"のロゴではなく、"DREAM SEEKER"のロゴ。それからPにSが寝そべったお馴染みのロゴ、ではなくPにHが寝そべったロゴの下に"Post Human™ Licenced by BMTH BMTH™"が書かれた画面が映される。次にバイオハザードの起動時の警告表示をもじった「This concert contains scenes of explicit violence and gore.」が赤黒いゴシックなイラストを背景に流れたかと思うと、ファイナルファンタジーのテーマ曲に乗せて、ザラついたテクスチャーにレタリングされた「NeXGEn」のフォントが映し出される。その下では「PRESS START」ボタンがあり隣の「☞」が左右に動いている。わずか数十秒ではあったが、プレイステーション1のあまりにも隙のないパロディーに、会場は瞬く間に沸きあがった。筆者を含め、今の20代から30代に刺さりまくる演出だ。

しばらくして、スタートボタンが押されると、本物のゲームさながらの選択画面へと進む。
「NEW GAME
☞ CONTINUE GAME
OPTION」
そして、
「EASY
NOMAL
☞ EXTREME」
がそれぞれ選択されると"イブ(EVE)"と称する女性の3Dキャラクターが映し出される。
『BMTH「POST HUMAN」ライブ体験へようこそ。最高の夜を迎える準備はできていますか?』
と、観客を煽っていく。まるで自分が巨大なゲーム会場に迷い込んでしまったかのような全く新しい感覚が襲ってくる。
『「次世代の人類進化段階」である「NEX GEN」に関する研究を進めるためにデータを収集します』
とバイオハザートのアンブレラ社感の強い設定が宣言されると今度は、
「最終診断チェックを実行します。モッシュピットをスキャン中……」
と言って、あまりにもスマートな形でライブ会場の"整備"を施していく。まもなくエリア前方ではぽっかりと穴が開き、彼らを迎える準備は万端となった。

一曲目は今年リリースされた『Post Human: Nex Gen』から「DArkSide」。ボーカルのオリヴァー・サイクスが、
「今日はミッションが一つある!とにかく"メチャクチャ"にやってくれ!」
と言って煽ると、会場のボルテージはいきなり最高潮に達する。冒頭、ピアノのアレンジで始まったのは「Sleep Walking」。激しいデスヴォイスのシャウトからのクリーンなハイトーンヴォイスへの切り替えは実に見事だ。オリヴァーは前回2019年に観た時は短髪であったが、今回はミディアムな長さに切られており、センター分けのようなヘアスタイルになっていた。身に纏う上下、ラフな白色のジャケットには黒色でびっしりとイラストやグラフィティが描かれていて、ボタンの部分からは紐状の装飾が何本か垂れ下がっている。顔のアップが映されるたびに、口元の銀色のグリル(付け歯)がキラリと光る。今日のライブは前回観た時よりも確実に凄まじいものになる――というか既に前回のインパクトを軽々と飛び越えているではないか!(「Ⅱ」に続く)

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Setlist
01. DArkSide
02. Happy Song
03. Sleepwalking
04. MANTRA
05. Teardrops
06. Kool-Aid
07. Shadow Moses
08. liMOusIne (with AURORA) (first live performance with AURORA)
09. AmEN!
10. Itch For The Cure (When Will We Be Free?)
11. Kingslayer (with BABYMETAL)
12. Antivist (With a fan)
13. Follow You
14. LosT
15. Can You Feel My Heart

Encore
16. Doomed
17. Drown
18. Throne

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